惜しくも楽しい日々を過ごした全国大会も全行程を終了し、団体戦準優勝かつ個人戦優勝という創立以来の快挙を成し遂げた我が龍門渕高校麻雀部。
元より、主に龍門渕さんのおかげで麻雀部の注目度はそれなりに集まっていた。そうでなくても全国大会に出場しているのだ。まだまだアングラなイメージこそ拭えないものの、結果を出せば如何なる競技であれ賞賛されるのは道理。となると表彰式や全校集会なんかが開かれるわけで、
「えー、我が龍門渕高校麻雀部は、皆様の応援もあり──」
しれっと引退だの何だの吐かして面倒ごとを回避した元部長の代理として似たような内容の定型句を二度ほど吐き捨て、ポーカーフェイスの一つに無駄に綺麗な笑顔が追加されたりとそんな激動の日々もようやく落ち着いて、一月もするころには大会前と同じく穏やかな日常を──
「練習試合……ですか? ああ、はい。はい、予定を確認次第折り返し……はい。それではよろしくお願いします」
取り戻してなんかいなかった! 派手に大会に殴り込み、上から下まで大会を荒らしに荒らした結果、当然の如く暴れ過ぎて全国各地に悪名をばら撒いていた!!
「………また?」
スマホが恋しいなぁ、などと無関係なことを考えながらガラケーを閉じる私に、近くに居た静が声を掛ける。ちなみに現在地は教室である。放課後だからって教室で堂々とケータイ取り出しても咎められない大らかな校風助かります。まあ私服はおろか制服改造すら許されてるからね龍門渕……でもメイド服はちょっと流石にあれだと思うんだ。今更だしもう慣れたけど。
「まただね。今度は姫松の方。よりにもよって来週千里山なのに…」
「……あれだけ暴れておいて注目を集めない方が無理じゃ……?」
う。いやまあそうなんだけども。でも千里山なんてマジで大会終了後直ぐに連絡来たからね。一応優勝したのはあっちなのに警戒されまくりで草生えますよ。
「……千里山の監督、娘さんが姫松にいるって話だけど」
「姫松。え、誰?」
「中堅の愛宕さん」
マジか。千里山の監督ってあの人の親御さんなのか。静はどこからそんな情報を仕入れて……ってのは今更だからいいとして、娘さんをあれだけ真っ当に育て上げられる人ならそりゃウチの異質さには目が行くよね。
「でも多分、理由の半分くらいは照だよね……残り半分は衣ちゃん」
「まあ……確かに私の能力の類似品、大会どころかこれまでの人生通して一度も見たこと無いけれども。衣ちゃんも何だかんだでめっちゃ珍しいタイプの能力だし……」
相手の心情や牌の流れなんかを限定的に見る能力は割と存在しているのだが、そもそも世間的には存在さえ定かではないはずの能力があることを前提に、それを封殺するでもなく弱点を暴くだけで後は本人の腕に委ねるなんてキワモノスキルがそりゃあまともな経緯で発現するはずがない。
それ以前にこの世界、そんな細かいことしなくても気合い一つで牌効率が上昇する理不尽が常識として罷り通ってるのである。ぶっちゃけ私も前世の価値観がなかったらデメリット云々とか深く考えることもなかっただろうし、まあ普通に例外の部類だよね私。
「とはいえ、まあ所詮は練習試合だし……」
「エンジョイ勢、能力精査会、龍門渕さん……うっ、頭が」
その話はやめーや。あんなもん事故ですよ事故。でも思えば私基準で半分くらいは例外的な打ち手だったなぁ団体戦。神代さんとか白水さんとかマジで酷かった。あれ本当に私以外にどうにかできる人いるんだろうか……。
「でもそれ込みで考えるなら、私に情報抜かれてもいいのかな? 自慢じゃないけど多分全員丸裸に出来るよ?」
「今更じゃない? 私のオカルトとか私以上に知ってたし……」
そうかな。そうかも。いやでも流石に遠目で観察するのと実際に打つのとでは訳が違う。遠目だと“どんな能力か”は見抜けても、具体的にその能力が牌にどう影響を及ぼすのかは曖昧なこともある。というかその日の気分に左右される能力も割と多いからどうしても場当たり的にならざるを得ない。
「……そういえば、あれから妹ちゃんにコツを聞いて、槓からの聴牌が安定するようになった。嶺上開花は流石に無理だけど、もう火力だけなら龍門渕さんにも負けない」
「コツを聞いてどうにかなるものなの……?」
このように、オカルト能力者は総じて独自のルールを保有している。そしてオカルト故にシステマチックな対処法が事実上存在しない。しかしながら、それでも対戦中の私は相手の状態の変化を観察することでルールのブレ幅をある程度アドリブで調整できる。当然、その精度は対戦回数によって上昇する。
すなわち、オカルト能力者は私と対戦を重ねる度に勝率が下がる。尤も、龍門渕さんのような例外や、咲くらい対戦回数を重ねて向こうが照魔鏡の欠点に気づいたなら話は別だが、所詮は他校との練習試合程度の付き合いでそこまでの進歩は望めないだろう。
「それ以前に、姫松や千里山にオカルト使いっていたの……?」
「断言するけど、いなかったから
何なら麻雀で一定以上を安定して稼げる人間はもれなくオカルト使いだ。多少麻雀が上手い程度では確率論を超えられない。ギャンブルを舐めるなよ小娘。麻雀以外でその認識だと普通に破滅するぞ。
「……やっぱり、リスク以上にオカルトの経験を積みたいんじゃない?」
「やっぱそうかな……衣ちゃんクラスの支配系ってあんまりいないしね」
同意すると、いや照の。と返されて微妙に困惑。結局大会では露呈が怖くて初見殺しを使えなかったし、牌譜を見たら私にツモを可笑しくするような能力は無いと思われてるはずなんだけど。
「いや、ほら。照のオカルト判別……」
「あー……そっちね。そっか、江口さんや娘さんの傾向を考えれば、そっち方面には疎い可能性もあるんだ」
そもそも千里山や姫松は有名過ぎて研究され尽くしている。たかだか練習試合一回で無名だったこちらの情報が得られるならリスク込みでもやる価値は十二分、と。
「それなら遠慮なく盗んでいこう。まあ、結局私はあんまり変わらないんだけど」
「オカルトが絡まないと、照は衣ちゃんと違って最終的には運ゲーだからね。勝率なんてちょっと上がっても認識しづらいし」
「5割が55%になるだけで安心感がだいぶ違うよ。地味に私もメンタルの影響を受けやすい能力だから」
メンタルに影響を受ける能力は結構ある。咲や衣ちゃん、最近では鶴田さんとかがそうだっただろうか。そういう打ち手はムラこそあれど、共通して“ただ絶好調である”という理由だけで雑に勝率を爆上げしてくる。私はそういうのはないけれど、それでも観察するにあたってかなり集中しなければならないから割とメンタルは大事なのだ。
「ふっふっふ。結局何を企んでいるのかは分からないが、ならばこの私が妹ちゃん直伝必殺ドラ爆で悉く爆殺してくれようぞー」
「どういうキャラなのそれ……あと多分静じゃ無理だから。せめて国広さんに勝てるくらいにならないと……」
なにおぅ、と反論する静を宥めながら、私は答えの無い思考を巡らせる。そしてついつい癖でネットを見ようと携帯を取り出して──その形状からネット接続料金が結構かかることを思い出し、ますますスマホが恋しくなる私なのだった。
☆☆☆
「そんなわけで、可能ならウチの部員全員、一度は宮永と打って貰いたい」
やだ、初手から酷使宣言……!?
いつかの静との戯れから一週間。その日は祝日ということで朝から晩まで麻雀に傾倒するダメ人間たちが学校に集結し、更に遠方から遥々やってきた同類共と鎬を削る地獄絵図が展開されつつある龍門渕高校麻雀部。
引退宣言したくせに普通に部室居座ってる元部長を皮切りに、何だかんだと身内以外との対戦相手に飢えていたエンジョイ勢も結構な割合で参戦し、主に龍門渕さんの我儘で無駄に広くなった部室が、かつて以上の密度まで鮨詰めになっていく。
「千里山女子高校の監督をしております愛宕です。本日はどうかよろしくお願いします」
「先日、この麻雀部の部長となりました宮永です。よろしくお願いします」
それでも雑多な印象をこちらに与えることはなく、整然と並んだ部員達の前で一人の女性が躍り出る。やや関西特有のイントネーションが混じる標準語に、どこか姫松の愛宕さんの面影を持つ妙齢の女性。高校生の娘を持つには少々若すぎるような気はするが、母も下手したら20代にしか見えないので触れない。
ちなみに父も相当若く見える。そして見た目がチャラい。言動もチャラくて結構な頻度で幻滅されてる。出身も東京でどこか浮世離れしてる母との接点が割と謎な組み合わせだけど、母って初心だし多分ナンパか何かで引っ掛けたんだと思う。どうでもいいけど。
「申し訳ありません。急な申し出で……」
「いえ。ストイックな姿勢は羨ましいばかりです」
頭を下げる愛宕監督。しかし確かに急な申し出ではあるものの、優勝したからと慢心せず即座に情報を貪ろうとする貪欲さは正直嫌いじゃない。ウチなんてレギュラー陣や元部長を除けば自称エンジョイ勢の静ですら結構真面目な部類に入る。まあ別に趣味でやってる麻雀なんてそんなもんでいいんだけど。……ただ、うん。その、あれだ。
「……そんなに気になりました?」
「ならんと思うか?」
ですよねー。とまあ、そんな感じであっさりと上辺が剥がれた監督さんがいの一番に切り出した方針が、先に反応した冒頭の台詞というわけである。
「まあ私のアレが、多少なりとも皆様の参考になるようであれば構いませんが」
「ええんですか?」
問いかけたのは、まず一番最初に同卓した眼鏡で長髪の女性。どこか監督さんに全体的な雰囲気が似ているが、この人も監督さんの娘さんなのだろうか。いや、静曰く娘さんはどっちも姫松にいるんだったかな? 二人いたってことは覚えてるんだけど。
それはそうと、疑問については隠すことでもないので、素直な気持ちで回答する。
「私、実はコーチ志望で、龍門渕に入学したのは、この学校が長野で一番教員関係の資格が充実していたからなんだ。だから私の能力がそっち方面に強いことは、私自身誰よりも理解しているつもり。無闇にひけらかすつもりはないけれど、こうして頼ってもらえる分には問題ない」
「コーチ志望……?」
呟いたのは、下座に座っている黒髪の女性。というか清水谷さんだよねこの人。もう一人も確か副将の人だし……ははーん。さては思った以上に計画的犯行だなこれは? 練習試合を受けた時点でこの流れまで持ってくる気満々だったわけだ。仮にも他校の人材を便利使いとか、中々どうして強かな監督である。
「さて……」
それぞれが卓に着き、サイコロを振る直前の段階になって改めて居直る。立場の確認は大事だ。特にこの場では私がホストになるわけで、私から話すことが礼儀だろう。
「私は龍門渕高校麻雀部2年、宮永照。最近この部の部長になりました。好きなことは麻雀と、あとは読書とか天体観測とか色々。割と居る妙な豪運を発揮する雀士……いわゆるオカルト使いと呼ばれるヒトの超能力を解析する眼を持っていて、そういった打ち手に対してかなり優位に出られる自信があります」
「……。ええと、千里山女子高校2年の清水谷竜華と言います。好きなことは麻雀と……怜、いえ友達と過ごすこと。割と居る妙な豪運を発揮する打ち手……具体的には天江とは、以前の大会で死ぬほど精神をすり減らしたので、もう二度と勝負したくないと思っとります」
ちょっと間を空けて清水谷さんが答える。かなり独特な自己紹介だったのにわざわざ形式を揃えてくれる辺り、実は意外とノリが良い人なのかもしれない。でも多分君は今後もよっぽどのことがない限りずっと衣ちゃんにぶつけさせられるぞ。あの子に多少なりとも対抗できる人材をあの監督さんが腐らせるはずないし。
「同じく千里山女子3年の吉田花江。好きなことは麻雀と、それ以外にもボードゲーム全般が好き。割と居る妙な打ち手に関しては……実は対決した経験が少なくてなんとも」
「ああ、やっぱり自覚してなかったんですね……千里山レギュラーで唯一の能力者だったのに」
「え!?」
分かりやすい反応からあちらの状況を察する。全国大会があまりに魔境すぎて誤認していたが、名門校と呼ばれる学校でもこの程度の認識なら、思った以上にアングラな技能なのかもしれない、オカルト。
「吉田先輩が能力者ってのはホンマですか? いえ、それ以前に能力者とは一体?」
驚いている当人よりも先に切り込んだのは眼鏡の子。それを知らないのは今更として、随分とぐいぐい来るなこの子。静の同類かな? 思えばあの子もオカルト関係の話題ではだいたいこんな感じだった気がする。まああの子はホラーとかそっち方面が主だけど。
しかし静の同類となれば慣れたもので、私は一つ一つ船久保さん(質問のついでに名乗られた)の疑問に答えていくと、
「オカルト能力者……それこそが“牌に愛された子”の正体……」
「正体かと言われると違う気はするけれど、そうとしか呼べない
流れに乗る、運が良い、牌が偏る、程度であれば誰にでもあるかもしれない。けれどそれがあまりに度の過ぎるもの、
「………」
カンチャンが初手でずっぽりハマる。槓をした瞬間その牌にドラが乗る。リーチをして一発でツモる。一つ一つはありふれたものでも、あまりに重なるとおかしなものとなる。私の初見殺しに妙な迷信が付き纏っているのは、その役が成立する確率が、およそ人間が意図して出すのは不可能なものであるからだ。
「ただし、麻雀という誰にも平等でなければならないゲームにおいて、意図して己が運命を歪めようと目論む者は、必ず本人が把握していない部分に致命的な欠陥を抱えている」
「そして、宮永さんはその欠陥を見破れるからこそのオカルト殺し……ってわけですか」
「オカルト殺し? 何それ……まあそういう面が無いとは言わないけど」
積み上がった山に崩れがないか確認し、ホスト権限で賽を回す。出目は8。この数字に大した意味はない。順当に牌を配り終え、背筋を伸ばして全員と向き合う。
「……ふむ」
宮永照 配牌
{一二五七九九79④⑥北西白白}
「……まず一つ訂正。清水谷さん、貴女も能力者だね。それもとびっきりの……なるほど、衣ちゃんの九星を止めたのはそういう……」
「……へ? ウチ?」
「厳密には違う。いや、正確に言えばその素質がある。進むべき道が見える力……なんかそんな感じのオカルトになりそうな雰囲気が、それとなく貴女の周りに漂ってる気がする」
「え、えらくフワッとした説明ですね」
「実際まだフワッとした力だから仕方ない。推測でいいなら、“卓全体で一定数の役を確定させる力”、“その場での最善の和了り方を見る力”、“相手の運命に割り込む力”なんかになりそうかな」
「……この段階でそこまで分かるんですか?」
困惑する清水谷さんに代わり、船久保さんが疑問を呈す。これも中々鋭い質問だけど……んー、まあ、これは別に言ってもいいかな。
「正確にはこの段階じゃないと、かな。牌が配られた時点でその局の運命は決する。だからオカルト能力者がそれに干渉するならその前の段階でしか有り得ない。もしもこれ以降に牌の並びが入れ変わるようであれば、それはオカルトじゃなくてイカサマということになる」
「……道理ですね」
物凄く微妙な顔をしながら船久保さんが答える。あれは“じゃあ衣ちゃんのアレはイカサマじゃないの?”って顔だね。分かる分かる。でもどんなに納得がいかなくてもあれはイカサマじゃなくてオカルトなんだ。耐えてくれたまえ。
吉田 配牌
{三78①②②③⑤⑤⑧⑨西中中}
「で、多分今の吉田さんの手牌には6割くらい筒子があることと思いますが」
「え? な、何でそれを……」
「勘です。それで、私の勘が正しければ、孤立してる自風牌を捨てずに筒子での染め手を目指してください」
「は、はぁ……?」
「………」
釈然としない表情で、それでも吉田さんは素直に従う。けれどあまりにも意味不明な指示に戸惑っているのが見て取れる。まあ手牌を覗いてもいないのに勘の一言でその大半が第一打より前にバレてるとか恐怖でしかないから仕方ないね。
吉田 7巡目 手牌
{①①②②③③⑤⑥⑨⑨西中中}
ツモ
{⑨}
「さて。そろそろ吉田さんが聴牌すると思いますが」
「ひぁっ!?」
可愛らしい声でびくんと震える吉田さん。大会では龍門渕さんを普通に圧倒していた彼女であるが、この程度の鎌掛けでビビり散らかすとは、度胸の面ではやはり龍門渕さんには遠く及ばないらしい。いやあの人より度胸ある女子高生なんて世界見てもそういないと思うけど。
「ここで吉田さんの能力の詳細です。吉田さんは『自風牌を残した状態で染め手を目指すと、手牌が清一色に寄っていく』という能力を保有しています。しかしながら、清一色と自風牌は両立することが出来ない役。したがって吉田さんはどこかのタイミングで、道標となる自風牌を切り捨てる必要があります」
「そ、そうなんだ……」
やばい。露骨にドン引きされてる。でも気にしない今更だし。嘘ですちょっと気になります。なまじ観察力が優れてるから表情で考えてることわかるのが憎い。でもこれが私の役目、私の役目……。
「なら自風牌を含む混一色でいいんじゃない? とお思いでしょうが、能力発動中は混一色でツモれません。理由? 知らないです何故かそうなってます多分未熟だからなので改善したいなら努力してください。でも出和了りなら可能なので狙い撃ちもありですが、今回は素直にリーチをお願いします」
「じ、じゃあリーチで」
吉田 打牌
{横西}
「あ、清水谷さんも聴牌してるっぽいけど、今回はステイでお願いします。船久保さんはまあ和了ってもいいけど、多分間に合わないからOKです」
「…………」
「…………」
「…………」
念のため釘を刺しておくと、卓の全員から見慣れた視線を受けた。はいはい分かってますよ変だよねおかしいよねあり得ないよね異常だよね。でもこうにでもならないとウチでは勝負の土俵に立つことすら出来ないんだ。しかもそれでもプロだった母曰く、私の評価は“とりあえず便利枠でレギュラーには入れそう”くらいらしいので、プロを目指すなら私なんかただの人格付きスカウター程度に思えないと付いていけないぞ。
けれど場の空気が凍りついていても、遠くで衣ちゃんのオーラが爆発していても時間は刻々と過ぎて行く。やがてこのまま固まっても居られないとそれぞれ無言で牌をツモ切りし、それが2巡ほど繰り返されると、
「あ……ツモ。リーチツモ、混一色、一盃口……ドラ4。4000・8000」
吉田 和了形
{①①②②③③⑤⑥⑦⑨⑨⑨中中}
必然の和了り。巡目が早くそれなりに良型で、他者が和了る気もないなら当然こうなる。裏ドラに関しては私にも見えないので予想外ではあるが、これほど対子の多い形なら期待値もそれなりにあるだろう。
「とまあ、こんな感じで。偶然か否か、信じるか信じないかは勝手ですが、意識してみると高火力が期待できるかもしれません」
「う、うん……」
どこか固い表情で強張った気のない返事をする吉田さん。うーん国広さんを思い出すなぁ。つまり感性が結構マトモな人なんだなぁ麻雀やってるのに。そんな子にこんな超能力自覚させてもいいのかなぁ。でもこの人は静なんかと違って地力も十分だし……監督さんに任せよう(丸投げ)
ただ、まあ。もしもオカルトに頼り切りになったらアレなので、一言だけアドバイスをする。
「しかし、先程も申し上げたように、如何に便利なオカルト能力でも、その実確実に拭えない弱点を抱えている。尤も、それを初見で見破れる人はそういないと思いますが──」
「………!」
発言と共に手牌を倒す。吉田さんのサポートのため2巡ほどツモ切りした手、つまり彼女がリーチをかけた時点でこの形になっていたわけなのだが、
宮永照 手牌
{一二三四五六七八九南南南西}
「──今後も私と闘うつもりであれば、そんな小手先の技は使わないか、せめてそれくらいは克服して来てください」
如何に強力なオカルトがあろうとも、ただそれに頼るだけでは私にとって木偶と変わらない。オカルトとはあくまで手段。有っても無くても強い人は強い。
そして彼女たちには、強者になれる素質がある。ならば私は強者の一人として、彼女たちへの壁となろう。それこそが私の理想の、指導者としての姿なのだから。
半荘終了(各25000点)
宮永 86900
吉田 -5800
清水谷 1200
船久保 17700
「ありがとうございました」
「あ、ありがとう、ござい……まし、た……」
「ありがとうございます……」
「ありがとうございました。……ホンマ、露骨に相性が出ますね宮永さん……」
「まあ私、冗談じゃなく全てを“見”に振り切ってるから、刺さる相手にはとことん刺さるんだよね」
確かに毎度オカルト相手にはこんな感じだし、案外オカルト殺しってのも言い得て妙かもしれないかな。
☆☆☆
「それでは、またいずれ機会がありましたら」
「ああ、その時はまたよろしく頼みます」
差し出された手を固く握りしめる。あれほど得体の知れない存在に見えた彼女も、こうして手を握ってみるとウチよりも一回り二回りは小さくて、如何に精神が成熟していても彼女があくまで高校生の若造でしかないことをつくづく実感する。
「うむ。中々良き饗宴であった! マサエも褒めて遣わす!」
「こちらこそ勉強させてもらったわ。つくづくあの大会の結果は奇跡やったんやなって……」
結局部員全員どころか、元プロで腕に自信もあったウチすらあっさりと蹴散らしたちびっ子にひらひらと手を振る。まさに怪物としか呼べない実力を有する彼女も、ただヒトとして接する分には非常に好感の持てる小気味いい性格をしている。強さだけを見て邪険にするは、客観的にも主観的にも過ちであろう。
「それで最後に、園城寺さんについては一考願いますね」
「分かっとる。吉田や清水谷。清河、樋口なんかのオカルトで宮永の眼の恐ろしさは散々実感したからな。尤も、アイツは病弱なんで監督としてあくまで体調の方を優先させるけどな」
「負担については無理をしないか、無理出来ないようオカルトの方向性を調整するかすればどうにでもなりそうですが……無理しそうな人でしたしね」
「……ああ」
園城寺怜。兼ねてより病弱を理由に気にかけていた部員であるが、彼女の立場は非常に悩ましい。
彼女と清水谷は親友と言っていいほどの仲。なのに清水谷はスタメンなのに自分は三軍の補欠。残酷な話だが、これ自体はどんな競技でも起こり得るありふれた出来事でしかない。ウチもプロになる以前、高校の頃にレギュラー争いで潰れた友情の話を、それこそ一つ二つでは済まないほどには小耳に挟んだ経験がある。
それでも友人関係を保っているあたり、彼女と清水谷の関係はそんな立場で縛られない素晴らしいものなのだろう。しかしその上で劣等感を感じないかと問われるとそれは否だ。むしろ仲が良ければ良いほどに、劣等感というものは爆発的に膨れ上がるもの。思えば今までにもどこか自分を卑下するような発言をしていたことが思い起こされる。
そんな折に、降って湧いた自身の素質の話。それ自体はオカルトという眉唾物でも、厄介なことに信憑性はある。というか実際に覚醒したらしい超能力はそれまでの劣等感を覆して余りある劇的なもので、ならばそれに傾倒しないかと問われると厳しいものがあるだろう。
「私がそうなので助言しますと、眼と一体化するタイプのオカルトは時間と慣れこそが習得の近道になります。負担を感じないレベルの能力行使をゆっくりと慣らしていけば、順調に行けば来年の大会と言わず、半年後くらいにはちょっと眼を凝らす感覚で能力が使えるようになると思います」
「半年か。よく覚えておくわ。幸いにも吉田や樋口と違って園城寺にはまだ時間がある。その頃の大会で一度結果を残してやれば無茶も控えるようになるやろ」
背後にいる部員を見渡せば、ちょうど件の園城寺と清水谷がバスの内部に入っていく姿が見える。その姿は比較的園城寺と関係が薄いウチであっても、傍目に見てわかるほど浮かれているのが分かる。それを確かな自信として刻ませてやることこそ、監督であるウチが成すべきことだ。
そうこうしていると、不意に宮永が呟く。
「……難しいですよね。私自身は園城寺さんがオカルトの反動によって倒れても自己責任だと認識していますが、やはりその判断では今後に響きそうです」
「監督ってモンは生徒の無茶を止めるのも仕事の一つやからな。場合によっては恨まれるんも承知の上で引き留める必要がある。ウチは麻雀部やから直接命の危険がある運動部ほど厳しく躾けんけど、それでも彼女らが学生であるからには赤点を理由に参加禁止を言い渡した経験はあるな」
当然、園城寺などの病弱な生徒には過度の参加を控えるよう忠告している。しかし、麻雀をすることによって身体に負担が掛かるなどと冗談のような話。たとえ無理をしていても本人が『問題無い』と言えばこちらとしては『そうですか』と頷く他に無い。
だが、宮永はあくまで素質を見出しただけ。その辺りは監督であるウチか、そうでなくても本人や千里山の生徒が気にかけるべきこと。そこまで彼女が気に病むことなのかと問うと、
「私、将来的にはコーチの道も目指していまして……進路選択の頃にこんな眼を開眼したからなんて浅い動機なんですが」
「………!」
まるで想像もしていなかった返答に心底驚く。しかし確かに良く考えると、彼女がこれ以上ないくらい適任の能力保持者であると深く納得する。それでも大袈裟に反応してしまったのは、そういうあからさまに特別な能力を、他者のために惜しみ無く活用しようとする発想が、ウチ自身にまるでなかったからである。
「く、くくくっ……」
「?」
ついつい笑いが漏れる。娘からは“なんや悪役っぽいわ”などというよく分からない理由で人前で控えるよう言われていたが、これが笑わずにいられるだろうか。
ウチの知る『能力者』とは、それ即ち小鍛治健夜のような心無い怪物のことだった。だが当然、目の前の少女は小鍛治健夜とは何もかもが違う。そうなれば今後進むべく道も異なるのは道理。
かの小鍛治健夜すら超える
「……どうかしましたか?」
「いや、すまん。つい昔を思い出して思い出し笑いしてもうたわ。いや、ウチは別に、昔からこの道を志していたワケやないんやけどな」
「?」
「こっちの話や。しかし、せやな……いや、マジでスマンな。なんかアドバイスでもするつもりやったけど言葉が出ん」
「いえ、お気になさらず…」
首を傾げる宮永。その表情も新鮮ではあるが、これはこちらが単に礼を失しているだけなのでいつまでもそのままでは忍びない。これ以上バスを待たせるわけにもいかないと、緩んだ表情を頬を叩いて直し、バスに乗り込もうとして──ふと最後に一つだけ、気になってしまったことを問う。
「そういえば、あの大会で宮永は気になった選手とかいるんか?」
「え? ああ、そうですね……」
唐突な質問だったからかしばらく宮永は考え込み、流石に急すぎる質問だったかと謝罪をしてバスに乗り込もうとして──しかし去り際にギリギリになって、彼女は思い出したかのように一人の名前を上げる。
「臨海の辻垣内さん。あの人が順当に成長すると考えたら……ちょっと今の私では、真っ当に勝つのは難しいかもしれません」
謙虚にそう告げる宮永だが、しかしその発言は裏を返せば、真っ当でない手段であれば問題ないという自信の表れであり──やはり龍門渕で一番侮れないのは彼女であると、改めて実感する私だった。
☆☆☆
「なるほど。お姉ちゃんより上位の眼……どういうものか想像もつかないけど」
「どちらが上位なのかとどちらが便利なのかは全然違うから、流石に今は私の方が明確に上だけどね」
へー、と言葉の割にあまり興味が無さそうな顔で咲が頷く。まあ羨ましがったところで何が得られるわけでもないから仕方ないけど、麻雀とそれ以外で態度がガラッと変わるのは毎度のこととはいえ慣れない。
ちなみにであるが、今の私達は漫画「カイジ」に登場した2人麻雀こと「17歩」をしながら駄弁っている状態だ。前世の漫画ということで当然この世界では存在しないルールなのだが、何度か戯れでやってみるうちにあまりにお互いが振り込まなさ過ぎて最早第六感を鍛える訓練として活用されているのが現状である。
「あー、もう無さそう。発と白のシャボ待ちだよね?」
「そうだね。流石にこれは露骨過ぎたか……じゃあ次行こう」
しかも何だかんだ私が考案した(ということになっている)ルールなので咲も割と気に入っているらしく、段々とルールもエスカレートして今では手持ちの牌が地雷牌だけになった時点でそれを公開して成功で流局失敗したら罰符とかいう色々異次元の争いになっているが、しかしそれ故にこうしてダラダラと駄弁る分には中々に便利な遊びなのだ。
「そういえば、咲はもう進路決めたの?」
「京ちゃん次第かな……まあ順当に清澄辺りになりそう」
「そっか。咲がいれば全国優勝もだいぶ楽になりそうだったけど、龍門渕は女子校だから仕方ないね」
「もっと正確には執事とかの男子部で分かれてるって聞いたけど、ちょっと共学の魅力には勝てないかな……」
まあ私も確かに男子部の人とはそれなりに交流もあるけど、あの人達はハギヨシさんみたいに良い家の使用人とかになるためか相当躾けられていて、少なくとも授業中では他所行きというか恋愛度外視の紳士しかいない。だから絶賛交際中の咲に薦めるのは厳しいだろう。
「そういえば、お姉ちゃんは浮いた話とか無いの?」
「私かぁ……最近部長になったから外部との関わりも多少出来たけど、交流を持った相手が尽く女子校なんだよね。来週の姫松も女子校だって話だし、現時点でそれなり以上に交流のある男性となると京太郎くんを除くとハギヨシさんくらい?」
「ハギヨシさん? って確か……」
「うん。龍門渕さん家の執事の……まだ19とか聞いてびっくりした記憶がある」
でもあの人も恋愛という意味ではどうなんだろう。そう歳も離れてないし仕事とプライベート完全に分けるタイプだから龍門渕さん達を性的な目で見るとか無さそうで案外狙い目ではありそうだけど。交流があるだけで仲が良いわけでもなんでもないし。私の側も好感は持ってるけどそれだけだし。
しかしまあ、彼がキャラ作ってるのかもしれないけど、あそこまで女所帯に居座って男を感じさせない人も珍しいから普通にアリではある。エスコートも完璧そうだし、個人的にプライベートがどんな感じなのか気になるから一度食事に誘ってみるのも良いかもしれない。
「……ふーん?」
「──」
──と、そんなことを考えていると、咲が何とも言えない微妙な表情でこちらを見ていた。やばい忘れてた。見るな、そんな目で私を見るな…!(KONMAI感)
冗談はさておき、これはちょっとまずいかもしれない。咲は私の影響で恋愛脳というか多分京太郎くんを取られたくなくて身近な女性をすぐ他の男性に充てがおうとするから、下手をすると今後変なサポートに回りかねない。
「やだなあサポートなんてしないよ? ただちょっと、ね」
やめろ当たり前のように心を読むな。ただちょっと何をするつもりだ逆に怖いぞ。そんなんだったら露骨にサポートされた方がまだマシだわ。いやサポートなんて要らないからね?
「卒業まで一年半……私、頑張るね」
「何をだ。やだよ私は積極的にこっちを堕とそうとするハギヨシさんとか。いいよ私はしばらく独り身で。軟派なのはお父さんだけでいいんだよ」
私のサポートなんかしてないで、むしろ咲は割と軟派な印象のある京太郎くんを押し留める努力をした方がいい。そう返すと京太郎くんパワーが効いたのか、すぐに咲はスンと落ち着くと、
「そういえば京ちゃん、ハンドボール部引退して暇になったからか、最近遂に麻雀に手を出したみたいなんだけど……多分京ちゃんって何か変な能力あるよね?」
「何で分かるんだ……あるよ。立直かけると相手が有効牌引きやすくなるってやつ」
「へぇ。立直で有効牌。それは中々便利そうな……相手が?」
「うん。相手が。対戦相手全員に有効。本人のテンションでオンオフ可。多分その気になれば個別指定もできる」
「……。一瞬、“使い辛いな…”とか思ったけど、これ良く考えると結構便利じゃない?」
一瞬の困惑の後、しばらく考えて咲はそう切り込む。まあ一見するとただのデメリットにしか思えない能力なので、その反応も仕方ないとは言える。
けれど相手が有効牌を引くということは、即ち余った不要牌を切る可能性があるということでもあるため、相手に安牌による逃げを許さないということでもある。しかも現状では立直前提なので、要するに立直をかけた相手に突っ張るかどうかの選択を強要する能力だとも取れる。
ただまあ、玄人向けの能力であるのは否定しない。聞くだに京太郎くんはまだ読みもクソも無い完全な素人なので、現時点ではただ和了られやすいというデメリットしか享受していないことだろう。効果を実感できるようになるには最低でも国広さんくらいの実力が必要だろうか。何にせよ、ズブの素人が持っていいような能力ではない。
「オフに出来る時点であるだけお得だよねー。私は多分常時オンだからネトマだと露骨に戦績が落ちるし」
「私も事実上解除不可能だしね。……はい。赤五索の単騎待ち。形はタンヤオインペーコーにドラ混ぜた形じゃないかな」
せいかーい。と気の抜けた返事をする咲に合わせたように、ちょうど部屋の外から父の「そろそろ寝ろよー」という声がして、今日のところはお開きになる。
「でも能力かぁ。
「………」
そして卓を片付けて咲が部屋を去る直前、やや遠い目をして彼女はそう呟く。私からすると咲の方が羨ましかったりするのだが、しかしそれは持たざる者のジレンマということで、互いに何も言うことはなかった。
以上、間話でした。次回はまた時間が飛ぶと思います。照の手牌も直りました。誤字報告いつもありがとうございます。
原作との相違点。衣が個人戦優勝。
どうでもいい設定。宮永照はまだガラケー。来年の咲入学に合わせて彼女と一緒にケータイを機種変する予定。
登場人物紹介
吉田 花江
よしだはなえ。オリキャラ。大会でちょっと話に出た千里山副将の能力者。麻雀は強い。もう出番は無い。
須賀 京太郎
ご存じ京ちゃん。よく二次創作の主役として抜擢される彼だが、本作では咲ちゃんの彼氏以上の出番は多分ない。でもきっと裏では数多の二次創作並みに活躍して咲ちゃんを強化してくれている。ちなみに作中に出た能力は咲のゲームから引用。色々とゲームバランスがめちゃくちゃなゲームだったが、ニワカ先輩の能力説明文が『王者の打ち筋を魅せつける』なのは評価したい。麻雀はくそざこ。
園城寺 怜
おんじょうじとき。多分病弱なのは北斗の拳との名前繋がり。阿知賀編先鋒戦が千里山編と呼ばれていたりスピンオフが出たりとやりたい放題。本作では能力が強化されるかもしれない。出番はある。麻雀はまだ弱い。