ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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41_水底の手がかり

ドラがバランの住居に連れて来られた日の翌朝、目が覚めると家にはすでに二人の姿はなかった。

ドラより先に起きていた兄、ディーノに聞くと二人は毎朝の鍛錬を日課としているらしく日が昇りはじめる時刻には起き出るらしい。

その間に朝食の準備をするのが自分の役割りだという兄にドラは自分も手伝うと申し出た。

 

しかし張り切ったはいいが準備と言っても前日に食べたスープの残りを温め直しパンを切り取るだけだと聞いてドラはがっくりと項垂れてしまった。

何か追加で作れるものはないかと思ったが食材も調理器具もろくな種類が無くて断念する。

どうにも食事に手はかけない…というか頓着していないらしい。

こういうところも要改善だな…とドラは今後の課題リストに『美味しい食事』を追加した。

 

鍛錬から戻ってきた二人に「おはよう!」と声をかけると一瞬だけ目を瞠ったバランが「ああ、おはよう」とほんの少しだけ微笑みながら返した。

ラーハルトは機械的に「おはようございます」と返してくる。

慣れない父とまだ打ち解けない様子の義兄にドラは苦笑した。

 

昨夜ラーハルトに宣言したとおり、全員が朝食の席につくとドラはあれこれとお喋りを始めた。

と言ってもたいした内容ではない。

「今日もいい天気だね」とか「みんな何か好きな食べ物はある?」とかそんな他愛もないことだ。

返ってきた返事は「ああ」と「特には」というなんともそっけないものだったが。

 

それを皮切りにドラは三人につき纏うようにして喋りかけ続けた。

 

バランやラーハルトがそれぞれ普段何をしているか、何が好きか。

自分は普段どんなことをしていて何が好きか。

返ってきたのはたいてい「ああ」「そうか」「いいや」といった素っ気ないものばかりだったが、お構い無しに喋り続けた。

合間に魔王軍をやめてみんなで暮らそうと再度説得を試みては玉砕したり、母ソアラの話を強請り『なぜ亡くなったのか』と聞いて口を噤まれてしまったりしてはまた他愛のない話をし始める。その繰り返しだった。

 

一方、『思春期の女児のお喋り』に初めて遭遇した男性陣は辟易…というよりは信じられないようなものを見る目でドラを見ていた。

一体なぜそんな事を聞くのか、何をそんなに喋ることがあるのかが全く理解できなかったからだ。

「ピーチスライムとベリースライムのどっちが美味しそうだと思う?」と聞かれて質問の意図がわからず閉口する他なかったし、時には腕相撲をねだられて全員が頭の中に疑問符を浮かべながらドラと対戦したりもした。

当然のごとく(ディーノにさえも)負けたドラが笑い転げるという現象に「負けたのに喜んでいる…?!」と、全員が初めて遭遇する珍獣を見るような目を向けた。

 

珍獣扱いを受けたドラはそんな目を向けられるのは甚だ心外だと思った。

互いの距離を縮めるべく、スキンシップに努めただけだ。

人生には時に一見無駄で無意味なことに努める時間も必要なのだ。

 

決して無茶振りに困惑する顔が見てみたかったとか、単に手を繋ぎたかったからとかそんな不純な理由があったからではない。

ないったらない。

 

このままずっとこうしていられたら良いのに…と、思うような時間がそこにはあった。

…しかしそうも言っていられない。

まだやらなければならない課題は山積みだし何より時間が無いのだ。

連れて来られてから何日目かの朝、ドラは意を決してバランに聞いた。

 

「ねぇ、お父さんの部下ってラーハルトだけ?

他に仲間はいないの? 私、会ってみたいなぁ」

 

そうおねだりをされたバランはその日のうちにすぐ二人の獣人戦士…

鳥人族のガルダンディーとトドマンのボラホーンに引き合わせてくれた。

 

「空戦騎ガルダンディー、見参!!」

「海戦騎ボラホーン、参りました!!」

 

名乗りを上げて馳せ参じた部下にバランが鷹揚に応える。

 

「うむ、二人ともよく来てくれた」

「バラン様、此度はいかなる事態が起こったのです…!?」

「我々三人が揃うなど数年ぶりのこと…世界を燃やし尽くす日でも来たのですか?

クククククッ!」

 

バラン率いる百戦百勝、最強を誇る竜騎衆…招集されたからにはどこかに攻め入ると決まっている。

さあ、どこを攻めるのかと問われたバランの後ろからぴょこりとドラとゴメちゃんが顔を出した。

まさかこの場に人間の少女がいるとは思わなかったガルダンディーとボラホーンは驚きにトサカを立てて、大きく鋭い牙を光らせた。

威嚇する二人の前に出てきたドラをバランが紹介する。

 

「私の娘、ディーナだ」

「父がいつもお世話になってます、娘のディーナです。

おじいちゃんや仲間からはドラって呼ばれてます。

魔法と料理が得意です、よろしく」

「ピィ」

 

紹介されたドラがお辞儀をして挨拶する。

 

「バラン様のご息女…!?」

「ずっと探していたという…!!」

 

二人の目がスッと細められる。

 

(わあ、見下されてるぅ。

主君(バラン)に忠誠は誓ってるけど人間の血が混じってる私の事は敬いたくないって顔に書いてある…

まあ別に敬ってもらいたいとかじゃないからいいけど…

さて、どうやってこの二人に刷り込み(インプリント)をかけようか)

 

そう、ドラの果たすべき課題とはこの二人の獣人戦士に刷り込み(インプリント)をかける事だった。

原作では登場してすぐに戦死する運命を辿るがこの二人だって父の大切な部下だ。

懐に入れた者にはとことん情をかける父のこと…二人の死にも心を痛めたのは想像に難くない。

できればなんとか行動を制限してその死を回避したいとドラは考えていた。

 

「グルルゥ…」

「わぁ…綺麗なドラゴン…!!」

「オレの相棒、スカイドラゴンの『ルード』です。

ルード、ご挨拶しろ…クククッ」

「グルゥアァァ!!」

 

ドラの頭上で唸ったのはガルダンディーの騎竜、スカイドラゴンのルードであった。

挨拶しろと命じられたルードはドラに触れるか触れないかの位置で口を目一杯開き咆哮をあげる。

数多いるドラゴン種の中でも大きい部類に入るスカイドラゴン。その口はドラなど一口で飲み込めてしまうであろう大きさだ。

主人と同様、ドラのことなど舐めてかかってるのが丸わかりの態度であった。

 

牙をチラつかせながら口を開閉させておちょくってくるスカイドラゴン…その頭に生えている大きな角をドラはガッと力強く掴んだ。

額に(ドラゴン)の紋章を光らせ角を掴む手を振り払おうと暴れるスカイドラゴンに優しく語りかける。

微笑んではいるが目はまったく笑っていないし瞳孔が開いていた。

 

「ねえ、ルードちゃん…

ルードちゃんは賢い()だからどっちが『上』か、ちゃんとわかるよねぇ…!?」

「………ッ!!

 

グ、グルルゥゥゥン…!」

「ル、ルードッ!?」

「バカな…!! ガルダンディー以外に懐かないスカイドラゴンが地べたに転がり腹を見せただと…!??」

「わあっ、ルードちゃん賢くて良い子!

お腹撫でてあげるね!」

「グルルゥン…!!」

「ほう…ディーナは騎竜の扱いに長けているのだな」

 

(長けている、いないの問題ではない気がします。バラン様…)

 

バランの側近くに控えていた竜騎衆の長、忠臣と自負する陸戦騎ラーハルトは口には出さず心の中で呟いた。

 

 

 

一方、テランにいるポップ達一行。

彼らは今テラン王国王城の中、国王の寝室へと通されていた。

ドラがバランに連れ去られ、さてどうしようと全員で考えこんだ時にレオナが

 

「テランの王様に相談してみましょう」

 

と言い出したのだ。

これには全員が驚いた。

特にレオナが一国の姫とは知らなかったナバラとメルルは驚いた後に「今まで大変ご無礼を…!」と平謝りしてきたが、知らなかったのだから仕方ない。

気にしなくていいとレオナが笑って許したので二人とも心底安堵し肩の力が抜けていった。

 

テラン王に相談しようと言い出したレオナにポップが理由を聞く。

 

「テラン王はとても博識な方だと聞いているわ。

(ドラゴン)の騎士についても、私たちが知らない知識をお持ちかもしれない。

何もご存知ないとしても、何か良い知恵を貸してもらえるのではないかしら…!?」

「…他に手はなさそうだしな。

よし! テランの王様に会いに行ってみようぜ!」

 

そうしてレオナの提案に従い、無礼を承知で先触れもなく一国の王へと目通りを願ったのである。

体調が悪く寝室での謁見で良いのならと、快く目通りが叶いモンスターであることを理由に辞退したクロコダインを外に待たせて入城した次第である。

 

(ドラゴン)の騎士様の行方とな…!?」

「はい、何か心当たりはございませんか…?

言い伝えでも、おとぎ話でも、何でも構いません。

何か手がかりになるようなものがあるなら…」

「…すまぬが、とんと心当たりが無くてな。

それに、(ドラゴン)の騎士様ご自身が望んだのであれば…それは天命。

無理に連れ戻すのは竜の神の意に反することやもしれぬ。

それでも探し出し、取り返すというのかね…? そのドラという少女を…」

「取り返します!」

 

(ドラゴン)の騎士の決めた事は天命。

逆らうなどと愚かしい事はやめろと言外に言ったテラン王にレオナがきっぱりと断言した。

 

「テランの方々はバランの…(ドラゴン)の騎士の行為を天命だと信じているようですが、彼は魔王軍…

圧倒的な武力をもって逆らうことの出来ない状況でドラちゃんを連れて行きました。

あれは略奪です!

このまま黙って人質となった友人を見捨てることはできません…!

取り戻します、絶対に…!!」

 

力強く宣言したレオナ姫をまぶしそうにテラン王が見つめる。

 

「…そうか、パプニカの姫の勇猛ぶりは音に聞いてはいたが…」

 

ふと、レオナの後ろに控えていたナバラとメルルにテラン王が声をかけた。

 

「お前はたしか…高名な占い師の…」

「はい、ナバラでございます。こちらは孫娘のメルルです」

「テランに戻っておったのだな…

ふむ、メルルと申すか…ちと、こちらに来なさい」

「はっ、はい…」

「メルルよ…そなた、祖母をも上回る力を秘めておるな…」

「た、たしかに最近、私にも感知できないようなことを捉えたりします…!」

 

近くに来るよう命じて瞳の奥をじっと覗き込んだテラン王がメルルに告げた。

聞いていたナバラが事実だとテラン王の慧眼に同意する。

 

(ドラゴン)の騎士様の手がかり…そなたなら見つけ出せるかもしれん。

何か、浮かんでくる言葉…風景…人…

何でも良い。目を閉じて探ってみよ」

「はっ、はい…」

 

言われるがままに目を閉じ、集中するメルル。

部屋の中がシィン…と静まり返る。

皆がメルルの集中力を妨げないよう、息を潜めて見守った。

 

「…神殿、水底の…

湖の底の神殿に何か…大きな光が浮かび上がりました」

「ドラが行った湖の底か! よし、俺とクロコダインのおっさんで見て来る!!

待っててくれ!」

 

言うなりポップは部屋を飛び出す。

そのまま半刻ばかり帰りを待ち、戻って来たポップとクロコダインに全員が絶句した。

正確にはクロコダインが担ぎ運んで来た『もの』にである。

 

「…これは、なんと…!?」

「湖の底の神殿にあったそれらしい物はこれだけだったぞ」

「なんて大きな水晶…!!」

「も、もの凄い神聖な魔力を放っておる…!」

「これが、ドラちゃんの手がかり…!?」

 

テラン王の寝室へと運び込まれたのは竜の神殿の番人、竜水晶であった。

竜水晶が眩い光を放ち、言葉を発する。

 

『我は竜水晶…(ドラゴン)の騎士を司りし神殿の番人である…』

「しゃ、しゃ、しゃべったあああ〜〜〜〜っ!!?」

「な…な…なんと!?」

「なんという…これが神が作りし神器か…!!」

「強大な力を感じます…!」

 

驚くもの、畏怖するもの、崇めるもの…

部屋の中にいる人間はそれぞれが多様な反応を示した。

唯一、喋る水晶に動じなかったレオナが竜水晶に向かって(こいねが)う。

 

「お願いします、竜水晶様。

(ドラゴン)の騎士…いいえ、ドラちゃんの居場所を教えてください…!」

 

『………』

 

竜水晶からの反応は無い。

しかし次の瞬間…

 

「わっ、眩し…」

「もの凄い光…!」

「ああっ、これは…!!」

 

パァッと一瞬光った竜水晶に映し出されたもの…

それはバランと一緒にいるドラと、見ただけで「強い」と直感で分かる獣人と魔族の戦士達だった。

ドラの目の前には大きなスカイドラゴンもいる。

 

「大変! ドラちゃん!!」

「早く助けに行かねえと…! あんなのに囲まれてたらそりゃ戻って来れねえよ…!!」

「場所はどこだ!?」

「ええと、地図を…この水晶から感じるのはアルゴ岬の…このあたりです!」

「今行くからなッ! ドラ!!」

 

ポップ、クロコダイン、レオナは部屋を飛び出した。

向かう場所はドラのいるであろうベンガーナの南端アルゴ岬近辺だ。

全員がドラの無事を祈り一心不乱に駆け出して行った。

 

 

一行が出て行ったテラン王の寝室では…

 

「…ワシの体調が悪いせいかの?

スカイドラゴンが腹を見せて服従しているように見えるが…?」

「いいえ、陛下。私の目にもそのように見えております」

「あ…今度はスカイドラゴンにお手をさせていますね、ドラさん…」

 

(…もしかしてあまり急がなくても大丈夫なのでは?)

 

と思ったがテラン王、メルル、ナバラ、従者と侍女に至るまで全員が思慮深く余計なことは言わない性格だったため、口には出さなかった。

それに伝えるべき相手はもう飛び出して行ってしまい、この部屋には残っていない。

竜水晶も無言でしばらくの間、楽しそうにはしゃぐドラの姿を映し続けていた。

 

 




ドラ
デルムリン島で学んだこと。動物相手には最初に会った時、序列を叩き込むのが肝心。

竜水晶
まさかの再登場。ドラにはクソAI扱いされていたが腐っても神話級アイテム。
神殿をブッ壊した当代の(ドラゴン)の騎士とその娘に強い不満を表明。
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