翌日からさっそく修行が始まった。
「はあっ、はあっ…」
重い岩を2つ体に括り付けての持久走から始まり、大岩を割る課題、基礎訓練、剣術、格闘技、勉強、瞑想、魔法…
そのどれもをドラは難なく、というわけではないが悉くクリアしていった。
何せ体力と力が無いので最初3つだった岩は2つに減らされたし(3つだと重くて動けなかった)、大岩を割る課題は魔力で身体強化をして少しズルして割ったので剣と大岩、どちらも粉々に砕けてしまった。
格闘技に至ってはスピードならそこそこあるがパワーが無いのでもっぱら回避の仕方を中心に修練した。
反面、勉強、瞑想、魔法はドラが一番得意とするところだ。
学者筋であるアバンが舌を巻くほどの速さでアバンが使用できる呪文をすべて覚えてしまった。
(余談だが『
魔法の実技では『迫り来る波を凍らせる』という課題で50m先の波までしっかり凍らせ、アバンをして
「魔法はもはや教えることがありませんね…」
と引き気味に言わしめた。
困ったのは剣術である。
2日目の修行から始まった剣術指南では模擬訓練と称して木の枝でアバンと打ち合った。
しかし腕力は無いし打ち込んだ木の枝に体重が乗らずまったくダメージが通らない。
それに少し時間が経つと体力が急激に減ってきて途端にスピードが落ちてしまうのだ。
スピードが落ちると見切るのも遅くなり、結果すぐにアバンから木の枝で膝を突かれて砂浜に転がされてしまう。
どうにもモノにならなそうだ…とアバンも「剣術に至っては望み薄」と早々に判断した。
そこで剣術に変わりアバンがドラに授けたのは「アバン流『
簡単に言ってしまえば原作「ダイの大冒険」の「アバン流
「よいですか、ドラさん。
このアバン流杖殺法は杖に込めた魔力を敵に当てる瞬間に衝撃波として放出する技です。
通常は剣に込めた衝撃波ほどの攻撃力は見込めませんが、ドラさんほどの魔力の持ち主なら剣にも劣らぬ攻撃手段となるでしょう。
魔法は集中力が肝心です。ですが窮地に陥った場合、集中して魔法を放つのが困難なことも出てくるでしょう。
魔法だけに頼らず、攻撃手段はいくつも持っておいて損はありません」
そう言ってアバンは木の棒を構える。
右手に持った木の枝を後ろ手にして上半身を大きく捻り、左手は拳を握りしめ顔の位置、右側に。
「とっておきの技をお見せします」
と言って手本として自身の必殺技を披露した。
「私のスーパーな必殺技です。
1日も早くマスターして下さいね…!!
アバンストラッシュ!!」
「きゃああっ!!」
木の枝から放たれた衝撃波によって派手に吹き飛ばされ、大きな音と波しぶきをあげてドラは海に墜落した。
なんとか上半身を起き上がらせたが、技の衝撃が抜けきっていないのか頭をくらくらと前後に揺らしている。
「ちゃんと自習してくださいね!」
そう言って去っていくアバン。
2人の様子を木陰で見ていたポップはいきなり決め技を見せた師を驚きの表情で見ていた。
夜、月明かりと粗末な松明のみがうっすらとあたりを照らす中、広い岩場で言われたとおりにドラは昼間教わったことを自習していた。
アバン流杖殺法・大地斬により斬られた岩は昼間砕いた岩とは違い、真っ二つに裂けて美しい断面を見せている。
(やはりこの子は剣よりも杖の方が武器として扱い慣れているし攻撃するイメージが湧きやすいようですね…)
そう思いながらドラに近づくアバン。
体力も限界なのだろう。ふらふらとした足取りでアバンを見るや「先生…私、強く…」と言って意識を手放すドラ。
地面に倒れこむ前にアバンはドラの体を支える。
「ポップ、見ていたんでしょう? ドラさんを介抱してあげなさい」
「はっ、はい!」
影でドラの修行を見ていたポップに介抱するよう言いつけると、アバンはブラス老の待つ家に向かった。
(今夜はスペシャルなディナーを用意してあげましょう)
ハッと目を覚ました時、ドラはポップによって手当てを受けていた。
顔のすぐそばには心配そうにドラを見つめるゴメちゃんの姿もある。
赤く腫れた手に軟膏を塗られ、包帯を巻こうとしているポップを見たドラは大粒の涙をこぼし始めた。
「う、ゔぅ〜〜〜〜〜〜」
「おわっ!? な、なんだよ?! 傷が痛むのか…?
わ、悪かったよ、丁寧にやるから…」
「ち、ちがう〜〜〜… 手当てしてくれてありがとう〜、うっ、うぇっ…ぐすっ…
アバン先生ひどい〜〜〜〜! いきなり必殺技当ててきたぁっ!
い、痛かった〜〜〜! 修行もうやだ〜〜〜〜〜!!」
大声で修行が辛いと泣き叫び始めたドラにポップは困惑し、やがて呆れ気味に言った。
「だからやめろって言ったんだ… 無理だよ、あんな無茶苦茶な修行、とくに女の子にはさ。
明日先生に言って通常の修行に切り替えてもらおうぜ。
俺も一緒に言ってやるよ」
「や〜〜だ〜〜〜! 続ける〜〜〜〜〜〜! うああああああん」
「えぇ…」
辛いけど修行はやめないと大泣きするドラにポップはどうしていいのかわからず無言になってしまう。
ゴメちゃんは泣き続けるドラにぎゅうぎゅうと抱きしめられながらピィピィと慰めるように声をかけている。
少しして泣き止んできたドラにポップは小さな声で質問をした。
「…なあ、なんでそんなに辛いのに修行続けるんだ?」
「…っく、つ、強くなりたいから… 好きな人… 大事な、ひ、人…
絶対まもる… ひっく、ゔぅ〜っ…」
やがて疲れもあったのかドラはそのまま泣き寝入りしてしまった。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったドラの寝顔を見ながら、ポップは何か考え込んでいるようだった。
そのまましばしドラの寝顔を眺めていたポップだが、頭をひと撫でしてやり、アバンのところに2人分の夕飯を取りに向かった。
翌日になりアバンに連れられて島の奥地にある大きな洞窟にやってきたドラ。
「ドラさん、あなたは魔法に関してはもはや私を超えています。
教えることはないと言っても良いでしょう。
戦いとは魔法一辺倒でどうにかなるものでもありません。
これから私はあなたをある魔法で攻撃します。
あなたも杖を使って真剣勝負で斬りかかってきてください。
「あっ…!!? 先生、待って下さい! それは…」
問答無用!! いきますよ!
「待って下さい先生! ほんとにまずいんです! わっ!!?」
洞窟の中で逃げ場が限られる中、ドラはすいすいと炎を避けながら自分の失態にほぞを噛んだ。
すっかり忘れていたのだ。
自分が『人間ではない』と本能で思い知らされた記憶を頭の奥から引っ張り出す。
まだ10歳にもならない頃、
自分より格上の相手だと本能で察知した瞬間、それは起こった。
頭の奥で、カチリとスイッチが入る感覚。
そう、今みたいに、格上の ドラゴンと …
ドラゴンだ
ドラゴンだ
ドラゴンだ
倒 さ な き ゃ
ドラの瞳孔がカッと見開かれ、あたりの空気がビリッと震える。
手にした杖を後ろ手に構え
硬い皮膚で覆われた
フーッ、フーッ、と息を荒げて瞳孔を見開き
明らかに興奮状態に陥っているドラに異常を感じて
ドラの額がきらりと光る。
本能的に危険を感じて
洞窟内部が炎に包まれドラの小さな体も赤と青が入り混じった紅蓮の炎の渦に飲み込まれる
が、次の瞬間
「アバン流杖殺法!! 海破斬!!!!」
「グアアァアアァア〜ッ!!!」
ドラが放った一撃が炎を斬り裂き
徐々に火竜から人間へと変化が解けていくアバンは「イタタタ…」と斬られた鼻を抑えながら
「まさかこんなに早く課題をクリアしてしまうとは…」
と自分の予想をはるかに超えるドラの実力に底知れぬものを感じた。
「参りましたよ、ドラさん…
ドラさん?」
杖を握りしめてガタガタと震えるドラに駆け寄り両肩に手を置く。
「しっかりしてください、ドラさん。
すみませんでした、突然
「ち、ちが、違うんです…先生…
すみません、少し外の空気を吸わせてください…」
顔色悪く懇願するドラの要望に従い外へと向かおうとしたその時である。
全身を襲う振動…何事かと思う間もなくもの凄い轟音が響き大地が揺れた。
「これは…島の魔法陣が誰かに破られようとしている…!? まさか…!?」
顔色を悪くしたまま、ドラは揺れから身を守るようにアバンに抱きしめられていた。
守ろうとしてくれるアバンのぬくもりと優しさでやっと戻ってきた理性。
それが再び遠のいていきグラグラと血が湧き上がるのをドラは吐き気とともに必死に抑える。
島全体にかかっている
タイミング悪すぎる、あのクソ
と心の中で悪態を吐いた。
「レベリングはこなせたのに修行は嫌なの?」
「遠くから無音真空呪文(バギ)で首すっ飛ばせばいいからレベリングのほうが楽」
「…」
「あと楽しくないの嫌い」
「…」