ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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49_しばしの別れと五面楚歌

地面に倒れ伏すバランとドラめがけて、まるで流れ星のように金色の物体が高い岩場から流れ落ちていった。

 

「ピイィィィ〜〜〜〜!!」

 

文字通り飛んできたゴメちゃんが金色の羽でドラの頬をぺちぺちと叩きながら泣き喚く。

 

「む…ぐ、うぅ…」

 

しかし起き上がったのはドラではなくバランだった。

むくりと上体を起こし、予想外に重い肉体に違和感を感じる。

その原因が気を失い自身に覆い被さっているドラだと気づき目を見張った。

 

「ドラーーーッ!!」

「ドラ!!」

「ドラちゃん…っ」

 

こちらへ走り寄ってくる人間(ポップ)達にもはや条件反射で折れた真魔剛竜剣の柄を握りしめ、腕を持ち上げようとした。

…が、力の篭ったバランの手に重ねるようにしてそっと手が差し伸べられて、押し止められる。

 

「お父さん…よして」

 

目を覚ましたドラがバランの手に血まみれになった小さな手を重ねて懇願する。

言われてバランは、おそらく初めて何も考えずにまじまじと娘の目を見つめた。

 

造形(つくり)は亡き妻、ソアラに瓜二つだ。

造形も似ているが声さえ似ている…そっと囁くように紡がれた音色はスッと耳に入り心に響く。

しかしその瞳の色は自分の持つ瞳の色と同じであった。

その瞳に宿る光も。

(ドラゴン)の紋章による証明だけではない、この子は確かに自分の娘であるとあらためてバランは実感した。

 

そして理解する。

この娘の性質はまさしく自身と同じものであると…

この娘がそれを「成す」と言うならば、それは決して折れず曲がらず…

きっと命が尽き果てるまで…いや、命が尽き果てようとも成そうとするであろう。

 

人間を滅ぼそうと決意した自分のように。

 

ほんの少しの間、考え込んだバランは剣を持つ腕から力を抜いてもう片方の手で口から流れる血を拭い去る。

覆いかぶさる娘の体をそっとどかし、立ち上がった。 

 

「ディーナよ…もはや何も言わん…

私を止めたければ、そうするが良い…

 

しかし…!

 

我が剣が蘇り、傷の癒えた時こそ雌雄を決してやる!!」

 

 

ドラはバランの口から出てきた言葉に目を丸くした。

 

(…は?

え? 雌雄を決する?? なんで???

私別に雌雄を決したいとかバランを倒したいなんて一言も…

 

あ、ああ〜〜〜!

『今回は互いに痛み分け。なので一旦退却する』っていう名分が無いと引き下がるに引き下がれないのか!

多少力ずくでも自分が納得出来ないと動けないんだこの人…!

 

…ぶ、不器用〜〜〜!!

不器用通り越してなんて難儀な人…!)

 

「ま…魔王軍へ戻るのか!!?」

 

呆れ返って半目になっているドラに代わり、駆けつけたクロコダインがバランに問いかけた。

 

「…もはや魔王軍など眼中にない!」

 

【訳:娘は見つかったので魔王軍は用済みです。もう戻りません】

 

「ディーナよ…お前が私に勝てたらお前の望みどおり、魔王軍を滅ぼすがいい!

しかし私が勝てば…

その時こそ、お前は人間との絆を全て絶ち! 我がもとへと(くだ)るのだ!!」

 

【訳:次に勝負してそちらが勝てば好きにしてください。

でもこちらが勝ったら人間とは縁を切って、親子水入らずで暮らしてもらいます】

 

「あ、はい。今度戦ったらその時は打ち上げしましょうね。

ディーノと竜騎衆のみんなも一緒に。

デルムリン島で盛大にパーティーしましょう」

 

その時こそ私、腕を奮ってたくさんお料理作るから。

なんとも気の抜けた返事を受け、不承不承とした様子のバランだったが駆けつけたディーノと竜騎衆を伴って立ち去っていく。

沈む日の中、遠くなる父の背中にドラが声を張り上げた。

 

「お父さん! さっきは言い過ぎちゃってごめんなさい!

次に会う時までゆっくり休んで! 無理しないでね!

あと、まだ人間を殺そうとするなら何度でも邪魔しに行くからね!!」

 

その声が耳に届いたであろうバランはまったく聞こえていないかの様子で歩き続けたが、隣を歩くディーノがバランの顔を見て微笑んで手を振ってくれたのできっと大丈夫だろう。

遠ざかる戦士の背中に何かを感じ取ったのか、ドラだけではなくクロコダイン、ヒュンケル、そしてポップも…

それぞれが感慨に耽った眼差しで去りゆくバランを見つめながら無言で立ち尽くしていた。

 

 

 

ドラが目標として大きく掲げていた『ラーハルトの生存』『超竜軍の進軍阻止』。

なんとか両方が達成できた事に(こわば)っていた体から力が抜けていく。

完全に被害を食い止められなかったのが悔やまれるが以降の超竜軍による進撃は阻止できるだろう。

はー、やれやれ…と安堵の溜息をついて地面にへたり込んだままのドラに、ぴしゃりと冷や水を浴びせるかの如き声が頭上から落ちてきた。

 

「おいこらドラ、この野郎…!

こちとら聞きたい事も言いたい事も山ほどあんだよ…!」

「へっ?」

 

ゆっくり振り向くと腕を組んでドラを睨み付けるポップの姿が…

 

「えっ…何? なんでポップそんなに怒ってるの…?」

「なんでと来やがったかこの我儘娘!!? てめぇ自分の胸に手を当ててよ〜〜〜く考えてみろ!!」

 

そう言われたが心当たりが無いドラはきょとんとするばかりだった。

その様子にますます激憤したポップがドラの罪状を並び立てる。

 

「バランに連れられてったお前を、どんだけ心配したと思ってんだ!

なのに駆けつけてみりゃあ言うに事欠いて「逃げろ」だと!?

いっつも自分一人で背負い込みやがって!!

どうせ他にも俺たちに言ってない事あんだろう、ええっ!!?」

「あ〜、え〜と…まあ、はい…」

 

………

 

「はあ!?

世界各地を巡ってたのは自分の種族を探すためぇ!?

『勇者』を辞退したのも自分が人間じゃないからぁ!??」

 

と、いう事にしておいたドラ。

『前世で読んでいた漫画の世界に転生してきて事の経緯(いきさつ)を(本人がまだ知らない事まで)知っている』と言うとさらにややこしい事態になるので自分の行動理由をあくまで『自身の種族を探すため』だという事にした。

『ダイ君』に会った時に譲る気満々だった勇者の称号も、辞退した理由は人間ではないと知られた時の事を考えて…という事にしておいた。

気がつけばポップ、レオナ、ヒュンケル、クロコダインが四方を取り囲む中、正座をさせられ吊し上げられている状況だ。

さらにゴメちゃんがドラの頭の上に乗ってずっしりと圧力をかけてきている。

いつも羽のように軽いというのにみしみしと怒りとともに体重をかけられ、上下左右逃げ場を防がれていた。

 

「だって自分が人間じゃないのなんてわかりきってたし…

人間じゃないのに『勇者』になっちゃったら不満に思う人も出てくるでしょう?

もしかしたら場合によってはみんなと決別してたかもしれないし…

なんとか穏便に事を済ませたかったというか…」

「なんでそんな大事な事黙ってたのよッ!!

あたしたち、友達じゃなかったの…!?」

「うう…ごめんなさい」

 

レオナからの糾弾に身を縮こまらせるドラ。

 

「そうだぞ、ドラ。

何も言わずにバランのもとへ行ったまま戻らないお前を、皆がどれだけ案じたか…!

さすがに身勝手が過ぎるぞ!!」

「ふぐっ…」

 

(クロコダインからのガチトーンのお説教…

ダメ無理、中身成人の私でさえ涙出そう…!)

 

「まったくだ。おまけにバラン相手にあんな無茶を…

お前は自分の命を粗末に扱いすぎだ」

「うう、ごめんなさい…

でもヒュンケルにだけは言われたくない…!」

 

「ピィ! ピピピィ…!!

ピィッピ! ピッ!!!」

「ゴメちゃんまで…!」

 

正座のまま下を向くドラを見下ろしながら、ポップは心の中で妹弟子に対する色眼鏡を完全に外した。

『危なっかしくて目が離せない妹弟子』ではない…

こいつは『目を離すと危ない真似をするとんでもない妹弟子』だ、と。

この場にマァムがいなくて本当に良かった。

いたらポップの怒りなど比にならないほど怒り狂っていただろう。

 

そう思いながらじっと睨みつけていたドラの様子がなんだかおかしい事に気づく。

前後にゆらゆらと体が揺れているような…?

 

「本当にごめんなさい…

これからは…ちゃんと相談するように…」

「おいドラ…!」

「いかん! 顔色が悪い…血を流しすぎだ!」

「早く回復を!!」

「ドラちゃんしっかり…!」

「ピィィ〜!」

 

貧血でぱたりと倒れたドラにレオナが慌てて回復呪文をかける。

苦み走った顔でドラを支えるポップはつい先ほど下したドラの評価をさらに下方修正した。

こいつは『目を離すと危ない真似をするし平気で命を危険に曝す、とんでもなく危なっかしい妹弟子』だ、と…

 

(先生…先生は気づいてたんですね…

こいつが目を離したら危ないやつだ、って…

だから俺に「ドラの事をよろしく頼む」って…

 

さすが、アバン先生!

先生、俺…頑張ります!!

こいつが二度と無茶な真似をしないように、先生に代わってしっかり見張ってます!!)

 

見上げれば既に日は沈み、群青に染まりつつある空にキラリと星が光っていた。

その星に偉大な師、アバンの面影を重ねポップは決意を新たにする。

アバンはドラの危険性を危惧してポップに世話を任せたわけではないのだが、結果的にやる気の向上に繋がったのなら結果オーライだろう。おそらく…

同時刻、星などまったく見えないダンジョンの深層にアバンのくしゃみが響き渡った。

 

 

その様子をはるか遠くから眺める白と黒の影が二つ…

 

(ドラゴン)は去ったか…」

「いよいよボクらの出番も近いね。

こりゃ忙しくなりそうだ…!!」

 

 

 




貧血の原因:自分で手首切った。魔剣の刀身を握りしめて流血した。
竜闘気(ドラゴニックオーラ)を展開してるうちは呪文が効かないのでそのまま回復し忘れてた。
思いっきり自業自得。
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