ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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48_最後の武器

「みんな無事!?

一体何しに来たのよ!?

危ないじゃないの!!!」

 

砂塵の中から姿を現したドラの姿に全員、一瞬言葉を失くした。

額に(ドラゴン)の紋章を輝かせ瞳にも不思議な光を宿し、えも言われぬ美しさを放っているが首から下は酷い有様だった。

外套(マント)や衣服は激しい戦闘であちこち擦り切れ焼け焦げているし腕や足は痣まみれだ。

左腕はスカイドラゴンを蘇生した時に切った所から滴った血が固まったのか真っ赤に染まっていた。

 

「…んなっ、何しに来たって…

バランに連れ去られたお前を助けに来たに決まってんだろうが!!」

 

一瞬呆気に取られたがすぐさま正気を取り戻しいち早く反応したのはポップだった。

持ち前の威勢の良さで食ってかかるように助けに来たことを伝える。

 

「すぐに戻るって言ったでしょう!?

死んだら元も子も無いのよ!! 私、言ったじゃないの!

『逃げてもいい』って…!!

今すぐここから全員逃げなさい!」

「で…出来るかよそんな事!!」

「出来る出来ないじゃなくて危ないからとっとと逃げろって言ってるの!!」

 

急に始まったドラとポップの口論にレオナ、ヒュンケル、クロコダインは口を挟めずにいた。

濛々と立ち込めていた土煙が風に流され徐々に視界が開けていく。

視界が開かれつつある中でバランに姿を認識され、レオナやポップが戦闘の巻き添えになる事を危惧したドラが焦れた様子で口論をやめた。

そして全員にある呪文をかける。

 

「ああもう!! 鋼鉄変化呪文(アストロン)!」

「あっ…これは…!?」

「きゃあっ!!」

「ぬぅ…!!」

「これは…その身を鋼鉄と化してあらゆる攻撃を防ぐ呪文か…!

身動きが取れん…!!」

「ドラ、てめえッ!! ふっざけんなよ…!!」

 

鋼鉄変化呪文(アストロン)をかけたと同時に、いまだ空中に舞う砂埃の中からドラめがけてバランが飛びかかってきた。

真魔剛竜剣を振り下ろし一瞬前までドラがいた地表を粉々に打ち砕く。

危なげなく攻撃を回避したドラはそのまま振り向きもせずにまた上空へと飛び去ってしまった。

それを追いかけてバランもまた地面を飛び立つ。

 

残された面々は鋼鉄変化呪文(アストロン)のおかげでダメージこそ負わなかったが、大地を砕くほどのバランの攻撃による衝撃である者は仰向けに。ある者は横倒しになったりと情けない姿で、上空で続く二人の戦闘を見守る事しか出来なくなってしまった。

 

 

上空で繰り広げられる戦闘は先ほどまでとは打って変わって、激しさが鳴りを潜め極めて静かなものになっていた。

横向きに倒れながらも何とか上空の様子を見ていたレオナが訝しがる。

 

「どういう事…? 二人とも攻撃をしなくなったわ…」

「…おそらく、どちらもこのままだと埒が開かないと踏んだんだろう。

次に衝突した時に決着をつけるため、お互い力を溜める事に集中しているのだ」

 

仰向けに倒れたヒュンケルがドラとバランの様子から感じ取った自身の推測を伝える。

抉られた地面に傾きながらも立った姿勢のまま鋼鉄化したクロコダインが口を開いた。

 

「…もしも、ドラがバランに負けた場合はどうなる?」

「…おそらく、バランはドラを二度と人間の手には渡さないだろう。

ドラが率先して人間を殺すとは思えん…いや、思いたくはないが…

 

魔王軍の手に渡り、ドラがどういう扱いを受けるのかはわからん。

どちらにせよ人類は『勇者』という希望を失う。

大魔王バーンの地上侵攻に拍車がかかる事だけは確かだ」

「そんな…」

 

 

~side ポップ~

 

(ドラの奴…!! ふざけんじゃねぇぞ!

連れ去られて助けに来てみりゃ「危ないから逃げろ」だぁ!?)

 

仰向けの状態のまま動けなくなったポップは上空で戦い続ける妹弟子を目で追いながら激しく歯軋りする。

 

(あの時と同じだ…デルムリン島でハドラーが襲ってきた時と。

また、ただ見てる事しか出来ねぇ…

 

いいや…!

いつだってそうだ、あいつは…!!

勝手に決めて、一人で突っ走って、一人で戦おうとする!)

 

思い返せばいつだってドラはそうだったとポップは回想する。

一人で戦うわ、進んで人質になるわ、そのくせ人には逃げろと言い、挙句勝手に鋼鉄変化呪文(アストロン)をかける始末。

思い返せば返すほど、ムカムカと怒りが込み上げてくる。

 

(逃げてもいい!? 嫌いにならない!??

バカにするのも大概にしろってんだよ!

そう言われて「おっ、そうか! じゃあ俺は逃げるから頑張れよ!」って言うような薄情な奴だと思ってんのかよ!!

ええッ!!?)

 

憤りながらも、はたとポップはいつかネイルの村でドラに言われた言葉を思い返す。

 

『あのさ、これだけは覚えててほしいんだけど。

私、ポップが逃げてもポップのこと、嫌いにならないよ?』

 

『でも逃げる人が悪いっていうのもなんか違う気がする…逃げた人にだってちゃんと逃げた理由があるはずだし…』

 

逃げる事は別に悪い事じゃない。じゃあ何が一体ダメなんだ…?

自分は元々臆病な性格だと自覚している。

嫌な事からはすぐ逃げるし、命があってこその物種だ。強い敵を前にして逃げ出すなんて、何の抵抗も無かったはずなのに。

 

ドラは言った、逃げても嫌いにならないと。

逃げる事が得意な自分は一体何が嫌でこんなにはらわたが煮えくり返っているのだろう。

卑怯者だと思われたくないから?

逃げるのが格好悪いから?

せっかく助けに来たのに素気無くされたから?

 

(違う、俺は… 俺は…ッ!!)

 

衣服の下、ポップの首にかけられた『アバンのしるし』が光り輝く。

ポップの勇気に呼応して、『アバンのしるし』に蓄積された魔力がドラによってかけられた強力な呪文を打ち砕いた。

 

「俺は…絶対に見捨てねぇぞーーーッ!!!」

 

 

 

「父さん…ディーナ…」

「ピィ〜」

「ディーノ様、ここは危険です。

あちらの岩陰に隠れていてください」

 

空を見上げ、瞳に涙を溜めているのはレオナ達だけではなかった。

少し離れた安全地帯に降ろされ初めて戦闘を…父親が戦う姿を見た少年、ディーノは固唾を飲んで二人の戦いを見つめていた。

胸元には抱きしめられたゴメちゃんがディーノと同じく心配そうに空を見上げている。

 

ドラに散らされた魔力がわずかながら回復し、少しは動けるようになったラーハルトがディーノを守るべく側に侍る。

いまだ力の入らない体に鞭打って魔槍を杖代わりに何とか立っている状態だ。

ラーハルトもまた、戦う二人を見上げながら想いを馳せる。

 

(バラン様…俺では貴方様を悲しみと絶望の淵から救う事、叶いませんでした。

ディーナ様、貴方ならあるいは…)

 

 

空中で回避を続けながら魔力を溜め続けていたドラを、バランは追いかけるのを止めていた。

バランもまたドラから距離を取って手にした刃に神経を集中している様子だ。

かなり距離が開いたところでドラもバランのいる方角に向き直り、手にした魔剣に全神経を集中する。

するとそれまで大人しく戦闘を見守っていた『ディーナ』が心の中で語りかけてきた。

 

(『どうする気? お父さんを殺すんじゃなくて勝とうとしてるんだよね?

勝てる見込み、あるの?』)

 

ただ乱暴に命を奪うだけなら出来なくも無い。

それをしたくないから苦戦しているのだ。

口ぶりから「処す? ねぇもうお父さん処しちゃう?」と言い出しそうな『ディーナ』にドラが真剣に返答する。

 

(一か八かに賭けるしか無いでしょう。

私に残された《最後の武器》を使うわ。

…これでなお、バランが目を覚さなかったらお手上げね。

私たちの命もここまでかもしれないわ…覚悟はいい?

 

『オッケ〜、全然良いよ!

お父さんに殺されるんなら他の人に殺されるより全然ありだよ!』

 

ふふ…私もよ。

推しと戦って死ぬなんて、本望ね)

 

微笑んで、剣を構える。

しっかりと両手で柄を握りしめ刃を左肩に乗せ、バランに向かっていった。

バランもまた、真魔剛竜剣を構えてこちらに向かってくる。

徐々にスピードを上げて飛行する両者の激突がどんな結果をもたらすのか…

地上にいる全員が息を飲み、見守る。

 

バランが腕を伸ばし横薙に構えた真魔剛竜剣に淡い光が宿る。

竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏った真魔剛竜剣は、曇天に迸る稲妻を今や遅しと待ちわびているように見えた。

一方のドラもその身に溜めた魔力を一滴も漏らすまいと気合を入れて、全神経を額に集中させる。

そして…

 

「なっ…!?」

 

今にも空から雷を呼び、ギガブレイクを放たんとしていたバランを激しい動揺が襲った。

もはや目と鼻の先に迫った(ドラ)の額から(ドラゴン)の紋章が消え、体を覆っていた竜闘気(ドラゴニックオーラ)が完全に消失したのだ。

それだけではない。

 

竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏っていない状態で、手にした魔剣の刃を首に当てている。

 

刃を首に添えた娘の顔には微笑みが浮かんでいた。

それはかつて自分に向けられていた、亡き妻ソアラの微笑みとなんら変わりのない美しくも儚い笑みだった。

バランの表情が、戦士の顔から父親の顔に変わる。

 

(いかん…このまま攻撃すれば、ディーナの首が…

いや…! 竜闘気(ドラゴニックオーラ)の圧でさえ、少しでも擦れば刃に添えた指が飛ぶ…!!

衝突すれば肉体ごと粉々に…!?)

 

脳裏を駆け巡った凄惨な娘の姿にバランが咄嗟に構えを解き、自身の身に纏った竜闘気(ドラゴニックオーラ)を霧散させた。

と、同時にドラの頭の中に驚愕した様子のディーナの声が響く。

 

(『すごい! 自分の顔と命を盾にするなんて! 汚い!!』

 

覚えておきなさい! 女の戦いに『卑怯』なんて言葉は無いわ!!

あと、女の最大の武器は《涙》じゃなくて《笑顔》よ!!!

 

『なるほどっ…!?』)

 

さしものディーナもバランの最大の弱点である『妻の微笑み』と『娘の命』を盾にとった作戦に非難を禁じ得なかったが、理屈を聞いて納得したようだった。

儚い微笑みを引っ込めたドラが、額に(ドラゴン)の紋章をカッと宿らせ好戦的な表情になる。

バランが竜闘気(ドラゴニックオーラ)をかき消しドラが額に紋章を輝かせたその刹那、はるか下からバランとドラめがけて上がってきた声が二人の耳に届いた。

 

「父さーーーん!!! もうやめてえぇぇーーーーーッ!!!」

 

「逃げるのが嫌なんじゃねぇ!!

仲間を見捨てるのが嫌なんだよッ!!!

ドラーーーーッ!!!」

 

「ディーノ…!」

「ポップ…!」

 

叫び声と同時にポップから放たれた魔法が竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏っていない、無防備なバランに直撃する。

なんとか空中に留まってはいるが体勢を崩したバランの隙を逃さず、ドラが手にした魔剣に溜め続けた魔力を通した。

 

「ぐぁ…ッ!!」

 

属性付与(エンチャント)!! 重圧呪文(ベタン)!!!」

 

刀身を握りしめ、全ての魔力を魔剣の柄に集中させて重力を発生させる。

極所的にとてつもない重力を伴った魔剣は、わずかな距離で繰り出した突きにも関わらずバランが手にしたオリハルコン製の真魔剛竜剣を叩き割った。

ドラが握りしめた魔剣の柄はそのまま勢いを殺す事なくバランの心臓にめり込み地面へと落下した。

バランとドラが落下した地面からズズンッ…と低く鈍い音が鳴り響く。

 

 

鋼鉄変化呪文(アストロン)が解けたポップ達は慌てて二人が落下した地点まで駆けつけた。

そこには大の字に倒れ口から血を流すバランと、その上には血まみれになった手でひび割れた魔剣を握りしめ気を失っているドラの姿があった。

 

 

 




タブレットを購入したので練習がてら落書き人物相関図

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