ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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73_集団戦闘(パーティバトル)

爆発によって燃え広がった炎がサババの港を覆い尽くす。

炎と煙でまったく視界が効かない中、ハドラー親衛騎団は煙の中にいるであろう勇者達が動き出すのを待った。

 

「…出てこんな…死んだか…?!」

「フッ…まさか! ハドラー様が強敵と呼ぶ相手が、こんな程度で死ぬわけがないでしょう」

 

人間の体がいかに脆いか…

死の大地を出てサババで初めて人間と遭遇しその脆弱さを思い知ったヒムが、激しい爆風に巻き込まれ勇者がすでに息絶えたのではと懸念する。

アルビナスがすぐにそれを否定したが、煙の中に動く人影は見当たらず短気のきらいがあるヒムは早々に痺れを切らした。

 

「引きずり出してやる!!」

 

勇者達がいた場所に向かってヒムが一歩踏み出そうとしたその時、煙の中から呪文を唱える声が響いてきた。

 

極大真空呪文(バギクロス)ッ!!」

 

周囲に立ち込めている煙と炎を吹き飛ばしながら風の刃が親衛騎団を襲う。

並の呪文などオリハルコンで出来た体に傷一つ付ける事も出来ないが、押し寄せる風は地面にめり込むほど重量のある体を吹き飛ばさんばかりの威力だ。

 

騎士(ナイト)・シグマが暴風に耐える仲間の前に進み出て仁王立ちになり胸の装甲を開いた。

開け放たれた胸部から姿を現した『シャハルの鏡』が絶え間なく押し寄せる風を全て吸い込んでいく…魔法をすべて吸い終えた鏡は俄かに輝きを放ち、ドラが放った時と寸分違わぬ威力の風の刃をアバンの使徒に向けて撃ち返した。

晴れた視界の中で親衛騎団が見たアバンの使徒達はドラが作り出した結界の中で身を寄せ合っている。

風の刃が地面を、石造りの道壁を切り裂きながらアバンの使徒に襲いかかろうとしたその時…

 

「たああぁぁぁーーーーーッ!!!」

「あっ…おい、待てッ!!!」

「あなたはじっとしていて!!」

「放せッ!!」

 

剣を手にしたノヴァ結界から飛び出し親衛騎団に立ち向かっていく。

止めようとしたドラが慌てて追いかけようとするが、マァムがそうはさせじと体を押さえ込んだ。

傷だらけになりながら風の刃をくぐり抜け、仁王立ちするシグマの首を跳ね飛ばそうとノヴァがその身を大きく逸らし手にした剣で斬りかかる。

シグマの目が見開かれていく…馬そのものの頭を持つシグマの表情がまるで人間のように驚愕の色に染まっていった。

 

「ぐぁッ…!!」

「なかなかやるじゃねぇか…少し見直したぜ…!」

「シグマ、油断しましたね」

「すまない、アルビナス…

ヒム、助かった。礼を言う」

「いいってことよ。俺もこいつがここまでやるとは思わなかった」

 

鋭い一閃がシグマの首を跳ね飛ばす刹那、ヒムがガラ空きになっていたノヴァの懐に拳を入れて動きを封じた。

シグマは己の不明を素直に詫びて胸部にあった『シャハルの鏡』を腕に付け直し、二度と油断をすまいと気を引き締める。

礼を述べるシグマに鷹揚に答えたヒムは、だらりと崩れ落ちた体を片手で持ちながら手の中の人間がとった行動に心の中で称賛を送った。

オリハルコンとは違い脆すぎる体の人間が襲い来る魔法に臆さず、傷だらけになりながらも仲間のために立ち向かってきた勇気と根性は認めるに値する。

 

「くっ…殺せ…!

情けは無用だ…ひと思いに、殺せよ…うぅっ…」

 

ヒムは手にした人間の評価をさらに上乗せした。

敵わぬと知るや、トドメを刺せと自ら申し出るとは…思った以上の肝の据わり方に散り際の潔さを良しとするヒムが相好を崩す。

 

「フハハハハハッ…!! いい根性してるじゃねぇかっ!!

気に入ったぜ! お前の覚悟に応えて華麗な最期にしてやるよ…!

美しく散った死に様をあの世で誇りなぁッ!!!」

 

言い終わらぬうちにノヴァの体を地上高く放り投げ、追いかけるように跳躍したヒムがその心臓を撃ち抜こうとオリハルコンの拳を構えた。

 

「あばよ!!」

 

放り投げられ、天を仰ぎ大の字になったノヴァがそのままくるりと身を翻し地上を向く。

逆光に照らされてヒムからはその表情が伺えないが、ギラリと光る瞳には諦めも絶望も浮かんではいなかった。

ヒムが異変を感じるより早く、眩い斬撃が天から降ってくる。

 

「…アバンストラッシュッ!!!」

「なぁッ…?!!」

 

ヒムは一瞬、ワケがわからなかった。

目の前に浮かんでいるのがたった今、ノヴァの心臓めがけ振り抜いた自分の腕だと理解出来なかったからだ。

 

今、自分の腕を斬り飛ばしたのは誰だ…!?

空中には自分と、全身傷だらけになって死にかかっていた自称勇者の小僧しかいなかったはず…

宙に浮かんでいる腕の向こうには剣を手にこちらを見下ろす小僧の姿が…

 

(いや、違う。こいつは…!!)

 

空中に浮かぶノヴァの姿が溶け出して一回り小さくなっていく。

体を覆っていた魔力の外殻が煙のように霧散すると、中から現れたのは額に(ドラゴン)の紋章を輝かせその身に傷ひとつ負っていない少女…

勇者、ドラが空中に佇みヒムを見下ろしていた。

 

ヒムが視線のみを動かして地上にいるアバンの使徒を見る。

結界の中、アバンの使徒に体を抑えられ目の前にいる少女と同じ顔がこちらを見上げている…と、思った先からその姿が溶け出し先ほどまでヒムがトドメを刺さんとしていた小僧が姿を現した。

 

(やられた…ッ!! 変身呪文(モシャス)か!!!)

 

ほんの一秒にも満たない時間。

状況を理解したヒムが体勢を立て直そうと体を捩った時、ドラの声が無音の空中に響き渡った。

 

「ヒュンケルッ!!!」

 

「ブラッディースクライドッ!!!!」

「ガッ…アアァーーーッ!?」

 

地上から放たれたヒュンケルの必殺技がヒムの左顔面を吹き飛ばす。

束の間に右腕と左の視界を失ったヒムが為すすべもなく落下し地上にオリハルコンの身を打ちつけた。

シグマが駆け寄りヒムを助け起こす。

 

地上に降り立ったドラも仲間のもとに身を寄せ、手にした剣を結界の中に浮かんでいた杖の本体に収めてあらためてハドラー親衛騎団と対峙した。

その顔に絶やさず微笑を湛えていたアルビナスが今は氷の女王も真っ青なほど凍てつく瞳でドラを見据えている。

シグマにもたれかかりこちらを睨み付けるヒムが怒りに声を震わせてドラに罵声を浴びせた。

 

変身呪文(モシャス)で姿を入れ替えるたぁ…騙し討ちみてぇな真似するじゃねえかッ!!

てめえ、勇者のくせにそんな姑息な手を使って恥ずかしくねぇのか!? あぁッ!!?」

「全然、まったく。というか、自分よりも明らかに格下の相手を襲って船と港を破壊した奴に姑息とか言われたくないなぁ。

あとこれは『姑息』じゃなくて『搦手』っていう戦法。

ひとつ賢くなったでしょう?

よかったね、帰ってハドラーに報告して頭撫でて褒めてもらいなよ」

 

少し注意していれば変身呪文(モシャス)によってノヴァに擬態したドラが手にした剣が、オーラブレードではなく細身の仕込み刀だというのが一目瞭然だったはずだ。

戦闘のセンスはズバ抜けていても経験の浅さが目標以外の物に対する注意力の無さに表れている。

おまけにハドラーによって作り出された最強のオリハルコン戦士という絶対の自信と自負が慢心を生み出した。

こちらを侮っているから痛い目を見たのだ。悪いのはどう考えても親衛騎団側である。

 

ドラの言い分はヒムの逆鱗に触れたらしい。怒髪天を衝いた様子で砕けるのではと思うほどギリギリと奥歯を噛み締めている。

ヒムほどではないが、ハドラーの名を出されて小馬鹿にされた親衛騎団は全員が怒り心頭といった雰囲気だ。

襲いかかってこないのはひとえにハドラーから託された任務を全うせねばという自制心からだろう。

ギラギラとした殺気が肌を刺す。レベルの低い人間ならばこの場に立っただけで気を失ってしまいそうだ。

 

「ヒム、あなたは勇者ドラを攻めなさい。

フェンブレン、シグマ、ブロック、勇者は私とヒムが相手します。

他の連中を私達に近づけさせないようになさい!」

「ハハハッ!! 願ったり叶ったりだぜ…野郎、ブッ潰してやるッ…!!」

「承知…」

「心得た!」

「ブローム!」

 

アルビナスが出した指示を受け親衛騎団は各々戦闘体勢をとる。

一方、ドラもアルビナスとヒムのターゲットが自分だと見てニッ、と口角を上げて好戦的な顔になった。

 

「いい感じに頭に血が上ったみたい…好都合〜。

手筈通りに、ヒュンケルは私の援護を、マァムはブロックを、クロコダインはシグマを相手して。

ポップとノヴァはこの場で待機。

ポップ、いつでも撃てるよう極大消滅呪文(メドローア)の準備をお願い」

「応ッ!!」

「ええ、まかせてっ!」

「了解した」

「まかせなぁ…、特大のやつブッ放してやるぜ…!!」

「………」

 

「よしっ、目的は敵の早期撤退!

 

先手必勝ッ、極大電撃呪文(ギガデイン)ッ!!!」

 

「なっ…!??」

「ぐぅッ…!!」 

 

ドラが放った凄まじい雷撃に親衛騎団が僅かばかり怯んだ。

呪文が効いたわけではないが目の前を瞬間的に幾筋もの稲光が走ったため目が眩んだのだ。

その僅かな隙を突いてヒュンケルがアルビナスに狙いを定めてブラッディースクライドを放つ。ヒムが咄嗟にアルビナスを抱えて飛び退いた所に今度はドラがアバンストラッシュ・アローを放って遠距離から攻撃した。

 

「チィッ!!」

 

開始早々防戦状態になってしまったヒムが舌打ちをする。

アルビナスはヒムの腕の中から抜け出しお返しとばかりにその口から毒針を吹き出したが、ヒュンケルに毒針は届かなかった。

ドラが身を滑らせてヒュンケルを庇ったからだ。竜闘気(ドラゴニックオーラ)で覆われたドラには毒針程度は意味を為さない。

自分達の予想をはるかに上回る勇者の手強さに親衛騎団の智将であるアルビナスは冷静な仮面の下で必死になって攻略法を探った。

 

ドラとヒュンケルが二人を圧倒している一方、マァムはその俊敏さでブロックを翻弄し仲間を助けようとする動きを封じ込んだ。

クロコダインもシグマを相手取り自身の必殺技、獣王会心撃を放つ。

凄まじい闘気の渦を受けたシグマは得意の跳躍で逃げることなく、不敵な笑みを浮かべて渦の中を進み一歩、また一歩…とクロコダインへと歩み寄った。

 

 

そこかしこで凄まじい戦いが繰り広げられる中、結界の中のポップとノヴァはひたすら待ちの体勢をとっていた。

ポップは手に火炎呪文(メラ)氷結呪文(ヒャド)を展開し、呪文を放つタイミングを逃すまいと戦況を見極めている。

ノヴァはと言うと、あまりにもレベルの高い戦いを前にずっと無言になっていた。

その二人の背後から忍び寄るのは…

 

「その首、貰ったあぁッ!!」

「なっ…!?」

「うわあぁッ!!!」

 

土中から突然飛び出してきたフェンブレンに驚きポップの手の中の魔力が霧散しそうになる。

 

「何、そう怯える事はない…「痛い」と感じる間もなく首を飛ばしてやろう

ムゥッ!!?」

「ノヴァ!!」

「たあッ!!!」

「おのれ…三下が!!!」

 

ノヴァが懐から繰り出した小刀がフェンブレンの腕に突き刺さる。

大きなダメージを与える事は出来ないが、オーラブレードで強化された小刀はオリハルコンを貫いた。

親衛騎団の中で一番自尊心(プライド)が高く傷が付くのを嫌がるフェンブレンが次々と投擲される小刀を弾き返しながら後退りノヴァとポップから距離をとる。

するとそこにヒュンケルの声が響いてきた。

 

「ポップ! ノヴァ! 避けろッ!!!」

「えっ!?」

「何…うわぁッ!!」

「ガッハァッ!!!」

「グハッ…」

 

何かと思い咄嗟に身を屈めた二人の上をヒムが高速で通り過ぎていった。

ヒュンケルに投げ飛ばされたヒムはその勢いのままフェンブレンに激突し、体のあちこちに切り傷を負う。

全身の八割が鋭利な刃で構成されているフェンブレンに体当たりをしたも同然なのだ。むしろ切り傷程度で済んだのはフェンブレンが咄嗟にヒムを傷つけないよう出来るだけ刃が当たらない体勢をとったおかげである。

 

「ぐああああッ!!!!」

 

今度はまた違うところから叫び声が響いてきた。

ヒムとフェンブレンがその叫び声に反応して見た先には、クロコダインが放った新必殺技『獣王激烈掌』を受けて左腕を捻り切られたシグマが疼くまっている様子だった。

交戦中だったアルビナスとブロック、そしてヒムとフェンブレンが仲間の身を案じダメージを負った体でシグマの傍に駆けつける。

 

ハドラー親衛騎団が一箇所に集まったその瞬間…

 

「ポップ! 今だよ!!」

「よっしゃぁ!! みんなどけぇーーーッ!!!

 

極大消滅呪文(メドローア)ッ!!!!」

 

ポップの極大消滅呪文(メドローア)が凄まじい閃光を放ちながら全ての物質をかき消していく。

地面を、港を、民家を、岩礁を、そして親衛騎団を…

全てを飲み込んで巨大な光の矢は海の彼方へと消えていった。

 

「おおう!! たいしたもんだぞ、ポップ! あの強敵どもを一気に倒すとはなあ!!」

「へへっ…おっさんの新必殺技のサポートがあればこそよ!!」

「すごいわポップ! あんなに強力な呪文を身につけていたなんて…」

「いかにオリハルコンと言えど、敵わぬ呪文があったようだな…」

「ねぇ、ドラ…ドラ?」

 

敵を一網打尽にし、喜びに沸いている仲間達をよそにドラが今しがたポップが極大消滅呪文(メドローア)を放った方向に向けて片手に氷結呪文(ヒャド)を、もう片方の手に火炎呪文(メラ)を展開していた。

 

「おい、ドラ…まさか…」

「…全員、気を抜くなっ!! まだ何かいるぞ!!」

「!?」

 

ヒュンケルが土中に何かの気配を感じて剣を構えた。

ハドラー親衛騎団が存在していた場所の土が盛り上がり、地面の中から消滅したはずのオリハルコン生命体が次々と這い出してくる。

 

「そのまま動くな」

 

ピタリ、と。

ドラの声に反応した親衛騎団は地面から抜け出し立ち上がった姿勢のまま人形のように動きを止めた。

それもそのはず。

ドラの手には先ほどポップが放ったものとまったく同じ光の矢が出現し親衛騎団に向けられていたのだ。

 

ブロックだけが動くなという言葉に反し、前のめりに倒れ込んだがそれも無理からぬ事。

背面をごっそりと削り取られ片足も千切れてしまっている。

巨体と重量を活かして命懸けで仲間を土中に押し込めたブロックをヒムやシグマは助け起こしたくて仕方なかったが、今動けばそれこそ全滅を免れないかもしれない。

親衛騎団をもどかしさと緊張感が苛む。

 

「さて、このまま撤退するなら私達は追わない。

まだ向かってくるようなら今度こそ全員を消滅させる…

 

さあ、どうする?」

 

ドラの質問にアルビナスが唇を噛み締め、ヒムは残った左腕の拳を握り込んだ。

答えなど一つしかない選択肢を与えられた親衛騎団はなお、その誇り高さゆえに返事を返す事が出来なかった。

しばし無言で見つめ合うハドラー親衛騎団とアバンの使徒…

 

と、そこに…ハドラー親衛騎団の後ろからこの場にいるはずのない人物の声が響いてきた。

 

「フッ…フハハハハッ…

我がオリハルコン部隊がこうも圧倒されるとはな…

 

さすが、我が宿敵…

アバンの使徒よ…」

「ああっ…!! あなた様はっ…!!!」

 

声が響いてきた空間に人影が浮かび上がる…

 

「ハド…はああああ〜〜〜〜〜っ!!?」

 

突然上がった素っ頓狂な叫び声に、緊張感に包まれていた親衛騎団とアバンの使徒が何事かと一斉にドラを見た。

 

「ドラ?」

「おい、どうしたんだよ急に…」

 

視線を集中的に浴びたドラは仲間の問いかけにも反応せずあんぐりと口を開けたまま空中に浮かんだハドラーを凝視する。

原作では赤かった額の角は真っ黒に染まり、青かった肌も青みがかったグレーになったハドラーがそこにいた。

 

 

 




ドラ「くっ…殺せ…!」

ファンタジー世界の(一応)女騎士として一度は言ってみたかったなどと供述しており…
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