ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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 閑話_アバンの使徒と竜騎衆

港町サババからほど近い平原。

近くには街も村もなく、街道からも離れているので戦闘訓練をするにはもって来いの場所だ。

なにせアバンの使徒とクロコダインはともかくとして竜騎衆とバランは各々ドラゴンに騎乗している。

バラン達が危害を加えようとせずとも、その姿を見た人間が恐怖し怯えてしまうのは想像に難くない。

 

なんの変哲もないだだっ広い荒野にはバラン率いる竜騎衆とディーノ、ドラ率いるアバンの使徒とクロコダイン、レオナとゴメちゃんが互いにほどほどの距離を保った場所にいる。

竜騎衆の強化が目的の訓練になぜアバンの使徒も動向しているのかと言うと、実戦経験に乏しいディーノにアバン流の戦い方の手本を見せてほしいとドラが願ったのが一つ。

そしてバラン達とアバンの使徒が別行動をしていると、ハドラー親衛騎団が攻めてくる可能性があるというのが一つ…

なにせハドラー親衛騎団の存在理由は『ハドラーが勇者ドラ、(ドラゴン)の騎士バランと心置きなく戦えるように最善の行動をとる』というものだ。

バラバラに行動しているとそれ以外…たとえば竜騎衆やクロコダインなどが襲撃されてしまう可能性もゼロではない。

 

そして最後に一つ。ドラがバラン達とも、アバンの使徒達とも、どちらとも一緒にいたかった。

これが最も大きな理由だろう。

 

そういった理由により先ほどからディーノはヒュンケルとポップ、マァムにアバンの教えを実技を交えて教わっている。

ドラはというと、アバンの書を読み終え実際に技の練習を始めた竜騎衆をルードの頭の上に寝そべりながらゴメちゃんを頭に乗せてくつろぎつつニコニコと眺めていた。

バランはそのすぐそばで人間と交流し、時折笑顔を見せるディーノを無表情ながらも複雑な心境で見ている。

やはり人間への憎しみが捨てきれない様子だが、不器用で頑なで唯我独尊を地で行くバランにしては大変な進歩と言えるだろう。

 

(お父さん頑固だからな~。

 

…まあ、こればっかりはしょうがないか。

お兄ちゃんと私が人間と仲良くしてるのを許してくれてるだけでも凄いことだよね、うん)

 

 

穏やかな風が吹く。

ハドラー、そして大魔王との決戦を前に、束の間の平和をドラが噛み締めていた時だった。

 

「死ねやオラァッ!! 大地斬ッ!!!」

「おわああああッ!!?」

 

ガルダンディーの雄叫びとポップの絶叫が荒野に響き渡った。

 

「てめぇッ!! 避けてんじゃねぇよッ!!!」

「いきなり何しやがるこの鳥野郎!?」

「この前は変な邪魔が入ったがなぁ…オレぁまだルードの頭を吹っ飛ばしたテメエを許しちゃいねぇからなぁッ!!!

新しい必殺技の練習台にしてやるよぉッ!!」

「この…! 調子乗ってんなよ鳥野郎!!

返り討ちにしてやる! かかってきなぁッ!!!」

 

ガルダンディーの言う『この前』とは死の大地でポップと遭遇した時の事だろう。

ポップに斬りかかった直後にリュミベルに強か打ち据えられたまま、気絶していた彼はずっと釈然としない気持ちでいたらしい。

上空から急降下してポップに斬りかかったが、それを避けたポップも負けじと空中へ飛び立って二人はそのまま空中戦を開始してしまった。

 

「ガルダンディー! 頑張って~!」

 

地上から空中へと、間伸びしたドラの声援が届く。それを聞いたポップが怒鳴り声をあげた。

 

「ドラてめぇ!! お前どっちの味方だよ!??」

「ポップが勝つって知ってるからガルダンディーの応援してる~」

「~~~ッ…お前ほんっとそういうとこだぞ!!!」

 

慌てた様子もなくそのままニコニコと二人の空中戦を眺める。

主人に呼ばれルードが飛んで行ってしまったのでドラは近くにいたレオナの手を引きバランの隣に立って他に訓練を続けている者達を見渡した。

 

「「フンッ!!!!」」」

 

ガッギイィィィン…!!

 

激しい金属音の鳴るほうへ目を向ければ、クロコダインとボラホーンが斧で打ち合いをしていた。

斧と錨が金属音を響かせるたびに派手な火花が散る。

クロコダインは斧のみだがボラホーンは錨に付いている鎖も合わせてクロコダインの動きを封じようとしていた。

アバンの書に書かれていた『鎖(鞭)』の使い方を導入して首や目、動脈を締めて意識を刈り取ろうとしているようだが、相手は獣王クロコダイン…なかなか苦戦しているようだ。

 

ディーノが目を丸くして空中と地上のせめぎ合いを見ている横で、今度はヒュンケルとラーハルトが何やら不穏な空気を醸し出していた。

ラーハルトの魔槍の矛先がピタリとヒュンケルの首元に止まっている。

 

「貴様…今、俺の技を見て笑ったな。どういうつもりだ?」

「いいや、別に。他意はない。

…ただそれらしく槍を振るっているものを「地雷閃」などと(のたま)っていた姿が滑稽でな…ククッ。気を悪くしたなら謝罪しよう」

「貴様…!」

 

これはヒュンケルが悪い。

他意はないどころか相手を馬鹿にしきった態度のヒュンケルにラーハルトが槍を構えた。

 

「ちょ、ちょっとヒュンケル!」

「ラーハルト!」

 

クールに見えてその実喧嘩っ早い長兄二人はそのまま鎧化(アムド)して剣戟を響かせる。

一方は魔槍、一方は魔剣。互いに最も得意とする得物で斬り合いを始めた。

 

「もう!

 

ヒュンケル、加勢するわ!!」

 

驚異的なスピードを誇るラーハルトに押され、早々に劣勢の様相を見せたヒュンケルにマァムが飛び出して加勢しに行った。

マァムもラーハルトほどではないがスピードには自信がある。防御に徹しながらも自分とヒュンケルの回復をこなし、余裕の出たヒュンケルがラーハルトに必殺技をお見舞いするという戦法をとっていった。

 

「ほお…あれがアバン流の必殺技か」

 

バランがそこかしこで繰り広げられる戦闘を眺めながら呟く。

心なしか感心しているように聞こえるので、歴代すべての(ドラゴン)の騎士の戦闘経験を継承したバランから見ても一見の価値があると感じたようだ。

 

「アバン先生って天才だから!

今は修行に出ちゃってるからしばらく会えてないけど、戻ってきたらお兄ちゃんも先生に弟子入りしようよ。

戦闘についてだけだけじゃなくて勉強とかも教えてくれるよ」

「ちょっ…ちょっと父さん、ディーナ、あれ…止めなくていいの…!?」

「そ、そうよドラちゃん…もう訓練って雰囲気じゃないんじゃないの…あれ!?」

 

おろおろと狼狽えるディーノとレオナをよそにバランとディーナはなおも呑気そうにアバンについて語っている。

 

「ディーノが人間に弟子入り…フッ、有り得んな」

「もうっ! お父さんってば石頭!

アバン先生は人間だけど良い先生だよ? 優しいし教え方上手だし…絶対お兄ちゃんのためになるんだから!」

 

上空では爆炎が炸裂し地上では大地が抉れ吐かれたブレスで焼け野原が次の瞬間には氷原と化した。

一応バランもドラも本当に危なくなったら止める気はあるのだが、この二人の『危険』の基準が人間のそれではないため目の前で繰り広げられている死闘はほんの小競り合い程度にしか映らないらしい。

 

バランとの穏やかな会話を楽しんでいたドラが「あ、そうだ!」とディーノの方を振り向く。

(突然振り向かれたディーノはビクリと肩を震わせた)

 

「お兄ちゃん! せっかくだから私と手合わせしよう!

お兄ちゃん実戦経験少ないからハンデあげるね。

リュミベル!」

「へいっ、姐さん!」

「お兄ちゃんが飛翔呪文(トベルーラ)使えるように補助してあげて」

「承知いたしやした!」

「あとレオナ、お兄ちゃんの回復役お願い!」

「えっ…!?」

「ええっ!? ちょっとドラちゃん待っ…」

「ピピィッ!?」

 

「じゃあ戦闘開始! いっくよ~!」

 

慌てる二人に構う事なく戦闘開始を告げたドラは至近距離からディーノを斬り上げた。

さすが(ドラゴン)の子というべきか、オリハルコン製の仕込み刀を剣の鞘を犠牲にして防いだディーノが後ろに飛び退きドラと距離をとる。

 

対峙した双子の瞳が交差し、瞳孔が見開かれていった。

 

魔法を連発しながら距離を詰めていくドラと回避しつつ距離を保ち反撃の隙を窺うディーノ。

先ほどの狼狽えていた姿が嘘のように、彼の頭と体はこの戦闘をどう制圧するかという一点に支配されてしまったようだった。

 

地上に残されたレオナの視線がディーノを追いかける。

激しく攻め立てるドラの攻撃をいなし、時に劣勢になりつつも冷静に反撃の機会を待つ。

防御一辺で体のあちこちに傷を負い、レオナのもとへ駆け寄ってきた彼は一言「回復を頼む」とだけ言った。

その声が『年下の男の子』ではなく、『戦士』のそれでレオナは最大回復呪文(ベホマ)をかけながら突然の胸の高鳴りに目を白黒させる。

「ありがとう」と手短かに言ってまた空中へと飛び立ち、余裕の表情で待ち構えるドラに立ち向かっていく後ろ姿をレオナは食い入るように見つめた。

 

 

終始劣勢のディーノだったが、収集がつかなくなってきた頃合いでバランが間に入り『手合わせ』は呆気なく終わりを告げた。

妹の足元にも及ばなかった…と肩を落としていたディーノだが、経験の差が大きすぎるのだ。

慣れない空中戦にも関わらず、時にドラを追い詰めて攻撃を当てられただけでも大したものであろう。

ちなみにドラは自身ですぐさま最大回復呪文(ベホマ)をかけて回復していたし、武器の性能に天と地ほどの差がある。

最初から勝負にならない事などわかりきっていた。

 

 

「君、すごいじゃない!!

あたし、君の事ただの小さい男の子だと思ってたけど…すっごく強いのね、見直しちゃったわ!!」

「え…俺…

あの…回復してくれてありがとう、助かったよ」

「いいのよお礼なんて! 君のためならあたし…いつだって駆けつけるわよ!」

「お姉ちゃん…」

「レオナ! あたしの名前はレオナよ。

そう呼んで…?」

「レオナ…

 

うん、ありがとう…レオナ!」

「~ッ、どういたいたしまして!」

 

レオナが頬を染めてディーノに抱きつく様子を見たドラは五体投地をしてバランとゴメちゃんを心底心配させた。

 

 

双子のじゃれあいが終わる頃には他の者達の戦闘も終わっていた。

ポップVSガルダンディーはポップが勝利。

ガルダンディーにではなく、ルードに攻撃を絞りガルダンディーの頭に血を登らせて隙が出来たところに呪文を連発して倒したらしい。

先の戦闘から何も学んでいないガルダンディーにドラとバランは呆れ果てた。

 

クロコダインとボラホーンは両者とも大きな怪我もなく終了した。

互いに拳を合わせ、笑みを浮かべている。

 

「良い経験になった、礼を言う」

「何を、ワシこそ」

「互いに向こう見ずな同朋を持つ身、これからも研鑽を重ねて行こうではないか」

「ああ、無論だ! 我らとて負けてはいられんからな!」

 

ガッハッハッハ…

 

どうやら斧を交えて友情が生まれたらしい。

互いに武人気質であり面倒見がよく豪快な性格をしていることで相当馬が合ったようだ。

ボラホーンもクロコダインも、この世界ではあまり広く受け入れられているとは言い難い種族同士。

信頼し合える仲間が増えたのは喜ばしいと、ドラは満面の笑みを浮かべた。

 

…さて、問題はヒュンケル(兄弟子)とラーハルト(義兄)の長兄組である。

 

「…で、何やってんの? お兄ちゃん達?」

 

「………」

「………」

 

「なんで決戦前に鎧粉々にしたかなあ!?」

 

「…すまん」

「致し方なく…!」

 

剣と槍、どちらもかろうじて本体の刀身は無事であった。

しかし鎧は粉々、互いに血まみれになって膝をつくヒュンケルとラーハルトの肩に手をかけてドラが底冷えのする笑顔を浮かべて呪文を唱える。

 

「歯ぁ食いしばってよね♡ 劣化回復呪文(デホイミ)!!」

「ぐぁっ…!!」

「がはッ…!!」

 

ドラの容赦ない劣化回復呪文(デホイミ)(激痛付き回復呪文)に撃沈した二人。

悲鳴をあげなかったのはさすが見上げた根性と感心したドラだが、大きな問題が残ってしまった。

 

「もう決戦は目の前なのに…鎧、どうしよう…!?

………むう。

 

あ、そうだ」

 

 

 

バランと共に森深くに隠れるようにして建つロン・ベルクの工房を訪ねたドラ。

ただならぬ気配に部屋の真ん中で額にじわりと汗を流し仁王立ちしているロン・ベルクを見ながら、ドラは手を繋いだバランに笑顔で紹介を始めた。

 

「ラーハルトの魔槍と、ヒュンケルの魔剣の製作者のロン・ベルクだよ!

あのね、私の杖を作ってくれたのもロンなんだけど…それ以外にもほら!

私にこんなにたくさんアクセサリーを贈ってくれたの!

どう? どれもロンがわざわざ私のために作ってくれたのだけど…」

 

うふふ、似合う?とドラが喜びを隠しきれない様子でロン・ベルクから贈られた、もとい無理やり贈らせた装飾品の数々を首や腕に飾り付けながらバランに示した。

男が女に贈り物をする意味を知らぬほど世間知らずなバランではない。

眉を吊り上げ、ロン・ベルクを睨みつけながら「貴様…私の娘に何を…」と殺気も露わに一歩を踏み出した。

 

本能的に腰の剣に手を置きかけたロン・ベルクだが、彼が剣の柄に手をかける前にドラが口を開く。

 

危なかった…とロンは後に回想した。

なぜなら指先が剣の柄に触れたが最後、バランがロン・ベルクを袈裟斬りにする未来がハッキリと見えたからだ。

生きた心地のしないロン・ベルクの心境など、ドラはまったく興味がない様子でバランに懇願した。

 

「ああ、違うのよお父さん。

私が素敵なアクセサリーが欲しいって呟いたらロンがわざわざ作ってくれたの。

私、こんなに素敵なアクセサリーを無料(タダ)で受け取るわけにはいかないって代金を渡そうとしたのだけど…「子供から金は取らない」って拒否されてしまったのよ。

 

お願い、お父さん。真魔剛竜剣を少しでいいから彼に見せてくれないかしら?

このままだと私、ロンにものすごく申しわけがないわ…!」

 

若干芝居がかった口調でうるうると瞳を潤ませながら、ドラがバランに乞い願う。

ドラの口から出た嘘八百に呆れていたロン・ベルクだが、真魔剛竜剣のくだりで唾を飲み込んだ。

ドラをしばしじっと見ていたバランはやがて深く溜息を吐くとロン・ベルクに向かって深く頭を下げる。

 

「すまぬ、私の娘が随分と迷惑をかけたようだ…

貴殿は私の部下が使う武器の製作者でもある。

この、」

 

バランが背中に背負っていた大剣をロン・ベルクに差し出した。

 

「真魔剛竜剣、しばし貴殿に預けよう。

しかしそう長くは貸せぬ、せいぜい明日の朝までとさせてもらうが…」

「十分だ!! 丁重に扱うと約束する!!!」

「ロン、ついでに魔槍と魔剣の修復…」

「任せろ!! だが今は真魔剛竜剣だ!!!

まずは刀身の強度と均衡具合を…!」

 

真魔剛竜剣を(つぶさ)に見れるまたとない機会とあってドラの言葉などまったく頭に入っていないらしい。

 

(まあいっか、言質はとったし…

ロンも喜んでるし結果オーライでしょう、うん)

 

 

 

一方その頃、バーンパレスでは…

 

「ほう…(ドラゴン)の親子が合流したか…ククッ…

さて、ハドラーはどう迎え討つか…」

「いえ、バーン様。

なんか竜騎衆とアバンの使徒、殺し合い始めましたけど?」

「………? 仲間割れか?」

「いや、バランも勇者ドラも並び立ってただ眺めてますけど…」

「あっ、今度はバランの子供同士が戦い始めた~っ!」

「…何を企んでおるのだ、奴らは」

「さて…? ミスト、君はわかるかい?」

「………………」

「あ、戦闘が終了したら普通に互いの陣地に戻りましたね…」

「………何を企んでおるのだ、奴らは」

「さて…? ミスト、君はわかるかい?」

「………………」

 

「「「………?」」」

 

 

さらにバーンパレスの入り口、魔宮の門の内側…

 

「何!? バラン達と勇者どもが合流しただと!?」

「ハッ! 今はサババ近辺に移動し作戦を練っているようです!」

「クックックッ…バランと勇者か…

願ってもいない事、相手にとって不足なし…!

お前達、バランと勇者以外を俺のもとに近づけさせるな!!」

「「ハハァッ!!」」

 

「ハドラー様! 追って報告いたします!」

「シグマよ、如何した?」

「それが…バランと勇者の陣営が争い合ったかと思ったら解散いたしました…」

「…? 魔宮の門を探す素振りは…」

「いえ、それが微塵も…」

「もう俺には時間が無いと言うのに…ガハァッ…!!」

「「「「ハドラー様ーーーッ!!」」」

 

 

行動の意図が読めず首を捻る大魔王バーンと、超魔生物に造り替えられた副作用に苦しむハドラーを尻目に久方ぶりに家族の時間を満喫出来た勇者ドラはその夜とても良い心地で眠りについたという…

 

 

 




仲間になりそうで仲間にならない、だけどちょっとだけ仲良くなったアバンの使徒と竜騎衆。
報告もせず無駄にドンパチしたのでこの後バウスンとノヴァとエイミにしこたま怒られた。
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