ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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 閑話_ディーノ

ディーノは物心ついた時には父とラーハルトの三人で暮らしていた。

一番古い記憶は剣を持って打ち合う二人を木陰に座って眺めているというものだ。

記憶の中の自分は二人に混ざりたかったからなのか、「あう、だー」と言葉にならない声を出して必死に手を伸ばしたが真剣に打ち合っている二人はその事に気付いてはくれなかった。

やがて癇癪を起こして大泣きし始めたところでその記憶は終わってしまっている。

だからなのか、ディーノはなんとなくいつも疎外感を感じながら成長した。

 

ディーノには母親がいない。父からは自分が赤ん坊の時に亡くなったと聞かされた。

母に関する記憶は無く、幼い頃は母のことが知りたくて父であるバランに「もっとお話しして! 母さんのこと!」と無邪気にせがんだ。

しかしいつしか、普段(いかめ)しい顔をしている父が母の話をせがまれた時に困ったような顔をする事にディーノは気付く。

何だか悪いことをしている気になってしまい父を困らせまいと、いつしか母のことを聞こうとはしなくなっていた。

 

やがて大きくなるにつれて父が不在の時間が増えていった。

どうやら自分には双子の妹というものが存在しているらしい。

らしい、というのは母親と同様、ディーノには妹に関する記憶がこれっぽっちも無いからだ。

いまいちピンと来ないがその妹を探すために父はあちこちを探して回っているのだとラーハルトに説明された。

 

「僕の妹ってどんな子なの?」

 

ふと気になってある時妹について父に聞いてみた。

質問されたバランが「むぅ…」と顎に手を当て、遠くを見るような目でぽつりぽつりと話す。

 

「どんな…そうだな…

面立ちはお前の母にそっくりだった。

よく寝る子で、泣き喚いてるお前の横ですやすやと眠っていた。

…あと、よく笑う子であった。

生きていれば…

いや、生きている。必ず…!

今頃はソアラによく似て楚々とした美しい娘になっているだろう」

「ふぅん」

 

母に似ていると言われてもその母の顔を覚えていないのだ。

『妹』どころか女の子というものにすら関わりのないディーノにはまったく想像もつかなかった。

 

父と、ラーハルトと、自分。思い出の中の登場人物はいつだってこの三人。

よく言えば穏やか、悪く言えば変わり映えのしない閉じた世界で日々は過ぎていく。

バランがディーノのそばを離れている間はラーハルトが面倒を見てくれていた。

年が離れているせいか、主君(バラン)の息子である自分を守ろうという意識ゆえか、はたまたラーハルトの性格か…

あるいはその全部が合わさったからかもしれない。

とにかく『面倒を見られている』という状態でしかなく、一緒に悪戯をしたり喧嘩をしたりという事もなく12歳になるまでの年月を過ごした。

 

そうした日々が終わりを告げたのは12歳になってすぐの出来事だった。

いくつかの住居のうち、一番よく使用している家で父の帰りを待っていた。

(後からディーナに住居の説明をしたら「何ヵ所も家があるの!?」と驚かれてしまった。普通はそうではないらしいというのもディーノはその時に初めて知った)

 

「お…っ、お邪魔しまーす…!」

 

空耳だろうか? 聞きなれない女の子の声と共にギィ、と扉が開いた。

ラーハルトであればハッキリとした声で「只今戻りました」という報告と共に扉を開ける。そうでないなら父だ、そう思い戸口に向かった。

 

「おかえり! 父さん!

………そのお姉ちゃん、誰…!?」

 

そこにいたのは父ではなかった。

目を丸くしてこちらを見る髪の長い女の子。

自分よりも背が高いので年上だろうか。大きな目をさらに大きく見開いて口もあんぐりと開けてこちらを指差している。

 

「今戻ったぞ、ディーノ…!

前々から話していただろう?

…お前の双子の妹、ディーナだ…!!

ディーナ…お前の双子の兄、ディーノだ」

「僕の…妹…!!?

父さん、やっと見つかったの!?

うわあ、すごいや!!」

 

行方不明になった妹を父がどれだけ必死に探していたか、どれほど心配していたか…

多くは語らぬ父親の焦燥を敏感に感じ取っていたディーノが嬉しさから駆け寄った。

女の子…妹であるディーナはわなわなと震えながら声を絞り出す。

 

「おっ、おとっ…お父さんッ!!?

私っ…きょうだい、いたのっ…!??」

「ああ、お前たちは双子だ。

兄と妹になる」

 

その後に響いた絶叫と抱擁にディーノは固まった。

 

「~~~~だからっ!!! そういう大事な事は先に言ってよッ!!!!

 

うわあっ…!! お兄ちゃんなの!?

初めまして…じゃないっ、久しぶりお兄ちゃん!!!

私、ドラ…あっ、違ったディーナか!!

どっちの名前でも好きなほうで呼んで!! どっちの名前も好き!!

お兄ちゃん私よりちっちゃい! 可愛い!

お兄ちゃんじゃなくて弟みたい!!

会えてすっごく嬉しい!!!

わ~~~~っ!!

お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ…!!!」

 

 

そこからはもう、ディーノが生きてきた中であれほど騒がしく目まぐるしい日々は無かった。

『女の子』というものをよく知らないディーノにとって、妹のディーナは想像した範疇のはるか外、およそ理解の及ばない生き物だった。

 

泣いたかと思うと次の瞬間には笑っているし、笑っていたかと思ったら笑い過ぎてまた泣いている。

よくわからない質問ばかりしてくるし、勝てもしない腕相撲を挑んでくるし、猛スピードで空を飛び回るという意地悪までしてくる。

以前ラーハルトから「女性というのは男よりもはるかにか弱い存在だ」と聞いていたのに、バランに叱られてもケロリとしている姿を見てディーノはその言葉は嘘だと思った。

 

ただワケがわからないなりに、ディーナにはディーナの考えがあって行動しているというのが徐々にわかった。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん」

 

そう言ってディーナはよくニコニコとしながら、やたらと顔を近づけて話しかけてくる。

距離が近すぎると思って体を引きつつ「な、なんでそんなに顔を近づけるの?」と聞くと、きょとんと目を瞬かせて

 

「え、だってお兄ちゃんお母さんの顔知らないでしょ?

私の顔、お母さんにそっくりだってお父さんが言ってたよ。

ほら、もっと見ていいよ」

 

お母さん、綺麗だねぇ。と言ってニコニコと笑うディーナを、ディーノだけでなくそばで様子を見ていたバランとラーハルトもハッとして見つめた。

初めて出来た友達…ゴールデンメタルスライムのゴメちゃんもニコニコとしながらディーノの頭を撫でる。

この時、言葉にするには難しい感情がディーノの中に芽生えた。

うまくは言えないが、おそらくディーノは本当の『強さ』というものに生まれて初めて触れた気がしたのだ。

 

 

「ここにはもう戻らぬ。行くぞ」

「はっ」

 

戦いの後、全員でしばし体を休めてから家を出た。

必要なものを最小限だけまとめて父とラーハルトの後を追う。

 

『もう家に閉じこもるのはやめて、外に出ましょう。

あなたも強くならないとね…!』

 

ディーナの言葉が頭の中に響いて、ぐるぐると何度も反芻してしまう。

『強さ』とはなんだろう?

初めての戦場、初めて見る戦っている父の姿…負けじとそれに対抗したディーナ。

 

父は強い。ラーハルトも強い。ディーナも強かった。

みんな強いが、それぞれが持つ強さはなんだか全然違うように思う。

何が違うのか、今のディーノにはわからない。わからないがしかし…

 

「あのっ! 父さん!!」

 

ずっと無言だったディーノが突然発した大声に、父であるバランばかりでなくドラゴンに騎乗しようとしていた竜騎衆も揃って振り返る。

 

「僕も強くなりたい!

僕ばっかり知らないのはもう嫌だ! 置いていかれるのも!

僕…僕は…

ディーナみたいにはなれないかもしれないけど…、でも、もうこのままじゃ嫌だ!

僕も強くなりたいんだ…!!

 

お願い、僕に戦い方を教えて!!!」

 

俯いていた顔を上げてバランの目を見据えながらディーノは叫んだ。

その瞳をじっと見つめたバランは、一つため息を吐いてディーノに歩み寄る。

ディーノがビクリとたじろぐ。

いつもであれば「ごめんなさい」と謝り俯いてしまっていたが、グッと堪えて歩み寄るバランを見据え続けた。

 

「まずは基礎からだ。手加減はせぬぞ」

「…! うっ、うん!!」

 

頭に手を置きそう言ったバランに、ディーノが嬉しそうに頷いた。

その一言だけを口にした後、視線のみで行くぞと促すバランの後を走って追いかける。

 

遠い空の下、双子の妹ディーナが「勇者になる」という決意を新たにしたのと時を同じくして…

箱庭のような閉じた世界を出た双子の兄ディーノもまた、朝焼けが照らす中新しい世界へと一歩踏み出していったのだった。

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