「そこでね、私、ハドラーを仲間に出来ないかなって思ってるの」
「やっぱこいつ頭のネジ一本外れてるわ」
ポップのその一言を皮切りに話を聞いていた面々が次々と口を開く。
「ドラよ…
「ああ、クロコダインの言う通りだ。奴を仲間になど、到底有り得ん。
よしんば仲間にしたところで共闘など出来ようはずがない」
「私もヒュンケルに賛成です。かつて魔王ハドラーはホルキア大陸に拠点を置き、パプニカ王国は長く魔王の軍勢に苦しめられました…
パプニカ王国に仕える臣下としても、一個人としても賛同しかねます!」
「エイミの言う通りね。ドラちゃん、さすがにそれは無いわ~」
「占うまでもありません…かつて人間に非道の限りを尽くした魔王を仲間にだなんて…そんな…
不吉な未来が見えます」
「ドラ…冗談を言っている場合じゃないのよ?」
「勇者殿、私もその意見には反対します。確かに奴の強さからして自軍に引き込めるなら戦力としては大きいでしょうが…味方の士気が下がります」
「何を考えているんだ、君は! 大魔王の手先を仲間にしようだなんて…
君には勇者としての誇りは無いのか!?」
「ハドラーって確か父さんが魔王軍にいた時に指示役だったって人だよね?
父さんとラーハルトがあんまり強くないって言ってたけど…
仲間にする意味あるの?」
「ピィィ~!」
「わあ、非難轟々~」
集中砲火を浴びたドラは笑顔を崩さず、皆の反応を楽しむかのように「あはは」と笑って説明を続けた。
「ごめんごめん、言い方が悪かったってば。
『仲間にする』というよりも正しくは『敵対出来ない』が適切かな。
ハドラーはね、絶対倒せないし倒しちゃいけないの」
「…? どういう意味だ、ドラ。
奴を倒さなければ大魔王バーンのもとには辿り着けまい」
ヒュンケルの言葉にドラが笑顔を引っ込めて真顔で言葉を返す。
「無理だよ、ヒュンケル。
ハドラーの体の中には大規模な爆発を引き起こす爆弾…
『黒の
倒した瞬間にその場にいる人間だけでなく死の大地とその周辺の大陸が吹き飛ぶよ」
「「「「「!!?」」」」」
「嘘だろ…?!」
「本当なのドラちゃん…!?」
「ちょっと待ってくれ! なぜ君がそんな事を知っているんだ!?」
ハドラーの体内に大陸を吹き飛ばすほどの危険物が埋め込まれているという事すら驚愕に値するのに、それが爆発した時の規模まで何故知っているのかとノヴァが詰問する。
「む、小僧はまだ知らなんだか。ドラは二つの魂をその身に宿していてな…
我らには知り得ぬ敵の動向や秘密といった叡智を授けてくれるのだ」
「お姉ちゃんは凄いんだから! ちなみにお兄ちゃんはお姉ちゃんと話した事あるよね?
ポップ達を殺そうとするお父さんを命懸けで止めてくれたのも実はお姉ちゃん」
「あの時の…そう、そうだったんだね…」
バランの『共鳴』による精神攻撃で魂が分離した時、意識を失っていたドラが目覚めた後。意識を失う前のドラと何か変わってしまったような違和感を思い出したディーノが腑に落ちた顔をして呟いた。
クロコダインのフォローでドラの中にある『魂』についての説明を挟みながら、話はハドラーの中にある黒の
「…それで? 奴の中に黒の
厄介な事柄が増えただけに思えるが…」
「倒さねば大魔王バーンのもとには辿り着けず、かといって倒せば大勢の味方を巻き込み爆発…」
「それってバーンも爆発に巻き込まれちゃうんじゃないの?」
「ハドラーは自分の肉体を改造しただけに飽き足らずなぜそのような自殺行為を…
自分が死んでも大魔王バーンのもとに敵は通さないという、忠誠心から来る行為なのでしょうか?」
「あ、ハドラーは知らないよ。自分の体に黒の
「はっ…はああああ〜〜〜〜〜ッ!!?」
ふとエイミが漏らした呟きにドラが回答する。そしてそれを聞いたポップは悲鳴にも似た声をあげた。
「ちょっ、ちょっと待てよ!!
自分の体の中にそんなおっそろしいモンが埋まってるってのに当の本人が知らないってどういう事だよ!!!」
「どういう事だも何もそのままの意味だよ。
バーンがハドラーを蘇らせる時に本人には内緒で埋め込んだんだもん」
あんまりな事実をさらりと告げられてポップは「げぇっ!?」と踏まれたカエルのような声を出して固まってしまった。
「ハドラーが自分の体内に黒の
使い勝手の良い駒としてバーンのために働き続ければ良し、負けても敵を巻き込んで爆発すれば相打ちに出来る、万が一裏切ろうとしても指先一つで
ハドラーが戦う相手が黒の
上手い手だよね、性格の悪さが滲み出てる」
「なんという外道な…!」
クロコダインが拳をぶるぶると振るわせて激昂する。
武人として、卑劣な手段を殊の外嫌う彼らしく大魔王バーンの非道な行いは到底看過できる事ではなかった。
怒り心頭のクロコダインとは対照的に顔色を悪くして押し黙ってしまったのはヒュンケルだ。
彼も武人らしく大魔王バーンのハドラーに対する所業は許せない気持ちではあるがそれよりも、『ハドラーの立場にいたのは自分だったかもしれない』という可能性に思い至ったらしい。
ハドラーの下で軍団長の任に就いていたクロコダインとヒュンケル。
たまたま最初に大魔王バーンに蘇らせられたのがハドラーだっただけで、一歩間違えれば黒の
そう思えば復讐のためとはいえ、大魔王バーンに仕えていた過去の己の愚かさと危うさが恐怖となって足元から這い上がってくる心地だった。
そして激昂したのはクロコダインだけではない。マァムもまた、怒りに身を震わせた。
父の仇とも言える旧敵であり魔王として君臨していたハドラーは確かに憎い。
しかしだからといって、命を弄ばれ尊厳を踏み躙られてもいいとはどうしても思えなかった。
「いくらなんでも…! ハドラーがしてきた事は許せないけれど、そんな命を弄ぶような事…!!」
「でね、一つの案なんだけど。私、ハドラーをデルムリン島に封じ込められないかと思って」
「デルムリン島に…?」
「可能なのですか? そんな事…」
「ハドラーの中にある黒の
けどデルムリン島には私が張った強力な結界があって内部は私の魔力に満たされている。バーンの魔力の影響は受けない。
ハドラーをデルムリン島に閉じ込めておけば少なくとも奴の中にある黒の
「ドラ…あなた、ハドラーのためにそこまで…?」
マァムがハッとした表情でドラに問う。
デルムリン島にハドラーを閉じ込めるなど、容易に出来る事ではない。
しかもデルムリン島にはブラスを始めドラの友人である
彼らの身を危険に晒すも同義な作戦は大魔王に弄ばれるハドラーに対する、ドラの勇者としての正義感の表れではないかとマァムは思った。
「チッ…! 黒の
ほんっと、この私にこれだけ手を焼かせるとか…
さすが元魔王、勇者に迷惑かけるのが本業って感じ。絶対私が殺してやる…!!」
違った。
単純にハドラーよりも黒の
ギリギリと親指の爪を噛んで眉間に皺を寄せる悪人面の勇者を全員が残念そうな顔で見つめる。
「ドラよ…それはあまりにも…」
「ドラ…」
「ドラちゃん…」
「勇者殿…」
「ディーナ…」
「ピィィ…」
脳内でハドラーをどう痛めつけてやろうか考え周囲の視線に気付いていないドラにリュミベルがこそっと耳打ちをした。
「姐さん、顔、顔」
「ハッ…!!
いっけな〜い! どこまでお話したっけ?!」
「いや、無理があんだろ。お前のドス黒い性根がその程度の薄っぺらい笑顔で隠し切れるワケ…いってぇ!!」
ポップの脛を思いっきり蹴り上げた後、コホンと小さく咳払いしたドラが話を戻す。
「まあ、ハドラーがあらゆる意味で厄介なのは間違いないとして…
で、ハドラーを突破した後、速攻で大魔王を倒せばバーンパレスは地中に埋まったままになるし、ミストバーンとキルバーンは大魔王を倒した後で始末すればオーケー!
何はともあれバーンを倒す事を最優先にして考えてほしい!」
「ええ!」
「いてて…おうよ!」
「あいわかった!」
「精霊の助言と勇者の導きに従おう」
「私とエイミはサポートに回るわ! 後衛は任せてちょうだい!」
「はい、姫様!」
「私と息子も微力ながら尽力いたします。
ノヴァ、足手まといにだけはなるな」
「はい! 父さん!」
「竜の神に皆さんの武運を祈願いたします。何か察知したらすぐにお知らせしますわ」
勇者の呼びかけに各々が返事を返す。
最後にディーノがいまだ空中に淡白く浮かぶ「1、魔宮の門の捜索」という文字を見つめながら、控えめながらもハッキリと声を出した。
「じゃあ、とにかく今は魔宮の門を探さないといけないんだね…
ならそれには俺が行くよ。
ディーナ、一緒に行こう」
使命感と戦いを前にした高揚感を胸に、強い光を宿した瞳でディーノがまっすぐにドラを見つめて手を差し伸べた。
「お兄ちゃん…」
差し伸べられた手を潤んだ瞳で見つめたドラはしかし、その手をペッと軽く払い退けて言い放つ。
「うん、絶対嫌」