ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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 閑話_ドラとロン・ベルク

「お邪魔しま~す! ロン、約束通り成果の報告に来たよ~!」

「ピッピィ~!」

「今忙しい。後にしろ」

「えぇ…」

「ピィ…」

 

(成果を聞かせに来いって言ったのそっちなのに…)

 

鬼岩城を撃破したドラはロン・ベルクの工房を訪れた。

ドラのために作られた杖の感想と戦闘の成果を報告するためだ。

なのにである。

「成果をちゃんと聞かせに来い」と言っていたのはロン・ベルクだというのに話を聞く前に邪険にするとはどういう事か。

 

以前は飲んだくれていただけのロン・ベルクは今、工房の中を忙しそうにあちこち歩き回っている。

武器を作るのに必要な資材の確認をしたり、鍛治道具を入念に確認したり、足りない物や新調する物を書き記したり、工房を改良するため図面を起こしたり…

どうやら消えかかっていた武器作りへの情熱が蘇ったらしい。

より良い武器を作るための下準備にかかり切りで、工房に入ってきたドラの方など見向きもしない。

面白くないドラは頬を膨らませながら、ロン・ベルクに手を止めるよう言った。

 

「ねぇ、せっかく来たんだから成果報告くらい聞いてよ!

っていうか成果報告だけじゃなくてお喋りしようよ! 私、ロンに聞きたい事あるの!

杖を作ってもらったお礼もちゃんと持って来たのに!!」

「いらん。成果だけ手短かに話せ」

「むうぅ~」

 

にべもなく断られたドラが唸り声を上げる。

…が、ドラよりも武器作りの方が優先順位が高いらしいロン・ベルクはそんなドラの様子などには興味を示さず黙々と作業に勤しんだ。

 

「…はぁ。じゃ、いいやもう。

お邪魔しました~」

「ピィ?」

 

ゴメちゃんが早々に諦めて工房を出ていくドラを不思議そうに見る。

いつものドラなら自分が邪険にされたら涙の一つや二つ浮かべて相手が折れるまで粘り倒しそうなものなのに…

一体どういう風の吹き回しだろうか。

そう思ってドラの後に続いて外へ出ようとした時、片手に紙の束を持ち上げてドラが小さく呟いた。

 

「真魔剛竜剣の実物大写真持って来たのに、無駄になっちゃったー」

 

バシィッ!!!

 

「ピィィっ!!?」

「あっはははッ!! 早ッ!? 今のラーハルトくらい早かったね?!!」

 

ゴメちゃんを押し退けドラの手から目にも止まらぬ速さで紙束を奪ったロン・ベルクは、紙を見てわなわなと震えた。

一枚目の写真には確かに真魔剛竜剣の柄の一部が実物と変わらぬ大きさで写っている。

…しかし二枚目以降の紙には女の子らしい丸みを帯びた文字で「ダミー♡」と書かれていた。

 

いつの間にか工房の中にある椅子に腰掛けたドラは片手でゴメちゃんを抱きつつ、もう片方の手でテーブルをバンバンと叩きながら笑い伏している。

騙されたロン・ベルクが顔を引き攣らせて怒りに震えながら、なぜ真魔剛竜剣の写真など持っているのかとドラに問い詰めた。

 

「おい…ッ! このクソガキ…!!

なんでお前が真魔剛竜剣の写真などを持っている…!?

どうやってこんなもの手に入れたッ!?」

 

鍛治の腕前とともに武器の目利きにも自信のあるロン・ベルクの勘が、写真の中の真魔剛竜剣は本物であると訴えてくる。

しかしなぜ追い求めて止まない伝説の武器の実物大写真などという物を目の前の少女が手にしているのか…

 

「あっははは…! お、お腹痛い…!! 涙出てきた…!!」

「とっとと質問に答えろ!!」

 

ひぃひぃと笑い泣きしているドラが涙を拭いながら質問に答える。

 

「あははっ…はぁ~。

あれ? 言ってなかったっけ?

私、真魔剛竜剣の持ち主の竜騎将バランの娘だよ。

あと、本物の写真はこっち~」

「なッ…!? 娘…!!?」

 

懐からもう一冊紙束を出しながら告げられた事実に衝撃を受けるロン・ベルク。

 

「今は離れて暮らしてるけど、前にお父さんにお願いして写真撮らせてもらったんだ~。

お喋りに付き合ってくれたら、杖のお礼も兼ねてロンに渡そうと思ってたんだけど…

まあ、いらないならいいよ別に。お喋りに付き合ってくれなくても…

作業の邪魔してごめんなさ~い。

じゃ、私は帰るから…」

 

お邪魔しました~と言って工房を出ようとするドラの目の前で扉が勢いよく閉められた。

 

「待て、お喋りに付き合ってやるからそれをよこせ…!!」

「いいよ〜。じゃ、ほら座って座って!

今お茶入れるね。あとお菓子も持って来たんだ〜。

鍛治道具以外ほんと何も無いよねこのお家」

 

殺風景〜と笑いながら最初から長居する気満々だったドラが、手土産にと持ち込んだお茶を手際良く淹れて菓子をテーブルに並べていく。

遠慮の無い態度と言葉にイライラしつつ写真を手に入れるため…と自分に言い聞かせて顰めっ面のロン・ベルクが椅子にどかりと座った。

 

「で、なんだ聞きたい事って」

「鎧の魔剣の弱点教えて♡」

「そんなものは無い!」

「またまた〜。ほら、「あー、ここもっとこうすれば良かったなー」とか、「ここの装甲が少し脆いな…」とか…

なんかあるでしょ〜?」

「無い! 俺が作った武器にそんなもの存在しない!」

「え〜」

 

 

二時間後…

 

「…で、『日本刀』っていうのは鉄の純度を極限まで高めた素材で作られてて、特徴は刀身の造込みと絶妙な反りね。

これによって切れ味の良さとしなやかさの両方を兼ね備えた『切る』という一点に特化した剣になるの。

あとこっちの『ガンブレード』は銃の原理を組み込んだ武器で扱いが難しいけど使いこなせたらとてつもない威力になるしー、『キーブレード』は形こそ剣だけど厳密には杖に分類されるかな?多分…」

「ほお…」

「あとはね〜」

 

この後もめちゃくちゃ武器談義した。

 

 

翌日の昼ごろ、パプニカ城にて…

 

「ゆっ、勇者様…! 大変です!!

「勇者を出せ」という魔族が外に…ッ! 魔法使い様が人質に取られています!!」

「ええっ!?」

 

パプニカの王城の一室で寛いでいたドラに城の兵士が息せき切って非常事態を知らせに来た。

慌てて外に出てみるとそこには兵士に囲まれ槍と剣を向けられながら、ポップを人質に取った大柄な魔族…

もといポップの首に腕を回してガッチリと拘束してカチコミ?をかけに来たロン・ベルクの姿が…

 

「おい、お前らでは話にならん…とっととドラを出せ!!」

「だああっ! ちょっ…タンマッ!!

槍向けんなッ! 違うんだって…!

この魔族は良いひ…とでは全然無ぇけど敵じゃないんだって!!

おい、ロン・ベルクてめぇッ! 誤解が解けねぇからいい加減離せって!!」

 

拘束から逃れようとジタバタと必死にもがくポップだが、鍛え上げられた逞しい腕はビクともしない。

状況がよく飲み込めず思わず半目になるドラ。

取り囲んでいる兵士達を掻き分けてロン・ベルクの前に行くとポップが必死の形相でドラに訴えた。

 

「ドラッ! このオッサンどうにかしてくれッ!!」

「…ごめん、どういう状況?

なんでロンがパプニカに…?」

「実家に帰ったらこのオッサンが待ち構えててドア開けた途端拉致られたんだよ!

で、ドラのところまで案内しろって無理やり…」

「えぇ…」

「ドラ、この間の真魔剛竜剣の写真…

あれ以外の物も持ってるだろう? 寄越せ」

「えぇ…」

 

なんだこのゴーイングマイウェイサラツヤストレート鍛治野郎X(エックス)

 

「もちろん持ってるよ。今ここに無いけど」

 

バランの拠点にいた時に撮り溜めて帰宅早々現象した写真の数々は今、デルムリン島のドラの部屋に祀られている。

大量の写真がズラリと並べられ異様な雰囲気を醸し出しているそれは、もはや『祭壇』と言っても過言ではなかった。

その祭壇の見事な出来栄えからはドラの愛情の重…深さがひしひしと伝わってくる。

 

「取ってこい」

「ん〜…、そうしたいのは山々なんだけど…

ごめんね、今私病気で瞬間移動魔法(ルーラ)使えないんだ」

 

病気が治ったら取りに行くね?と、申し訳なさそうに両手を合わせて謝罪するドラ。

勇者様が病気…? 魔王軍との戦いの最中(さなか)だというのに…!?

周囲にいた兵士達がざわつく。ポップも寝耳に水の話を聞いて心配そうにドラの顔を見た。

 

「ドラ、マジかよ…?

瞬間移動魔法(ルーラ)が使えなくなる病気って一体…」

「あのね…『腕や首にキラキラした装飾品を付けないと寒くて風邪ひいちゃいそうで魔法が使えなくなる病』」

 

ポップと周囲にいた兵士達が一斉に脱力した。

 

(なんだその病は…)(初めて聞いたぞ…)(要するに「お願い聞いてほしければ腕輪や首飾り持ってこい」って事か…)

 

兵士達がヒソヒソと耳打ちし合う。

ドラが告げた病名に額に青筋を立てたロン・ベルクが爆発しそうな怒気をなんとか抑えながら要求を飲んだ。

ちなみにまだポップの拘束は解けていない。怒りで腕に力が入ったロンに首を絞められて死にそうになりながら先ほどよりも激しくもがき続けている。

 

「このクソガキ…ッ! わかった…今から買って来てやるから写真を用意しておけ!!」

「えぇ〜、市販のものじゃなくて手作りがいいなぁ〜。

ほら、そのほうが真心こもってそうでしょ?

私の病気もすぐ治ってとっておきの写真渡したくなっちゃうかも♡」

「………ッ!!!」

「ぎゃあああッ…ぐぇッ!!?」

 

言葉も出ないほど怒りに震えたロン・ベルクがポップを投げ飛ばしてキメラの翼を使った瞬間移動魔法(ルーラ)で帰っていった。

瀕死のポップに最大回復呪文(ベホマ)をかけるドラに城の兵士は「さすが勇者様…」「凄い…見るからに強そうな魔族をあんなに簡単に手玉に…」と、引き気味に賞賛の言葉を口にする。

 

その後、一刻も立たないうちに再びロン・ベルクがドラを訪ねて来た。

ドラの目の前のテーブルにいくつかの装飾品をジャラジャラと落とし、入れてあった袋をダンッとテーブルに叩きつけたロン・ベルクは「これで文句は言わせんぞ」と低い声でドラを睨みつけた。

足を組んで椅子に座っているドラはチラ、とロン・ベルクを見てテーブルに置かれた装飾品を一つ手に取る。

手にしたのは細く繊細な作りの腕輪だ。遠目にもキラリとした輝きが目を引くそれは、女性ならば誰しも思わずウットリとしてしまうような逸品だった。

 

しかしドラはそれをことりとテーブルに置くと、「いらない。持って帰って」と言って顔を背けてしまった。

ロン・ベルクが「はぁ?!!」と声を荒げて憤る。

 

「貴様…約束が違うぞッ!!」

 

一触即発というほど憤慨しているロン・ベルクの闘気を感知した仲間達がドラのいる部屋へと集まって来た。

ピンと張り詰めた空気の中、ドラとロン・ベルクの様子を伺う。

すわ戦闘か!?とポップやマァムが身構える中、ゆっくりと立ち上がったドラはロン・ベルクの顔に唇が届きそうなくらい自身の顔を近づけ彼から漂ってくる香りに顔を顰めて今口にした言葉の『理由』を話した。

 

「私に会いに来る前にお酒飲んでくるような(ひと)のお願い聞くなんて絶対に、嫌。

出直して来て」

 

そう言って長い黒髪を靡かせ部屋を出たドラをロン・ベルクが唖然と見つめる。

ロン・ベルクだけではない。

集まって来ていたアバンの使徒、クロコダインやバダック、三賢者、レオナ姫やパプニカ国王に至るまで…全員がドラの後ろ姿を見て思う。

 

「あいつ…すげえな…」

 

ポップが全員の気持ちを代弁した。

12歳でこれとは…将来どんな大人になるのか。なんとも末恐ろしい話であった。

 

 

 




オタク、目的のためになりふり構わなすぎて足元見られがち。
この後出直してきたロン・ベルクからさらにお詫びの装飾品も貰ったので快く『竜騎将バランの実物大の手のひらの写真』を渡してお帰りいただいた。
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