ドラが
「こ、これは…!?」
「おや、どうしましたかな? アバン殿」
「ブラスさん! このキッチンは一体!?」
「はて? キッチン?
何かおかしいところでもありましたかの?」
アバンが驚愕しつつ指し示した“キッチン”。
ドラとブラスだけが暮らす小ぶりな住居の奥にあるその場所は、かつて王宮の厨房に出入りしていたアバンですら驚く光景が広がっていた。
ドラとブラスが使い易いようやや低めに設計されている調理台。
それ自体はごく普通だがその調理台には所狭しと食材と調味料が積まれていた。
デルムリン島で採れた海の幸
パプニカ王国の豊かな自然に育まれた農作物
テラン王国近郊の森にしか生えない山菜とキノコ
ロモス王国の農場でしか育てられていない豚のベーコン
商業国家ベンガーナ王国の豊富な調味料の数々
リンガイア王国の名産たる果物に北方の国オーザムの銘酒
そして懐かしき我が祖国カール王国産の小麦粉…
南海の孤島、デルムリン島で見られるとは思わなかった食材の数々に衝撃を受けるアバン。
その様子を見て「ああ」とブラスが説明をする。
「いや、ドラは料理を作るのが得意でしての。
おかげでワシもゴメも日々、美味しい食事を楽しんでおります。
なぜそんなに料理が好きなのかと聞いたら「おじいちゃんとゴメちゃんが喜んで食べてくれるのが嬉しい」と言ってくれましての…
いや~、本当に素晴らしい子ですのじゃドラは…」
そこからドラが今までにどんな料理を作ってくれたか、どれだけ優しく思いやりのある子なのかを自慢げに話し続けるブラス。
ちなみにキッチンの隅には冷蔵庫、家の外にはパンやピザを作るための釜もある。
全て前世の知識を持つドラが記憶にある美味しい料理を楽しみたいがためにコツコツと制作していったものだ。
ブラスからドラの『食』に対するエピソードを聞いたアバンは…
各地を放浪しているという『正義の魔法使い』…
彼女でまず間違いないですね…
それにこの『食』に対する姿勢。
日々の兵糧と息抜きの大切さをよく知っている…
その点でも勇者の資質は十二分…!
ドラ本人は単純に「美味しいものが食べたい」という食に対する執着だけで動いていた。
しかし探究心豊かな学者であり、かつて城勤めの騎士であり世界を旅する勇者でもあったアバンになんだか変な感銘を与えてしまったらしい。
アバンの中の『未来の勇者ドラ』がなんだかどんどん崇高な人物像へと形作られていっている。
ちなみにこの時ドラはアバンを責めてギャン泣き中である。
やっぱり微妙に噛み合っていない師弟、この微妙なすれ違いはその後も長く続く事となる…
「アバン先生が作ったご飯美味しい! あとでレシピ教えてもらう!」
「うっま! 何だこれ! いつもよりずっと美味しい!!」
「ピィ~♪」
前世の知識があるばっかりにダイ大の世界の食糧事情の貧困さに一時期かなり参っていたドラ
「まず調味料が塩しかない…。良くて胡椒とハーブ…。流通網が発達してないから各地の名産品がマジで各地でしか食べられない…
保存食に味の良さは期待しちゃいけないし乳製品なんかほぼ無い…あと砂糖がない…生クリームたっぷりのクレープ食べたいぃ…」
魔王軍って食事とか衣類とかどうしてたんだろ…