ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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 閑話_ヒュンケルとエイミさんとドラ

ある日の早朝…

ドラはパプニカ三賢者の一人、エイミに呼び止められた。

 

「あっ…あのっ…ドラちゃん!」

「あ、おはようございますエイミさん!」

「ええ、おはよう…

あの…折り入ってドラちゃんにお願いがあるのだけれど…」

「?」

「あの…無理を承知で…その…

 

ヒュ…

 

ヒュンケルを貸していただけないかしら!!?」

「はいッ! 喜んでえぇーーーッ!!!」

「えっ!?」

「えっ?!」

 

魔王軍との戦いの最前線に立つ『アバンの使徒』…

鬼岩城襲撃の記憶も生々しい今、『アバンの使徒』の一人である戦士ヒュンケルを貸してもらえないだろうかという言ってみればダメ元のお願いをしたエイミはその願いがまさか勇者ドラの食い気味な叫びで許諾されるとは露ほども思わず動揺を隠せなかった。

 

一方のドラはというと、「ヒュンケルを借りたい? どうぞどうぞ、なんなら熨斗付きで差し上げます!」という気持ちをつい居酒屋風の叫び声で表現してしまった。

緊張して若干テンパっていたエイミと状況を理解しないまま許可を出してしまったドラが、一旦落ち着いて話し合う。

結果、エイミが言いたかったことは『アバンの使徒を一名、パプニカ国王とレオナ姫の護衛に付けたい』というものだった。

 

先日の鬼岩城及びそこから溢れ出た怪物(モンスター)達による被害状況の把握と、被害にあった国民の慰安を兼ねた視察の護衛がどうしても足りないらしい。

元々人手不足だったが、今は世界会議(サミット)が開催されていて各国の指導者が集まる会場の警備で手一杯…

いくら賢者の素養を持つパプニカの王族であっても護衛が三賢者のみでは不安だという声が上がり、ならばアバンの使徒の力を借りられないかという話が出たのだとか…

 

(アバンの使徒ならポップやマァムでもいいと思うけどヒュンケルを名指しするあたりに仄かな下心を感じる…)

 

今、ドラ達一行は休息を取ったり鍛錬を重ねたりと各々が自由行動をしている。

原作では重傷を負いエイミの看病を受けていたヒュンケルだが、今の彼なら多少のダメージを負ってはいるものの半日程度の護衛くらいは朝飯前だろう。

ヒュンケルに護衛を務めるよう伝えておくと言うとエイミは喜色満面でお礼を言って立ち去っていった。

ドラもにこやかに手を振って別れたのだが、懸念が一つ…

 

周囲に誰もいないことを確認したドラが意識の中にいる人物へと心の中で呼びかけた。

 

(ねえねえ、お姉ちゃん。

 

『あら、なあに?』)

 

呼びかけに応えたのは『お姉ちゃん』こと、ドラの中にいるもう一つの魂だ。

幼い時分には一つの肉体に二つの魂が宿った状態であったが、成長するにつれ同化し一つの魂へと融合していった。

しかしバランによる精神攻撃によって分化してしまって以来、ドラの中にはずっと彼女がいて影ながらアバンの使徒の動向を見守っている。

一つの肉体に魂が二つというのは本来あり得ないことなので彼女はまた一つの魂に戻りたがっているがドラが拒否した。

 

だってお姉ちゃんとお喋り出来なくなるの寂しい…

 

彼女は【ダイの大冒険】の世界をドラを通して眺めているだけで満足らしく、主人格として前に出て戦いたいとか、登場人物達と直接関わり合いたいとは微塵も思っていないらしい。

ドラの行動に関しても、特に口出しするようなことはせず一貫して『見守る』というスタンスを貫いている。

ドラが話しかければ快く会話に応じてくれるし、アドバイスもしてくれる。

我が強く自分の思うままに動き回りたいドラと、それを温かく見守る彼女の関係は極めて良好であった。

 

(エイミさん、ヒュンケルと一緒に護衛したがってたけど止めなくて良かったかなぁ…?

 

『あら、どうしてそう思うの?』

 

だって、〝自分が一度滅ぼした国が魔王軍…それもミストバーンによってさらに破壊された光景を見させられる〟なんて傷口に塩を塗り込むようなものじゃない?)

 

仕事を通じて親しくなりたいというエイミの考えを否定するつもりは無いが、シチュエーションが悪すぎやしないだろうか?

考え込むドラに彼女が優しく語りかける。

 

(『私はなかなか良いアプローチだと思うわよ?』

 

ええ~っ、どこが!?

 

『まず恋において大事なのは同じ時間を共有すること。

時間を共有する中で相手のことをよく知ることが大切よ。

確かにドラの言いたいこともよくわかるわ。同じ時間を過ごしたとしても、相手が気を悪くしたら元も子も無いものね…

 

けど、その時こそチャンスよ。

「気を悪くしたならごめんなさい、お詫びに食事でも…」とか、「今度はあなたの好きな場所に行きましょう、どんな場所が好き?」とか…

次のアプローチに繋げられるじゃない?』

 

きゃ、きゃ~~~! 大人だ!

大人の恋の駆け引きだ!!)

 

前世でそれなりに恋愛経験のある大人の女性の意見にドラが頬を紅潮させ身悶えした。

 

(でも、そっか、そうだよね。

エイミさんも大人の女の人だもん。

私、原作の印象が強くて変な目で見てたかも…)

 

この世界の成人年齢は総じて現代日本より低い。

16歳になればほとんど成人扱い、国や村によってもまちまちだが早ければ14歳で嫁入りだなんて話も珍しくない。

エイミは18歳、ヒュンケルは21歳と二人ともこの世界ではしっかり大人と言える年齢だ。

 

(原作では全然描かれなかったから、なんだかエイミさんの行動が突拍子もなく感じたけど…

裏側ではこういう恋の駆け引きも色々あったのかも…

ヒュンケルの気持ちにもう少しゆとりが出来たら、案外すんなり上手くいったりして。

 

『そうそう、ヒュンケルとエイミさんが結婚して二人でパプニカに終生尽くして幸せに暮らしました…なんて未来も素敵じゃない?』

 

素敵~!)

 

るんたった♪と鼻歌を歌い、足取り軽く歩き出すドラ。

ヒュンケルのことはいまだに好きになれないが、好き嫌いと恋を応援するかしないかは別物である。

 

(そうだよね~。

まさか、パプニカの惨状を目の当たりにして内心自分を責め立てるヒュンケルにまったく気付かず、なんのフォローもしないまま関係が進展しないどころか後退するなんて事態…

いくらエイミさんでもあるわけないよね~♪

 

『あはは、まさか~! 心配し過ぎよ~』

 

だよね~!)

 

脳内でキャッキャウフフと楽しく会話をする二人…

ヒュンケルを交えての王族の護衛任務の結末は、その日の夜になって知ることとなる。

 

 

夜、時間が少し余ったドラはお城の厨房の一角を借りて軽く摘める料理を作った。

これを食べながら誰かお喋りしてくれる人はいないか…と、城内をうろつく。

真っ先にポップを探したのだが、談話室でマァムと二人で和やかに話していたので邪魔しては悪いと声をかけずに退散した。

ならばと他を当たることにしたドラはクロコダインが利用している部屋の扉をノックして中に入る。

 

「クロコダイ〜ン、ライムジュースとお魚とお芋の揚げ物(フリット)作ったんだけど食べ…

えっ!? 暗っ!!?

何これ、暗黒闘気!?」

「ん? おお、ドラか」

「クロコダイン、この部屋に充満してる負のオーラは…?

えっ、ヒュンケル?!

…何があったの?」

 

違った。部屋に充満していたのは暗黒闘気ではなく、椅子に腰掛け項垂れているヒュンケルから出てる陰鬱なオーラだった。

 

「………………」

「いや、なんか喋ってよ。

ていうかヒュンケル、ここで何を…?」

 

(あれぇ? おかしいな…

今頃仕事終わりにエイミさんに食事にでも誘われてるかと思ったのに…)

 

パリパリと揚げた芋を食べながらドラが「何があったの?」と再度尋ねる。

それに答えたのはヒュンケルではなく、クロコダインだった。

 

「それがな…」

 

クロコダインが語ったところによると、護衛を任されたヒュンケルは三賢者とともに市街地の視察に赴いたパプニカ国王とレオナ姫に付き従ったらしい。

ここまでは、良い。

特に危険なことも無く順調に視察を終えた。

 

…問題はここからだった。

視察後、街の代表者数名から被害の詳細を聞くと同時に国王と姫自らが彼らの苦労を労い、励まし、復興へ向けて勇気づける言葉を贈ったそうな。

その言葉を聞いた代表者達はその場で泣き崩れた。

王族から直々に労いの言葉をかけてもらい感激したというのもあるが、悔し涙や魔王軍に対する憎悪も多分に含まれていたという。

 

パプニカは不死騎団による襲撃で一度ほぼ壊滅状態に陥った。

先の壊滅状態から急ピッチで復興を成し遂げ、さあこれからという時に家屋や店舗を潰されたのだ。

中には家族が犠牲になり、これからの人生を商売に捧げようと決意して心の拠り所にした者もいた。

そういった人達の慟哭を間近で見たヒュンケルは、その場ではただ静かに耳を傾けていたが内心悔恨の念でいっぱいだった。

 

「うわぁ…」

「さらにその後にな…」

「このあとにまだ何かあるの!?」

 

なんとか平静を装い護衛の任務を終え、その場は解散となった。

しかし戻ろうとしたヒュンケルにエイミが「案内したい場所がある」と言い、気球へ乗るよう指示した。

気球に乗ってどこへ行く気かと思ったのだが、気球の上でエイミが

 

「ごめんなさい…見せたかったのはこの景色なのよ…

とても美しいでしょう?

この夕陽に照らされたパプニカを見せたかったの」

 

と言ったそうな。

夕陽に照らされたパプニカは、夕焼け色に染まった波の色を受けてそれはそれは美しかった。

…気球から一望した景色の中には倒壊した家屋や無惨に壊された神殿が多く残っており、ヒュンケルは夕焼けよりもそれらのほうに目を奪われてしまった。

無言になったヒュンケルの横顔を見て、エイミも無言になったらしい。

夕焼けに照らされてヒュンケルは気づかなかったが、この時のエイミはヒュンケルの横顔に見惚れて顔を真っ赤に染め上げていた。

 

ここまで聞いたドラの口から咥えていた揚げ芋がポロリと落ちた。

意識の中でもう一つの魂もあんぐりと口を開けて硬直している気配を感じる。

エイミとしては悪意も何も無く意中の相手をデートに誘って自分が美しいと思う風景を見せただけなのだが、それがこうも裏目に出るとは…

傷口に塩どころの話ではない。因幡の白兎ならぬ気球の上のヒュンケルとでも言えばいいのか…

 

(あれ? でもこれ誰も悪くないな…?

強いて言えばヒュンケルの自業自得では?)

 

なら放置でいいか、とドラが結論を出しかけた時に待ったがかかった。

 

(『ドラ…ヒュンケルのフォローしてあげなさい』

 

ええっ!? なんで私が!!?

やだやだ! マァムに任せればいいじゃない!?

 

『マァムに任せたら、嫉妬したポップのヒュンケルに対するアタリがさらにキツくなるわよ?

彼、マァムだけじゃなくてポップのことも大好きだからますます落ち込んでどんどん負の感情を自分一人で抱え込むわよ。

で、マァムがさらにヒュンケルを気にかけてポップのアタリがキツくなる地獄のループが完成しかねないわよ…?

マァムとポップに弱った姿を見られたくなくてクロコダインの部屋に避難したんでしょうし…

今はエイミさんとマァムとポップから少し離したほうがいいわ』

 

んぐっ…!

そ…れは確かにそうだけどぉ〜…!)

 

もっともすぎる意見にドラが顔を歪めて唇を噛み締める。

急に百面相をし出したドラをクロコダインが心配した様子で覗き込んだ。

 

「ドラ…どうした?」

「だ、大丈夫…なんでもない…!

ヒュンケル…

もし、嫌なら全然断ってくれて構わないんだけど…

っていうか忙しいだろうからむしろ断ったほうがいいと、私は思うんだけど…!

 

明日、一日私につ…付き合って…!」

 

「ああ、わかった」

 

(なんで即答!?)

 

ドラが歪めた顔をさらにくしゃくしゃにする。

 

「〜もうっ! じゃあ明日は朝イチで市場に行くからねッ!!

遅れたら置いてっちゃうから!!!」

 

じゃあまた明日!!

 

と、なぜかプンスカと怒りながら部屋を出ていったドラをクロコダインとヒュンケルは不思議そうに見送った。

そしてテーブルの上に置かれたままの料理に気が付く。

 

「おお、ドラの差し入れか。美味そうだ…

ヒュンケル、そう落ち込んでばかりいないで食べるといい。

腹が減っていては気分が沈む一方だぞ」

 

そう言ってクロコダインは揚げた魚を一つ取ってヒョイと口に放り込んだ。

 

「美味い!」

 

淡白な白身の魚は下味に柑橘系の汁を使っているのか、揚げ物だというのにサッパリとしていて食べやすかった。

ヒュンケルは料理の入ったバスケットから、飲み物が入っているグラスを取り口に含む。

ライムの果汁に少しハーブも入っているのかクセのある味だったが、氷で冷やされたそれは落ち込んだ気分を洗い流してくれるかのようにサッパリとした喉越しでヒュンケルは二口目からは一気にそれを飲み干した。

次いで料理に手を伸ばし始めたヒュンケルに対して、クロコダインは柔らかく微笑み温かい眼差しを向けたのだった。

 

 

 

翌日の早朝、ドラと連れ立って市場へと来たヒュンケルは手に大量の荷物を持っていた。

 

「ヒュンケルいるとお買い物たくさん出来る〜♪

あ、それ一度置いてきたら次お酒と果物と香辛料買いに行こう!

普段お世話になってる人たちに何か差し入れ作りたいから、ヒュンケルも手伝ってよね〜♪」

「差し入れ…? これをそのまま渡すのではダメなのか?」

「それじゃ面白くないでしょ?

…っていうか前から気になってたんだけど、ヒュンケルって魔王軍にいた時は食事どうしてたの?」

「部下が用意していた」

「今は?」

「あるものを適当に」

「えぇ…」

 

ドラがげんなりした表情で食事の大切さを説く。

 

「もっと美味しいものとか好きなもの食べるようにしなよ〜。

美味しいご飯はモチベーションの向上に繋がるんだから!」

「必要ない。体力が落ちさえしなければいい。

俺に日々の楽しみは無用だ」

 

(罪を犯した俺に、『幸せ』を味わう資格などない)

 

言葉にはしなかったが、ドラにはしっかりと伝わったらしい。

 

「いや、罪を償う気があるなら尚更日々を楽しまないとダメでしょ?」

 

首を傾げながらドラが言う。

その言葉の意味がわからず、立ち止まって少し目を見開いたヒュンケルにドラが続けた。

 

「ヒュンケルはもっともっと頑張って迷惑かけた人に償わないといけないんだから…

美味しいものたくさん食べて、ぐっすり眠って、気力も体力も充実させて、それでやっとたくさんの人の役に立てるんじゃないの?」

 

ま、どうするかはヒュンケルの自由だけど。

 

そう言って歩き出したドラの後ろ姿をヒュンケルはじっと見つめた。

 

(なぜだろう…ドラといると息がしやすい…)

 

マァムのように愛情の篭った眼差しで見るのでもなく、エイミのように憐憫が混じった眼差しで見るでもない。

深い情を向けられるとヒュンケルの心には自責の念が渦巻き、申し訳なさでいっぱいになる。

俺にそんな『心』を傾けてもらえるだけの資格など無いのだと叫び出したくなってしまう。

 

「何やってるの? 早く行こうよ〜」

「ああ…」

 

(きっと、ドラには一度負けているからだろうな。

肩肘を張る必要がどこにもない)

 

あまりにも数奇な人生を歩んできたヒュンケル。

21歳という年齢にもかかわらず、幼いまま止まっていた彼の情緒は最近になり少しずつ成長していた。

呑気に先を歩くドラはそんなことなど知る由もない。

 

(ヒュンケルに買い物頼んだらお店のお姉さんが軒並みおまけしてくれてラッキー♪

クロコダインは怖がられちゃうから市場に連れてけないし、マァムはこき使いづらいし、ポップには普通に断られるし…

次からはヒュンケル荷物持ちにさせて買い物しよう)

 

遠慮も配慮もないドラのその姿勢こそが、ヒュンケルの心を軽くしていることなど…

ドラの中からヒュンケルの表情を見ていたもう一つの魂が「あら…」と呟きふふ、と声を顰めて笑った。

 

 

 




エイミさん
男勝りな行動力の持ち主(公式)
行動力がありすぎてちょっと人の気持ちに鈍感なところがある。
喜んでもらいたい一心で事前の相談やリサーチ無しにサプライズパーティーとかフラッシュモブ企画しちゃうタイプ。
一般的な相手へのアプローチとして何も間違ってないが、恋した相手がヒュンケルだったという一点のみが残念。

ヒュンケル
精神年齢1桁。
精神年齢は低いがプライドがガン高いので弱みを人に見せられない。難儀。
例外はクロコダインとドラ。

ドラ
原作で岩持ち上げてたから小麦粉(10kg)と酒樽と瓶詰めの調味料20個くらい持てるでしょ、余裕余裕。
とヒュンケルを使い倒す。
重い買い物袋を持って頼られて喜ぶ小学生と同じく、ヒュンケルくん(7歳)の好感度が上がっているなどとは露ほども思っていない。

お姉ちゃん
有能。人の心の機微に聡い。
ヒュンケルの心の変化にも敏感に気付いた様子。
ドラが嫌がるだろうから黙っているが、ヒュンケル次第ではもしかして…と楽しみに二人を見守る。
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