ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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40_束の間の家族団欒…?

かなり長いこと続いたドラの号泣がやっとおさまってきたところでようやく部屋の中へと移動し、水を飲みテーブルにつくよう促された。

喉を潤して一息ついたドラがパッと表情を変えて顔いっぱいに笑みを浮かべる。

 

「ごめんなさい、いっぺんに家族が増えて嬉しくなって泣いちゃった」

「ピピィ…」

 

えへへ、と数分前までの泣き顔はどこへやら。目元はまだ赤いがすっかり元の調子に戻ったドラが軽い調子で謝罪する。

ドラに変わってゴメちゃんがテーブルの上で深々と頭を下げた。

 

「…そうか」

 

ドラの向かいの席に座っているバランが心なしかぐったりとした様子で返事をする。

バランの隣には眉を八の字に曲げて困惑というよりは怯えた様子のダイ…ディーノがちょこんと席についている。

 

落ち着いたドラがきょろきょろと部屋の中を見渡す。

作りは木造で、入り口からすぐのところには調理場があって食器などが収められた棚が置かれている。

調理場のすぐ隣には大きな暖炉。

暖炉兼竃といったところか、石造りの竃には大きな鍋が吊り下げられていた。

他にも生活必需品らしき道具やら調理器具やら部屋の隅に積まれた薪やら…

生活に必要な道具はあるが、逆に余計な装飾や雑貨などはまったく無い。

簡素な暮らしぶりが伺えた。

奥にも扉があるのでそちらは寝室か何かだろうか。しかし部屋数は多くなさそうだ。

 

(おお…なんというか…

『普通』だ…! もっとこう、薄暗い洞窟の中に住んでて松明とかの光で照らされてて天井に『悪魔の目玉』とかがいて魔王軍寄りの生活してるイメージあったけど…

思った以上に『普通』のお家だ…!)

 

部屋の中の数少ない家具であるテーブルには椅子が四つ、ドラ、バラン、ディーノが着席している。

ラーハルトはドラの後方の壁際に立っていた。

不思議に思ったドラが「座らないの?」と促したが「いえ、お気になさらず」とやんわり拒否されてしまった。

 

手には魔槍を持っているので不測の事態に備えてなのだろうか。

軍人っぽいなあとドラは思ったが、ラーハルトがドラの後方に控えた理由はそれだけではない。

出会い頭に泣かれたため、魔族である自分の外見に恐怖したのではないかと思ったのだ。

そのためドラの視界に入らないように後方に控えた、彼なりの配慮である。

実際はドラの涙は嬉し泣きだったため、まったく必要のない配慮であったが。

 

バランとディーノが話し出さないため、ドラは自己紹介から始めることにした。

 

「えーと…ドラって言います。

デルムリン島っていう南の島で、鬼面道士のブラスおじいちゃんに育てられました。

この子は私の友達のゴールデンメタルスライムのゴメちゃんです」

「ピィ!」

 

紹介を受けたゴメちゃんがテーブルの上で元気よく羽を上げて挨拶する。

さらにドラが自己紹介を続けた。

 

「勇者アバンの末弟子で、アバンの使徒の一員で、勇者って呼ばれてて、正義の魔法使いとも呼ばれながら最近は魔王軍と戦ってます。

魔法と料理が得意です。

よろしくお願いします」

 

ぺこりとあらためてお辞儀をするドラ。

『勇者』のくだりでバランとラーハルトが一瞬ピクリと反応したが、無言のままだった。

ドラの自己紹介が終わったところで今度はバランが口を開く。

 

「魔王軍超竜軍団軍団長、バラン…お前の父親だ。息子のディーノと、ラーハルトだ」

 

以上、終了。

やはり言葉が足らない。

仕方が無いのでそこからはドラが質問をする形で色々な事をお互い話した。

 

まず赤ん坊の時に行方不明となってしまったドラをずっと探していたこと。

ディーノとは違う船に乗せられて、ディーノを乗せた船は無事だったが自分を乗せた船は難破してしまったらしい。

そのせいで行方が分からなくなっていたと…

 

この拠点…というか住居はずっと住んでいるわけではないということ。この住居を一番多く使用しているが他にも何箇所かあるらしい。

定期的にあちこちを転々としながら暮らしてるんだとか。

 

ラーハルトについても詳しく聞いた。

原作と同じく、人間に迫害されていたところを保護したと。

バランがドラを探し回っている間、ディーノの世話を任されていたらしく兄弟同然に育ったという。

ドラが「よろしくね、ラーハルト」と言うと無言のまま会釈のみ返された。

 

母についても訪ねた。

名前はソアラ、ディーノとドラが幼い時に亡くなったとだけバランが言う。

自分の顔が母ソアラの生き写しだと聞き、

 

「そうなんだ…凄い美人さんだったんだね…」

 

と言ったらバランが少し面食らったような表情をした。

それ以上は聞いても口を濁したので、あえて追求はしなかった。

そして…なぜ魔王軍にいるのかを聞いた時にドラが本題を切り出した。

 

「…私が見つからなかったから、魔王軍に入ったんだよね…?

人間にひどい事されてるんじゃないかって心配だったからあちこち探してくれたんでしょう?

ならもうさ、必要ないじゃない。

私、こうして元気だったし…

魔王軍なんてもう辞めてさ、みんなでデルムリン島で一緒に暮らそうよ!

きっと楽しいよ!」

 

ほらこれ!とドラが持っていた写真をテーブルの上に広げた。

育ての親のブラス老やゴメちゃん、友達のモンスター達。

南国の美しい白浜と輝く海、ドラの宝物の貝殻や鮮やかな色の南国の草花など…

まさに『楽園』と言っていい様子が映し出されていた。

 

「………!!」

「わ…! 何これ…!?

うわあ…凄い…綺麗だね…!」

 

二人とも初めて見る『写真』に驚いていたが、そこに映し出されたものに感嘆していた。

ドラがどんな環境で育ってきたのか、言葉で尽くすよりもよほど実感できたのだろう。

二人の様子を見たドラが再度畳み掛ける。

 

「ね! 素敵な場所でしょう!!

みんなすっごく優しいの。

お父さんとお兄ちゃんとラーハルト…みんなでデルムリン島で暮らそうよ…!!」

 

まっすぐにバランを見つめるドラ。

しかしバランは広げられた写真を手に取り、じっと見つめた後にそれをそっとテーブルに置いた。

そして重々しく口を開く。

 

「それは出来ん…。

魔王軍を離れることは出来ない。

 

…少し出てくる。

ラーハルトよ、二人を見ていてくれ」

「はっ!」

「お父さん…!」

 

ドラの制止を無視してバランは席を立ち、外へと出る。

ドラはバランを追いかけようとしたがラーハルトに阻止されたため、黙って見送るほかなかった。

しぶしぶ席へと戻ったドラは今度はディーノに話を聞くことにした。

 

「お兄ちゃん!」

「な、何? ディーナ…」

「お兄ちゃんはどんな武器を使うの?

やっぱり剣? あ、ラーハルトみたいに槍を使うとか…」

「僕、武器持ったことないよ」

 

返ってきた言葉にドラが笑顔のまま硬直する。

 

「え…勇者とか、戦士とか…憧れたり…」

 

ディーノがふるふると首を横に振った。

 

「じゃ、じゃあいつもお家で何して過ごしてるの…?」

「洗濯とか掃除とか…食事の用意したり…

あとは字の勉強とかしてるよ」

「お兄ちゃん…お友達っている…?」

「友達…? ラーハルトかなぁ…

でもラーハルトは父さんの部下だし、友達っていうよりは兄さんって感じだから友達とはちょっと違うかも…」

「外に遊びに行ったり街に出かけたりしたことは…」

 

またも首をふるふると横に振ってディーノが答える。

 

「父さんが外は危険だから行っちゃダメだって…」

 

話が進むにつれてドラの眉間のシワがどんどん深くなっていった。

両肘を机の上に立て、両手を口元で組んで碇ゲ○ドウのようなポーズで固まる。

 

(あ~…これ、原作で『記憶を消された時のディーノ君』がそのまま育った感じだ…

大事に守ろうとするあまり虐待スレスレの軟禁状態で育てちゃったっぽい…

というかラーハルトにはバリバリ戦闘訓練してるのにお兄ちゃんには武器も持たせてないって極端すぎない!?

なんでそう0か100かみたいなやり方になっちゃうかなぁ~!?

…でも確かに成人する前の(ドラゴン)の騎士は普通の人間と変わらないって言ってたし、お父さんとラーハルトがいれば武器持たせて戦わせる必要もないか。

しまった、だいぶ想定外だコレ…)

 

自分も大概0か100かの極端な性格をしている事は棚に上げてドラが内心で愚痴を溢す。

もしディーノが望むのであれば『勇者』『アバンの使徒』などの肩書きは丸々譲ってしまおうと考えていた。

だから『勇者』の称号は固辞したし『アバンの使徒』と言われてもいまいちピンと来なくて蚊帳の外にいるような感覚でいたのだ。

ただ『勇者』の称号を譲った場合、後のことを考えたら無下にするのも気が引けたので猫を被っていたのである。

 

まあ、想定外の事態に文句を言っても仕方がないと気を取り直す。

 

「お兄ちゃん、ゴメちゃんとお友達になってよ。

で、これから外に出てたくさん友達増やしていこうよ!」

 

どちらにしろこのまま軟禁状態では成育環境としてあまりにもよろしくない。

バランの説得と並行して改善に取り組んでいかねば…

そう考えたドラはまずは友達作り!と、両手にゴメちゃんを乗せて「はい!」と迫る。

ドラの手の上でふるるん…と金色のボディを揺らせてキラキラと瞳を輝かせるゴメちゃんを見てディーノが微笑んだ。

 

「…君、可愛いね。ゴメちゃん、っていうの?

僕とお友達になってくれる…?」

「ピィ!!」

「わぁ…! 初めての友達だ…!!

嬉しいな…よろしくね!」

「ピィ~~~♪」

 

二人のやりとりを見てドラも嬉しくなって心が暖かくなる。

 

「そうだ!」

 

と、ドラが突然立ち上がった。

 

「ねぇ、お兄ちゃん!

せっかく会えたんだもん、一緒に外に遊びに行こうよ!!」

「え…でも…」

「いいじゃない、兄妹で一緒に遊んだこともないんだもん!

行こうよ!」

 

ぐいぐいとディーノの手を引くドラに脇に控えて二人を見守っていたラーハルトが待ったをかけた。

 

「ディーナ様、お待ちください。

バラン様より外に出るなとのお言いつけです。

何卒、外には出られませんよう…」

「え~、いいじゃない。せっかくお兄ちゃんと会えたのに…

そうだ! ラーハルトも一緒に行こう!

大丈夫! こう見えて私、強いし!

ラーハルトも一緒なら危険はないでしょう?

ね! お願い!!」

 

逃げ出さないよう監視も兼ねているのだろう。

ラーハルトも一緒に行けば良いという提案をしてやっと不承不承ながらも同意してもらえた。

兄と妹の涙ながらの再会なのだ。

水を差すのも気が引けたというのもあるだろう。

 

…この時外出を許した事を即座に後悔することになるとは、この時のラーハルトは露ほども思わなかった。

 

 

 

「ソアラよ…

ディーナをようやく見つけ出したぞ…!

良き方に拾われ、良き環境で育ったようだ…

おまえによく似た、美しい娘になっていたよ…」

 

バランは妻ソアラとの思い出が眠る『奇跡の泉』へと来ていた。

亡き妻の願いがようやく叶ったことを伝えに…

 

「娘は…ディーナは優しい子に育ったようだ…

私に魔王軍を離れ、家族で暮らそうと言う。

…本当に、よく似ている」

 

かつての妻の遺言を思い出しながら、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

その瞳には思い出の中の美しい妻の面影が映し出されている。

妻に生き写しの娘に、在りし日の愛しい人の姿を重ねながら「しかし」と吐き出した。

 

「娘を見ていると、健やかに育った姿を見ることすら叶わなかった君の無念が偲ばれる…!

やはり私は、人間を許すことなど出来そうにない…!!!」

 

妻を、娘を愛しているからこそ許せない。

たとえ二人の願いがまったくそこに無いと分かってはいても。

バランの身の内を焼き尽くすような激情は一向に鎮まりはしなかった。

 

「必ずや、人間どもを根絶やしにしてくれる…!!」

 

娘の無事を伝え終えたバランが奇跡の泉を後にした。

 

バランが立ち去った後、まったく風など吹いていないのに…

まるで誰かが涙を一粒こぼしたように泉に波紋が広がっていった。

 

 

 

「…何があった?」

 

住居へと戻ったバランは予想外の光景を目にしていた。

泣いてしゃくり上げる息子ディーノと、ごめんごめんと謝り倒す娘ディーナ。

床にはディーナと一緒に来たゴールデンメタルスライムがまるではぐれメタルのように伸びている。

そしてテーブルには片手で頭を抑えて具合悪そうに突っ伏すラーハルトの姿があった。

 

「…バラン様、お帰りなさいませ」

「うむ、今戻った。

…で、何があった?」

 

ラーハルトが言うには…

懇願されて外に遊びに出たまではいいが、ディーナはディーノの手を取りいきなり飛翔呪文(トベルーラ)で飛び立とうとしたらしい。

慌ててディーナの手を掴んだラーハルトだが、止めること敵わずにそのまま上昇。

空へと舞い上がったディーナが急旋回や急浮上、急降下を繰り返して再び地上に降りた時にはディーノとラーハルトはそれぞれ別方向にダウンしていたと。

 

説明を聞き終えたバランがディーナに声をかけた。

 

「ディーナ…」

「ご、ごめんなさい! お父さん!

悪気はなかったの!!

ただ楽しんでもらえたらと思って…!!」

 

両手を合わせて謝る娘は純粋に良かれと思ってしたようだった。悪気があってのことではないのが見てとれる。

飛翔呪文(トベルーラ)を使ったと聞いた時はまさかまた人間どものもとに戻る気だったかと懸念したが、そうではないらしいと知り内心ホッとする。

 

「…ほどほどにな」

「はいっ、ごめんなさい!」

 

と、ため息交じりに一言だけ告げるバラン。

結局、あまり強く怒ることも出来ずにその場は済ませた。

 

まさかバランはこの時ドラが

 

(原作ではやんちゃで活発な男の子だったからアクロバティックな方が楽しいかと思ったんだけど…

急旋回がダメだったのかな…次は水切り低空飛行か、リアルセンター・オブ・ジ・アースか、ドラゴンの尻尾踏んじゃったのどれかにしよう…)

 

などと極めて物騒な事を考えているとは思いもしなかったのである。

長い間離れ離れとなっていた父と娘の溝は、そうそう埋まりそうにはなかった。

 

 




水切り低空飛行
水面スレスレを飛行して水中から飛んでくるモンスターをギリギリで回避するスリル溢れる遊び。
反射神経が鍛えられる。

リアルセンター・オブ・ジ・アース
ギルドメイン山脈で一番高い山の頂上から急降下する。
雲の上に広がる絶景と山脈に広がる大自然、そして大きな洞窟の中の幻想的な景色を数分間で楽しめる。

ドラゴンの尻尾踏んじゃった
ネーミングから推して然るべし。
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