ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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53_新たな決意

ドラ達がいた場所から遠く離れた森の中。

右腕を切断され、全身を焼かれあちこち焦げ跡が残るザボエラは()()うの体で土まみれになりながらも必死に肺に空気を取り込んだ。

 

「ヒイ…ヒイィッ…!」

 

ドラから放たれた極大閃熱呪文(ベギラゴン)が身を焼く寸前、ザボエラはハドラーを見捨てて咄嗟に瞬間移動呪文(ルーラ)によってその場を離脱し九死に一生を得たのである。

 

「なっ…なんとか助かった…!

しかし、あれを受けたのではハドラーは助かるまいて…!

せっかく力添えを続けてきたのに役立たずが…!!

こうなったらミストバーンにでも取り入って…」

 

ハァハァと一向に整わない呼吸を必死に繰り返す。

そうして一歩、また一歩と這いながら進んでいた時、突然足首に違和感を感じた。

何かが足首を強く掴んでいるような…違和感の正体を探るべく、くるりと顔を足のほうに向ける。

振り返ったザボエラが見たもの、それは…

 

「はうああっ…!!? ハッ…ハドラーさまッ…!!」

 

ザボエラの足首をギリギリと握りしめていたのは、全身を閃熱によって焦がされ腰から下は圧縮された光線によりスッパリと切断されたハドラーであった。

どう見ても致死量の青い血を噴き出しながらも、文字通りの半死半生でザボエラを睨み付ける瞳からはギラギラとした暗い生命力が溢れていた。

 

「…ザボエラ、裏切りは許さん!!

…もはやお前とオレは一蓮托生!!

他の者に取り入るなら…お前を殺す!!!」

 

恐怖からヒッ、ヒッ、と引き攣るような声しか出ないザボエラにハドラーが畳み掛ける。

 

「オレは知っているぞ…

お前が秘かに続けていた超魔生物の研究…

今こそ、それをオレのために使え…!」

「そっ…それをなぜっ…!!?」

 

ザボエラの疑問など意にも介さずハドラーが叫ぶ。

 

「…やつら、アバンの使徒どもの成長速度は早い!!

早すぎる!!

 

もはやバーン様から頂いた身体ですら追いつけぬ…!!

もっと強い力が必要なのだ…!!

…そう、ドラやバラン…彼奴ら(ドラゴン)の騎士に対抗できる、誰にも負けぬ…

地上最強の力が…!!!」

 

死の際に立たされてもなお強さを求める…地獄の底から湧き上がるかの如きハドラーの業深い渇望。

それをザボエラは拒否など出来ずただ頷くしか出来なかった。

 

 

ザボエラとハドラーの襲撃を凌いだドラ達は小屋へと戻った。

爆発の衝撃のため、魔香気によって眠らされていたレオナ達も目を覚まして自力で小屋へと戻ってきていた。

いったい何が起きたのか、ドラから説明を受けるとレオナはともかくメルルとナバラは酷く狼狽したがひとまず脅威は去ったとわかり落ち着きを取り戻す。

 

クロコダインにより再び寝台へと降ろされたドラが「ねえ、みんな」と声をかけた。

ゴメちゃんが上体だけ起こして座るドラの膝上で心配そうな顔をして見上げる。

呼びかけに寝台を取り囲むようにして集まった全員の顔を見渡した後、ドラが真剣な表情で切り出した。

 

「あのね、聞いてもらいたい事があるの」

 

そう言ってその場にいる面々…ポップ、レオナ、ヒュンケル、クロコダイン、マトリフ、メルルとナバラに語ったのは自身の出自とバランの過去である。

自分が(ドラゴン)の騎士と人間の間に生まれた混血児であること。

母が亡国アルキードの王女であること。

アルキードの滅亡について…父であるバランが魔王軍にいた理由、人間を憎むその理由(わけ)

 

話を聞いた者は、ある者は眉間に皺寄せ、ある者は顔を青褪めさせ…

ポップやヒュンケルなどはソアラの死に際の言葉を聞いて堪えきれない様子で涙を流した。

マトリフは椅子に座ったまま、床を睨むようにして見つめながらじっと話に耳を傾けている。

しかし話の途中、小声で「アルキード、あの一夜にして滅んだ…!」と呟いた。

 

皆のそばを離れていた間にドラが知った自身の出生の秘密とバランの経緯をひとしきり話し終える頃には、小屋の中はしんと静まり返り外から響く木々の騒めきだけが耳を通り過ぎていった。

長い話をし終えたドラはふぅ、と一息つくと「それでね」とさらに話を続ける。

 

「私ね、お父さんにもう人間を殺してほしくないんだ。

できればお父さんとお兄ちゃん、あと竜騎衆のみんなもデルムリン島で平和に暮らしてほしいと思ってる。

向こうが嫌だって言っても何とか出来ないか頑張ってみるつもり。

 

でね、そのためにはまずこの戦いどうにかしなきゃでしょ?

だからお父さんの…ううん、みんなの幸せを邪魔する大魔王バーン、ブッ飛ばそうと思って。

…正直言うとね、私、人助け全然好きじゃないんだ。

見ず知らずの人のために頑張ろうとか思わないし思えない。

 

…でも、お父さんが…バランがたくさん人間殺しちゃったでしょう?

もう取り返しがつかないかもしれないけど、私が大魔王バーンを倒して世界に平和を取り戻せたら、ほんの少し、ちょっぴりだけ…

お父さんのやったことの罪滅ぼしになるかなぁ、って…

世界に平和を取り戻すことが罪滅ぼしになるなら私、いくらでも頑張る。

家族や仲間の幸せに繋がるなら、どんな困難にも強敵にも立ち向かうよ。

 

人類のためっていうのとはちょっと違うけど、平和を願うこの気持ちに嘘はないもの。

今までいろいろ内緒にしてたり…人間じゃないからって拒否してたけど私、これからちゃんと魔王軍と戦う『勇者』になりたい。

…ダメかな?」

 

秘めていた胸中を明かしたドラが伺うようにしてレオナやポップを見つめた。

 

「ドラ…」

「ドラちゃん…」

 

ぐすり、と鼻水を啜りながらポップがドラの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

 

「ダメなわけねぇだろ!!」

「わっぷ…」

「そうよ…! 過程はどうあれ、目指す場所は同じ…

世界に平和を取り戻すために、一緒に頑張りましょう!」

 

レオナやポップに続き、クロコダインとヒュンケルが沈んだ声で口を開いた。

 

「罪を犯したのはバランだけではない…」

「…そうだ。俺も、クロコダインも。

バランをどうこう言える立場ではない…

罪を贖わなければいけないのは俺たちも同じ…

バランの罪は俺たちの罪でもある。

ドラ、決してお前ひとりに背負わせはしない!」

「みんな…ありがとう」

 

安堵したのか、先ほどまで紙のような色をしていたドラの頬にパッと赤みが差す。

マトリフはその様子を静かに眺めていたが、少し間を置いておもむろに口を開いた。

 

「ハドラー…俺ぁ、あいつが『魔王』だった時を知っているがな…

今回みたいな(こす)っからい作戦に頼るようなヤツじゃなかったように思うぜ」

「うむ、同感だ。褒められた人格ではなかったが、あまりにもヤツらしくない作戦だ…

ましてやザボエラに頼るなど、以前のハドラーでは考えられん」

「…よほど追い詰められているのだろう。

なりふり構っていられない状況に追い込まれているのかもしれない。

それだけに、何を仕掛けてくるかわからない危うさを感じる…」

「ポップから話を聞いて、嬢ちゃんが(ドラゴン)の騎士だと薄々わかっちゃいたが…

嬢ちゃんが背負おわなきゃならん運命は思っていた以上に重たいらしい。

そんな時にこいつを渡すことになるとは…

これも『運命』ってやつかね…

まったく運命を司る神ってのは粋なのか無粋なのか…この年になってもさっぱりわからねぇ」

 

そう言ってマトリフが懐から一冊の本を取り出し、ドラへと差し出した。

それは表紙に見覚えのある意匠を施された古ぼけた書物…『アバンの書』であった。

 

「こっ…このマークは…

先生の!?」

「そうだ、これが有名な『アバンの書』だ。

世界を救った勇者アバンがその武芸・呪文・精神の全てを後世のために記したこの世に一冊しかない手書きの本…

奴の母国、カールの図書館に保管されていたが…

カール王国は滅ぼされちまった今、お前らの手元にあったほうが良いと思って探し出してきた。

ほらよ、ドラ…

空の章、192ページを開けてみな」

 

そう言って差し出された本を受け取ろうとしたドラだが、思ったより重かったのと手に負った怪我を回復させたばかりで上手く力が入らないのとで本を取り落としてしまった。

寝台の上に落ちたそれをレオナが拾って「私が読むわ」とパラパラとページを捲る。

 

「地の章は武芸、海の章は闘気の技や呪文について書かれている。

そして空の章は、心の章だ」

 

「…傷つき、迷える者たちへ…」

 

レオナとアバンとでは声も音程も話す速度も何もかも違う。

だというのに、『アバンの書』の一節を読み上げる声の響きは不思議と聞く者にアバンが語る姿を思い起こさせた。

 

 傷つき、迷える者たちへ

 敗北とは、傷つき倒れることではありません

 そうした時に自分を見失った時のことを言うのです

 強く心を持ちなさい

 焦らずにもう一度、じっくりと自分の使命と力量を考えなおしてみなさい

 自分にできることはいくつもない

 一人一人が持てる最善の力を尽くす時、たとえ状況が絶望の淵でも

 必ずや勝利への光明が見えるでしょう

 

アバンの言葉を聞いたドラの目から、涙が一粒ポロリと流れ落ちた。

ドラが流した涙ではない。

ドラの中にある前世の記憶…

 

酷く打ちひしがれて、自分の力ではどうにも出来ないくらいに傷ついていたあの時…

励ましてくれたのは他でもないこの言葉だった。

当時の記憶が津波のようにドラの脳裏に押し寄せて涙となって流れ落ちていく。

 

「…それぞれの使命と、力量か…」

 

そう呟いたレオナが勢いよく本を閉じた。

 

「ドラちゃん、パプニカに戻りましょう。

私も、自分にできる最善を尽くしたいと思ったの…

ドラちゃん達と一緒に戦うよりも、もっと世界のためになる…

私にしか出来ない事があったわ!!」

 

偉大なる勇者アバンの言葉を受け、自分にしか出来ない使命を見出したレオナ。

『勇者』として決意を新たにしたドラと共に、レオナもまた最後の戦いに向け新たな決意を胸に歩み出したのであった。

 

 

 

「どうしたんだよドラ…そんなに泣いてよ。

ははぁさては…先生の言葉に感動したな?

あ~、わかるわかる…やっぱアバン先生はすげぇ人だよな~!

俺だって泣きそうに…」

「うん…あのね、私の『もう一つの魂』がね、すっごく感動したし助けられたって…ぐすっ。

ポップがザボエラに襲われてるの教えてくれたのもその人で…」

 

全員の目が点になった。

 

「…は? もう一つの魂?」

「それは、(ドラゴン)の騎士の特性か何かか…?」

「え? 違うよ?

それとは全然関係なくて生まれた時から私の中にいるもう一つの存在で私にいろんなこと教えてくれ…いにゃああああ!」

「だからっ…なんでそう爆弾隠し持ってんだお前はよ…!?」

 

ポップがもう何度目かになるかわからない憤りをドラにぶつける。

 

「もう一つの魂…

あ~…なるほど、どうりで魂が二重になって見えたわけだ。

嬢ちゃん、二つの魂持って生まれたクチか。

俺も実物見るのは初めてだぜ」

「知ってたんなら教えろよこのクソジジイ!!!」

「なんだと!? そのくらい自分で見破らねえかこのバカ弟子が!!!」

 

朝日が差し込もうかという時間になってぎゃんぎゃんと騒がしくなった小屋の中。

この事態を呆れて見ている存在がもう一人…

 

(何も考えずあっさり喋っちゃうのね…まったく、この()は…

…はぁ)

 

頬をつねられて涙目になっているドラの中で、魂が同化している時に『深慮』や『節度』を担っていたもう一つの魂が溜息を一つ溢したのだった。

 

 

 




魂が同化してた時、あれでも、まだ、節度を保っていたほう。多分。
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