「フォイア」
「なっ。魔力弾が消えた」
「また魔力の霧でもあるの、ルビー」
「いえ、そういった魔力は一切関知されません。宝具の発動も感知できませんでしたから、現時点では正体不明のスキルとしかいいようがありません」
つくづく英霊って厄介なものね。目の前の英霊はおそらくアサシン。暗殺に特化した英霊ならば、カレイドの力で圧倒できるかと思ったのに。蓋を開けてみれば正体不明のスキルとは。それにしても、弾くでもなく相殺するのでもなく、ただ消し去るなんて一体、まさかっ。
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カード回収第4夜。
「いい、残る英霊はアサシンとキャスターの2体だけよ。どちらもセイバーやバーサーカーのように直接戦闘を得意とするタイプじゃないけど。仮にも相手は英霊よ。心してかかりなさい」
「はい」
「大丈夫よ、イリヤ。私がすぐに終わらせるから」
「ミユ・・・」
無理ないわね。
英霊の召喚なんて大儀式を訳も分からず行ってしまったのだから。恐らくイリヤは今自分が何者なのか分からなくっている。魔術なんてものとは何の関係も持たなかったはずなのに、その平穏な日常が崩れかかっている。
イリヤが魔術師であるはずはない。それは確かだ。どんなに優秀な魔術師であろうと魔術回路を持つ人間なら、自然と漏れ出る魔力を一時的にならばともかく、常に隠すことは難しい。イリヤから魔力のもれを感じたことは一度もないのだから、イリヤは魔術師の家系でもまければ、偶発的に魔術回路を持ってしまった一般人でもないだろう。
ならば、さきの英霊召喚はどういうことなのか。カードとステッキにはまだ私たちが知らない秘密があるということなのかしら。
「どうしましたの、ミス遠坂。急に黙り込んでしまって。まさか、怖気づいてしまったのかしら」
「そんなわけないでしょ」
いや、今は目の前の敵を片付けるのが先よ。
「イリヤ、ミユ。行くわよ」
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「もう一度行くよ、ルビー」
「特大のフォイア」
今のイリヤに撃てる最大出力の魔力弾。いかに英霊とはいえこれだけの魔力の塊をうければその身が消し飛びかねない。しかし、目の前の少女は躱すでもなく、宝具や魔術を発動させるでもなく、迫り来る魔力弾をその手に持つ日本刀ではらいのけるようにしてかき消した。
「そんなっ」
「二人とも、接近戦は絶対にダメよ。距離を十分にとって散弾を打ちつつ、隙を作りなさい」
「ランサー限定解除」
「ちょっとミユ、人の話を」
敵の能力が不明である以上、戦いを長引かせるのは危険。この前のようにイリヤを危険な目には合わせる訳にはいかない。ゲイボルクの一撃で終わらせる。
「ゲイッ」
ミユはその手に持った槍に力を込め、少女の心臓に狙いを定めた。対して少女は未だ構えてすらいない。渾身の魔力を込めて大地を蹴り、構えた槍を大きく振り抜いた。振り抜く槍は魔槍ゲイボルク。真名を開放した今、因果を逆転させる呪いにより「心臓に槍が突き刺さった」という未来は既に確定している。
ミユが勝利を確信した瞬間、呪いの魔槍は少女の胸を貫き,,,,,,
ミユが勝利を確信した瞬間、槍が放たれるその刹那、少女は流れるような動きでその手に持つ日本刀を振り上げ、目の前の空間を切り裂いた。
「そんな、どうして」
ミユは力なく呟いた。ミユが繰り出した絶対の一撃は少女には届かなかったのだのから。
「これではっきりした」
そんなはずがないと思っていたが、どうやら私が甘かったようだ。神話の時代を生きた神々であるなら、そのような能力を持っていることにも合点がいく。しかし、目の前の少女、英霊はどう見積もってもそうではない。服装やその手に持つ刀からしてもおそらく戦国時代以降の日本人。そのような近代に生まれてなお神秘の深淵たる魔眼、その中でも宝石色に匹敵するものを持っているなんて。
「ゲイボルグがかわされるなんて。一体・・・」
「何が起こったのかわかりませんが、こちらの宝具発動がキャンセルされたわけではありません。おそらく」
「殺されたのね。ゲイボルグが創る心臓を穿つという未来を」
「凛さん、それってどういう」
「間違いないわ。直死の魔眼よ。まさか、あんなものを持っているなんて。とんだ化物ね。あれが相手では分が悪いわ。一旦戻って出直すわよ」
そう凛がいい終わらぬ内に少女はイリヤの眼前にいた。
「あなたは何も知らないのね。自分の生まれも、生きる意味も、自分の正体さえも。そして、何も知らずに死んでいく。ああ、それは― なんて、孤独――.。」
少女がそう呟くのをイリヤは確かに聞いた。
そうか、死んじゃうのか、私。でも、私が何も知らないってどういうことなんだろう。私は今まで普通に暮らしてきただけなんだけどな。普通に学校に行って、友達と遊んで、お兄ちゃん達と一緒に暮らす。今までの生活は本当じゃなかったのかな。
違う。今までの生活は嘘なんかじゃない。これからも「普通」に暮らすんだ。
「来て、アーチャー」
気づけば目の前には大きな花弁が広がり、少女の刀を止めていた。
「やれやれ、君は本当に面倒事がすきなようだな。マスター?」
「アーチャー、来てくれたんだ」
「マスターの危機とあっては仕方ないさ」
「あれがイリヤスフィールが言っていた英霊ですわね。まさか本当だったなんて」
「イリヤ、いくら英霊でも直死の魔眼が相手では勝ち目がないわ。一旦引いて、作戦を練り直すわよ」
「どうする、マスター。俺はどちらでも構わないぞ」
「ここで倒しましょう、アーチャー。目の間の敵を逃がしはしないわ」
「全く、容赦がないな。イリヤは」
「えっ」
「来るぞ、構えろ」
あまりに速い少女の動き。迫り来る一太刀を避けるためにアーチャーは自身が持つ唯一最高の盾アイアスを展開したが、盾は刃に触れると同時に消え去り、アーチャーは体制を崩しながら後方に大きく飛び退いた。
「あれを相手に白兵戦は分が悪いな。こちらも本気で行かせてもらおう」
「I am the bone of my sword.」
アーチャーが呪文を唱えると、その周囲にはあらゆる刀剣が出現し、その切っ先を少女へと向けている。
「うそ、あれが全部、宝具・・・」
アーチャーの合図とともにそれらの刀剣は一斉に少女へと襲い掛かる。雨の如く降り注ぐ宝具を、しかし少女は最小限の動きでこれを躱し、払い落として、アーチャ-のもとへと歩を進めた。
アーチャーの猛攻は止まらない。むしろ、一秒ごとにその激しさを増している。それでも、少女の歩みは止まらない。
そうして、二人の距離があとわずかとなった瞬間―
「あなたなんかに私の日常は邪魔させないわ。消えて」
私は自分の日常は自分で守る。それが私の願い。
突如放たれた閃光。
「イリヤ,,,,,,」
閃光とともに舞い上がった砂埃の中にはイリヤがただ一人、呆然と佇んでいた。