ドラに引き合わされた竜騎衆の二人、鳥人族のガルダンディー。トドマンのボラホーン。
最初こそ主君の娘とはいえ、人間の血が混じっている
しかし、目の前で既に主人を持ち他人には絶対に懐かないはずのスカイドラゴンがいとも簡単に服従した姿を見て認識を改める。
そうして戯れることしばし…
ドラがガルダンディーの騎竜、スカイドラゴンのルードにおすわりを仕込んでいた時ラーハルトがバランに火急の知らせを持ってきた。
「バラン様…! 『悪魔の目玉』より報告がありました!
ディーナ様と一緒にいた人間どもがここに向かっています!
奴ら、ディーナ様を奪還するつもりのようです…!!」
「むぅ…」
「え、なんで?」
予想外の知らせにドラは首を傾げる。
(ちゃんとすぐ戻るって言ったのに…? みんなちゃんと聞いてなかったのかな?)
あれ〜?と不思議がるドラ。
しかしこれに関しては十割ドラが悪い。
ドラからしてみれば生き別れの父親とゆっくり話をしてくる程度に考えているが、経緯はどうあれ客観的に見れば“魔王軍に勇者が連れ去られた”という図に他ならないのだ。
どこの世界に「すぐに戻る」と言われて「そうか、気をつけてな」と気にせず待っている人間がいるというのか。
娘の無事を切望していたバランがドラを人間のもとへ返すわけが無いし、仮に一万歩譲ってバランが帰宅を許したとしても今度は魔王軍が黙ってはいない。
超竜軍団以外の軍団がドラを手に入れようとするか人間のもとへ戻る前に抹殺しようとするだろう。
人間が娘を再び略奪しに来ると聞いたバランは怒気を漲らせた。
「どうやってここを嗅ぎつけたのか…
フッ、しかし運の悪い奴らだ…竜騎衆が揃っている時に攻め入って来ようとはな…
竜騎衆よ!! ディーナを奪おうという慮外者どもに目にモノ見せてやれ!!」
「「「はっ!!」」」
バランの命令に竜騎衆が進撃を開始する。
慌てたのはドラだ。今やどちらも大事な『仲間』と認識しているドラからすれば双方が衝突する理由など無い。
「待って!! お父さん、竜騎衆を止めて!
私の友達、殺さないで…!」
「…何故だ、ディーナよ。何故人間どもを庇うのだ…?
人間め、再びお前を私の手から奪おうとしているのだぞ…!」
「違う!! 奪おうとなんてしてない!!
殺す理由なんてどこにもない!!!」
「いいや、ある!!」
「………っ!」
バランが怒号を放った。
あまりの気迫にドラが
怯えたゴメちゃんが震えながらドラの首に縋りついた。
「人間どもは総て殺さねばならぬ…
そうでなければ、ソアラが…お前の母が浮かばれぬ…」
「お母さん…? なんで…
なんで人間を殺すことがお母さんに関係あるの…?」
「お前には、まだ話していなかったが…
お前の母は、ソアラは…人間に殺されたのだ…!!」
「お母さん…、お願いお父さん、お母さんについて教えて…!」
そうしてバランの口から母、ソアラの死に至る経緯が語られた。
かつてバランが冥竜王ヴェルザーと戦ったこと。
ヴェルザー一族を死闘の末滅ぼしたが瀕死の重傷を負ったこと。
奇跡の泉で母ソアラと出会い愛し合うようになったこと、しかし一国の王女だった母との仲を反対されて駆け落ちしたこと。
双子を授かり、家族で慎ましく暮らしていたが…見つかってしまい、双子はそれぞれ違う国へと送られ…
処刑されそうになった父を庇い、母は殺されてしまう。
「家族で平和に過ごしてほしい」という遺言を残して…
それは同時にアルキード王国の終焉の時だった…
バランの口から語られる過去の
その様子を見たバランは「やはり聞かせるべきではなかった…」と後悔した。
無理もない…今まで信じていた『人間』という種族が実は汚い心を持ち、母親を殺したと聞かされたのだ。
できれば知らないまま、娘の心を傷つけたくはなかったとバランは思う。
しかしドラの口から漏れ出たのは全く予想もしていない言葉だった。
「お、お母さん…カッコイイ〜〜〜…!!!
何その生き様…! 尊敬するしかない…っ!
…決めた。
私もお母さんみたいなカッコイイ女になる。
カッコイイ女になってお父さんみたいな人と恋愛する…!」
キラキラと瞳を輝かせてこちらを見上げる娘にバランは動揺した。
「何を…話を聞いていなかったのか…!?
かっこいい…? 汚らわしい人間どもに惨たらしく殺されたのだぞ…!」
「…いや、うん、身も蓋もない言い方するとそうなんだけど。
でも、私はちょっと違うと思う」
「違う…?」
真剣な表情でバランの目を見つめながらドラが語る。
「お父さんを処刑しようとしたの、アルキードの王様ってお母さんの父親だったんでしょう?
お母さん、言ったんだよね?
「父上たちがこれ以上ひどいことをするのを見ていられなかった」って…
父親が人を…それも自分が愛している人を処刑する姿を見るの、耐えられなかったんだと思う。
お父さんの命も守りたかったけど、自分の父親が罪を犯すのも防ぎたかったんだよ、きっと。
それは殺されたんじゃなくて、『愛のために身を呈した』んだよ。
お母さん、命がけで夫と父親を守ったの…!
二人を愛してたから…!!」
「………!?」
考えもしなかったことを言われ、バランが呆然とする。
放心状態になったバランにドラが畳み掛けた。
「ねぇ、お父さん、お母さんの遺言どおりにしよう?
人間恨むのやめて、家族で一緒に暮らそう!!
ねぇ…!」
「……………ならん」
縋り付くドラの手をバランが振り払う。
「きゃっ…!?」
「ピィ…!!」
「そうだったとしても、人間がソアラを殺した事に変わりはない!!!
薄汚い人間どもを滅ぼさねば私の気がおさまらぬ…!!」
「人間の中にはお母さんみたいな人もいる!
お母さんが命がけで守ろうとしたもの、ちゃんと大事にして!!
『復讐』の理由にお母さんの死を使わないで!!!」
「親を諫めようとは…度が過ぎるぞッ!!」
「きゃあぁッ!!」
突如バランから発せられた
吹き飛んだドラのもとへとバランがゆっくりと歩み寄る。
ドラも慌てて紋章を発動させるがそれは逆効果であった。
なぜならそれは…
「………っ!!?」
(しまった…! これ、共鳴…!!)
「ぬううぅぅぅ…ッ!!」
「や、やめ…!」
キイィン…という激しい耳鳴りと頭痛に襲われてドラは意識を手放した。
倒れ臥す娘の体を支えてバランがぽつりと言葉を漏らす。
「もう…後には戻れぬ…」
「父さん!! 何があったの…!?」
家で留守番をしていたディーノが駆けつけてきた。
『共鳴』を起こしたことにより
娘を優しく地面へと横たわらせて、ディーノへと託す。
「今から私も出陣する。
ディーノ、ディーナを見ていてやれ。
記憶を失くしているだろうからな…」
「ディーナ!? 記憶って…父さん、何を…!?」
「では、行ってくる」
「父さん!!」
一体何が起きたのかわけがわからないディーノが気絶している妹を起こそうと必死に呼びかける。
ずっとドラに縋り付いていたゴメちゃんもまた、ドラの意識を取り戻そうと必死に泣き叫んでいた。
「ピイ、ピイィ〜〜〜!」
ドラが意識を失っている間にも、ドラの大切な友人達と大事な家族がお互いに『仲間を守る』という理由で衝突せんとしていた。
果たしてドラは、この悲しい戦いを止める事が出来るのか…