「ハド…はああああ~~~~~っ!!?」
「ドラ?」
「おい、どうしたんだよ急に…」
素っ頓狂な叫び声を上げたドラが間髪入れずに両の手に展開していた呪文を
驚く仲間達と咄嗟に身構える親衛騎団には目もくれず、ドラは親衛騎団の頭上へと狙いを定める。
「
ハドラーめがけ放った光の矢が宙を駆け抜ける。
ドラの手から放たれた
ポップが
(
「ちょっとハドラーッ!! 何その姿!!?」
ドラがハドラーの姿を最後に見たのはバランとの親子喧嘩の後、ポップがザボエラにハニートラップを仕掛けられていた時だ。
その時のハドラーの額に角は無く、肌の色も青磁に近い緑色だった。
原作において超魔生物と化したハドラーの角の色は赤かったし肌の色もそれほど変化は無かったように思う。
それがどうだ。目の前のハドラーは頭に兜、体は全身を覆う
原作の彼奴は全く違う、肌は青みがかったグレーでは無かったし少なくとも角の色は怪しく艶めいた漆黒ではなかったとドラは
「ククッ…気づいたか。さすがだな勇者ドラよ…」
ハドラーはドラのそば近くに浮いている杖にチラリと視線をやり、口角を上げる。
「久しく見ぬうちにまた強くなったようだな…しかし強くなったのはお前だけではないぞ!
オレもまたザボエラの手により超魔生物となった。もはやかつてのオレとは比べ物にならんほどの強さを手に入れたのだ…!」
(あの毒親!! 余計な事をッ!!!
…っていうか、ハドラーもそこじゃないッ!!!
その格闘ゲームの2Pカラーみたいなカラーリングどういうことだって聞いてんだけどッ?!!
明らかに黒の
…伝わってくる魔力にノイズが入りまくってて物凄く不安定…!
『爆弾を抱えてる』んじゃなくてハドラーそのものが『爆弾』って言っていい状態になってる…!?
これ、もしかして…とんでもなくややこしい事態になってるんじゃ…)
ダラダラと冷や汗をかきながらあれこれ考え込むドラをよそにハドラーが喋り続ける。
親衛騎団も、ハドラーの言葉を遮る事なく全員口を閉じ姿勢を正しておとなしくしていた。
「今、オレの望みはたった一つ!
魔族の身体も、残された命も、かつて魔王だったという栄華も!
全てを捨て去り手に入れたこの力で!
我が宿敵である貴様らアバンの使徒を打ち倒すッ!!
それだけがオレの望みよ…!!
死の大地に足を踏み入れる資格があるのは、オレと渡り合える強さを持つ者のみ!!
ドラ…お前達だけで良いのだ。大魔王様の御前をつまらぬ戦士の血で汚すわけにはいかぬ…!!」
魔力によって投影されていたハドラーの
「待っているぞ!! 一刻も早く来いっ!!
死の大地へ…!!」
バチンッ!!
弾けるような音を空中に響かせ
「それでは…我々も失礼しましょうか。
思わぬ力の入った
このお返しは死の大地にて…
いつでもお越しください…歓迎しますよ。
…では!」
クスリ、と性別の無い金属生命体であるはずのアルビナスが妖艶に微笑み、
アルビナスを追いかけるようにして親衛騎団が次々と死の大地へ向かって飛び去っていく。
ただ一人、ヒムだけがその場に残ってドラとヒュンケルを睨みながら佇んでいた。
「勇者ドラ、そしてヒュンケル…
吹っ飛ばされた顔と右腕の礼は必ず返してやる!
だがハドラー様の命令には絶対服従だ。
貴様らをぶちのめせって命令が下ることを祈ってるぜ…!!」
それだけを言うとヒムも
敵の気配が完全に無くなり皆が警戒を解いたところでマァムが本来の目的である人命救助に動き出した。
「みんな! 手分けして怪我人を助けましょう!
まずは一箇所に集めて重傷者から手当てを…!」
「応とも!」
「ああ!」
「………」
力強く応えて散開する仲間達をよそにドラは無言でぐるぐると思考を巡らせていた。
ザムザから奪った
あれが無ければ超魔生物改造の核となる技術が得られないのは、中身を検めたドラも確認済みだ。
(もし…ザボエラが無茶苦茶なやり方でハドラーを超魔生物に改造したら…
この世界の『魔力』は宿主のイメージに大きく作用される…
体に負担がかかり過ぎて生命の危機に陥っている状態のハドラーが、強くなりたい一心でその生命をギリギリ繋ぎ止めていたら…
『強くなりたい』という願望と生存本能に黒の
黒の
もしかしてハドラーは原作よりも強く、一色触発の状態になって…ッ…)
「ゔっ、ゔえぇっ…!!」
ぞおっと背筋が凍りつく。
良かれと思ってとった行動が最悪な事態を招いたかもしれないという事実にドラは喉の奥から苦いものが込み上げてきた。
ポップとクロコダインがドラの異変を察知して駆け寄ってくる。
「おい! 大丈夫かドラ!!」
「どうした!? 酷い顔色だぞ…!?」
蹲るドラを心配する二人。
ドラは血の気の引いた顔で、へらりと笑って返事した。
「だ、大丈夫大丈夫…ちょっと気分が悪くなっただけだから…
ごめん、少しだけここ離れるね…
すぐ戻るから…」
そう言ってドラは
「あっ、待てよドラ! おいっ…!!」
「ドラ…!!」
残された二人は顔を見合わせ、次いでドラが飛んでいった方角を心配そうに見つめたのだった。
「ザムザァーーーッ!!!
あんたんとこの毒親ッ、何とんでもなく余計な事してくれてんの!??
「うっぎゃああああ~~~~ッ!!!」
デルムリン島に爆音が響き渡る。
「なっ、なんだッ!? 敵襲か!?」
「何事だ…なんだあの花火は!?」
「一体何が…!??」
ブラスの護衛を任され、デルムリン島に滞在していた騎士三人が剣を手に持ちブラスの住居を守り固めた。
住居の中からのんびりと出てきたブラスが空を見上げてにっかりと笑う。
「おや、ドラが戻っておったようですな」
まるで動じていないブラスの様子を見るに非常事態では無いらしいと判断した騎士達が抜き身の剣を鞘に収めた。
いっとう年嵩の騎士がブラスに何事かと問いかける。
「ブラス殿、あれは一体…」
「いやはや申し訳ありませぬ…驚かれましたかの?
あれはドラが作ったオリジナル魔法ですじゃ。
ああして大空に美しい花を咲かせる魔法でしての…あの美しい景色を眺めながら皆で
「ほぉ…勇者殿の魔法でしたか」
「いや、なんとも美しい魔法ですなぁ…」
「勇者殿の魔法は魔物を倒すだけでなく、こうして人々を楽しませることも出来るのですね!
素晴らしいです!」
「ほっほ、そうなのですじゃ!
あの子の魔法はそれはそれは人々の役に立つ素晴らしい…」
間もなく黄昏時に差しかかるデルムリン島の海上に次々と打ち上がる花火を眺めながら談笑するブラスとロモス王国の騎士達。
花火の中心になんだか人影が見える気がするが、まあ気のせいであろう。
しばらく続いた突然の花火大会に、デルムリン島の住人達は皆空を見上げて笑顔を浮かべたのであった。
ただ一人を除いて…
「ふぅ、スッキリした。
よし、戻ろ」
憂さを晴らし終えて気が済んだドラは急ぎサババへと戻り人命救助を続けた。
途中、心配していたポップとクロコダインが駆け寄ってきて具合は大丈夫なのかと聞かれたので笑顔で答える。
「うん! もう大丈夫!
心配かけてごめんね!
(鬱憤を)全部吐き出してきたから…」
「!! あまり無理はしないようにな…」
「えへへ…はぁい」
クロコダインに頭を撫でられてドラがふにゃりと相好を崩す。
ドラの頭を撫でながら、クロコダインは少女の心情を慮りいささか沈んだ気分になった。
(なんと…胃の中のものを全て吐き出すほどの衝撃を受けていたとは…
いや、無理もない。
まだほんの12歳の少女が、こうも激しい戦闘の末に超魔生物と化したハドラーと相見えたのだから…
それでも、俺たちはこの少女に…
比類なき強さを持つ勇者ドラに頼るしかないのだ。なんとも情けない話ではないか…
俺に出来る事はドラの負担が少しでも減るよう、命懸けで戦うことのみ…)
あらためて決意を固めるクロコダインを尻目にドラをじぃっと見ていたポップはというと…
(こいつのこの表情…
どっかの誰かがドラの憂さ晴らしの犠牲になった気がすらぁ…
…ま、俺じゃないならいいか。
触らぬドラに祟りなしだぜ…)
非常にカンの良い兄弟子は日毎にドラの解像度を上げていた。
ドラのオリハルコン並みの精神力がパワーアップしたハドラー如きで音を上げるほどヤワではないと本能が告げている。
そんな二人の心情など露知らぬドラは元気良く怪我人達を治療して回った。
「
(まあ今はあれこれ悩んでも意味ないよね! あとでゆっくり考えようっと!
あ、そうだ! ザムザに対策案いくつか出させようっと♪)
理由はあれど理不尽すぎる暴力がザムザを襲う…!
ドラのオリジナル魔法。美しい花火を楽しめる素敵な呪文。
他にもたくさん種類がある。
間違っても人に向けて撃ってはいけない。