ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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07_撃退と難題

「先生〜!」

「ピピィッ!」

「ポップ!! ゴメちゃん!! 来てはいけません! すぐ外に避難を!」

 

様子のおかしいドラを横抱きにして洞窟を出ようと出口を目指す。

異変を感じ駆けつけたポップとゴメちゃんにそのまま引き返すよう指示した時、もの凄い轟音を響かせて洞窟の天井が崩壊した。

ガラガラと岩が崩れ落ち、大きく開いた天井。

そこから差し込んでくる太陽の光を背に、禍々しいエネルギーと真っ黒な黒衣を纏った男がゆっくりと降り立ってきた。

忘れるはずがない、かつて自分が命を賭けて打ち倒した邪悪の象徴…

 

「やはり復活していたか…魔王ハドラーッ!!」

「ま、魔王!?」

「久しいな…勇者アバン」

「ゆっ、勇者…!? 先生が…」

 

事態が飲み込めないポップが目を白黒させて魔王ハドラーと自分へと交互に視線を向けた。

しかしハドラーがその蛇のように鋭く殺意に満ちた目でひと睨みすると体を縮こませ慌てて背後にまわり身を隠す。

今、自分の目の前に対峙したハドラーは記憶の中の奴よりも若々しく生命エネルギーに満ちている。

冷たい汗がつぅ…、と背中を伝った。

 

「アバンよ…かつて貴様はこのオレの野望をことごとく打ち砕き、あまつさえ我が命をも奪った!

あの痛みと屈辱は決して忘れん…!」

「お前はその数百倍にも及ぶ人間の命を奪ったではないか…!」

「フン! 笑わせるな。人間など我々魔族に比べれば家畜のような存在にすぎん…!

たとえ数万数億集まったところでオレの命とはつり合わんわ!!」

「変わらんな。いや、以前にも増して愚劣極まりない性格になった…!!」

「なんだとぉ~ッ!!」

 

魔王が激昂し纏っている禍々しいオーラをさらに激しく漲らせる。

 

「ポップ、ドラさんを連れて洞窟の外へ…!」

「先生…」

 

目を見開いたままぼうっとした様子のドラをポップに託そうとしたその時。

心配そうにドラの顔近くを飛んでいたゴメちゃんをドラがそっと引き寄せる。

そしてもう片方の手でポップの腕を掴んで「飛翔呪文(トベルーラ)」と呟いた。

 

「なっ…!?」

「うわわわわわわ…」

「ピィ~~~~!!」

 

「逃げるかアバンッ!!」

 

高速で移り変わる景色。

あっという間に島で一番広い海岸まで飛んでいき、ドサドサッと砂浜に全員倒れこむ。

すぐさま体勢を立て直したが、ドラが唱えた呪文でその場から動くことが出来なくなってしまった。

 

鋼鉄変化呪文(アストロン)

 

「な…っ!!? ドラさん、これは一体!?」

「うわあっ!」

「ピィ~!?」

 

身体を鋼鉄化し、敵の攻撃を弾く呪文『鋼鉄変化呪文(アストロン)』。

しかしこの呪文がかかっている間は一切の身動きが出来なくなってしまう。

今、この場で自由に身動き出来るのはドラ一人となってしまった。

 

「くくくっ…、ガキどもを身代わりにするかアバン…

貴様もオレの事をとやかく言えぬではないか」

 

追いついたハドラーが責め立てる。

 

「クックックッ…

まあいい、この小娘を殺したあと、お前達も一緒にあの世に送ってやる…

その前に教えておいてやろう。

オレはあるお方のおかげでこの世に蘇った…

以前よりも強靭な肉体を与えられてなっ!!

 

その名も『大魔王…バーン』!!」

 

大魔王バーン…!!?

 

「そうだ。貴様に敗れ死の世界を彷徨っていたオレを蘇生させてくださった偉大なる魔界の神だ!!

バーン様に忠誠を誓ったオレは大魔王の片腕として魔王軍の全指揮権を与えられたのだ!!

今のオレはバーン様の全軍を束ねる総司令官…魔軍司令ハドラーだ!!」

「なんということだ…」

 

大魔王バーン…

かつての宿敵ハドラーを蘇らせ、あまつさえ従えるほどの強者…!

しかもハドラーはかつての戦いの時よりも強大な力を持って蘇っている…

それほど底知れない存在ということか…!

 

「大魔王バーン様こそ我が主君にして全知全能の魔神!

貴様ら人間では太刀打ちできん!

 

クックックッ…アバンよ…

覚えているか、15年前の戦いを…

あの時と同じ言葉を今一度貴様に贈ろうではないか…

聞けば勇者の家庭教師などとぬかして徒弟を育てていると聞くぞ。

要求を飲むのであれば、そこの弟子どもの命だけは助けてやろう。

 

オレの部下になれ!!

そうすれば世界の半分を与えてやるぞ…!!」

 

「…断る!!」

 

「フッ… 弟子を見捨てるか…」

「仮にYESと答えても命を奪っていただろう…!

この大魔王の使い魔が…!!」

「…このオレを使い魔だとぉッッ !!? 許せぬ…!

まずはこの小娘から血祭りにあげてやるわぁ〜〜〜〜!!」

「ドラさん!!」

「ドラ〜〜〜ッ!!」

「ピェ〜〜〜ッ!!」

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

だれか私の名前、呼んだ?

世界が遠い。

音も遠くてすごく静かだ。

まわりの景色はちゃんと認識できているけれど、この世界に生きているのが自分1人だけになったような感覚。

雑音が一切なくなった世界で、なんとかぽつぽつと考えをつなぎ合わせていく。

 

さっきは危なかった…先生が火竜変化呪文(ドラゴラム)を使ってくるから思わず殺すところだった。

レベルが高い、自分より同等かそれ以上の戦闘力を持った敵が現れると否が応にも本能にスイッチが入ってしまう。

 

 出来る限り、自らの命を落とす行為はしてはならない

 自らに向かってくる敵を倒さなければいけない

 世界にとっての脅威は排除しなければならない

 

多分これは『(ドラゴン)の騎士』の抗えない本能。

いわば世界を保つ、神が創り出したシステムの一環だ。

長い年月の中でシステムとしてはだいぶ機能が弱まっているかもしれない。

それでも人・魔・竜の神が創り出した強固なシステム。数千年経っても根幹自体は揺らいでいない。

先ほどの洞窟内での修行でギリギリ理性を失わなかったのはドラの精神力が紙一重で勝ったのと火竜変化呪文(ドラゴラム)を使用したアバン自身が人類の脅威となり得ない、とシステムが判断したんだろう。

 

えーと…今自分が排除しなきゃいけないのは…

 

ああ…そうそう、目の前にいる、魔王ハドラー。

これはいらない。

世界にとって害悪だ。

まずはこれをかたづけないと。

 

 

    待って、ダメだよ…

 

 

とおくでだれかさけんでる?

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

表情が抜け落ちた顔で棒立ちになっている少女めがけて、魔王ハドラーは拳を振り下ろす。

ただ乱暴に殴りつけるだけの攻撃だが、人間、それも年端もいかない女にする攻撃としては過分に過ぎる。

鋼鉄変化呪文(アストロン)によって動けなくなったアバン、ポップ、ゴメちゃんは絶望的な表情でこれから起きるだろう惨劇をただ見ていることしかできなかった。

 

ドシャァッ

 

重い音と派手な砂塵を巻き起こして、ハドラーの拳は何の手応えもなく砂浜を大きく抉った。

この場にいる全員、ハドラーも含めて何が起きているのかまったく理解が出来なかった。

 

避けたのか…?

魔王の一撃を…このただの人間の小娘が…?

有り得ない。

何かの偶然だろう。きっとアバンが何か小癪な魔法をこの小娘にかけていたのだ。

相変わらず無表情にこちらに体を向けて棒立つ小娘めがけ、再度ハドラーは拳を振り下ろす。

しかしまたもサラリと躱される。

その次も、その次も。

 

有り得ない。

有り得ない。有り得ない。有り得ない。有り得ない。有り得ない…!!

 

「貴様…ッ!!? たかが人間の分際で…!!

許さんぞッ!! これでもくらえ!!」

 

ハドラーが両手を大きく天へ掲げエネルギーを集中させる。

強烈な熱量がハドラーの両手から溢れむくむくと膨らんでいく。

ただ事態を見守るしか出来ないアバン達をまたも絶望が襲った。

 

「くらえィっ!! 極大爆裂呪(イオナズ)…!?

 

…な、なああああああッ!!!?」

 

爆裂系呪文の最上位魔法、極大爆裂呪文(イオナズン)

放たれればこの海岸一体、全て吹き飛ぶ桁違いの威力の魔法だ。

ただの人間なぞ肉片一つ、骨の一欠片すら残らない。

この世に存在していたことすら最初から無かったかのように全て消し飛ぶだろう。

 

…しかし極大爆裂呪文(イオナズン)はハドラーの両手から放たれる前に不発に終わり集められた魔力が霧散していく。

ハドラーの両手は今、砂浜に無造作に転がっていた。

集約した魔力の残滓がパリパリと表面を這っている。

 

「な…な…」

「あれは、極大真空呪文(バギクロス)…?」

ピィ(ドラ)ッ、ピィ(ドラ)〜〜〜ッ!!」

 

ドラが放った極大真空呪文(バギクロス)はいとも簡単にハドラーの両腕を切断した。

理解が追いつかないハドラーの正面に立ったドラの額が輝き出す。

 

「き、貴様…その紋章は…!!?」

 

額に竜の顔を象った(ドラゴン)の紋章を輝かせ、ドラは自分の腰に装備していたロッドを取り出す。

ロッドが光り、ドラがハドラーに向けて必殺の構えをとった。

その表情はどこまでも静かで、ハドラーは自身の心が『恐怖』という感情に支配されるのを受け入れることが出来なかった。

 

ハドラーの体の中心、心臓めがけて、ドラが必殺技を放とうとしたその時…

 

「アバンストラッ…

「ドラ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

今まさに放たれようとしていたエネルギーが行き場を失いその場でスパークした。

竜闘気(ドラゴニックオーラ)と魔力で練られた高出力のエネルギーはほぼ爆発と言っていい威力で両者を吹き飛ばす。

ドラとハドラーの間で炸裂したエネルギーはハドラーを大きく吹き飛ばし、放とうとした側のドラは反動で砂浜に軽く投げ出される形で倒れこむ。

 

「きゃっ…!!

 

…おじいちゃん!! おじいちゃん来ちゃダメ!!」

 

正気に戻ったドラが息を切らせて走り寄ってくるブラスをハドラーから隠すように守る。

吹き飛ばされたハドラーは両腕を失いながらもキメラの翼を使いこの場から離脱した。

その姿が搔き消えた刹那、アバン達にかけられていた鋼鉄変化呪文(アストロン)も効果を消す。

 

硬直していた体が自由になった瞬間、アバンはドラに駆け寄った。

 

「ドラさん!!」

「ヒュッ… ゲホッ…!!

ゲホゲホッ…!! うえぇ… 」

「ドラさん!! しっかり…!」

「ドラや…!」

「せ、先生… 私、魔王を…!!」

「もう大丈夫です。魔王は退きました。

ドラさん、あなたのおかげです」

 

(違うんです。危うくみんなを殺してしまうところだったんです…)

 

魔王ハドラーに埋め込まれた『黒の核晶(コア)』。

その存在を思い出し、耐えられず胃の中のものを一気に吐き出してしまう。

 

(先生、私、魔王を倒せなくなりました…)

 

胃の中のものを全て吐き出しながら、その言葉だけは吐き出せなかった。

 

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