ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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51_ザボエラの奸計

バラン、そして竜騎衆との戦いで傷つき消耗したドラ達一行はメルルとナバラの暮らす小さな住処にてしばしの休息を得ていた。

いまだ昏々と眠り意識を取り戻さないドラを寝台に横たわらせて、他は椅子に座り体を壁に預けてその疲れを癒している。

 

「…ふぅ、みんなお疲れ。

姫さんも…あらら」

 

メルルから受け取った水を一気に飲み干したポップが回復役をして戦闘を支えてくれたレオナに労いの言葉をかけようとした。

しかし意識を失ったドラにずっと回復呪文をかけていたレオナも精魂尽き果てたのか、椅子に座り寝台にうつ伏せて眠りこけてしまっていた。

無理もないか、と思ったポップは言葉を飲み込みクロコダインとヒュンケルの方を向く。

 

「…厳しい戦いだった。みんなよく生き残れた…」

 

クロコダインが普段の大声を潜めさせて静かに呟いた。

その言葉を受け取ったヒュンケルが無言で立ち上がる。

 

「どうした!? ヒュンケル」

「…戦いはまだ終わっていない。

バランが退いても他の軍団長がいる…

今の状態で襲われたらひとたまりもない…!

俺が見張りに立とう…」

「いや、そんな事言ったってお前…

武器も防具もボロボロじゃねぇか。

見張りには俺が立つよ。少しは魔力も回復したし…

お前もおっさんもバランに散々痛めつけられてたじゃねぇか。

無理せず休んでな」

 

そう言ってポップは立ち上がり見張り役を買って出た。

痛めつけられて体力を消耗しているのはポップもなのだが、バランとの戦いでクロコダインの防具は破壊されヒュンケルの鎧は粉々に砕かれてしまっていた。

ヒュンケルに関しては剣でさえもひび割れて使い物になりそうもない。

確かにこの中で一番見張り役に適しているのは魔法使いのポップだろう。

 

「…わかった。現状で一番戦えるのはお前のようだ」

 

言い出したら聞かないヒュンケルもさすがに納得し、椅子に座り直す。

 

「ま、心配せずにまかしといてくれよ。

よっぽど危なくなったら大声出すからさ!」

「ピィィ」

「お、ゴメも付き合ってくれんのか。

そりゃ心強ぇ!」

 

ゴメちゃんを頭に乗せて外に出たポップを見送るクロコダインとヒュンケル。

疲労回復の効果のある薬草を煎じていたメルルが手を止めて、ポップの背中をじっと見つめた。

しばし沈黙が訪れた部屋の中で、おもむろにクロコダインが口を開く。

 

「…なぜ、あのスカイドラゴンを蘇生させる時にドラは自らの腕を切ったのだろうか」

 

ドラの行動の意味が理解できず、ずっと引っかかっていた事を誰に問うでもなく呟いた。

その呟きに、「おそらく」と前置きをしてヒュンケルが自分の考えを述べる。

 

「…古来より伝説の(ドラゴン)の血を飲んだ者は不死身の力を得るという。

ドラの中に流れる(ドラゴン)の騎士の血…

その血には他者の復活をも成す強大な力が備わっているのやも…」

「むぅ…」

「それだけではない。

鬼岩城を偵察しに行くと伝えた際にドラから託された紙…

そこには鬼岩城の位置を示せとあった。

鬼岩城が移動するなどお前も俺も想像すらしていなかったのに、だ…

ドラにはまだ、俺たちの知らない不思議な力が秘められているのかもしれん」

「なんと…」

 

目を見開きドラの寝顔を見つめるクロコダイン。

寝台に横たわる少女はとても儚げに見え、まるで触れれば壊れてしまう硝子細工か砂糖菓子のようであった。

この小さな乙女の中にどのような『力』がいまだ秘められているというのか…

父であるバランの苛烈な生き様を垣間見たクロコダインは、同様に苛烈な運命が降りかかるドラを憐憫の眼差しで見つめる。

せめて己がドラに襲いくる脅威の盾となれたらと、そっと心の中で想いを募らせた。

 

 

「…ったく、ドラのやつ。

まさかバランについてった挙句、あんな無茶な戦いまでするとは…

おい、ゴメ! この野郎!

お前は知ってたのかよ、ドラの本性…!」

「ピイィ~」

 

外に出て周囲を警戒しつつ、ドラについてまだ不満を燻らせていたポップが悪態を吐いた。

今回の戦いで暴かれたドラの本性…

甘えたで寂しがり、優れた魔法の使い手でしゃなりとした身振りの『猫』を引っぺがして見えたのは、身勝手で独善的…仲間になんの相談もなく一人で勝手に突っ走りバラン相手にも怯まず応戦する好戦的な『小さな(ドラゴン)』の素顔だった。

その事を知っていたであろうドラの相棒であるスライムの頬を、引っ張り横に大きく伸ばしながら問い詰める。

 

「ピィ、ピイィ~!」

「あ? なんだよ…その、

 

『仕方ないじゃないか! 伝えたくても言葉が通じなかったんだもん!

だいたい、ポップ達だってもっと早くに気づいてくれてたらよかったのに!』

 

って顔は…!」

 

言葉は通じなくともだんだんとゴメちゃんの言いたい事がわかるようになってきたポップ。

そんな二人の様子を木陰からそっとメルルが覗き見ていた。

 

(ポップさん…ドラさんの事、とても大切に想っているのね…

だからあんなに怒って…

でも、女性として好きとかそういう感じじゃなくて…なんだか妹を心配して怒るお兄さんみたい。

…よかった)

 

ポップに対して恋心を募らせるメルルは、ドラが恋敵ではないとわかりホッとした。

声をかけて話したいけれど恥ずかしくてなかなかポップの前に出ていくことが出来ない。

初々しくも焦ったい様子でその場に留まることしばし…

 

林の奥から、ガサリと木の葉を踏む音が聞こえた。

ポップと、木陰に身を潜めたメルルがバッと音のした方向を見る。

ザッ、ザッ、ザッ…と迷う事なくこちらに近づいてくる足音にポップの警戒心もどんどん大きくなっていった。

 

「さ…早速敵のお出ましかい…!!

誰だッ!! 出てきやがれッ!!!」

「…あら、駆けつけた『仲間』にそんな言い方するなんて。

つれないじゃない…?」

「そっ、その声は…!!! マァムッ!!!」

 

夜深い林の暗闇の中から姿を表したのは誰あろうポップの想い人、僧侶戦士の出立ちをした姉弟子マァムであった。

突然現れた想い人を信じられない目で見つめながら、だんだんと頬を紅潮させ潤んだ瞳でポップが警戒を解く。

 

「本当にお前なのかよ!? マァム…!!」

「あら? もう忘れちゃったの?

仲間の顔を…!!」

「ピィ~~~ッ!!」

「あっ、ありがてえっ!!

最高のタイミングで帰ってきてくれたぜえっ!!!」

 

心底嬉しそうに駆け寄ってマァムの肩に乗り頬を寄せるゴメちゃんとガシリと手を握りしめるポップ。

その様子を見たメルルはショックで呆然と立ち竦む。

ジッとマァムの顔を見つめて、そこに『毒々しさ』やなんとも言えない『嫌らしさ』を感じ取り眉根を寄せた。

しかし首を横に振り、自身がマァムから感じとった禍々しさを女の嫉妬から来る敵愾心だと思い込む。

これ以上二人を見ていると嫉妬心と自己嫌悪でぐちゃぐちゃになりそうだと思い、メルルは音を立てぬようそそくさとその場を後にした。

 

「そっ、それでよ!

武術の修行のほうはどうだったんだよ!?

成果バッチリか!?」

「えっ!?

 

…ああ、あれね。

途中で切り上げてきちゃった。

みんなのことが心配だったから」

「途中で!?」

 

マァムから出た言葉に目を丸くして驚くポップ。

 

「どうしたの?」

「い…いや、なんでもねえよ!

それよりも早くドラや姫さん達に会いに行こうぜ。

みんな驚くぞおっ!!」

 

マァムの口から出てきた似つかわしくない言葉に違和感を感じながらも、再会の喜びに水を差すまいとマァムを小屋へと案内する。

しかし…

 

「いいわよポップ…

みんな戦い疲れて眠っているんでしょう?

起こさないほうがいいわ」

 

するりと腕を撫でるようにしてマァムの手がポップの手を絡めとる。

そして指先のみをそっと握り締めてため息をつくように囁いた。

 

「…それに、もう少しこのままでいたい」

「えっ…」

 

マァムの体から甘い匂いが薫り立ち、ポップの頭の奥底を痺れさせていく。

クラクラと徐々に酩酊してく意識の中、マァムが体を寄せて赤く色づいた唇を艶かしげに舐めた。

破裂しそうなほど高鳴った心臓がうるさく響く。

ふと足元を見ると、いつの間にかマァムの肩から滑り落ちたゴメちゃんが地面に転がって寝息を立てている。

もはや誰の目も気にすることもない、この場にいるのはポップとマァムの二人だけ…

 

「マ、マァム…」

「ポップ…」

 

ポップの首筋にマァムの手がかかろうとした時…

 

「マァム…じゃねえなッ!!

誰だてめぇはッ!!!」

「…なっ!??」

 

ドンッ、と強くマァムの体を押してポップが臨戦態勢をとる。

押されてよろけたマァムは一瞬醜悪な表情でギロリとポップを睨み付けるも、またすぐにしおらしい表情を取り繕ってポップに囁いた。

 

「何を言ってるの…? 誰って…マァムに決まっているじゃない。

あなたに会いたくて来たのに、私を疑うの…?

突然の事に照れてしまったのかしら…?

私、ずっと前からあなたのことがす…」

「ハッ…!」

 

頬を赤らめて告白するマァムをポップが鼻で笑う。

 

「生憎と最近タチの悪い女に騙されたばっかなんだよ…!

また早々と騙されたりしねぇぞ!!

マァムが途中で修行を切り上げる!?

ありえねえ!!

それに途中で切り上げて来たとして、なんでここがわかった!?

この場所はメルルに案内されて俺だって今日初めて来たばっかりなんだ!

それにてめぇがマァムだってんなら、なんで来たばっかりで全員が戦いで疲弊してる事を知ってやがる…ッ!?

とっとと正体を表しやがれ! この偽物めッ!!!」

「~チィッ…!!」

 

舌打ちと共にマァムの体が煙に包まれる。

そして姿を表したのは魔王軍妖魔士団団長、妖魔司教ザボエラであった。

 

「てめえは…!?」

「生意気な小僧め…!

もう少しで良い夢の中でその命を終えられたというのに!!

ええい、忌々しいッ…!!」

「どういう事だ、ザボエラ…!!」

「ひ、ひえぇ…ハドラー様、お許しを…!」

「ああっ、ハ、ハドラー…!!」

 

ザボエラの作戦が失敗した事に腹を立てたハドラーが焦燥に狩られた表情で姿を表した。

最後の望みであるザボエラの奸計が失敗した事で、もはや他に方法はなしと思い詰めたハドラーは手に装備した『爪』を鋭く光らせる。

 

「こうなれば仕方ない…正攻法で全員殺すしかあるまい…!!」

「見損なったぜハドラー!!」

「なにぃっ!?」

 

武器を構えたハドラーにポップの罵りが矢のように突き刺さった。

 

「てめえは残酷だけど卑怯じゃなかった!

今までも何度か戦ったが、そん時にゃまだ『魔王の威厳』みたいなのがあったぜ…!

それが、こんな妖怪ジジイの汚ねえ騙し討ちに頼るとはよ…!!

とうとう落ちるところまで落ちたな!!」

「だっ、黙れぇッ!!」

 

本当に後が無く、余裕など微塵も無いハドラーにポップの言葉が深々と突き刺さる。

己とてこのような作戦に頼るなど、虫唾が走る思いなのだ。

しかしそうでもしなければアバンの使徒どもを皆殺しにした上で、バランを相手に引き分けたドラのみを生捕りにするなど…

残された戦力は己と、正面突破に向かぬザボエラのみとなったハドラーには他に手段など残されていなかったのだ。

 

「もはや俺には失敗は許されんのだッ!!!

手段を選んでる余裕はないッ!!!」

「クロコダインも…ヒュンケルも…魔王軍にいた時に同じような事してたっけな…

けどな…!

最後の一線で二人は踏みとどまったぜ!

男の戦いには、勝ち負けより大事なものがあるんだってな…!!」

「うぐっ…!!」

「このガキがあっ!!

生意気にもハドラー様に説教たれる気かあッ!!」

「おっと…!」

 

ザボエラが放った火炎呪文(メラ)をなんなく避けたポップは小屋へと走った。

 

「みんなに敵襲を教えねえと…!!

ぐあっ…!!」

 

ザボエラの一撃を避けたポップであったが慌てて敵を後ろにした直後、ザボエラの放った二撃目の火炎呪文(メラ)が背中を直撃し転倒してしまう。

 

「ぐ…!」

 

すぐさま立ちあがろうとするポップにザボエラが立ちはだかる。

小屋はもう目の前だ。

大声さえ出せば…!

 

「みん…ガッ…!?」

 

顔を強く蹴り上げられて大きく開いた口に衝撃が走る。

そのまま間髪入れずに何度も頭を蹴られ、声すら上げられず腕でなんとか頭を庇うしか出来なかった。

 

「ク…クソ…!! みんな、頼む…

気づいてくれぇ…ッ!!」

「キィ~~~ッヒッヒッヒッ!!!

さっきはよくも避けてくれたのう…!

お前のために用意したこの毒…無駄にするには惜しいほどの上物じゃぞぉ…!

今度こそ喰らわせてくれるわぁ~~~!!!」

 

ザボエラが毒に塗れた爪をポップにお見舞いするべく、腕を大きく振り上げた時だった。

 

「くたばるがよ~~~い!!!」

 

文字通りの毒手がポップに襲いかかる…しかし振り下ろされた腕はポップに届きはしなかった。

ヒュッ…という風の音と共にザボエラの腕は本人も気付かぬうちに、地面に転がり落ちていたのだ。

 

「ギャアアア!!?」

 

上がる血飛沫を抑えながらザボエラが疼くまる。

血まみれで転がるザボエラの腕を見たポップが、何が起こったのか状況を把握するために周囲を素早く見回した。

そして自分達の目線のはるか上…

浮かんだ人影が誰なのか悟るやいなや歓声を上げる。

 

「マトリフ師匠…!」

「よお、バカ弟子…少しは成長したみたいじゃねぇか」

 

敵の仕掛けた奸計に惑わされる事なく冷静に行動したポップを、空中に浮かんだマトリフが満足そうな顔で見下ろしていた。

 

 

小屋の外でポップがザボエラとハドラーの襲撃を知らせようと足掻いていた頃…

ザボエラの魔香気によって意識を刈り取られていたクロコダインとヒュンケルはドラの叫び声で深い眠りの淵から引きずり戻された。

 

「ポップがハニートラップに引っかかってる…!」

「なに…ッ!」

「なんだ…ッ!?」

 

 

 




タチの悪い女:ドラ
別に騙そうと思っているわけではないが、結果的に騙す形になってるあたり意図的に騙そうとする奴よりも数段タチが悪い。

魔香気
ザボエラが仕掛けたお香型の酩酊・睡眠薬。
原作では全員バッチリ効いていたが、原作ほど重傷を負っていないクロコダインとヒュンケルにはあまり効果がない様子。

メルル
恋する乙女。ドラ(美少女)がよもや恋敵か…と思ったが違った。
違ったけれども下手な恋敵よりも厄介な位置にいるドラに今後もやきもきさせられそう。
頑張れ。
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