なんか麻雀が野球的なノリで扱われている。
そんな世界の異常に気付いたのは、ふと見たテレビで「ドラフト」から当たり前が如く続いた麻雀プロという単語を耳にしてからである。
この世界に生まれてはや10数年が経ち、いい加減に前世?との折り合いも付いてきた時分にこの始末だ。転生などという非常識を体感したこの身、パラレルワールド云々による多少の差異程度は当然のように覚悟していたが、これならいっそ魔法なりなんなりが全世界に普及していた方がまだ割り切れる。
(小鍛治健夜プロ……高卒でプロ入り……国内無敗……グランドマスター……)
更に、今世の両親にそれとなく聞けば、どうもその麻雀もオカルトと言う名の超能力が飛び交うトンデモ麻雀であるらしい。運の要素が強い麻雀で1年2年とほぼ毎日打ち続けて国内全勝とかなんの冗談かと思う。まあテレビに出てたその人が例外なだけで、なんだかんだ全体的には競技として成立する程度に拮抗しているらしいのだが。
「うわっ、すっご。何この鬼ヅモ……」
しかし、アレだ。麻雀は別に前世のアプリか何かで多少やった程度の知識しかないが、それでも半荘一回で役満が数回も出るような競技ではないのは知っている。けれどテレビの中にいる童顔の女性は明らかに
「……ムダツモ的な世界のラスボスとか、アカギの師匠的な人なのかな……」
口にしたのは、前世ではそれなりに知名度があった二つの麻雀漫画のこと。発言自体は冗談だけど、それが冗談では済まないかもしれない。何なら今まさに世界の命運を賭けた麻雀勝負がどこかで行われていてもなんら不思議ではないのだ。
「………ちょっと麻雀、始めてみるかな……」
しばらく考えて、割と軽い気持ちで私はそんな決意をする。そして私のこの発言を待ってましたと言わんばかりの麻雀がバカ強い両親と、その両親すら敵わないどちゃくそ強い妹の姿を見て、やはりこの世界はなんかどこかの麻雀漫画か何かなんじゃないかと、更なる疑惑を高める私だった。
☆☆☆
「ツモ、九蓮宝燈」
麻雀を始めたその日から5年の月日が流れ、私もだいぶこの世界に染まってきたなと改めて実感する。
何故ならば、まず間違いなく前世の私であれば、人生で一度和了れるか否かというレベルの役満をこれほど無感情に和了ることなど出来なかったからである。というのも我が生家である宮永一家の麻雀ぱぅわーは明らかに異常で、東一で役満を上がった程度では当たり前のように捲られるのが常なのだ。
「ツモ、嶺上開花。子の3倍満は24000。責任払いよろしくね、お姉ちゃん」
「はい……」
早速、当然の権利のように次局で点棒を毟られる私。しかしこのめちゃつよ妹、さらっとやってるが、前世の感覚であれば嶺上開花による責任払いなんか一生に一度あるか無いかというレベルのレア役である。なんなら前世であれば3倍満すら一週間掛けても出せない自信がある。けれどこの妹にとってはこれが平常運転というのが恐ろしい。
「ロン、親の満貫は12000」
「ツモのみ。500オールの一本場は600オール」
「ツモ、8200オール」
「ロン、18300」
そしてそのまま妹の連荘であっさりとその局は終了。妹とは対面だったからか、和了られる度に全身を射抜かれたような錯覚に陥ってしまう。おかしいな、麻雀ってこんなに早く終わるゲームだったっけ?
「やっぱりお姉ちゃん、そのモードだと弱いよね……」
「そうね。あまりにも防御が疎かよ」
「え? 東一ほぼ確定で役満和了れるのに?」
まさかまさかの駄目出しである。当たらない自信があったとしても、もし万が一直撃したら即死の反則能力が弱いと評されるとか馬鹿じゃねーのなんだこいつら化け物か? 知ってた。
そんなこんなでしばらくわちゃわちゃと話していると、不意に父が「そろそろ寝るか」と言い出して牌を一人で勝手に片付け始める。こっちはこっちでマイペースが過ぎると思う。また離婚言い出されても知らんぞ。
とはいえ既に夜も11時。明日からは私も妹も新学期が始まるわけで、流石にこの程度の夜更かしであれば支障はないと思うが、早めに寝るに越したことはないだろう。
「まあ、初見殺しが今更通じるわけないのは知ってたけどね……」
飽きるほど同卓している家族に初見殺しが通用しないのは当たり前だ。如何な初見殺しとはいえ、それは初見であるからこそ効果の高いものなのだから。
………………
…………
………
「ですので! なんら気兼ねすることはなく、皆様との学園生活をお待ちしておりますわ」
壇上にいる少女が吠える。風もないのに靡く金髪が、この講堂にいる全ての人種を魅了する。
龍門渕透華と名乗った女性。新入生代表としてその場に立っている彼女は、この世界が漫画的なそれではないかという疑惑を抜きにしても、他の人物とは比較にならないほど、圧倒的と言える
(今時、逆に珍しいくらいステレオタイプのお嬢様だね……)
一目で『如何にも』という、過剰な存在感を主張している女性。キャラ付けでは絶対に出せない馴染みきったお嬢様口調。疑惑がーだとかもうなんかあれだ。こんなの絶対に一般人じゃねぇ。
「なんか、凄い人だったね……」
何せ入学式直後、たまたま隣に座ったクラスメイト(継続)の第一声がこれである。話題性抜群ですね。私自身、割と会話のレパートリーが乏しいので助かります。
「理事長の娘とか孫とか、そんな感じのこと言ってたね」
「そうそう! なんか気品?みたいなのが溢れてたし、本当のお嬢様ってあんな感じなのかなぁ」
「気品はともかく、遠目だけどめっちゃ髪サラサラだったからそこは興味ある」
「え〜? そういう宮永さんも相当じゃない〜」
「そうかな…?」
当たり障りのない会話。特に突っかかることもなく不穏な空気もなく、ひたすらに平坦な言葉の応酬。たったの数分で学校中の話題を掻っ攫った彼女に比べると、我々の如何に平凡なことか。
だって龍門渕ですよ龍門渕。名前からしてもう強そう。新入生代表ってことは学年首席で容姿もあの通り端麗。私も宮永とか普通の苗字だし、隣の子なんて苗字佐藤ぞ? あまりに
「……あの子、麻雀も強いんだってさ」
ボソッと、私を挟んで佐藤さんの反対側に座る、我々よりは若干キャラの濃い
「へ? 麻雀もって、またまた。ホントだったら、ますます完璧超人だね〜」
「嘘じゃない。後輩の子が忠告していた。自信家かつ好戦的でもあるから道場破りとかしかねないって。照も注意した方がいい」
「え、私? 別に入部するなら歓迎するけど」
何故麻雀が強ければ完璧超人なのかは分からないけど、強い人が部活に入ろうって思っているのならそれは喜ばしいことじゃないかな?
そう考える私に、静は嘆息して、
「違う。この場合は、部活そのものが潰されるという意味。実際、小等部にあった麻雀クラブは事実上あの子のグループに乗っ取られたらしい」
「うーん…?」
悪役令嬢? いや、まだこの世界が物語の世界だと決まったわけでもないんだし、こういう思考は失礼か。ただ単に、龍門渕さんが評判通りの少女ではなく、一筋縄ではいかないかもというだけだろう。
このタイミングで新たな担任の先生が現れ、自然と会話は中断される。この時はまだピンと来ていなかった会話。その意味を真に理解したのはその日の放課後のことである。
☆☆☆
「いらっしゃいまし! ──ツモ、8000オール! トビ、ですわね」
腰まで届きそうな金髪がふわりと舞い上がる。こんな場面なのに『やっぱり髪綺麗だなぁ』なんて思っている私は、緊張感とかそういうのが多分足りていないんだろう。
「うわっ、死屍累々……」
部室の扉を開けた直後、思わずそのように呟く。そしてその表現はまさしく的確で、そこそこ広い部室には何故か、見慣れた部活の面子のほぼ全員が床に倒れ伏していた。いや、なんで? 物理的に殴られたわけじゃないでしょこれ?
どういうことなのか聞こうと先程対戦していたらしき静を起こそうとすれば、既に彼女は気絶していた。どういうことだってばよ。
「あら? 貴女もこの麻雀部のかたですの?」
「え、ええ……」
目を付けられた。まずい、と思う間もなく、龍門渕さんの取り巻きに説得され、あれよこれよと卓に座らせられる私。
「まずは腕試し──そう思っておりましたが、この麻雀部はなんて不甲斐のないこと。これでは衣を任せるのに不適ですわ。それならいっそ、わたくし達で管理した方がマシということです」
「………」
なにがなんだかわからないが、とにかく私の部活がピンチであるというのは分かる。この龍門渕さん、口でこそお嬢様特有の丁寧な言い回しだが、その裏に有無を言わさぬ迫力を感じる。ならばここで言う『管理』とは、まさしく字面通りの意味なのだろう。
(………)
そんなことはさせるか。自然とそう思った。それに彼女は不甲斐ないと表現していたが、私はこの一年ずっと共に過ごしていた麻雀部の人たちの強さを十分に知っている。例のプロのような化け物相手ならいざ知らず、こんな雑に蹴散らされていい人たちではないのだ。
(………通し、かな)
現在、私は彼女の取り巻きと思わしきメイド服の少女二人に囲まれている。そして私以外の卓の面子も知らない人──すなわち彼女側の人間。つまり龍門渕さんには我々全員の手牌が透けてるも同然。もしもあの子達が同様にここまでされたのであれば、それは普通に勝てるはずもないだろう。
(ふむ……)
だが悲しきかな。私は普通の人間じゃない。母曰く、オカルト──麻雀限定で働く謎の能力が蔓延る人外魔境の卓で、それでも互角以上に競ってきた自負がある。あまりにもインチキ極まりないので普段は
「………」
手牌が配られる。私はそれを確認せず、伏せたままに2つずつ
「ふぅ……」
そして13──その全てを並べ終え、崩さないよう丁寧にこちらへ開く。背後にいた2人のメイド少女の、息を呑むような音が聞こえた気がした。
照 手牌
{一一一二三四五六七八九九九}
龍門渕さん当人は狙わない。おそらくだが、彼女は他の面子よりも頭一つは抜けている。昨夜にも改めて実感したように、このオカルトはまさしく初見殺し。一度でも警戒されると通用しなくなるため、最も弱い
「………」
3巡目 沢村智紀 手牌
{九②③④⑤⑥⑦⑧⑨23479}
打牌
{九}
「ロン」
幾分か経って、ようやく零れ落ちた当たり牌に宣言する。龍門渕さんの取り巻きやっているだけあって沢村さんというらしい眼鏡の子も相当な実力者っぽかったが、交通事故にでも遭ったと思って諦めて欲しい。
和了り宣言に対して眼鏡の人がビクッと震えるも、まだ3巡目なので安手だと思っているのだろう。表情には不安以上に油断が刻まれている。すまんな、これで終わりですたい。
「九蓮宝燈。32000点……これで終わり」
「え……?」
「は?」
「な──なん、ですって……!?」
沢村さんに数秒遅れ、龍門渕さんがガタッと音を鳴らして立ち上がる。面白い顔をしてる……けど。
(うーん、意外とあんまりスカッとしないな。ある意味で通し以上にインチキ極まりないからかなこのオカルト)
まあ、とにかく。腕試しというのならこれで十分だろう。事故当然とはいえ、こんだけボロ負けして「やはりこの麻雀部はワタクシが管理するべきですわぁ!」とか言い出したら恥知らずにも程があるし。
とりあえずこの勝利を言い訳に、何やらキーキー言ってる龍門渕さんをその取り巻きごと無理やり追い返す。元より無礼はあちらだからか、案外簡単に引いてくれたので一安心した。……まあ、絶対に一時凌ぎでしかないだろうけど。
「ふぅ……」
そうして静かになった部室で、改めて卓の椅子に深く身体を預ける。
今日の出来事は、明らかに普通じゃなかった。これはいよいよ、本格的に疑惑が真実になる日も近いのかもしれない。
「あんな子が登場人物の作品……関わりたくないなぁ……」
そんなことを独り言ち、軽い気持ちで龍門渕さんの残されていた手牌を倒す。まだ3巡目だったはずなのにそこには当然のように跳満以上を狙える大物手が眠っていて、ますます私はげんなりとするのだった。
牌画像変換面倒くさぁい! これはもう終わりですね…(投稿が)
登場人物紹介
宮永 照
主人公。麻雀が強い。ぎりぎり人間。
龍門渕 透華
お嬢様。麻雀がまあ強い。人間。
めちゃつよ妹
心無い人から「ヒトじゃない」と評される。主人公も内心そう思ってる。人間のフリが上手い。