ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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83_強化訓練

「うん、絶対嫌」

 

「えっ…!?」

 

まさか拒絶されるとは思っていなかったディーノが呆然とした表情で払い除けられた手を見つめた。

周囲で見守っていたアバンの使徒や英傑達も、まさか作戦を立てた本人が魔宮の門捜索を拒否しようなどとは俄かに信じがたく揃って目を丸くしている。

 

「ドラよ…俺の聞き間違いであろうか?

今、「嫌」だと言ったか…?」

 

普段の威風堂々とした態度はどこへやら…。恐る恐るドラに真偽を問いただすが、クロコダインの不安などどこ吹く風とドラがあっさりと肯定の意を示した。

 

「うん、言ったよ。

魔宮の門を探しに行くのは絶対に、嫌」

「なぜです勇者殿!?」

「魔宮の門を見つけれなければ大魔王の元に辿り着けないと言ったのは君だろう!?」

「ドラ…それは、何か理由があってのことなのか?」

「そ、そうよ! ドラちゃんが魔宮の門を探しに行くと何かまずい事が起こるとか…」

「まさか魔宮の門を捜索している間にまた魔王軍が攻め入ってくるのでは…」

 

不安げな顔で皆が口々に理由を問う。

事は人類の存亡がかかっているのだ。魔王軍、引いては大魔王との決戦。その決戦の第一歩となる作戦を拒否するなど、何か余程の事情があるに違いない。

 

「あのね…」

 

ドラの口から一体どんな事情が発せられるのか…皆が衝撃に備えるようにして息を潜め固唾を飲んだ。

 

「ここの海、冷たいから入りたくない」

「おっまえいい加減にしろよッ!!!」

「いったああああ!!」

 

スパァンッ!!と乾いた音が部屋に響く。

間髪入れずにポップに頭をはたかれたドラは涙目で蹲った。

崩れ落ちたのはドラだけではない。脱力して膝から崩れ落ちた後、こめかみに手を当てながら「ドラちゃん…あなたね…」とレオナが眉間に皺を寄せながら立ち上がる。

マァムも額に手を当てて痛みを堪えるような表情をしているし、クロコダインとヒュンケルは腕組みをして「さて、どう説教したものか」という表情でドラを睨め付けた。

バウスンは人類の命運を握る勇者がこれで大丈夫なのだろうか…と至極不安そうな表情を浮かべ、ノヴァはその横で両手を床につけて悲壮な表情で何やらブツブツと呟いている。

 

「…こんなくだらない我儘を言う奴が勇者だなんて…それよりも実力が劣っているのか…僕は…」

 

エイミとメルルも、あまり我儘を言うタイプではないため至極くだらない理由で魔宮の門の捜索を拒否したドラをまるで新種の怪物(モンスター)を見るかのような目で見つめた。

ディーノとゴメちゃんも…神によって創り出された誇り高き(ドラゴン)の騎士とは思えないドラの姿に『胡乱』という言葉が相応しい視線を送る。

 

「お前なあ!! 人類の未来がかかってんだぞ!? 少しぐらいの寒さ我慢しろよ!!」

「ひや(嫌)!! なんと言われようと嫌なものは嫌ったら嫌!

私あったかい海でしか泳いだ事ないもん!!

あんな冷たい海に長時間浸ってたら髪もお肌も痛んじゃう!

これから大魔王との決戦に挑むのにごわごわの髪で戦うなんて絶~~~っ対イ・ヤ!!!」

 

呆れる周囲をよそにポップに頬をつねられた状態でなおも抵抗するドラ。

確かに人類の存亡がかかっている事態ではある。しかし、だからこそ最高のコンディションで挑む義務が勇者にはあるという考えのもと、ドラは一歩たりとも引く気は無かった。

原作でアバン先生も言っていたではないか、『すべての戦いを勇者のためにせよ』と…

大魔王に挑もうと言うのに肝心要の勇者がのっけから体力を削りモチベーションを下げてどうするのだ。

 

「別に私が行かなくても門の捜索くらい出来るでしょ!? そういうの得意な人に任せるから大丈夫だもん!」

「はあ?! 大魔王がいる本陣に乗り込むんだぞ!! しかも海底なんてただでさえ動きが制限されるような場所…一体誰が得意だってんだよ!?」

 

 

 

「そういうことだからボラホーン、行ってきて♡」

「………」

 

作戦会議を一時中断してサババ付近に滞在しているバランのもとを訪れたドラ達一行。

海戦騎などと名乗っているのだから海中での行動はお手の物だろう。見た目からしても寒い場所での活動が得意そうだ。

餅は餅屋。適材適所な人選だろうとドラは魔宮の門の捜索をボラホーンに一任(まるなげ)する事にした。

 

到着するなりざっくりとした説明を始めたかと思えば唐突に魔宮の門の捜索を頼まれたボラホーンは返答に窮し無言になった。

 

ボラホーンが忠誠を誓っているのはバランであり、ドラに対してではない。

バランの娘なのである程度の敬意は払うが顎で使われる謂れはどこにも無い。

それは他の竜騎衆…ラーハルトとガルダンディーも同様でニコニコと微笑むドラを邪険にはせずとも、命令に従うような素振りは一切見せなかった。

 

主君の愛娘を無碍にも出来ず困りきったボラホーンがバランに視線を送ると、溜息を一つ吐いたバランが一歩進み出て腕組みをしながら高圧的な態度でドラに物申す。

 

「ディーナよ…ボラホーンはお前の部下ではない。私の部下だ。

大魔王を討つために海底にあるという『魔宮の門』を探さねばならぬのはわかった。

ならば私とディーノ、そしてお前の三人で行けばそれで済む事…

あまり我儘を言って大人を困らせるな」

 

おお…

 

近くにいる竜騎衆、少し離れた位置で見守るアバンの使徒が揃って感嘆の声をあげた。

威厳を示してぴしゃりと娘の我儘を叱り、しかし作戦には協力するという譲歩をバランが見せたからだ。

魔王軍の軍団長時代の頑なで力に物を言わせるような強硬な印象が強かったが、今は雰囲気そのものが丸くなったように感じる。娘と再会してからやはりバランの内面に変化が起きたのだ、とクロコダインとヒュンケルはあらためてドラの存在の偉大さに感服した。

 

「え…でも…海、冷たいよ?

髪の毛痛んでぐしゃぐしゃになるし、お肌も荒れちゃうし、服もびしょびしょになっちゃう…」

「その程度の不調で左右されるような軟弱な戦い方をする気ではあるまいな?

(ドラゴン)の騎士はいつ、如何なる時もその強さが曇る事などあってはならん!!」

 

言い切ったバランを見上げていたドラの瞳が徐々に潤み出す。

一瞬怯んだバランだったが、部下の手前その動揺をひた隠して顔を歪ませる娘を見下ろし続けた。

しかしついにしゃくりあげながら泣き出したドラにさしもの竜騎将も顔色を変えた。

 

「ひっ…ひどいお父さん…

わっ…わたしっ! お父さんがお母さんにそっくりだって言ってくれたから…

お母さんみたいに素敵な女性(ひと)になりたくて…っ、ぐすっ…

お父さんにいっぱい褒めてもらいたくて…!

だから髪の毛もお肌も毎日一生懸命お手入れしてるのにっ…!!

なのに、こんなに冷たい海に入れなんて…

 

お父さん、私が可愛くなくなってもいいんだ?!

 

ふ…

 

ふえぇ~~~ん!!!」

 

「魔宮の門の捜索に行くぞ。竜騎衆よ、配下のドラゴンとともに付いて参れ」

「「「バラン様!?」」」

 

(((((バランが折れた…!!?)))))

 

「きゃあっ! やったあ!!

ありがとうお父さん大好き~~~っ!!!」

 

先ほどまでの涙はなんだったのか、泣き顔を秒で投げ捨てたドラがバランに抱きつく。

バランからは見えない位置でお手本のようなガッツポーズを決めたのがアバンの使徒達にはハッキリと見えた。

 

(折れた…)

(折れるのか…)

(やっぱり娘には弱いのね…)

(父さん…俺にはあんなに厳しかったのに…)

(竜騎衆がドラのガッツポーズ見てなんか言いたそうにしてんな…)

(…案外、女の子の嘘泣きって男の人は見抜けないのよね)

 

口にこそ出してはいないが、厳しい視線がバランにビシビシと突き刺さる。おそらくその視線に気付いているであろうバランはあえてその視線に気付かないふりをした。

一方、竜騎衆からのなんとも言えない微妙な視線を真正面から浴びているドラはそんな事など1mmも気にせず、懐からいくつかの紙束を取り出し彼らに手渡した。

 

「あれは…」

 

ヒュンケルにはその紙束に見覚えがあった。

なぜならそれは彼がドラに頼まれて作成した『アバンの書』の複製だったからだ。

ラーハルトには『槍』に関して、ガルダンディーには『剣』に関して、ボラホーンには『斧』と『鎖(鞭)』に関して書かれている部分を抜粋して綴じ直したらしい。

怪訝な顔で書を受け取った竜騎衆に、ドラは満面の笑みで『アバンの書』についての説明を始めた。

 

「それ、私の先生が書いた本を書き写したものなんだけどそれぞれの武器についての秘伝が記されてるの!

門の捜索の前にそれ読んで秘伝習得してから行ってね!

あ、もし魔宮の門を守護する金属生命体とかいたら生捕りにしてきて!

よろしく!」

 

「「「…は?」」」

 

「お父さんの部下なんだし、それくらい余裕で出来るよね!」

 

突然の無茶振りに二の句が告げられず硬直した竜騎衆にドラが追い討ちをかける。

嫌味か嫌がらせか何かかと思ったが、大柄な竜騎衆を見上げてニコニコと微笑むドラからは一切の邪気が感じられない。

どうやら彼女は本気で秘伝習得の1つや2つ、竜騎衆にとっては容易い事だと信じているらしかった。

 

「ディーナ、あまり無理を言うな」

「…無理?」

「武芸は一朝一夕で為るものではない。いかに私の配下であれど他人が書に記した秘伝の習得などそう容易くはなかろう」

「え…

 

出来ないの…?

 

お父さんの部下なのに…?」

「ぐっ…!」

 

ドラが思ってもみなかった…という顔でバランと竜騎衆を交互に見上げる。

その視線に耐えきれず最初に膝をついたのはラーハルトだった。

 

「いえ! バラン様の配下たる竜騎衆の長として!

いかに体得し難い秘伝であろうと即座に会得してみせます!」

「む…そうか?」

 

(あっ、こいつ…!)

(裏切りよった…!!)

 

焦るガルダンディーとボラホーン。

そうしているうちにもドラがバランに『アバンの書(複製)』の一部を見せながら、

 

「ほらね、大丈夫! そんなに難しくないよ!」

「なるほど…確かに」

 

などと言いながらどんどん退路を塞いでいく。

(ドラゴン)の騎士にとっての「そんなに難しくない」とは一体どの程度の難易度なのか…

過去に受けたバランの壮絶な稽古の数々がボラホーンの脳裏を駆け抜けた。

 

「バラン様! ワシは一足先に魔宮の門の捜索に…!」

「よし、竜騎衆よ。その『アバンの書』に記してある秘伝とやら、早急に習得せよ」

「ぐはっ…!? はっ、ははあ…!」

 

一歩遅かった。

あんなに渋っていた門の捜索に乗り出そうとしたボラホーンに無慈悲なバランの命が下る。

 

「大丈夫だよ、みんなそんなに緊張しなくても…

もし怪我しても私が最大回復呪文(ベホマ)ですぐ治してあげるから♡」

 

さらに無慈悲なドラの言葉にガルダンディーもガクリと項垂れて膝を屈した。

重ねて言うがドラに悪意はまったくない。心からの善意である。

こうしてこれより半日ほど、竜騎衆にとって悪夢のような強化訓練が始まったのだった。

 

 

「あ! お兄ちゃん! お兄ちゃんも!

せっかくだからアバンストラッシュの練習しようよ!

大丈夫、お兄ちゃんなら半日…

ううん、三時間もあれば覚えられるよ!!」

「…え?」

 

 

 




なお、二時間半ほどで習得できた模様。

ディーノ「案外簡単だったね」
ドラ「でしょう?」
バラン「人間の考えた武芸にしてはまあまあといったところか」
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