崩天地壊郷   作:山明鏡 紫水

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Inspire The Next

 世界を改変せんとしていた火山の如き機魔は停止し、代わりに女人型の機魔が怪我人を引き摺っていた。

 テルキの容態は生きているのが不自然なほどであり、一歩ごとに体重が軽くなっている気がする。錯覚だ。そう信じたい。だが今しがた殺しかけた罪悪感は反比例するように重くのし掛かってくる。

 もはや腐りかけの唇が動く。

 

「俺は死なないさ。そう言ったろ。生きるアテもある。医療用の一号機、ナザニエラ──の、試作機だな。あいつのとこに行ければ、なんとかなる。コールドスリープってわかるか? わからないよな。また教えてやる」

 

 彼が言うには、姉にあたる試作機の力を借りて、ナズカが封印された直後からテルキも眠っていたらしい。その間の見張りとして無数の根獣を傭い、樹海の禁域を作り出したのだと。今回、根獣が異変を伝えるためにテルキを起こし、それがナズカの復活だった。

 

「爺さん?!」

「ああ、今戻った。紹介しよう。俺の傑作、ナズカだ。彼女さえいれば俺は基本気ままに工作ができる」

「どうも……」

 

 前方から根獣の集団と青年が現れ、素頓狂な声を上げて駆け寄ってくる。青年がテルキの血縁なのは見た瞬間にわかった。そして大量の根獣。あれが雇った護衛なのだろう。

 

「じゃ、ここでお別れだな。俺にはまだやることがある。あの根獣から色々と教えてもらえ。ガルナーの代わりの教師だ」

「ちょっ」

 

 テルキが肩から離れ、青年にもたれ掛かる。そのままよたよたと歩いていった。ナズカはその様子を心配そうに眺めていたが、やはり命令には逆らえずに根獣の集団に向かっていく。

 彼が裏切るはずがない。他の夢まで続く軌条。その基図を教えてくれると信じているから。

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 機魔は製作者の命令を絶対に遵守する。だからこの騒動を収められた。どんな不可解な命令でも、製作者ならば更新できる。

 背後に顔を向けずとも、体内のセンサーだけでナズカが離れたのはわかる。それを確認してから体を預けていたアイラヒに囁いた。

 

「うまく行きましたね」

「ああ、ありがとう──()()()()

 

 弛んだ皮が引き伸ばされて、傷口が覆い隠されていく。生術特化の機魔に治療されたという設定だ。汚れた衣服は直さない。人間に擬態する機魔は、半壊しても命の刻印さえ無事ならば死なない。

 

 生身なら木乃伊(ミイラ)に干上がる熱気は、同じヒティーアの土で作られた機魔なら耐えられる。全方位の刺突は、人工血液の染みだけ工術の優先度が繰り上がって生き延びた。あとはひたすらに命の刻印を隠し続けた。

 アイラヒの下した残酷な決断は、ナジコスがテルキに擬態してナズカを騙し通すことだった。潔白な人間関係に前触れなく現れる蹉跌(さてつ)。影武者の役も見据えていた彼女は、他の誰よりも彼の姿を憶えている。

 陽光の当たる手頃な瓦礫に二人で座る。マグマに耐えた機体も、安らぎに溶けていくようだった。

 内のポケットから首飾りを差し出す。変装の補完に借りていた。見事な成型は高熱と衝撃に晒され粗く歪み、内部の写真は煤になっていた。

 

「こちらは、その、炭に……」

「あ、首飾り? テルキが肌身離さず持っていたら、そうなってないとおかしくなる。気にしないでいいよ。僕はもういらないし」

「そうですか。しかし、よかったのでしょうか」

「ナズカの事なら仕方ないじゃない。そうしないと、死んでたんだから」

「そちらもそうですが、アイラヒ様の事も」

「僕の事?」

 

 ナジコスの顔色は優れない。主の今後を案じている。

 火山の巨体は隣町の、さらに先の町からも見えたはずだ。この場には黄都の軍もいた。誰が巨怪を制御しているのか、探る者は必ず出てくる。いつまでもナズカを匿えるとは思えない。厄介事に巻き込まれるのは火を見るよりも明らかだった。蜘獣の英雄が手を貸さなかった理由もここにある。彼さえ協力していればもっと楽に空中階層まで到達できた。

 

「あー……よくはないかもしれない。でもさ、どうでもいいんだ。伝わるかな」

「自分が死ぬかもしれないのに?」

「そうだね、死んでも。いや死なないようにするけど」

 

 視線を宙に彷徨わせて、緩やかに頬を掻いている。強弁ではなく本心から無関心な振る舞い。ナジコスにはそれがわかる。

 しかし過去のアイラヒはこのような人物だっただろうか。良くも悪くも常識に順化していた彼が死の恐怖に怯えていない。作戦立案にしても、どうして最大多数のヨザマに逆らって横紙破りを為しえたのか。あの場で始末されることすらあり得たのに。

 

「どうしたって、ナズカが死ぬ終わりだけは許せなかった。あれだけ素敵なんだから」

 

 彼は光の中で朗らかに微笑んでいる。

 テルキが秘した計画の全容を、アイラヒは知らない。だが煤けた紗幕越しの熱量でも、彼の心に火を灯すには十分だった。

 

「やっとわかったんだ。俺も」

 

 目が合う。片眼鏡が反射して。違う。手の先に飛沫のような火傷痕が。違う。そんなものは見えていない。勝手にナジコスが補完して投影している。

 鉄輪のアイラヒは“客人”の血を継ぐだけの異能持たぬ凡人。しかし、それでも血は繋がっているのだ。どこか逸脱に含まれぬ特徴が遺伝してもおかしくはない。

 

 例えば心など。

 

「この感情を、きっと──」

 

 仰いだ人は去り、安穏の地位は失った。

 それでも彼の世界は今、他の誰より輝いている。

 




次回最終話

ティーア(TA)() 塁街
他のも大体そんな感じ。原作ほど変形してない
あと申し訳ないですが、次回はしばらくお待ちください。明日は無理でした……
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