「落ち着いたか?」
「はい、すみません…」
ロン・ベルクに実力の程を知ってもらうため、ドラが放った魔力圧で気絶したチウとメルルが目を覚ました。
呼吸困難で危うく意識を失いそうになっていたポップやマァム達も落ち着き、あらためてロン・ベルクと武器作りについて話を進める。
ちなみにドラの頭部にはポップが手加減なしでお見舞いしたチョップによるたんこぶが出来ていた。
「…で、真魔剛竜剣にも匹敵する地上最強の杖を作るにあたり必要な材料についてだが…」
「あ、はい! オリハルコンなら当てが…」
「ん? オリハルコン?」
「え?」
「ん?」
オリハルコン、必要じゃないの?と首を傾げるドラ。
ロン・ベルクも何故オリハルコンが出てきた?と、ドラにつられて不思議そうに首を傾げた。
「まあ、オリハルコンがあれば一層良い杖が出来るのは確かだが…
杖に真実必要なのは『魔石』だ。
杖の出来の良し悪しはその核となる『魔石』にかかっている。
そこらで売っている杖に使われているのは水晶や硝子なんかに単純に魔力を詰めた人工物だが…
良い『魔石』ってのは硬度の高い宝石なんかが、長い年月をかけて魔力を溜め込んで結晶化したものだ。
間違っても人の手によって作られたものじゃ良い杖の核としては不十分だ。
話は『魔石』を見つけてきてからだな」
「ええ~~~っ…!!?」
「…あいにく俺は錬金術師じゃないんでね。
材料が無きゃ杖は作れんよ」
材料が手に入ったらまた出直してきな。
残念な顔をするチウにそう言い放つと、ロン・ベルクは今やれることは無いとばかりに再び酒をあおり始める。
ロン・ベルクの言葉は至極当然な話なのだが、オリハルコンの事しか頭に無かったドラはあまりにも予想外な話に床に手をついて項垂れてしまった。
ポップやマァムが長い髪を地面に垂らして落胆するドラを心配げに見つめる。
「…お〜い、大丈夫かぁ?」
「ドラ、そう落ち込まないで…
オリハルコンについては当てがあるんでしょう?
あとは『魔石』さえ見つかればいいんだし、オリハルコンがあるんだもの。
きっと『魔石』だって見つかるわよ!」
「うん…」
二人の励ましにふらふらとよろめきながらドラが立ち上がる。
(考えてみれば杖と剣じゃ用途が違うんだから当然だった…
大魔王バーンの『光魔の杖』だってオリハルコンじゃないし、確かに大きい『魔石』付いてたもんね…
な、納得…!
そして迂闊…! 私のバカ…!!)
「…ひとまず、パプニカに戻ろうか。
オリハルコンについてはロモスの王様が持ってるはずだから相談してみて…
魔石についても、各国の王様が集まってるから聞けば何か知ってる人もいるかもしれないし…」
「ああ、そうしようぜ」
「そうね、それが良いと思うわ」
「ピイィ」
パプニカに一旦戻ろうというドラの意見に全員が同意し、出発しようとした矢先にメルルがおずおずと口を開いた。
「あの…ドラさん…」
「ん? なあに? メルルちゃん」
「魔石についてですが…私、ちょっと思ったことが…」
「えっ、何??!
…あ! もしかして何か視えた!?
魔石の位置を感じたりとか!??」
「あ…いえ、そうではないんですが…」
「なになに!? なんでもいいから言ってみて!!」
もじもじと歯切れ悪く話すメルルにドラが食い気味で詰め寄る。
少し間を置いて話し始めたメルルの提案に、ドラは目を丸くして驚いた。
「あの、テランの王城にある竜水晶様に聞いてみるのはどうでしょうか…?
竜水晶様は今、おばあさまが管理を任されているんです。
古代からの叡智を引き継ぐ竜水晶様なら何かご存知かも…」
「へ…? 竜水晶…湖の底じゃなくてテラン城にあるの…!?」
というか壊れていなかったのか、とまず竜水晶が無事だった事にドラは驚いた。
てっきりバランと一悶着あった時に神殿と一緒に破壊されたと思っていたのだ。
「はい。ドラさんがいなくなった後、クロコダインさんが運んでくださったんです。
ドラさんを見つけ出せたのも竜水晶様のお力ですし…
きっと魔石を見つけ出すのにも何か知恵を貸してくださるはずですわ…!」
「………メルルちゃん!! ありがとうっ!!!」
「きゃっ…!」
感激したドラがメルルに抱きついて頬に口付ける。
同性とはいえ突然の抱擁と接吻に恥ずかしがりやのメルルは顔を真っ赤にした。
「よ~~~し! 希望が見えてきた!!
パプニカに戻ろう!!」
照れるメルルを余所に、先ほどまでの落ち込みを吹き飛ばしたドラは全員を連れ
パプニカへと戻ったドラ達はその足でロモス王のもとへと直談判に向かう。
失礼を承知で「火急の用件がある」と談話室の入り口に控えていた従者に伝え、ロモス王への取り次ぎを願い出る。
待つ事しばし…
陛下から許可が下りたと従者から伝えられて、ドラ達はロモス王のもとへ案内された。
「おお、ドラ! それにポップ、マァムも…先日ぶりじゃの!
して、火急の要件とは?」
「はい、魔王軍打倒のためにオリハルコンが必要となりました。
ロモス王がオリハルコンをお持ちではないかと思い伺った次第です」
「オリハルコン…? あの、伝説の金属の…?
ううむ…ワシの手元にはそのような物なぞ…
いいや、待てよ…
そういえば宝物庫に保管されておる『覇者の冠』!
たしかオリハルコンによって作られたと聞いておる!!
…それが必要と申すか、ドラよ?」
ロモス王の言葉にドラが頭を深く下げた。
「不躾なのは重々承知の上です。
しかし、大魔王を倒すための武器作りに必要なのです…
どうかその『覇者の冠』を私にください」
お願いします!とドラが言い募る。
ドラに続きポップとマァムも頭を下げた。
その姿を見たロモス王は微笑みながらドラの要求を快諾する。
「顔を上げよ。
人類のために戦う勇者の武器となるならば、何も異論はありはせぬ…
『覇者の冠』をそなたに授けよう!」
「陛下、ありがとうございます…!!」
「この程度しか役に立てず、むしろ申し訳ないくらいじゃわい」
わっはっは、と朗らかにロモス王が笑う。
…とその時、先ほどまでロモス王と会話していた大柄な男性が二人に近づいてきた。
会話を邪魔しないよう少し離れていた場所から荒っぽく、しかし粗野ではない足取りで歩いてきた男性は威風堂々という言葉がぴったりの振る舞いでドラに声をかける。
「横から失礼する、ロモス王よ。
この方が今しがた話されていた勇者殿か?」
「おお! これは失敬したオーザム王よ。
この少女こそ魔王軍と戦う勇者にして正義の魔法使い、ドラじゃ!
ドラよ、この方は雪と氷の国、北国オーザムの国王じゃ」
「お初にお目もじつかまつりますオーザム王。
勇者ドラと申します。良しなに」
「うむ、面を上げよ」
ドラよりも身長の低い小柄なロモス王に比べて、目の前にいる男性…オーザムの国王は見上げるほどに大きく恰幅の良い人物だった。
国王であるから戦う必要など無いはずなのにその腕は丸太のように太く、胴体もドラとロモス王の二人をまとめてもまだ足りないほどに太い。
王冠を称えた頭はまるで燃えているかのような赤銅色の豊かな巻き毛に覆われている。
口元にも髪の毛と同じ赤銅色のたっぷりとした髭を蓄えており、髪と髭の間から除く瞳は深い森を連想させる深緑色だった。
頭に王冠を乗せておらず、国王だと説明されなければ100人が100人『
とても低く、体の芯に響くような声をしたオーザム王はドラに語りかける。
「すまぬ、其方らの会話が漏れ聞こえてきてな…なんでもオリハルコンが必要と。
もし、そうならばオーザムには『覇者の胸当て』がある。
戦いに必要とあらば持っていかれるが良い」
「ほっ、本当ですか?!!」
ドラの問いにオーザム王が大きく頷く。
「うむ…
もう存じておろうが、我が国オーザムは魔王軍に滅ぼされてしまった…
『覇者の胸当て』も、今は崩れ落ちた城の中で眠っているはず。
伝説の武具もこのままでは文字通り、宝の持ち腐れよ。
オーザムまで取りに行ってもらわねばならぬが…是非とも勇者殿に使っていただきたい!
実はな…勇者殿には是非とも会って礼が言いたかったのだ。
先ほどロモス王から聞いたのだが、なんでも魔物を退ける魔法陣の仕掛けをあちこちに施していてくれたと…
そのおかげで余は魔王軍の隙を付き、命からがら逃げ延びることが叶ったのだ。
それが無ければ今頃は余も、妃も、王子と姫…それに家臣達も生きてはおらぬ。
今の余は国王とは名ばかり。
少しでも役に立てたのであれば参加した意義もあろうというもの!
勇者殿、魔王軍との戦い其方に委ねる」
頼んだぞ、というオーザム王からの言葉に今度はドラが力強く頷いた。
「はい、承知いたしました。
必ずやご期待に応え、魔王軍を…大魔王バーンを屠ってみせましょう」
ドラの好戦的な表情を見たオーザム王は上を見上げて腹の底から笑い声をあげた。
「ガッハッハッハッハッ!
オーザムが復興した暁には必ずや勇者殿を招くと約束しよう!!
その気の強さ…! 国中の男どもが求婚するために列を成すであろうよ!!」
ハッハッハッハッ…
談話室にオーザム王の笑い声が響き渡る。
見た目は熊のようだが根は大らかで明るい性格なのだろうというのが笑い方から伺えた。
自国が滅び、そこに住んでいた人々も大勢が犠牲になり消沈していたオーザム王…
ドラの発言で険しかった表情と纏う空気が少しだけ晴れたようだった。
(まさかロモス王だけじゃなくてオーザムの王様からもオリハルコンを貰えるとは…
ラッキー! 材料はたくさんあるに越したことはないもんね。
さて…あとは…)
「お邪魔します、こちらに竜水晶があるって聞いたんですけど…」
「ピィィ〜」
「これはこれは…
お久しぶりでございます」
「ナバラさん! お久しぶりです、お元気でしたか?
そんな他人行儀な呼び方じゃなくて『ドラ』って呼んでください!」
「そんな、
オリハルコンの入手に目処が立ったドラはテラン王フォルケンの許可のもと、ゴメちゃんと一緒にテラン城を訪問した。
城の一室、今や『竜水晶の間』と呼ばれる部屋へと通され、中にいたナバラに挨拶する。
オリハルコンの直接の入手に関してはポップとマァムをロモス王国に、クロコダインとヒュンケルをオーザム王国に送りお願いしてきた。
ドラは杖の核となる魔石を入手するために広い部屋の中央、立派な台座に安置されている竜水晶のもとへと駆け寄る。
「リュウちゃん久しぶり! 無事だったんだね、良かった…!
ねぇ、お願いリュウちゃん! 強い杖を作るために魔石が必要なの…
リュウちゃんの力を貸して!!」
『断る』
「りゅっ、竜水晶様が喋った…!?」
普段は誰に何を話しかけられても反応しない竜水晶がドラの頼みを間髪入れずに拒絶した。
断られたドラは少し引き攣った笑顔を浮かべ、竜水晶へと語りかける。
「…リュウちゃん、私まだ話の途中なんだけど」
『汝の願い事が有意義であった試しがない…
即立ち去れ…』
「…いったい、誰のせいでこんな事態になったと思ってるの?!!」
ぶわりとドラの体から溢れ出た魔力が巨大な水晶である竜水晶を丸ごと包みこんだ。
『なっ…何をする…!! やめぬかッ…貴様ッ!!!』
「あっ、ちょっ、魔力出して抵抗しないでよ!
ちょっとだけ! ちょっとその魔石分けてくれるだけでいいから!!
大丈夫、痛くしないから!!
…っていうか今まで
『くっ…何を戯れ言を…!
歴代の
何も望まずにその命を賭して戦ったというのに…、汝の浅ましい様よ…!』
「崇高なる使命で腹が満たされたら苦労はしないってのよ!!
そういうの、『やりがい搾取』って言うんだからね!!
何千年も賞与も福利厚生も退職金も無しに延々働かされるってどれだけブラックよ!
これ以上無茶振りしたら労基署に訴えてやるから!!!」
『何を意味のわからぬ事を…』
「ひ、ひえぇ…!
「ピイィ〜!」
ドラの青く輝く魔力と赤く発光しながら抵抗する竜水晶のせいで、テラン城の一室がまるで特撮の特殊効果のように派手に光り続けること十数分…
ごとり、と床に丸い結晶が転がり落ちた。
両手ですっぽり持てる程度の大きさの結晶体を拾ったドラは、それを割ってしまわないように座ったまま低い位置で
「う〜ん…
もうちょっと大きい魔石が良かったんだけど…
まあ透明度も純度も申し分なさそうだから大丈夫でしょう、多分。
あ、ダメだったらまた取りに来るから。
その時までにせいぜい魔力溜め込んどいてねリュウちゃん♪」
急いでるから、また今度ゆっくりね〜。
「もうちょいいけるやろ…まあええわ、また今度来るさかいにその時まで気張って金貯めとくんやで〜」と吐き捨てる取り立て屋よろしく魔石をぶん取って退室していったドラ。
魔力によって強引に身を削られ、一回り小さくなった竜水晶は赤く点滅しながらドラを見送った。
もし、竜水晶が人の姿をしていたとしたら見ぐるみ剥がされて顔を真っ赤にしつつも怒りのあまり声も出せないといったところだろうか。
部屋の隅で成り行きを見守っていたナバラが恐る恐る竜水晶に声をかける。
「あの…竜水晶様…」
『あの…クソガキがッ!!!』
「ひえぇ!!」
口汚く悪態を吐く竜水晶。どうやらこちらが素であったらしい。
意外と俗っぽかった竜水晶の本性など知る由もないドラは、神代の魔力が込められた魔石を入手出来て上機嫌でパプニカへと戻ったのだった。
ドラ「メルルちゃん! メルルちゃんのアドバイスのおかげで竜水晶の力が篭った魔石手に入ったよ〜! ありがとう〜!!」
メルル「違う、そうじゃない」
オーザムは北欧のイメージ。
気の強い女がモテてお酒造りが盛んな雪国。死の大地にもほど近いから男はわかりやすく強い人が好まれそう。