(ドラだけが一方的に)楽しい買い物を終えて王城に戻るとパプニカ三賢者の一人、エイミが二人を出迎えた。
「おかえりなさい、ドラちゃん、ポップ君。それにゴメちゃん…だったかしら?
ロモスの国王陛下からドラちゃん宛の親書を預かっているわ」
「ありがとうございます、エイミさん」
今、パプニカ国王とレオナは各国の国王を招集するための準備に奔走している。
三賢者も同じく各国を飛び回り来るべき日のため、準備に奔走していた。
ロモス国王への取り次ぎを任されていたエイミは謁見した際にドラへの親書を託されたとのことだった。
はて、原作にはロモス国王から親書を受け取るシーンなど無かったはずだが…?
不思議に思いつつドラは渡された親書の封を切り、巻かれた羊皮紙を広げた。
ロモス王家の紋章が金色の箔で刻まれている、見るからに高級そうな羊皮紙をポップとゴメちゃんも一緒になって覗き込む。
「え〜と、なになに…?」
『拝啓、勇者ドラ殿。
日々の魔王軍との戦い、強大なる敵を次々と退ける其方の勇猛果敢なる働き実に見事である。
遠き地においても何ら褪せる事なく届く其方の活躍を見習い、此度我が国でも魔王軍に対抗し得る猛者を集うべく武術大会を開催する運びと相成った。
ひいては勇壮にして可憐なる勇者殿の姿を会場に集まった国民にも…』
…長ったらしい文章を要約すると、
『今度武術大会開くから、盛り上げ役として顔見せて!
魔法でなんか派手なパフォーマンスして会場沸かせて!
よろしくね、勇者殿!』
という事らしい。
心の中で「おお、渡りに船」とドラは
この武術大会にはマァムも参加している。それと妖魔士団軍団長ザボエラの息子…妖魔学士ザムザも暗躍している。
特にザムザはハドラーの超魔生物への変化の鍵を握る重要人物だ。
原作ではダイ君が『覇者の剣』を入手するために武術大会へと向かうが、ドラには『覇者の剣』は無用の長物だ。
そもそもこの大会で褒賞として与えられる『覇者の剣』はザムザが用意した偽物である。
武術大会に向かう理由が無いので、さてどうしたものかと思案していたのだが…
みんなにも存在を告げたことだし「お姉ちゃんが行けって言った」と強引に大会に乱入でもしようかと思っていたところだ。
懸念が一つ減って、一緒に親書を読んでいたポップにドラは溌剌と笑いかける。
「よし! ロモスの武術大会に行こう!」
「ピィ!」
「え〜…、呼ばれてんの勇者のお前だけだろぉ?
俺まで一緒に行く必要ねぇじゃんか…
ドラとゴメだけで行ってこいよ。むさ苦しい男どもが戦う姿なんか、俺ぁ興味ないね」
「会場にマァムいるけど」
「よし行くぞ!! もたもたすんな!!!」
あまりにも見事な掌返しにドラの腹筋が崩壊した。
城の一室に控えていたクロコダインとヒュンケルにもポップと一緒にロモスに出かける旨を伝える。
クロコダインは破損した鎧の修復についてバダックと相談中、ヒュンケルは魔剣が自己修復を完了するまでパプニカの近郊で己を見直すための修行をしようと出発するところであった。
しかし出発しようとしたヒュンケルをドラが引き止める。
「ダメ、ヒュンケルはしっかり休んでて。
休みながらでも自分を見つめ直すのは出来るでしょう?」
「しかし、俺は戦う事でしか…」
「だから! 戦いに備えてしっかり休めってお姉ちゃんが言ってるの!!
近々凄い戦いが起こりそうだから!!!
あ、あと手持ち無沙汰だっていうなら『アバンの書』、書き写しておいてよ!
これも今後の戦いで必要になるから!
お姉ちゃんがそう言ってるから!」
「むぅ…」
今後の戦いに備えて、と言われてはヒュンケルも否とは言えなかった。
しかも『天界の精霊』(ヒュンケルの中では『お姉ちゃん』は何か高位な存在と捉えられているらしい)の導きとあっては断れない。
仕方なく手にした魔剣を置き直し、『アバンの書』を手に取り机へと向かった。
(おお、「お姉ちゃんがそう言った」はヒュンケルに使える…!)
俺様でマイペース、口下手で自己完結しがちな兄弟子の扱い方をドラは一つ学んだ。
そんなやり取りをした後、パプニカを出発したドラとポップは共にロモス王国にある武術大会会場へとやってきた。
「おい! マァムはどこにいるんだよ!?」
「え〜とねぇ、確か…」
意中の人との久々の再会を前に、早る気持ちを抑えられない様子のポップ。
会場である闘技場の通路を歩きながらドラが記憶の中からマァムと再会する場面を引っ張り出す。
その時、試合会場から
「さあ! 次なる一戦は今大会注目のカード!!
翻る拳法着も華麗! 蝶のように舞い蜂のように刺す!
今大会の紅一点、武闘家マァム選手です!!
みなさま、大きな拍手を〜!!」
「わっ、ちょうど今から対戦だって!」
「急げドラ!! ゴメ!!」
「ポップ待ってよ〜!!」
「ピイィ〜!」
はじかれたように駆け出したポップの後を追うドラとゴメちゃん。
観覧席に続く通路ではなく、舞台のある場所に出られる通路を探し走り抜ける。
目的の通路を見つけて会場へ出るともう試合は始まっていた。
「わっ、わっ、マァム格好いい!!」
「ふお…」
躑躅色の拳法着も鮮やかに自分よりも倍近い体格の大男に反撃する隙を与えず次々と拳をお見舞いしていく。
打ち据えられて激昂した対戦相手が反撃を試みるがマァムはそれを難なく躱す。
躱した瞬間の速度を殺す事なく、ひらりと身を翻し振り返りざまに攻撃を躱されてガラ空きになった対戦相手の顔に鋭い蹴りを叩き込んだ。
顔面に強烈な蹴りを入れられふらつく大男に、トドメとばかりに繰り出した正拳突きが腹部に深くめり込む。
どれだけの威力の正拳突きなのかが、宙に浮かんだ大男の体が如実に表していた。大男はそのまま舞台の外へと大きく弧を描いて落ちていく。
女の細腕から繰り出された信じられない威力の攻撃に会場のボルテージが最高潮に達した。
「3分15秒!!
武闘家マァム選手のKO勝ちですっ!!」
ワアアアア…
「マァム〜〜〜!!」
「ピイィィ〜〜〜!!」
「ドラ! ポップ! ゴメちゃん!」
ドラの顔を見たマァムは喜色満面の笑みを浮かべてひらりと舞台上から舞い降りた。
ぎゅうっとドラを抱きしめ再開の喜びを露わにする。
「むぎゅぅ…ぷはっ、マァム久しぶり!
凄い格好良かったよ〜!!」
「ふふっ、ありがとうドラ!
驚いたわ、こんなところで会うなんて…!」
抱きしめられ、豊満な胸に埋もれたドラが水面に顔を出すかのように息を吸い込みマァムに試合の感想を述べた。
武術大会に出場することを告げていなかったマァムはよもやこんな場所で再会を果たせるとは夢にも思わず、修行によって磨かれた腕力でぎゅうぎゅうとドラを抱きしめる。
その様子を見ていたポップは抱きしめられているドラを少し妬ましそうに睨みつけながらも、努めて明るくマァムに声をかけようとした。
しかし声をかける寸前、足元にサッと小さな影が通り過ぎたかと思うとその小さな影はドラの前に跪いた。
「よお、マァム久しぶ…」
「初めまして、お嬢さん…
マァムさんのお友達ですか?
ぼくはマァムさんの兄弟弟子のチウ。
以後よろしく…!」
「あん?! なんだこの野郎…って大ねずみ!!?」
「か、可愛い〜〜〜っ!!!」
小さな影の正体は拳聖ブロキーナに拳法を習い言葉を喋れるようになった大ねずみ…
マァムの兄弟弟子、空手ねずみのチウであった。
抱擁を終えたマァムがチウを紹介する。
「みんな、紹介するわ。
私と一緒に武術の神と呼ばれる拳聖ブロキーナ様に拳法を習った、空手ねずみのチウよ!!
チウ、以前私の仲間について話したでしょう?
ドラとポップ、それとゴメちゃんよ!」
「このお嬢さんがマァムさんが話していた勇者ドラ…!
なるほど、噂どおり将来有望そうなお嬢さんだ。
君、大きくなったらこのぼくのお嫁さん候補にしてあげよう」
「あはははっ! 可愛い〜〜〜!!
お花くれるの? 嬉しいありがとうっ!」
チウが懐から差し出した小さな造花をドラがきゃらきゃらと笑いながら受け取る。
今まで喋る
(ブラス老とか、クロコダインとか、ボラホーンとか、ガルダンディーとか…)
喋るねずみなんて前世の記憶にある某巨大テーマパークのマスコットを彷彿とさせる。
ドラの中でチウは完全に可愛さ担当のマスコット扱いになった。
「こんの野郎! 何いきなりナメた真似してんだ!!」
「んん…? なんだね君は…
ああ、マァムさんとドラさんの追っかけか何かかね? それか召使いか…
困るよ、ちゃんと弁えてくれないと…
ぼくは将来この二人のお婿さんになるかもしれんのだから」
「何ふざけたこと抜かしてやがる、こんにゃろう…!!」
「続く対戦は
両者舞台へ!!!」
「まあ、ゆっくりとぼくの強さを観ていってくれたまえ!
どうしてもっていうなら仲間になってあげてもいいよ。
マァムさ〜ん、ドラさ〜ん!! 軽〜くやっつけてきますからね〜ッ!!」
「チウちゃん、頑張ってね!」
会場に鳴り響く選手入場のアナウンスに呼ばれたチウは舞台に向かってのしのしと力強く歩き出す。
ドラがひらひらと手を振って応援した。
「なんなんだよあいつは…」
「フフッ…ごめんね。
でもあれで結構いいところもあるのよ。
元々悪い
ブロキーナ老師の修行とチウ自身の努力の甲斐もあって、魔王の邪悪な意志も跳ね返せるほどの強い心を持ち人間の言葉も話せるようになったのよ」
「ムチャクチャな人だなあ…その先生…」
「ところでドラ達はなんでここに?」
マァムからの疑問にドラがロモス国王から貰った親書を取り出して説明する。
「王様からお呼びがかかったの。
なんか派手なパフォーマンスしてほしいんだって」
「なるほどね…私もなんとなく噂は聞いていたけど…
なんでもベンガーナを襲おうとしていたヒドラを凄まじい魔法でやっつけたらしいじゃない?
凄い活躍したのね、ドラ…!」
「えへへ…」
「おい、それだけじゃねえだろ…肝心なとこもちゃんと話せ。
こいつ、敵の軍団長に一人でほいほい付いていった挙句テランで実の父親ととんでもねえ大喧嘩して血ぃ流しすぎてブっ倒れやがったんだぜ」
「わっ、バカっ、ポップ! しぃ〜〜〜!!」
ドラがポップの口を抑えるが時既に遅し…
振り返ると腕を組んだマァムがドラを睨みつけていた。
「…それ、どういうこと!?」
「ピ…!!」
「ピィィ〜!」
マァムのあまりの迫力にゴメちゃんを盾にして顔を隠すドラ。
しかしあっさりとゴメちゃんを取り上げられそのまま尋問タイムとなってしまった。
「そうだったのねドラ…お父さんを止めようと…
私に何か出来ることがあったら言ってちょうだい。
喜んで力になるわ…!!」
「むぎゅぅ…マ、マァム苦しい…!」
実の父である超竜軍団長バランとの関係や
説明が一通り終わるや否や力強く抱きしめられて豊満な胸で圧死しそうになるドラ。
冗談抜きに苦しいので視線でポップとゴメちゃんに助けを求めたが、ドラの身勝手に振り回されたポップ達は「少しは反省しろ」とでも言いたげな目でそれを無視した。
なんとか屈強なマァムの腕から抜け出して呼吸を整えたドラはさらにこの武術大会に来た理由を説明する。
「ぷはぁッ…でね、この大会に『覇者の剣』とは別に私の欲しいものがあってね…
それを手に入れるためにこれから王様に会いに行ってくるね。
マァムはこのまま大会に専念して!」
頑張ってね、応援してる!と言うドラにマァムは笑って頷いた。
三人が手に手を重ね打倒魔王軍の誓いも新たにしている裏でチウの試合は終わってしまっていた。
結果は当然、チウの惨敗…
格好いいところを見てもらいたかったチウにとってはむしろ好都合だったかもしれない。
負けたあと泣きじゃくるチウを慰めるドラとマァムに、「やっぱりこいつは気にくわねえ…!」とポップがヤキモチを妬いたりしつつも武術大会は滞りなく進んでいったのである。
「勇者殿に親書を宛てたのじゃが…ドラは会場に来ておるのか?」
「はい、陛下。勇者殿から「仲間に挨拶をした後で伺います」と言伝を預かっております」
ロモス王からの質問に国王専用の観覧席で警護にあたる兵士が答える。
それを聞いたロモス王は満足そうに頷くと近くに控える長身の青年に話しかけた。
「仲間…おお、そういえばマァムも参加しとるんじゃったか!
うむうむ、盛り上がりそうじゃのぉ…!
のう、ザムザ殿!?」
「はい、王様…」
長身の青年…人間に擬態した妖魔士団長ザボエラが一子、妖魔学士ザムザが国王に向かってニヤリとした笑みを浮かべ返事をした。
原作ダイ君
父バランに勝って人間の素晴らしさを知っている自分の実力を認めさせたい。
(人間を殺すなんて間違っているということを痛感させたい。父親の言葉を額面通りに受け取って反発心が凄まじい事に)
ドラ
苦しんでいるバランを解放してデルムリン島で穏やかに暮らしてほしい。父の凶行を止めるためなら命懸けで戦う。
(別に人間殺してもバランが幸せならオールOK。幸せそうじゃないから止める。それだけ)
問題に対するアプローチと受け取り方と考え方が真逆の双子。