「…作戦基地のはずが、一気に野戦病院に早変わりか…
前途多難ですなレオナ姫」
「でも死人が出なくて良かったわ。生きてさえいれば立て直しは出来ます」
「しかしその、立て直しの肝心要である勇者殿が…」
バウスンが作戦基地として使用している部屋の隅に目をやった。
そこには布を被った丸い置物…ではない。
精神安定剤の役割を担っていたゴメちゃんは行方不明。いつもそばにいて明るく励ましてくれるポップや持ち前の大らかさで不安を払拭してくれるクロコダインもおらず、果てには愛用していた武器でさえも飛び去っていってしまったのだ。
並大抵の事では動じない精神力を持つドラだが精神的支柱が近くに無いと途端に脆くなる。
先ほどからメルルやエイミが何度も声をかけてはいるが何も反応を示さないどころか
「もうっ! 仕方ないわねぇ~…」
親友のレオナがつかつかとドラのそばに歩み寄った。
「ちょっと、ドラちゃん!
心細いのはわかるけど今はいじけてる場合じゃないのよ!?」
「………」
「勇者のあなたがそんな調子じゃみんなが不安に…」
「…ッ!!? お兄ちゃんッ!!!」
「きゃあっ!!」
親友のレオナの言葉にもぞもぞとバツが悪そうに身じろいだドラだったが何かにピクリと反応した次の瞬間、バッと布を脱ぎ去り駆け抜けるように外へと飛び出して行った。
「ちょっ、ちょっとドラちゃんどこ行くのよぉ~~~!!」
後ろから響くレオナの声も聞こえないかのように
猛スピードで空中を駆け抜ける中、ポップとヒュンケルらしき人影とすれ違ったがそれすらも今のドラには瑣末事であった。
(お兄ちゃんが近くにいる!! お父さんも!!!)
気配が近づくにつれ気持ちが逸りドラは無意識にスピードをグンと上げた。
もはや弾丸と言ってもいいような速度で飛行するドラはついに視界にその姿を収めると海上スレスレを飛んでいるドラゴンの一団に向けて急降下を始める。
グングンと近づく海面、大きなドラゴン、その背に跨りこちらに向かって目を見開いている大柄な男性…
「おっ!!! とっうっ!!! さ~~~~~んッ!!!!!」
「グッ…!!!」
「ギュオォンッ!!!?」
ザッパアァァン…!!
突如急降下してきた娘の猛烈な
しかし場所が地上ならばいざ知らず、今バランがいる場所は空飛ぶドラゴンの背の上である。
衝撃を逃す場所が無く、猛烈な勢いそのままドラゴンごと派手な水飛沫を上げてバランとドラは海中へと姿を消した。
「バラン様!!」
「父さん!!!」
「今のは…ドラか!?」
「ヒュゥ~ッ♪ さすがお嬢、激しいぜぇ!」
「感心しとる場合か!? お二人を引き上げるぞ! 行け、ガメゴンロード!!」
「グォォン!!」
水中での行動を得手としているボラホーンとガメゴンロード、そしてクロコダインが慌てて海中に姿を消した二人を追った。
ディーノとラーハルト、ガルダンディーが空中にて待機する事しばし…
「きゃああっ!! 冷たいっ! 寒いっ!!」
ざぷっと海中からドラが飛び出してきた。
氷こそ浮いてはいないがオーザムの気候を作り出している死の大地近海の海流は極寒と言っていい。
ガタガタと震えながらいくつも
「ディーナ!」
「ディーナ様!!」
「お嬢!」
「あ! お兄ちゃん~!!
久しぶり~! 元気だった!?」
「う、うん…ディーナも相変わらず元気そうだね…」
長い黒髪を絞って水気を取りながら「うん!」と元気良く応えるドラ。
自分もこうなる事は予想出来たはずなのに少しは勢いを抑えられなかったのか…
ディーノが妹をどこか残念な目で見つめていると下からザパァ…!と大きな水音が聞こえてきた。
「あ! お父さん大丈夫だった~?
ごめんね、嬉しくて勢い止められなかったの〜!」
「…………そうか」
あはっ、と笑いながら微塵も謝罪の念が込められていない謝罪を受けたバランはたっぷり間を置いて一言だけ返した。
眉間に深く刻まれた皺が彼の内心を表しているようである。
ドラが自分のまわりに浮かべているものと同じ火球をバランのまわりにも浮かべた。
バランに続き、バランが騎乗していたドラゴンを背に乗せたガメゴンロードが海面に上がってきた。
クロコダインとボラホーンもガメゴンロードの背に這い上がる。
「おお、やはりドラであったか」
「クロコダイン!? え!? なんでクロコダインがお父さん達と一緒にいるの?!」
「うむ…それがだな…」
クロコダインから説明を受けたドラの顔が徐々に喜色に染まり頬が好調していく。
「ほ…、本当…!? お父さん達、一緒に戦ってくれるの?!
お兄ちゃんも!? 竜騎衆のみんなも!?」
きゃあっ!!と嬉しさに悲鳴を上げてドラはふわふわと徐々に上昇していく。
文字通り『天にも昇る心地』なのだろう。
「じゃあじゃあ、とにかく一緒にサババに行こう!
色々話さないといけない事もあるし、作戦も立てなきゃいけないし、渡したいものもあるし、お友達も紹介したいし、一緒にご飯食べないといけないし、一緒にお出かけしないといけないし、やる事いっぱいあるもんねっ!!」
「ああ、そうだな」
後半になんだか余計なものが含まれていた気がするが、指摘するのも無粋というもの…と、クロコダインは大らかにカカッと笑って流した。
そうしてあらためてサババに向けて出発したドラとバラン達一行。
港に着くや現れたドラゴン軍団に再編され守備についていた兵士達が騒ぎ出したが、ドラが取りなし事なきを得る。
しかしさすがに作戦基地までは連れて行けないのでさて、どうしたものかと考えているとレオナとエイミが港に駆けつけてきた。
出会い頭に脳天にチョップ一発、突然飛び出したドラを叱ったレオナだったが近くに控えるドラゴン軍団を見ても悲鳴を上げなかったのは王族として受けた教育の賜物だろう。
涙目のドラからかいつまんで事情を聞いたレオナは、気を取り直して14歳とは思えない胆力でバランの前に進み出て挨拶をした。
「…お会いするのは、二度目になりますね。あらためてご挨拶を。
パプニカ王国王女、レオナと申します。
ドラさんとは大変懇意にさせていただいています」
二度目、と言われたバランは記憶を辿り初めて娘に出会った時の事を思い出した。
そういえばその時娘のそばにいた人間の中に目の前の少女もいたな…と思い当たる。
「娘が世話になっているようだな、礼を言っておこう。
しかしお嬢さん、私にそのような慇懃な態度は不要だ。
今は娘のため仕方なく手を組みはするが、人間と敵対する意志に変わりはないのだからな…」
「……!!」
バランの言葉と気迫に息を飲むレオナだったが、そこにドラが押し入ってきた。
「お父さん! レオナってね、私の親友なのっ!
レオナにひどい事言ったら私、お父さんの事嫌いになっちゃうからね!?
レオナ、そういう事だからお父さん達が駐留出来る場所教えて。
バウスンさん通して全員に駐留場所には近づかないよう言っておかないと…
それからあとは…」
レオナの肩に乗っかり緊張感なく喋り続けるドラにレオナは思わず吹き出した。
その様子を見たバランも、ほんの少しだけ目を細めてその様子を見つめたのだった。
親方! 空から女の子が!!(
海底までノンストップで行った結果ドラゴンが水圧に耐えられなくて気絶した。
引き上げられた後、ドラがちゃんと回復魔法かけた。
バヒュンッ…!!
二人のすぐ横を高速で風が吹き抜けていった。
「へっ?」
「ドラ…?!」
「姐さん!!!」
ドラを追いかけようと柄を握っているヒュンケルごとUターンしようとする杖をポップが慌てて引き止める。
「おわっ!? ちょちょちょ…
ちょっと待て! どこ行く気だよ!!」
「放しやがれマの字! 姐さんが行っちまう!!」
「行かせるわけねぇだろッ!! ひとまず一旦サババに戻るぞ!!
また入れ違いになったらどうすんだよ!!」
「そうだ、それにチウとバピラスを早く休ませねば」
「ううぅ…姐さ〜ん…」
((ドラ…お前は大人しく待つ事は出来ないのか…))
疲弊した顔で超特急でサババに戻る兄弟子二人。初めて心が一つになった瞬間であった。