VTuberになりました。 作:コトさん
プロローグ
「今回も不採用かぁ……」
私は自身のスマホに届いた通知を見て嘆く。これで15件目だ。
大学を中退して就職しなければならなくなったのだが、まともな準備をしていなかったせいでなかなか正社員として雇ってもらえない……。体力もないから肉体労働もできないというまさに絶望のオンパレードである。
この状況に追い打ちをかけるように学生時代バイトでコツコツ貯めた貯金も底をつきかけている。
「どうにかしてお金を稼がなきゃ……!」
正社員になれないならせめてバイトをしてお金を稼ごうと、スマホでバイト探しアプリを開く。
ゴミ収集 時給700円 経験者のみ 〇〇清掃
動物園の糞清掃 時給550円 誰でも歓迎! 〇〇動物園
「なんでまともな仕事がないんだ……」
どうにかして就職しようと、求人を行っている会社のサイトや求人アプリを片っ端から見て回った。
ふと、スマホの端の方──普段なら見逃してしまうであろう部分にある文字に目が行く。
Vtuber? 確か絵に声を当てて実況するyautuberの事だっけ?
「応募してみようかな……」
昔から声には自信がある。『声だけだったら可愛いのにな』
と言われたこともある。当時は悔しくてたまらなかった。
でも、その声が注目されるかもしれない……。
気がつくと私はもう応募をしていた。
自分の名前、年齢、学歴、職歴を記入し、履歴書の最後の欄を見る。
趣味……。いつも面接の履歴書を書く際は、趣味の欄に読書や映画鑑賞とかのありきたりなものを書いていたな……。
「趣味……」
小さい頃からずっと勉強尽くしで、勉強しかしてこなかった私の唯一の趣味、それは──
趣味の欄を書き終わった後、応募確定ボタンを押す。
応募完了した後の画面には〇〇ビルで3月△日▫︎時に審査をするとかいてあった。
運命の審査の日。審査を行うビルの外にはたくさんの人が集まっていた。
ビルに入り審査についての説明を聞いた後、自身の番が来るまで待機する。
審査は用意された八行の原稿を読むだけの簡単なもの。
私の番になり、緊張しつつも原稿を読む。
試験自体はそこまで長くなかったはずだが、緊張のためか長く感じる。
試験は終わり、特に目立ったミスなどはない。はずだったがどうしても胸に不安感が残る。
「大丈夫かな……?」
そう呟くと私はビルを出て帰路に着いた。
2日後──
審査が終わった2日後にスマホにメール通知が来た。
スマホを握る手には汗が滲んでいた。
〇〇様
いつもお世話になっております。
この度はモープライブ株式会社のVTuber試験に
ご応募していただき、誠にありがとうございます。
さて、今回の試験ですが
「
合格
」
いたしましたことを通知させて頂きます。
合格者の方は打ち合わせがございますので、2日後の×時に試験会場と同じビルにお集まりください。
株式会社モープライブ
「え、合格? 嘘でしょ……」
たくさんの人が受けていたし、なにより不安感がずっと残っていたから驚いた。
「少し……希望が見えたかな」
2日後──
私は2日前に試験をしたあの会場に来ている。打ち合わせのためだ。
ビルに入り、まっすぐ進むと受付があった。
「ようこそお越しくださいました。御用件をお伺いします」
そう聞かれ、
「あ、えっと〇〇です。合格者の打ち合わせで来ました」
と答える。
フロントの受付嬢は落ち着いた様子で、
「はい、了解いたしました。〇〇様ですね。話は聞いております。では、本人確認をさせて頂きます。身分証などをお持ちでしょうか?」
と言った。
身分証……財布の中には……。マイナンバーカードが入っている。
「これで良いですか?」
そう言ってマイナンバーカードを渡す。
受付嬢は、
「大丈夫ですよ。打ち合わせ室は、こちらまっすぐ行っていただいて、そちらのエレベーターで2階へ上がると正面にございます」
「ありがとうございます」
私は軽く礼を言うとエレベーターへ向かった。
2階へ上がり、エレベーターのドアが開くと、目の前に打ち合わせ室とスーツ姿の男性が立っていた。
男性はこちらに気づくと、
「〇〇様。お待ちしておりました。どうぞ中へ」
と言った。
部屋に入るとそこには白い机と椅子が二つ。
机には紙が数枚用意されていた。
「申し遅れました。私〇〇様のマネージャーを務めさせて頂きます、吉川と申します。よろしくお願いします」
吉川さんが挨拶をしてくれた。
「こちらこそよろしくお願いします」
挨拶を返したところで吉川さんが席に座ってくださいと私に手で指し示す。
私が席に着くと吉川さんが話を切り出した。
「本日はわざわざご足労頂きありがとうございます。早速契約と確認をさせていただきます。まずはこちらですね。契約書になります。印鑑かペンお持ちでしょうか?」
契約書……。これに印を押した瞬間から私はVTuberになるのだ……。そう考えながら印鑑を取り出し、印を押す。
「ありがとうございます。次にVTuberになるために必要なイラストですね。こちらなんですが……」
話は約3時間程続いた。SNSのアカウント作成、Yautubeのチャンネル作成等はこちらでしてほしいとのこと。
また、モープライブの方で私の声に合うガワと呼ばれるイラストや自身の活動時の名前も考えてくれたらしく、SNSアカウントやYautubeアカウントの作成が終わればすぐに活動ができる状態になるという。
イラストは絵師の方が書いてくれたものが数枚あったらしく、こちらで最も気に入ったものを選ばせてもらった。イラストはVTuberの命と言っても過言ではない。
私が選んだものは清楚系女子のイラストだ。髪の毛は長く、ツヤがあり、落ち着いたピンク色の着物を着ている。まさに、元祖日本のお姫様というやつだ。
イラストは決まったのだが、決め台詞に関しては自分で考えなければいけないらしい。
初配信の前には決めておき、連絡をしてほしいとのことだった。
初配信の日程は会社の方で決めた上で告知をしてくれるそうだ。
また、私は3期生でのデビューになるらしいので先輩がいるというわけだ。
後々あいさつをすることになるであろう。
一通りの確認作業を終えると私はマネージャーさんに挨拶をしてからビルを出て、家に帰る。
「月のお姫様、か」
私はそう呟くと微笑み、青に変わったばかりの横断歩道を渡った。