ドラがバランの『共鳴』によって意識を失っていた頃…
「待っていろよ、ドラ…!!」
「無事だといいが…」
「急ぎましょう!」
ポップ、クロコダイン、レオナの三人は竜水晶とメルルによって示された場所、ドラがいるであろうベンガーナ王国南端に位置するアルゴ岬近辺に向けて進んでいた。
敵地へ乗り込むため、体力と魔力を温存せねばならず最低限の
迅る気持ちを抑えながら互いに励まし合い進んでいた一行の前に、途轍もない敵意と憎悪を漲らせた集団が襲いかかろうとしていた。
ドラ奪還に向けて進む一行がやがてベンガーナとテランの国境付近まで来た時、『それ』は姿を現した…
「………ッ!!」
ピタリとクロコダインが歩みを止める。
「どうしたんだよ、おっさん?」
「クロコダイン? 何かあったのですか?」
ポップとレオナが突然歩みを止めたクロコダインを振り返り尋ねた。
見ればクロコダインは眉間にシワを寄せて微動だにせず荒涼と続く岩場の先をジッと睨みつけている。
いいや、ただ立ち止まり『何か』睨みつけていたわけではない…震えていたのだ。
天下の獣王クロコダインが立ち止まって震えながら一点を凝視している…
ただならぬ様子にポップとレオナも同じ方向へ視線を向けた。
(何か…来る…!)
三人が戦闘態勢を取ったと同時に『それ』は姿を現した。
最初に姿を見せたのは陸と空を進んでくるドラゴンの群れ…
次いで見えてきたのはドラゴンに騎乗した人影…
竜水晶が映し出した獣人と魔族、そしてドラの父だと言い放った竜騎将バランである。
敵もポップ達の姿を確認したらしい。
鳥人族特有の視力の良さを誇るガルダンディーが獲物を発見したことを大声で仲間にも伝えた。
「クワーックワックワッ!! 見つけたぜぇ!!
お前らがバラン様の娘を奪おうって連中かぁ!!」
「ふん…どんな奴らかと思えば…」
「骨がありそうなのはワニの獣人のみ…あとは非力そうな小僧と小娘とは…
肩透かしもいいところよ!」
「気をつけろ、お前たち。
奴は魔王軍百獣魔団の元軍団長、獣王クロコダインだ…
ただの腕っ節だけの輩とは違うぞ」
竜騎衆が吠え、バランが諌めた。
竜騎衆三名が三名とも、それぞれが軍団長に匹敵するほどの実力の持ち主である。
そこに加えてこの地上における『強い生物』の頂点に君臨するドラゴンを数千も従える超竜軍団軍団長、バラン…
本能的に恐怖を感じて震えが止まらないクロコダイン。
しかし震えているのはクロコダインだけではない。ポップとレオナも目の前に立ちふさがった強敵に体の震えが止まらなかった。
「あいつらは…竜騎衆…!?」
「竜騎衆…!?」
「知っているの? クロコダイン…」
「バランの配下の
気をつけろ…奴ら一人一人が魔王軍の軍団長に匹敵する力を持つと噂されている…!」
「そんな強さの敵が三人も…!?」
「へっ…なら…」
短く収められていた輝きの杖の柄をジャキンッとバネのように伸ばして構え、ポップが叫ぶ。
「先手必勝だぜ!!」
「よせ! ポップ!!」
奇襲とばかりにポップが自身の魔法の中で最大級の威力を持った呪文を放つ。
それぞれが一筋縄ではいかない猛者揃い…特にバランには呪文の類が効かないと知るクロコダインが慌てて止めるが遅かった。
「
呪文が放たれ、上から圧しかかる重力に竜騎衆とバランが騎乗したドラゴンごと地面へとめり込む。
「ぐうううううっ!! 潰れろぉっ…!!」
「す、凄いわポップ君…!」
「おお…なんという凄まじい魔法だ…!
これならもしや…!?」
今まで見たこともないほど凄まじい威力を持ったポップの魔法を見て、レオナとクロコダインが一縷の希望を見出す。
いまだ地面へとめり込み続ける敵に「全滅したか!?」と思ったその時である。
「ぐあぁッ!??」
渾身の魔力を込めて呪文を放っていたポップの体がドンッという鈍い音を立て突如宙へと舞った。
「ポップ!!」
「ポップ君!?」
一瞬の出来事に事態が飲み込めないレオナとクロコダインが叫んだ。
宙を舞い、地面へと勢いよく落ちたポップに二人が駆け寄ろうとする。
「ヒュウ! よく拾い上げてくれたな、助かったぜルード!!」
「グルルゥ…」
ポップを空中へと跳ね飛ばしたのは竜騎衆空戦騎ガルダンディーの愛竜、ルードのまるで巨大な蛇の如き長く太い尻尾であった。
その太い尾から繰り出された強烈な一撃により打ち据えられたポップは、地面に激突したダメージも相まって痛みに悶え動けずにいる。
「フン!! ひ弱なドラゴンどもめがっ!!
だらしない!!」
あえなく圧死したドラゴンの体を軽々と押しのけて魔法を放ったポップを睨みつける。
ポップを守ろうと駆け寄るクロコダインの前に竜騎衆一の怪力を誇る海戦騎ボラホーンが立ちふさがった。
「おっと…お前の相手はこのワシだ!
ふん、元軍団長だがなんだか知らんが…
天下無双の力を謳われたこのボラホーン様が貴様なんぞ一捻りにしてくれるわ!!」
「むぅっ…! 姫、ポップを頼む!」
「わかったわ!」
一騎打ちを挑まれたクロコダインがポップの救助をレオナへと託してボラホーンへと向き合う。
「くらえいッ!!
「なんのッ…
激しくぶつかり合うブレスを避けて、レオナが駆ける。
あと一歩踏み出せば手が届く、手が届けば
そう思い必死に伸ばした手は虚しく空を切った。
「な…!?」
「おっとぉ、そうはいかねぇ!! せっかくの獲物なんだ…
最近人間を殺してなかったからなぁ!
こいつをゆっくり殺したら次はお前だ…惨たらしく死ぬ様を眺めてな…
同じように殺してやるからよ~ッ!!
クワックワックワッ!!!」
「ああっ、ポップ君…!!」
地面に倒れていたポップが姿を消してしまい混乱するレオナの頭上から非情な声が降り注ぐ。
上を見上げるとスカイドラゴンの体に巻きつかれ苦しそうに呻き声をあげるポップの姿があった。
ギリギリと締め上げられ骨が折れる嫌な音がかすかに聞こえてくる。
その様を見上げながらラーハルトは呟いた。
「…残酷な男だ…」
「ふ…仕方のない奴だ…。
良い、好きにさせておけ」
「…はっ」
部下の非道な行いも人間相手とあれば笑って許すバランにラーハルトが追従する。
しかし静観していた二人の余裕綽々といった態度もこの時までだった。
「
岩場に響く爆発音と共にバラバラと青い血が降り注ぐ…
ドオォン…と爆発音に続き鳴り響いたのはスカイドラゴンの巨体が落下し、岩に衝突した衝撃音だった。
空中に浮かんだままのガルダンディーを見れば、今起きた現実を受け入れられず千切れたリードを握りしめながらブルブルと震えていた。
しかし愛竜が人間によって殺されたという事実を理解していく様子が、徐々に逆立っていく羽毛を見れば手に取るようにわかった。
ルードの頭がポップによって吹き飛ばされたのとほぼ同時、ボラホーンとクロコダインの戦闘も決着がついた。
ぶつかり合ったブレスの冷気と熱気が拮抗し、凄まじい蒸気をあげてお互いの姿を隠す。
これ幸いと先制を打ったのはボラホーンであった。
手にした『
厚い皮膚のおかげで重症は免れたが体勢を立て直そうと思った一瞬の隙に懐に入られ、近距離で獣王会心撃を繰り出されてあえなく撃沈。
かろうじて息はしているが瀕死なのは明らかであった。
愛竜の死体に縋りつき慟哭するガルダンディー。
虫の息で倒れ伏すボラホーン。
二人の姿とそのすぐそばに立つ獣王と人間の魔法使い…
バランとラーハルトが無言で武器を構え飛び出そうとした。
その時…
「ディーノ! 危ないからこの岩場の上にいて!
ゴメちゃんディーノについててあげて!」
「う、うん…!」
「ピィ!!」
「ガルダンディー!! そこをどきなさい!!!」
少女の…ドラの高く澄んだ声が響き渡る。
「ドラちゃんッ!!」
「なっ…!? ディーナ様…!!?」
「ディーナ…なぜここに…!!
…ディーノまで!?」
ディーノとゴメちゃんを引き連れて空から舞い降りたドラは安全地帯に二人を置くと、ルードに側寄り有無を言わせずガルダンディーを押しのけた。
パプニカのナイフで手首を一閃、血をルードの死体に振りかけて額に紋章を輝かせて『命じる』。
「眷属たるドラゴンよ、我が血に応えよ!!
黄泉がえれ…!!
青く清浄な光がドラの手から溢れ出し、ルードの体…吹き飛ばされたものに至るまで全てを包み込んでいった。
まるで逆再生をするかのように千々に吹き飛んだ体と血液が集約し元の形を成していく。
ルードの体を包み込んでいた光がまるで押し寄せる波のように何度か流れてやがて消えた。
あたりを照らしていた光も徐々に大地に吸い込まれていき、後に残った無数の小さな蛍のような光粒も儚く明滅してかき消えていく。
「グルルゥ…」
「ルード…! ルードォォ…ッ!!!
うっ、うっ…うおおおぉんっ…」
うっすらと瞳を開けて、息を吹き返したルードがゆっくりと口から息を吐き出した。
先ほどと同じく愛竜に縋りつき、しかし今度は慟哭ではなく歓喜の咆哮をあげてガルダンディーが泣き喚く。
千々に吹き飛んだドラゴンを蘇生させるという神の御技にも等しき術を行使したドラをバランが睨んだ。
それは「なぜそんな事が可能なのだ?」と問うものではなく、「ここにいてはならないのになぜ存在している?」という叱責めいたものだった。
「ディーナ…記憶を消したはずだ…!!」
「お父さん…」
(まったく…
どんな理由であれ自分の都合で力ずくで記憶を消しにかかるなんて立派な虐待ね…。
どうお灸を据えたものかしら…
消してもいい女の記憶は中2の時に書いたノートとクソな元カレとの思い出だけよ…!
『ああ、あのヒュンケルに似た元カレさん?』
思い出させないで!! 黒歴史よ!!!)
声には出さなかったが心の中で『私』が絶叫した。
昔何かあったらしい。
竜騎衆の情報少なすぎてアニメ26・27話20回くらい見直した。
原作より雰囲気がギスギスしてないし案外仲間思いだった(特にボラホーン)。
ルードが死んだ心境を『ペットの犬(もしくは猫)が殺された』と置き換えたらガルダンディーに共感するしかなかった。