初めて開かれたロモス武術大会は魔王軍(ザムザ)の謀略によって、残念ながら優勝者を出すことなく途中終了…
優勝賞品である『覇者の剣』もザムザによってすり替えられた偽物であるとロモス王に伝えたところ、国宝を敵に奪われたと知った国王は魔王軍への激しい怒りを露わにした。
大会終了後、ドラ達一行としばしの休息により麻痺から回復した選手達…それにチウは武術大会会場を後にしロモスの王城の一室へと集められていた。
優勝の栄誉も得られず優勝賞品である『覇者の剣』も得られなかったベスト8に残った選手達はさぞや落ち込んでいるかと思ったが、彼らの表情は明るい。
聞けば今回の一件はザムザが敵であることを見抜けなかった国側の不祥事でもあるので、戦士である彼らをロモス王国で召し抱える事になったのだとか。
兵士ではなく、あくまで一時契約で雇われたいわゆる傭兵という扱いになるらしいのだが『国に召し抱えられる』というのはこの世界において大変な名誉であり一族どころか村ぐるみで自慢になるという。
一人だけ、バロリアさんは元々ロモス王国に仕える騎士なので今回のお詫びとして国王から謝罪金を呈示されたが辞退したらしい。
曰く、
「騎士でありながら会場にいた国王陛下のもとへ駆けつける事が出来ず、それどころか敵の罠に嵌まったのは紛れもない失態…
まだまだ腕を磨かねば」
と言っていた。
か、かっこいい…!
しばし話し込んでいたら部屋に兵士を伴ったロモス王が入室してきた。
皆一斉に頭を下げようとするが、ロモス王は「そのまま楽にせよ」と言ってそれを遮り壁に架けられた大きな世界地図の前に立つとこれからの計画を話し始める。
「皆に伝えたい事がある。
近く
「「「
聞きなれない言葉にあちこちから声が上がる。
驚く面々に向かって、深く頷いたロモス王は話を続けた。
「そうじゃ、パプニカの姫君による発案でな…
世界中の王や最高指導者達が一堂に会して魔王軍と戦うために立ち上がる時がやってきたのじゃっ!!」
「レオナが…!」
「うむ! 今まで各国の王達はそれぞれの都合ばかりを考えなかなか話し合いの場を持とうとしなかった。
そこを魔王軍につけ込まれた…
そのため七つあった王国のうちオーザム、リンガイア、カールの三つの王国はすでに完全に滅ぼされてしまった…
だが!! 魔王軍の襲撃から逃れ復興のために立ち上がったパプニカの国王と次期指導者であるレオナ姫の声により、残る国の王達はその力を合わせて知恵を集めて魔王軍に立ち向かう事を決意したんじゃよ!!」
「…すごいわ!!」
「…さすが一国の主…スケールがでけぇや!!」
「んっふふ…!」
原作ではパプニカ国王が行方不明となったことでレオナは指導者として立ち回らざるを得なかったが、パプニカ国王がいながらもレオナは次期指導者としての役目を立派に果たしていた。
ロモス王の言葉を受けてレオナの壮大なスケールの活躍に感心するマァムとポップ。
褒められているのはレオナなのだが、なぜかドヤ顔で自慢げに胸を張るドラ。
「
「魔王軍に漏れぬよう秘密にしていたが、もうよかろう。
5日後にパプニカにある『パプニカ大礼拝堂』で行われる手筈となっておる。
このワシも明日の夜、密かにパプニカに向けて出航するつもりじゃ…
ドラよ、お前達も一緒に来るかね?」
「いいえ、国王陛下。
パプニカに集結しつつある各国の指導者方にお聞きしたいことがあります。
失礼ながら、明日には
「むぅ…ドラ達が一緒ならば心強かったのじゃが…
そういう事ならば仕方あるまい…相分かった! パプニカで会おう!!」
「「「はいっ!!」」」
一足先に帰るというドラにロモス王は朗らかに再会を約束する。
ドラだけではなく、ポップとマァムもロモス王の再会の約束に揃って明るく返事をした。
ロモス王との会話が終わったタイミングを見計らって、部屋にいた選手の一人…優勝候補と目されていた戦士のラーバがドラに話しかけてきた。
「…やあ、お嬢さん。
今回の事は本当にありがとう!!
君と、武闘家のマァムがいなかったら俺達は全員やられてた…
さすがは真の勇者達だ…!!」
「いいえ、そんな…
皆さんがご無事で良かったです」
ラーバに続き、我も我もと選手達が話しかけてくる。
「上には上がいるっていうことを思い知ったよ!」
「我々も修行を重ね、来たる魔王軍との決戦には必ずお役に立ちます!!」
次々と話しかけてくる選手達ににこやかに対応しつつ、ドラは「おや?」と思い部屋を見回した。
部屋のすみっこに薄鼠色の丸い毛玉…もといチウが膝を抱えて蹲っていた。
ドラはそっと近づいて顔を膝に埋めて丸くなっているチウの隣にしゃがみ込む。
「…チウちゃん?」
「…」
「…ごめんね? 怖かったでしょう?
ポップから聞いたよ…私を見て怯えてたって…」
「…」
「チウちゃん、これからも修行続けるんだよね?」
「…」
「チウちゃんが怖がるなら話しかけるの、これで最後にするね。
チウちゃんが強くなれるよう、これからも応援してる。
それだけ伝えたかったんだ」
「…」
「…怖がらせて本当にごめん、もう行くから」
「…ぼくは」
ドラが立ち上がりかけた時、顔を膝に埋めたままチウが喋った。
「…ぼく、ぼくは、なんにも出来ませんでした。
震えるばっかりで、すごく格好悪くてみっともなかった…
こんなんじゃ…みんなから馬鹿にされる。
………嫌われるっ…!」
立ち上がりかけたドラは、小さく息を吐いてまた座り直した。
「チウちゃんは何で格好よくなりたいの?」
「…格好いい人間は、みんなから好きになってもらってました。
女の子からキャーキャー言われて…男どもからは褒められて…
僕も、好きになってもらいたくって…褒められたくって…!
だから、修行頑張ったのにっ…!!
うう゛~~~…」
堪えきれなくなったチウはべそべそと泣き出してしまった。
いつの間にか部屋の中はシンと静まりかえり、全員がドラとチウのやりとりを見守っている。
ドラはチウの頭を撫でながらそっと話しかけた。
「ねぇ、チウちゃん?
人間の言う『格好いい人』って、どんな人だと思う?」
「ぐすっ…、どんな…?」
チウが顔を上げてドラを見る。
首を傾げながら頭の中でドラの言葉を繰り返すが、言っている意味がよくわからない。
『格好いい』は『格好いい』だ。大ねずみと人間では『格好いい』は何か違うのだろうか…
少し待ったが質問に対する答えが皆目わからないらしいチウにドラが自分の考えを話す。
「人がね、誰かを格好いいなって思うのはね、『きっと自分よりも頑張ったんだな』って感じるからだよ。
失敗しても、みっともなくても、その人はずっと頑張り続けたんだろうな、って思う気持ちが『すごい』『格好いい』って言葉になってるんだと思うよ?」
「…失敗しても、みっともなくても…」
「女の子が好きになるのは格好いい人じゃないよ。
女の子が好きになるのはね、ひたむきに頑張る人。
失敗してもみっともなくても頑張り続けてる人を『格好いい』って言って好きになるんだよ。
男の人が褒めるのは多分『自分には出来ないことを出来る人』なんじゃないかなぁ…?
自分には扱えない武器をうまく扱えたり、自分には倒せない強い魔物をやっつけたり…
私、女の子だし男の人の気持ちはわからないから想像だけど。
だからね、チウちゃんがこれからも頑張り続ける限り『格好悪くて嫌われる』なんてこと無いと思うよ?」
そう言ってドラが小さな花をチウの耳元に飾る。
それは初めてチウに会った時に「大きくなったらお嫁さん候補にしてあげよう」と言って差し出された小さな造花だった。
「チウちゃんがさ、胸を張って「自分は格好いい!」って言えるようになったらまた私の事、お嫁さん候補にしてよ。
その時になったらまたお花を贈って?」
ね?と微笑んでドラはチウの額に口づけを落とす。
チウの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「そうだぜネズ公! 元気だしな!!
ここにいる全員、最初から強くて格好いい奴なんていねぇよ!!」
「そうそう…!
僕なんて、最初は鞭を振るうたびに顔面に返ってきてたよ!」
「俺も、矢が的に当たらず何度挫けそうになったことか…」
「
「み、みんなっ…」
「いい勉強になったな、チウよ…」
泣き続けるチウの前に一人の老人が歩み出る。
白い布で姿を覆った謎の選手ゴースト君…否、白い布を脱ぎ去り正体を明かした拳聖ブロキーナがチウに語りかけた。
「ろっ、老師…!?
ははーーーっ!!」
条件反射で慌てて平伏するチウ。
柔らかい表情でドラとチウを見つめていたマァムも正体を明かしたブロキーナを前に表情を引き締めチウの隣に膝をつき礼をとった。
「チウ、わしに拾われてから3年…ちい~っともお前が上達しなかったのは変に格好ばかりつけとったからじゃ。
人間の格好いいところにばっかり憧れとったからのぉ…
じゃが、みんなの言うとおり最初から格好いい人間など一人もいない。
ここにいる誰もがそうなのだ。
自分の限界の壁に真正面から衝突した者のみが成長できる…
これからじゃよ、チウ。
お前が強くなれるかも、格好よくなれるかも、まだまだこれからじゃ!」
「うううっ…
老師~~~っ!!!」
大声を上げて泣きつくチウの頭をブロキーナが優しく撫でる。
師弟のその姿を部屋にいる者は戦士だけでなく、ポップやフォブスターら魔法使い、お城に仕える兵士や国王に至るまでが優しく見つめた。
強くなりたいと思う理由は人それぞれ…自分の力を試したいから、大切な人を守りたいから、地位が欲しい、人から褒められたい、お金が欲しい…
女の子にモテたいというのも立派な理由の一つだろう。
この場にいる全員、辿ってきた道は違えど立ちはだかった壁は同じだ。
見覚えのある壁にぶち当たり、今まさに乗り越えようとしている小さな戦士を見る皆の眼差しはとても暖かいものだった。
翌朝、王城前で見送りに来てくれた選手達に別れを告げてドラ達はパプニカに向けて出発した。
「で? 王様の申し出断ってパプニカに戻って何する気だよ?」
「今パプニカに各国の王様達が集まってるでしょ?
『覇者の剣』クラスとはいかなくても、私の魔力に耐えられる杖かロッドについて誰か知らないかなぁって…
全力で魔力を流したら壊れるようなロッド、いつまでも使ってるわけにもいかないし」
「お前の『姉貴』はなんか知らねぇのかよ?」
「う~ん…心当たりはあるんだけど…」
「『姉貴』? いったい誰のこと?」
「あ! そっか、マァムにはまだ話してなかったっけ。
えっとねぇ…」
しばらく歩きながらあれこれ話していると後ろから元気な声が響いてきた。
「お~~~い!! 待ちたまえっ!!!」
「…チウ!?」
「チウちゃん!」
追いかけてきたのは旅支度を整えたチウだった。
一行に追いついたチウは胸を張ってドラ達へと旅の同行を申し出た。
「フフフッ、君達魔王軍と戦っているのだろう!?
ぼくはこれから武者修行の旅に出ることにしたんだ!
君達がど~してもというなら、ぼくの武者修行の旅に同行させてあげようっ!!
まあ、武者修行のついでだ…
君達に力を貸してあげるために一緒にパプニカに行ってあげてもいいんだが…」
チラッ、チラッ…とドラ達からの「お願いします」という返事を今か今かと待ち構えるチウ。
ドラ達についていく…ではなく、あくまで自分の旅に同行させてあげるという何とも可愛らしい上から目線での申し出にドラが破顔した。
「わあっ、本当にいいの!?
チウちゃ…」
「
「あっ!??
そ…そんなっ!! 待って!!!
待ってよおぉ~~~っ!!!」
ドラが承諾しようとした時、ポップがドラとマァムの肩を掴んで
置いてけぼりをくらったチウは涙目になってポップ達が飛んでいった方角に慌てて走り出す。
ドラとマァムは幼な子に意地悪をした少年を叱るような眼差しでポップを睨みつけた。
「「…ポップ!」」
「へへっ、みんなから言われたことがちっとも身になってねぇみたいだったからさ…
ちょっとからかっただけだって!」
「…会ったばっかりの頃のポップよりはよっぽど格好いいと思うけど?」
「ピィ~」
「う゛っ…!? ドラ…お前、痛いとこ突くな…??!」
ドラとマァムとゴメちゃんが顔を見合わせて「ねぇ~?」と頷き合う。
たじたじとしてしまったポップを見て、ドラとマァムはプッ…と吹き出した。
「待って~~~っ!!
待ってよぉ~っ!!!
ぼくも仲間に入れてくれえぇ~~~っ!!!」
ついには泣き出してしまったチウを迎えに行って、ドラ達は新しい仲間を伴いパプニカへの帰途についたのだった。
王様「…オーザム、リンガイア、カールの三つの王国はすでに完全に滅ぼされて…」
(ごめんなさい、滅ぼされた国のうち二つは私の父がやりました…)
すました顔して聞いていたけどだいぶ気まずかった。