ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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63_世界会議(サミット)開催、迫り来る鬼岩城(挿絵あり)

ロン・ベルクが一心不乱にオリハルコンを打ち続ける。

工房に響き渡る甲高い金属音、槌を振うごとに高まる熱気。

ロン・ベルクの様子を見たジャンクは音を立てないように気配を消しながら工房の外へと出ていった。

ドラは椅子に座ってじっとロン・ベルクが杖を作り上げていく様子を静かに見つめ続ける。

 

(すごい…綺麗…)

 

ドラの目には工房の中にキラキラと舞い飛ぶ銀色の光が見えていた。

一粒一粒はごく小さな光…

例えるならよく晴れた日に窓から入る日の光に照らされた、空中を舞う塵か埃に少し似ている。

 

しかしその小さな光の粒子はまるで意志を持っているかのように空中で寄り集まっていき、やがて蛍くらいの大きさの光の塊になり星のようにキラキラと輝き出す。

ドラがその輝きをもっと見たい、と思って光を目で追いかけるとそれは吸い込まれるようにロン・ベルクが打つオリハルコンの中へと消えていってしまった。

ロン・ベルクのまわりにはそんな光が大小いくつも集まり、まるで順番待ちをしているかのように次々とオリハルコンの中へと吸い込まれていく。

 

その光がロン・ベルクの能力によって作り出された魔力の働きによるものなのか、彼の魔力に呼応して姿を現した精霊なのかはわからない。

少なくともロン・ベルクにはその姿は見えていないようだった。

 

(まるで星を作り出しているみたい)

 

キラキラ、シャラシャラ…

カンカンと響く金属音とは別に、繊細な作りの銀飾り同士が擦れるような微かな音が聞こえる。

まるで精霊や星々が内緒話をして笑っているかのようなくすぐったい音に、ドラはなんだか嬉しくなって目を細めてくすくすと笑みをこぼした。

 

どれほどそうしていただろうか…

それほど経っていないかもしれないし、徐々に形になっていく杖を見るにもう数時間は経ったかもしれなかった。

やおら外が騒がしくなり、大きな水晶玉を手にしたメルルが駆け込んできた。

 

「ドラさん大変です! パプニカに魔王軍が…!!」

 

 

 

時は少し遡り、世界会議(サミット)が開催されているパプニカ大礼拝堂…

初めての試みとなる各国の王が対等に意見を出し合い、より良い世界を築くべく手を取り合うための会議。

開催国であるパプニカの国王、世界会議(サミット)の発案者であるパプニカの王女レオナ姫、ロモス国王、ベンガーナ国王、オーザム国王、テラン国王、そしてリンガイア王国代表として将軍バウスンの七名が大きな机を囲み豪奢な椅子に座す。

そこでは侃々諤々と言った様子でそれぞれの意見を投げ合うだけの、手を取り助け合う理想の姿からはかけ離れた話し合いが行われていた。

 

「それは違う! ベンガーナ王よ!!

何度も言うように世界の国々の武力が一つに集まらねば魔王軍には勝てぬ!!

そのために世界中の指導者がこうして集まったのじゃぞっ!!!」

「…フッ、だが現に我らベンガーナは魔王軍を見事に退けておるぞ!」

 

言葉を重ね、各国が協力し合うべきだと訴えるロモス王。

しかしそんな言葉など何処吹く風といった態度でベンガーナ王クルテマッカⅦ世は自国の軍事力があれば協力など不要と言い返す。

先ほどから何度も繰り返されている両者の言い合いを見かねて口を開いたのはリンガイア王国の代表者、バウスン将軍だ。

 

「ベンガーナ王…我らリンガイアも城塞王国と呼ばれた強国でしたが魔王軍の超竜軍団によってわずか一週間で滅ぼされてしまったのです…

あの強さ、恐ろしさは…戦った者にしかわからないっ!!!

失礼ながら貴国がいまだ健在なのは、敵の戦力が本腰ではなかったというだけの事でありましょう…」

 

リンガイア王国が滅ぼされた時の有り様を思い出したのだろう。震えながらバウスン将軍が魔王軍の恐ろしさを訴える。

国が滅ぼされる際に彼の国の国王は行方知れずとなってしまった。

将軍として国王を守れなかった不甲斐なさを噛み締めつつも、それでもリンガイア王国の代表者を務めなければならない責任感から彼は満身創痍とも言えるほどの傷を負いつつこの世界会議(サミット)へリンガイア代表として出席していた。

 

「バウスン殿の言う通りだ、ベンガーナ王よ。

我が国は一年を通して雪と氷に覆われた厳しい環境にある。

その厳しさの中で鍛え上げられた強さを誇る我がオーザム戦士団さえも呆気なく全滅したのだ…

魔王軍の強さ、恐ろしさは我々の想像をはるかに超えておる」

 

魔王軍の恐ろしさを訴えるバウスン将軍を援護したのはリンガイアと同じく、魔王軍の侵略により滅ぼされてしまったオーザムの国王だ。

彼の国もまた人知を超えた魔王軍の恐ろしさに、油断はならぬとベンガーナ王に釘を刺す。

 

「なっ、なんだとっ!!? 貴殿ら…無礼であるぞ!!

世界一と謳われた我が軍の戦力を知らぬのかっ!!?」

 

興奮して思わず立ち上がり憤慨するベンガーナ王は、何を思ったかそのまま広い露台(バルコニー)へと移動していった。

勝手極まるベンガーナ王の様子を、パプニカ国王とレオナ姫、そして各国の代表者の言い合いを静かに見守っていたテラン王が辟易した様子で見る。

 

「見ろッ!! あの最新鋭世界最大級の軍艦をっ!!!」

 

ベンガーナ国王が指差した先にはドラが思わず欲しいと思ってしまうほどに大きく、通常の軍艦の倍ほども砲台を備えた巨大軍艦がパプニカの港に浮かんでいた。

すぐそばに浮かぶロモス王が乗船してきた客船が貧相な小舟に見えるほどに仰々しいその巨大軍艦は、この世界の文明で考えるのならばなるほど『世界最強』と形容するに相応しい手間と予算がかけられているのが手に取るようにわかる。

各国の王達の呆れ混じりの視線を『妬み』と勘違いしたベンガーナ王はさらに自軍の精強さを声高に話し続けた。

 

「魔王軍がいかな軍勢を率いてこようがビクとも…!!」

 

ドガアァァンッ…!!!

 

一体何が起こったのか…

あまりにも突然の爆音に理解が追いつかず全員が固まる。

 

異常事態にいち早く反応したのはバウスン将軍、そしてオーザム王だった。

オーザム王が真っ先に露台へ飛び出し、怪我の痛みを引きずるバウスン将軍が一歩遅れて露台からパプニカの港を見下ろした。

そして見たものは…数多の戦を経験し死線を掻い潜ってきた猛将たるバウスンですら絶句してしまうような、この世ならざる光景であった。

 

 

 

「なっ…なんだよ、このバカでかい怪物は…!?」

 

メルルが持つ水晶玉に映し出された鬼岩城の姿に、工房の中へと駆け込んできたポップやマァムやチウ。それにジャンクやゴメちゃんまでもがまるで信じられないといった表情で水晶玉を覗き込む。

しかし水晶玉に映し出された光景はあっという間に掻き消えて見えなくなってしまった。

 

「あっ…! だめだわ…

まだおばあさまのように上手く水晶玉を扱えなくて…」

「もう…充分だぜ…ひと目でわかったよ…

とんでもねえのが来やがった…!!」

 

人々を襲う魔物や火を吹くドラゴンが闊歩しているようなこの世界の人にとっても、山のような大きさの巨岩の城が動いているなどとは俄には信じられないのだろう。

ましてやそれが明確な意志を持って街を破壊しながら移動するなどと…

どうやって倒すかなどまったく思い浮かばず、全員が深刻な表情で押し黙る。

 

ひとり、鬼岩城襲撃を予見していたドラだけは冷静に事態を受け止めていた。

 

「ポップ、パプニカに戻…」

「ドラ…お前は残れ」

「ポップ!?」

 

言葉を遮り「残れ」と言い出したポップにドラが面食らった。

どういうつもりかとマァムが率直に聞く。

 

「ポップ? どういうつもり?

パプニカに危機が迫っているのにドラに残れだなんて…」

「うまくは言えねえけど…ロン・ベルクのそばに…

いや、ロン・ベルクが作ってる杖のそばにはドラがいなくちゃいけない気がすんだよ。

なんだかさっきから何かがドラを強く引き留めてる、そんな気がしてならねえんだ」

「ポップ…」

「ポップさん…」

 

「ジャンクの倅の言う通りだ。

この杖は今、お前のために生を受けようとしている…!

並みの武器とは違う…魂がある!

 

お前の魂と呼応し、主人として認めた時こそ…この杖は地上最強の力を発揮する。

だからお前にはこいつの生まれる様を見届ける義務がある!

 

振るう者の心の声が必要なんだ。

それが無ければこいつはただの武器に成り下がってしまうだろう…」

 

汗だくになりながら止む事なくオリハルコンを打ち続けるロン・ベルクの鬼気迫る様子に、工房の中にいる全員がその言葉が真であると感じ入ったようだった。

 

「…ロン・ベルクは命をかけているわ。

この杖を生み出すのにはきっと私達には計り知れない…神がかり的な力が必要なのよ…!!」

「そういうこった…

だから、ドラはこの場に残れ! お前がすぐそばで見届けてやらねえと杖は完成しないんだ!!

その間、魔王軍は俺達が防ぐ!!!」

 

ポップの力強い言葉にマァムが笑顔で頷く。

メルルは頬を赤らめて男らしく宣誓したポップに惚れ直している様子だ。

父であるジャンクはいつも逃げ腰だった息子の意外な姿に目を見開いて驚いている。

 

「ポップ…ありがとう!

杖が完成したらすぐに駆けつけるから、レオナや王様達のこと…お願い!!」

「おう!!」

 

事態は一刻を争う。ゴメちゃんも含めたポップ達全員は工房を飛び出しパプニカへと瞬間移動魔法(ルーラ)で飛んでいった。

工房に残るのはドラとロン・ベルク、そしてロン・ベルクの助手を買って出たジャンクのみとなった。

ドラは椅子に座り、先ほどと同じように光に包まれたロン・ベルクと彼が生み出そうとしている杖を静かに見つめる。

 

パプニカに未曾有の危機が迫っている状況で、落ち着いているどころか微笑みまで浮かべているドラにロン・ベルクが思わずと言った様子で口を開いた。

 

「落ち着いているな…」

「うん? だって、慌てる要素どこにもないじゃない?」

「信用しているんだな、ジャンクの息子達のことを」

「もちろん。あと、ロンの事も信じてる。

ロンが今から生み出すのは完全無欠の最強の杖以外ありえない!

でしょ?」

「ハッ、当然だ!!」

 

打たれる金属音が少しずつ変わっていく。

ただの金属音のはずがまるで福音を告げる澄み切った鐘の音のように、ドラやジャンクの心に深く染みていった。

その音を聞きながら、ドラは遠いパプニカに想いを馳せる。

 

 

(パプニカにはクロコダインだけじゃなくてヒュンケルもいる。

今頃は魔剣の自己修復も終わっているだろうし、休養を取るように言いつけておいたからヒュンケルの体力も十二分…

使い慣れた魔剣、十分な休息、精神を落ち着けるために言い渡しておいた『アバンの書』の複写…

 

これだけやれば原作みたいに自分の心と体を責め立てて視野狭窄のままミストバーンと対峙した時に悪と正義の間で揺れ動いて窮地に陥るような事にはならないはず!

 

…まっさか、ならないよね~?)

 

ほんの少しよぎった一抹の不安を自身で笑い飛ばして、ドラは杖の完成を心待ちにするのであった。

 

 

 




オーザム国王とパプニカ国王イメージ
【挿絵表示】


好戦的なドラ
【挿絵表示】
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