ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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54_日本≠天界(挿絵あり)

ドラ達一行は出立した時と同じく、気球に乗ってパプニカへの帰途に着いた。

王城に着くやいなや、待ち構えていた三賢者やバダックからの説教もそこそこに有無を言わせぬ雰囲気でレオナはパプニカ国王に「国王陛下、急ぎ進言致したいことがございます」と奏上した。

『娘』としてではなく臣下たる『姫』の顔で申し出たレオナにパプニカ国王は「相分かった」と頷き、三賢者を伴いレオナと共に城中へと戻る。

残されたドラやポップ達はバダックに案内され、城の中の一室であらためて休養を取らせてもらった。

 

 

「…で、ドラの言う『もう一つの魂』ってのは何なんだよ?」

「え~とね…」

 

部屋に案内されて落ち着いたところで全員が気になっていた事をポップが切り出す。

どこから話すべきか…悩んだドラは一から説明することにした。

途中投げかけられた質問に答えながら『もう一つの魂』…呼びにくいので『お姉ちゃん』と呼ぶようにして話を進める。

要約すると、

 

・生まれた時からドラの中にいる

・ドラのことを助けてくれる、善良な存在

・『お姉ちゃん』はこの世界とは違う世界に生きた記憶を持った魂である

・『お姉ちゃん』はこの世界について…大魔王との戦いの事のあらましや顛末を知っている

・成長するにつれて一つの魂として成り立っていたが、バランから受けた精神攻撃による衝撃で分離してしまった

・時間が経てば徐々にまた一つの魂に同化していくはず

 

「…こんなところかなぁ。

お姉ちゃんがいなかったら私、まともに育ってなかったかも…

ブラスおじいちゃん、子供を育てるのは上手だけど人間の女の子の成長度合いに関する知識は全然なかったから…」

「ふへぇ…」

「なんとも…想像の及ばぬ話だな」

「この世界とは違う世界…それは、おとぎ話や神話に聞く天界か何かか? その『姉』という存在は精霊のようなものか?」

「天界…

う~ん、厳密には違うけどこの世界とは文化も文明も世界の形も全然違うからまあ似たようなものかも」

 

ドラの説明を受け、頭がパンクしそうになっているポップ。

予想を軽く超えてきた話に、眉間に皺を寄せるクロコダイン。

なんとか噛み砕いて自身の知識と照らし合わせて『天界に住まう精霊のような存在』かと問いかけるヒュンケル。

現代日本に住んでいた日本人と言っても通じないので「地上とは全然違う」という意味でドラは似たような場所だと返した。

 

「この戦いの顛末を知っていると言ったか?

なら敵さんの手の内や動向は全部丸わかりって事か?」

 

今まで静かに聞いていたマトリフがズバリと聞く。

 

「そうか! そうだよなぁッ!?

敵方のやり口が筒抜けだってんなら俺たちにとってこんな有利なこたぁねぇぜ!!

おいドラ! 今すぐ敵について知ってる事全部教えろよ!!」

「ダメ」

「はあ!? なんでだよ!!」

 

即座に拒否をしたドラにポップが詰め寄る。

 

「お姉ちゃんも全部を知ってるわけじゃないもん。

何ていうか…『物語として垣間見ていた』っていうのが近いかな…

しかもこの世界と符合していない事も多いし…実際、ポップがザボエラとハドラーの襲撃を受けた時だって教えてもらったのとは状況が全然違ったし…

下手な推測で動いたらかえって窮地になりかねないよ。

あと、

 

「敵の耳目がどこにあるかもしれない。こちらが相手の動向を先読みしてると知られて罠にかけられたりしたらそれこそ本末転倒だから話しちゃダメ」

 

ってお姉ちゃんが…」

「ぐぬぬ…」

「その時が来たらちゃんと教えてあげるから、って…

あ、でもあと一つだけ確かな事はね、大魔王バーンの目的」

「目的…? 人間を滅ぼし、地上を支配するのが奴の目的ではないのか?」

「まあ広い意味では間違ってはいないけど…

地上の支配じゃなくて殲滅、地上全ての殲滅が目的」

 

シィン…と全員が静まり返り、部屋の中の空気が一気に重くなった。

 

「…地上全ての殲滅?」

「それは…人間以外も、ということか?」

「もちろん」

「何のために…!?

そのような事をして一体奴は何を得られるというのだ…?!」

「地上を消し去って魔界を地上に押し上げたいんだって」

 

再びシィン…と静寂が部屋に満ちる。

ヒュンケルがギリギリと拳を握り締める。

クロコダインはその大きな口をギリリと噛み締め、わなわなと震えた。

ポップとマトリフは顔を青褪めさせて額から汗を垂らしドラを見つめた。

部屋の隅で話を聞いていたバダックは声にこそ出さなかったが、顔を真っ赤にして今にも「な、な、なんちゅう傍迷惑な目的じゃ!! 許せ~ん!!!」と叫び出さんばかりに憤慨している。

 

「…確かか?」

 

衝撃からいち早く復活したマトリフがドラに今の話の真偽を問うた。

 

「それを言われると弱いんだけど。証拠も出せないし…

だけどそもそも目的が地上支配にしたっておかしいでしょう?」

「おかしいとは、何がだ?」

「大魔王による魔王軍の運用方法が」

 

今度はクロコダインから出た疑問にドラが答える。

 

「地上の支配をするからかつての魔王、ハドラーを筆頭に魔王軍を結成して人間達に侵攻を仕掛ける…

ここまではいいよ。

けど、なんでそれぞれバラバラに進軍させる必要があるの?

私だったら…そうだなあ…

まずは人間側の主要国家、カール王国かベンガーナ王国を集中して叩いて拠点にするかなぁ。

で、二軍ずつタッグを組ませて徹底的に各国を撃破するの。

そうすれば自軍の被害を最小限にした上で効率的に地上支配できるでしょう?

魔王軍内部の抗争なんかその後好きにやればいいじゃない。

 

…なのになんでそうしないの?

各軍団それぞれを好きに進軍させて、撃破されてもバーンは何でなお高みの見物をしてるの?

私だったら許せない。味方を一人でも倒されたら総攻撃待ったなしだよ。

 

まるで子供が集めた虫や動物を砂場に閉じ込めて、どれが強いか(けしか)けて戦わせて遊んでるみたい。

ほんの一欠片でも仲間を大事に思う気持ちがバーンにあったら今みたいな状況になってないよ」

 

「…ふん、なるほど? まあ、筋は通るな…」

 

椅子から立ち上がったマトリフは少しよろめきながら部屋を出た。

 

「悪いが俺は休ませてもらうぜ。

…老骨には今の話、ちと重すぎる」

「師匠…」

 

ポップが肩を貸そうと駆け寄るがマトリフはひらひらと手を振って拒絶する。

バタン、と閉じられた扉の音が響き渡って部屋に残された面々も我に返ったようだった。

ふううぅ、とクロコダインが大きく息を吐く。

 

「よもや、大魔王バーンの目的がそのようなものだったとはな…」

「あらためてとんでもねぇ敵を相手にしてるんだな、俺達はよ…」

「ねー。あったま悪くて嫌になっちゃうよね。

まあ、今は深く考えてもしょうがないよ。

先のことよりもまずは目の前の事どうにかしなきゃ。

みんなの武器も防具もボロボロだし私も装備をなんとかしないと…」

 

クロコダインが纏う鎧は大きくヒビが入り破損しているしドラの外套(マント)も服も、焼け焦げてボロボロだ。

ヒュンケルの魔剣は自己修復中、未だ使用できる状態ではない。

唯一ポップだけが、あちこち破れていた服をメルルが丁寧に繕ってくれていた。

 

「おお! そうじゃ!!

レオナ姫様からドラにアレを渡すよう頼まれておったんじゃ!」

「アレ?」

 

そう言ってバダックが宝箱を持ってきた。

 

「さあ、姫からドラへのプレゼントじゃ!

今、姫様と国王陛下は何か大きな事をやろうとなさっておる…

その命を受けて三賢者が世界中を駆け回っとる。

まだ詳しい事はわからんのじゃが…

 

「ドラちゃんのそばで力になれないから…」と、せめてもの気持ちじゃと。

パプニカの特殊な布と法術で編まれた服じゃよ!

下手な鎧や防具よりも丈夫じゃぞ!!」

「わあ! レオナから!?

嬉しい~!! 可愛…い…」

 

(か、わいい…けどスカートじゃない…可愛いけど。

ショートパンツかぁ…

スカートじゃないのか…可愛いけど)

 

レオナからのプレゼントは嬉しいし宝箱を開けて広げて見た服は可愛かったが若干納得がいかないドラ。

ほんのちょっぴり下唇を噛んで心の中で「あとで手持ちのアクセサリーと合わせよう」と考えていると、ふいにヒュンケルが話しかけてきた。

 

「そうだ、ドラ。これを…

頼まれていた鬼岩城の位置を示した地図だ。

おおよその場所しかわからなかったが…」

「…え、結構詳細に位置示してある!?

うそ、思ったより範囲絞れてるね!?」

「…これもお前の中の『精霊』の導きか?」

「そうそう。これがあると先々きっと助かるんだ。

ヒュンケルえらい! お疲れさま!

特別に褒めてしんぜよう」

 

そう言って遠慮なしにヒュンケルの頭を撫でくりまわすドラ。

それをヒュンケルは嫌がるでも振り払うでもなく黙って受け入れている。

しばらく続けているとポップがドラの手を引いて小声で「おい!」と耳打ちをしてきた。

 

「なに? ポップ」

「ちょっとお前に聞きたい事あんだよ…

他の奴には聞かれたくないからこっち来てくれ…!」

「ととっ…待ってよ~。まだ服着替えてない~」

 

あ~…という声をあげながらポップに強引に手を引かれ、ドラは部屋の外へと出ていった。

固まったままのヒュンケルにクロコダインが声をかける。

 

「…ヒュンケル? どうかしたか?」

「…父とアバン以外から初めて頭を撫でられた…

少し…いや、かなり驚い…なんでもない、忘れてくれ」

 

懐かしさとともに恥ずかしさが込み上げてきたのか、目を見開いて固まっていたヒュンケルの顔が徐々に赤く染まっていく。

クロコダインとバダックはそれを生温かい眼差しで見つめたのであった。

 

 

「…で、なあに? 聞きたいことって…」

「お前、とどのつまり未来が見えるって事だよな?!」

「え? う~ん…

まあ、そうなる…かなあ?」

「マァムとヒュンケルはくっつくのか!? どうなんだ!?

ええおい!!?」

 

目を血走らせながら詰め寄るポップにドラがニタァ~と笑いながら質問を返した。

 

「気になるぅ? 知りたい? 二人のこれからのカ・ン・ケ・イ」

「もったいぶらずに教えろよ!!!」

「買い物付き合ってくれて奢ってくれたら話してあげ…」

「よし行くぞ!! もたもたすんな!!!」

 

 

 

「っぷはぁ~、あ~、生き返るぅ…!!

あ、ポップありがとう~♪

おかげで良い買い物出来たよ~」

「…てめぇ、覚えてろよドラ…

なんでよりにもよって下着専門店なんだよ…!!」

「だって、ガーターベルト欲しかったんだもん」

 

買い物を終えて喫茶店で休憩をするドラとポップ。

ドラが行きたいと強請ったのはよりにもよって、思春期の青少年には刺激が強すぎるお店…女性の下着専門店だったのだ。

看板を見ただけで鼻血を出しそうなポップの手を引いてずかずかと入店したドラはあれも可愛い、これも素敵、といちいち手に取ってポップに意見を求めた。

意見を求められたところで、店にいるだけでいたたまれない気持ちだというのに何をどう言えというのか…

結局、辟易して憔悴しきったポップを余所にドラは先ほど貰った装備に合う色のガーターベルトと気に入った下着を数点買って会計だけポップに任せた。

赤面して硬直してしまったポップを引きずって店を出て(お店の女性店員さんはその様子を見てくすくすと微笑ましげに笑っていた)、適当な喫茶店で冷たい飲み物を注文して今に至るわけである。

 

「…で、マァムとヒュンケルについてだっけ?」

「お、おう…」

「こほん、二人はねぇ…」

「ごくり…」

「戦いが終わった後、想いが通じ合って恋人に…」

「げほぉっ!!」

「で、そのまま順調に結婚…」

「がはぁっ…!!」

「結婚式でポップは友人代表としてスピーチを…」

「ぐっふぅ…」

「あれ? ポップ? お~い」

 

…。

へんじがない。

ただの しかばねの ようだ。

 

「っていう未来も無きにしもあらず…」

「…!?

てめぇ!! 俺を弄んで楽しいか、おい!!?」

「あっはっはっは…!!」

 

ひぃひぃとお腹を捩らせて笑うドラにポップが額に青筋を立ててがなりたてる。

ひとしきり笑ったドラはジュースを一口飲んだあと、「ふぅ」と一息ついてポップに向き合った。

 

「言ったでしょ? 『物語を垣間見ている』ようなものだって…

私が知っているのなんてほんの一部分、知らないことのほうが多いよ。

ポップとマァムとヒュンケルの未来も未確定。

もしかしたら今言ったみたいな未来もあるかもしれないけど…

でもポップ、今言った未来が本当だったとしたらどうするつもりだったの?

マァムの事、好きなのやめる?」

「は?! やめる…!?」

「ヒュンケルとマァムは将来結婚するのか。

じゃあ、マァムを好きなのや~めた…って、出来るの?」

「いや、俺は…そんな軽々しい気持ちじゃ…」

「でしょ? 聞くだけ無駄無駄。

そんなの気にするよりさ、アタックする方法考えたほうが良いって!」

「………。

俺、自分が情けねぇわ…」

 

己の浅はかさをしみじみと感じたのか、ポップはテーブルに顔を突っ伏して項垂れてしまった。

そんなポップを眺めながらジュースを飲みつつ、ドラが声援(エール)を贈る。

 

「頑張れ頑張れ♡ 振られたら盛大に失恋パーティー開いてあげる♡」

「…うるせぇ。振られるの前提で話進めんな…」

 

んふふふふ…と、恋に焦がれる少女は恋に身をやつす少年を楽しそうに眺めるのであった。

 

 

 




ドラの衣装イメージ
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