解説の宮永さん   作:融合好き

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きっと何かが芽生えたあの日

 

 

 

「親睦会をするじょ!」

 

優希がいつものように無い胸を張りながら雀卓の椅子の上で裸足になって立ち上がって何かよく分からないことを叫んでいた。

 

「はしたないですよ、ゆーき」

 

色々とツッコミどころ満載の咆哮。それに率先して答えるのは、親友である私の役目。内容については改めて問うのでいいとして、まずは優先して正すべきところを指摘する。

 

如何に唯一の男性がパソコンの方へ向いていようと、今の言葉で部員全員の注目を集めてしまっている。無論、須賀くんがそういう邪な視線を優希に向けると思っているわけではないのだが、今後も彼女が彼女の言うレディに成長するつもりであれば、その辺りのリテラシーはきっちりとするべきだろう。

 

特にウチの制服はスカートの丈が比較的短く、あんまり高いところで派手に動き回ると下着が見えてしまう。その旨をなるべくやんわりと告げると優希は「そんなことより!」とそれを強引に流し、

 

「来る日も来る日も特訓特訓と! とにかく部室の空気が重いんだじょ! ぶちょーは今回の大会がラストチャンスとはいえ、まだまだ4月も半ば! そう焦るような時期じゃないはずだじぇ!」

「ぅ……」

(ふむ……)

 

自分本位ではあるものの、確かに筋の通った発言に、部長が「痛いところを突かれた」と怯むような仕草を見せる。まだまだ慌てるような時期ではない。その主張は分かる。とはいえ部長が焦る気持ちも理解できる。どちらの視点に立ち、どう返答をするべきか悩んだその僅かな時間に、

 

「なるほど。それはいい考えかも……」

「え!?」

 

この場の誰よりも個人技を突き詰めたような人が真っ先に賛同したので戸惑う。それ以前に部長を意欲的に鍛え上げているのは宮永さんのはずなのに、まさかこんな完全なる寄り道に肯定的な意志を示すとは思わなかった。

 

部長も同様のことを思ったのか、なんとも言えない微妙に引き攣った表情になると、それを受けた宮永さんはいつだったか須賀くんが風邪で休んだ日の時のようなどこか不機嫌な様子で、

 

「何ですか。私だってやりたくてスパルタやってるんじゃないですよ。部長がお姉ちゃんくらい強かったら特訓なんていらないんですよ」

「……そういえば以前から疑問だったんじゃが、お主らの特訓って一体何をやっちょるんじゃ? 時々二人で部室に残っちょるのは知っとるが」

「謎のルールで二人麻雀をやっているわ……じゃなくて。だ、大丈夫なのかしら?」

 

どこか不安気に呟く部長。現状が部長の我儘に近い状態であるが故に罪悪感を抱いているのだろう。事実、宮永さんの高過ぎるハードルに部長の実力が適うなら、基本的に須賀くんを優先する彼女が彼を置いて居残ってまで特訓を行う必要は無いはずである。

 

「実のところ、麻雀の実力が急激に伸びるなんて普通はあり得ません」

「………まあ、そうね」

「いえ、正確には方法はあるのですが、部長はもうその段階をとっくに通り過ぎています」

「通り過ぎる?」

 

そう言いつつ、宮永さんはちらりと須賀くんの方を見る。彼はこの部活で唯一の初心者で、実力的には南場の優希にも劣るくらいの力しか持たない。しかし、それ故に。

 

「ルールを覚える。役を覚える。牌効率を覚える。河の見方を覚える。人の表情を覚える。いわゆる初心者から中級者、中級者から上級者になるための方法……ブレイクスルーはいくつか存在します。しかし部長は既にそれをある程度習得し、後は経験を重ねて地道に磨くのみ。そうなるともう、一気に強くなるというのは現実的な手法ではなくなります」

「ふむ……」

 

顎に手を当てる部長と同様に、内心でなるほどと頷く。確かに須賀くんは初心者ではあったが、だからこそ本格的に麻雀をやるようになってからの成長は著しい。役を覚えた。牌効率の計算も早くなった。河の見方はまだまだこれからだが、その2つを磨くうちに彼もやがては中級者と呼べる一端の実力者となるだろう。それはまさしく入部当初からすると雲泥の差であると言える。

 

しかしながら、部長は現時点でも私が唸るほどの実力者。先の基準で言うなら上級者に当たる。そうなると最早初心者のようなブレイクスルーは見込めず、既に所有している技能を磨く他に実力を向上させる手段は無いに等しい。

 

「なので、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのは、実は結構有用なんです」

「?????」

(………?)

 

だからこそ、当然のように突飛な発言をする宮永さんに戸惑う。なまじ真剣に言っているのが伝わってくるだけに更に困惑する。麻雀の実力を麻雀以外で底上げ……哲学だろうか。あるいはパズルなどで頭の回転を高める? しかしそれでは優希の親睦会とは結び付かない。一体どういう意図の発言なのか。

 

「現状、私が部長に明確に負けている……いえ、おそらくは他の参加者の大半よりも遥かに劣っている要素が一つあります」

「……劣る?」

 

貴女が誰かに劣っている要素なんてあるのか。そんな猜疑的な視線を部長が向ける。だが、続けて紡がれた彼女の言葉は、確かに他の参加者の誰よりも、ある意味で宮永さんが劣っていると呼べるものだった。

 

()()()()()()()ですよ。まあ、部活に入った経緯からして成り行きですので……」

 

モチベーション。物事を成し遂げるための動機、目的。それが欠けていると、ともすれば致命傷になりかねないと彼女は言う。

 

「麻雀が精神的なものに影響を受けるのはもうご存じだとは思いますが──」

 

いえ、全然ご存じではないのですが。

 

「それに伴って、『連帯感』というのは結構大切です。ああなりたい、置いていかれたくない気持ちは、おそらく思ってる以上に原動力となり得ます。部活動などのコミュニティで、不思議と強さの差が出難い理由の一つでもありますね」

「……」

 

思い当たる節はある。初心者である須賀くんや何もかもがおかしい宮永さんが例外なだけで、確かに私達も特訓でメキメキ力を上げている部長に引き摺られて強くなっている自覚があるからだ。そして、その2人を除く4人で打った場合、不思議と回数を重ねるごとに着順がバラけてくる。尤も、麻雀にそういうものがあるのかどうかは疑問が残るため、単に確率の偏りなのかもしれないが。

 

「去年の記録を見る限り、おそらくあの姉も衣さんも、それを理由に団体戦優勝を逃しています。私自身、相手の実力が劣っていても、なまじ無駄に強いからこそ勝利への執着が薄いので、土壇場で()()()()()()()()()()()()()()可能性は否定できません」

「そこはどうにか頑張って欲しいのだけど……」

「仕方ないじゃないですか! 私は部長以外の動機とかないんですよ! 麻雀に趣味以上の感情を持っていないんですよ! 何なら部長が諦めたらそこで試合終了ですよ!?」

「それは本当に嬉しいんだけど、期待が重いわ……」

「とにかく!」

 

優希が吠える。それは自身の主張を通したいが為か、あるいはどんどん表情が沈んでいく部長を気遣ってのものなのか。彼女の場合はどちらもあり得そうなのが面白いところだが、いずれにせよ、優希にとっては最大の障害でもあったはずの宮永さんが乗り気であるために、彼女はここぞとばかりに告げる。

 

「古来より連帯感を深めるは親睦会……! だから私は提案するじょ! ここで──」

「タコスパーティを開く、とかでなければ私も参加しますよ」

「………。………。………勿論だじぇ! 色々考えて来たから問題ないじょ!」

「だいぶ悩んだのぅ……」

 

彼女の言いそうなことを先んじて制すると、案の定悩みに悩んだ末に代案を捻り出す優希。ただ“色々考えて来た”という発言に否は無く、トランプ、すごろく、UNOにその他どこから持ってきたのか疑問視するような様々なボードゲームを取り出し、淀みなく次々と遊びを提案していく。しかし──

 

「やはり咲の豪運はネックじゃね。媒体を変えても賽を代行しても、結局狙った目が出せるんならゲーム性が崩壊してしまう」

「そういえばお前、マークシートだと途端に成績上がったよな……もしかしてだが」

「真剣に考えた問題が間違っていて、自信無くて適当に塗り潰した問題が正確だった時のやるせなさはなんとも言えないよね。むしろマークシートだと苦手な教科の方が点数良くなるんだ……」

「難儀ね……むしろ割り切って全部勘に任せるとかどうかしら?」

「残念ながら部長。運とは波があるもので、それ自体はどう足掻いても人には変えられません。私はその波をある程度弄ったりできるが故の豪運なのですが、流石にそのレベルで運命を歪めようとすると直ぐにキャパオーバーして決壊します」

「具体的にはどうなるんじゃ?」

「……おそらく、保って二教科目の半ば辺りが限界。以降の選択問題は全問不正解。更にそれから一週間ほど運勢が最悪の状態になると思われます」

(………)

 

これまた色々とツッコミどころ満載ではあるが、何よりもまず妙に具体的な未来予想図なのが気になる。まさかと思うが試したことがあるのだろうか。そして波とやらを弄っている自覚があるのならそれを逆に平穏にしたりは出来ないのだろうか。

 

ともあれ、そこからはあれこれと話し合いを続け、そんな中ふと染谷先輩が、先の私の発言について言及する。

 

「もうタコスパーティでも構わん気がするのぅ。和はどうして駄目なんじゃ?」

「それがお茶菓子であったりそうでなくても手元で個人的に食べる分には構いませんが、旧校舎の片隅とはいえ仮にも学び舎で大っぴらに食材を広げるのは主義に反します」

「あー、なんか分かるかも。私は同感かな」

「私はどちらでもって感じね。尤も私の場合、学生議会長の伝手で事前に許可なり取るだろうけど」

「なるほど。そういう理由なら俺も原村に賛成だな」

「ぐぬぬ……」

 

思った以上に賛同が得られず優希が唸る。そもそも彼女は気軽にタコスパーティと言っているが、どういう趣旨の催しをするつもりだったのか。確かに清澄高校の学食はタコスが常設されているため、そこからタコスを仕入れるのは容易なものの、それを購入して食べるだけでは間食と何も変わらず芸が無さ過ぎる。タコスパーティを謳うからにはそれこそタコスを自作できる環境を整えるくらいはして欲しいところである。

 

しかし、その様子を見た染谷先輩は、ならばと一つの提案をする。

 

「要は場所が問題なんじゃな? それなら前も来たウチの雀荘のスペースを借りるのはどうじゃろうか? 他のお客さんもいるのがネックじゃが、雀卓一つとその片隅のテーブルでも借りれば、それっぽい雰囲気は出せるじゃろうて」

「それだ!」

 

ずびしっ、と水を得た魚のように染谷先輩を指差す優希。この際敬語じゃないのはいいとして、人を指差すのは非常に失礼なのでやめなさい。

 

「……タコスに必要なのはトルティーヤって皮に挽肉の炒め物、メヒカーナって野菜ソース。他は好みの具をお好きにって感じか。その3つさえそれなりの量用意できれば後は持ち寄りでもいけそうだな」

「それならウチに常備してあるじぇ! 他にもタコスソースとかワカモレなんかもたくさんあるじょ!」

「聞きなれない食材がいくつも出てきたけど、必需品については優希に任せましょうか。それより流れでタコスパーティになりそうだけど、宮永さんと和はそれでいいの?」

 

問題が改善されたのなら、私からは反対する理由も他にないので素直に頷く。元より親睦会そのものには乗り気だった宮永さんにも否は無く、また同時に、突発的であるが故にそうそうトラブルなんて起きようはずもなく、親睦会という名目のタコスパーティは恙なく実施される。

 

「今宵の私は、人間火力発電所だじぇ……!」

 

そして案の定親睦会など建前で、その場の材料を食べ尽くしそうな勢いでタコスに夢中な優希にやや呆れる。仮にも親睦を深める目的の会なのに。でも、そこで空気を読まないでこそ彼女らしいとも言える。何にせよ、ある意味では予想していた展開ではある。

 

まあ、いつまでも優希の事ばかり気にしても仕方ないと私も彼女に倣い皿を手に取り、ふと思う。

 

(そういえば、自分で作るのは初めてですね……)

 

私も伊達に優希の親友を名乗っているわけじゃない。彼女に勧められてという形ではあるものの、タコスそのものはそれなり以上に嗜んでいる。

 

しかしながら、それは当然学食や売店で売られているものに限り、自身が作ることはおろか材料についてもロクに理解していない。とりあえず皮を半月状に折ってホットドッグのようにしてレタスを敷き詰めてみるも、中央に偏ったり端からこぼれ落ちそうになったりと悪戦苦闘。どうにかそれっぽく仕上げたものの、形が歪で非常に持ち辛い。

 

一口食べる。……味が以前食べたものとはだいぶ違う。何というかタコス独特の風味が無いというか、ぶっちゃけあまり美味しくない。見ればメヒカーナという野菜ソースをかけ忘れていた。後で聞いた話だが、このソースがメキシコ料理特有の風味を生み出すそうなので、それは味気無く感じるはずである。

 

そんな無駄な戦いを繰り広げていると、すっかり放置された自動卓に座っている部長と宮永さんが、私同様手作り感溢れるタコスを片手に会話しているのが聴こえてくる。

 

「ホントに、こんな悠長にしていていいのかしら……」

「いいんですよ。現状、私も部長も動機がふわっとしてますからね。動機付けと考えたら悪くない一日です」

 

ぐったりして今にも崩れ落ちそうな部長の声と、それをざっくばらんに切り捨てる宮永さん。一応は部活の先輩と後輩という構図の筈なのに、事実上師弟関係のようなものだからか、こうしていると立場が逆転して見える。

 

「でも、今は少しでも練習しておかないと……」

「それはそうですが、今はきっとそうではありませんよ。おそらく」

 

ちぐはぐな関係の二人。だが、それ故にだろう。彼女らは距離感があるように見えて不思議と会話は気安く、特に部長は宮永さんの前ではよくこうして弱音を零しているのを見かける。きっと学生議会長としての部長を知る者はこの光景に困惑するだろう。けれど私には、その姿こそが部長の本質であるように感じてならない。

 

「“きっと”とか“おそらく”とか、随分と曖昧なのね」

「“やりたいこと”に対する動機なんてそれで大丈夫ですよ。そこをギチギチにしてもただ疲れるだけです。聞いたことはありませんか? 好きなことを仕事にすると続かないという話を」

「……そうかもね」

「それに今更崇高な理由を考えたところで、ウチが素人交じりの寄せ集めである事実には変わりません。その上で意識までバラバラでは、本当に烏合の衆以下の何かにしかなりませんからね」

「………」

(………)

 

厳しい言葉に優しい声。相反する感情が綺麗に練られた音が雀荘の片隅に木霊する。それはきっと曖昧な言葉。けれど不思議な説得力がある。それが真理であるか否かという話ではなく、敢えて彼女はその先をボカして語る。

 

「きっと、これから夏までに行われる万の半荘よりも、こういった他愛の無い一日の積み重ねの方が、より一層貴女の力を高めてくれるはずです。そうでなくても──」

 

そこで宮永さんは一度言葉を区切ると、部長に小さく何かしらを呟いて席を外す。最後に何を呟いたのか、何を理由に席を外したのか。直接会話していなかった私には分からない。けれどそれ以前に、思った以上に彼女の言葉に耳を傾けていた自分に気づく。

 

(理由をギチギチにしても疲れるだけ……)

 

大会に出場するからには何としても勝ちたいし、断じて負けてもいいと思っているわけではない。でも、そういう考え方があるのだと知った。そういう考え方があること自体が目から鱗だった。

 

いや、あるいは。だからこそ彼女は強いのかもしれない。こと麻雀に関しては、強さについて環境などの要因は必要ない。彼女にとって麻雀とは単なる一趣味でしかなく、それを特に気負うこともない。故にブレない。揺らがない。安定してその実力を発揮できる。

 

(尤も、彼女の場合はその実力こそが問題なのですが……)

 

とはいえ、何かの参考にはなるだろう。特に私は、ネット以外だと集中力が散漫になっていると指摘されたばかりだ。彼女のようには行かずとも、誰が相手にも安定して打てるようになれば、それだけで私はきっと、誰よりも強くなれるはずだから。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

──『後輩たちのために』と、ほんの僅かにでも部長が思ってくれたのなら、それだけで私は最後の最後に、きっと必死に頑張ろうって思えるようになります。

 

 

 

 

『まもなく抽選が開始されます。各高校の代表者は番号に従って──』

 

 

 

 

いよいよ待ちに待った日が訪れる。けれど私の頭の中は真っ白で、手が震えて抽選用紙が掌からこぼれ落ちそうになる。あんなに積み重ねた特訓の日々も、今はまるで全てが夢だったかのように消し飛んでいる。それはまさしく、あの子の言う通りで、

 

(大丈夫、大丈夫……)

 

荒ぶる内心を必死に鎮める。そうしてようやく思い起こされる部活での日々。成長を実感した日や、惨めで泣き出しそうになった日もあったけど、思い返せば蘇るのは他愛のない日常のことばかり。

 

部活のみんなでタコスパーティをした。まこを誘って映画を見た。和と部室で討論をした。優希と縁日でばったり出会った。須賀くんと屋上の清掃をした。宮永さんとは特訓でずっと一緒だった。

 

全てが偶然から成立した団体戦。しかしいつしかそこには不思議な連帯感が生まれていた。今を以て全国を目指す理由も曖昧なままだけど、それでも私は頑張ろうと思うことができる。

 

いや、理由なんて後から幾らでも生えてきた。とりあえず今は、後輩たちを悲しませたくはない。きっとその気持ちだけは、誰よりも負けないから。

 

『番号札10番から20番の高校は──』

 

顔を上げる。もはや迷いは吹っ切れて、ずんずんと力強くステージの方へと進んでいく。席を立ち、数十歩の短い距離をしっかりと踏み締め、ステージ横にある階段へと近寄っていく。

 

その時、

 

「──宮永さん?」

 

一番前右端の席に座る、不意に視界に飛び込んできた、この場所にいるはずのない存在に驚く。何故彼女がここに、そもそも今日は大会前の抽選会だから、宮永さんはこの会場にすらいないはず──そう思う間に、宮永さんは、

 

「ん? 確かに私は宮永ですけど──あれ。もしかしてお知り合いでしたか?」

 

顔はまるで瓜二つ。しかし、声が──身長も、よく見たら髪の長さも。そして何よりも雰囲気がまるで違う。誰だ、と思ったのはほんの一瞬。すぐに彼女の正体について思い至る。

 

(宮永、照──)

 

前年度長野県優勝校にして、全国でも2位の実績を誇る龍門渕高校。その部長にして先鋒、宮永照。そして何より、彼女はあの宮永咲のお姉さんでもある。……あれ? 龍門渕高校ということは、彼女は第一シードなのでは。どうして抽選会に参加しているのだろう。

 

疑問が表情に出ていたのか、彼女はまるで私の心を読んだかのように、

 

「ああ。私はただの“見学”です。どうにも心配性なもので……」

 

妙に含みのある言い方だったが、朗らかな表情で彼女はそう告げる。その顔は部室でツンケンしてる宮永さんとも、須賀くん相手にデレデレしている宮永さんともまるで重なることはない。いやまあ別人なのだからそれはそうなんだけれども。

 

『16番の方、会場におりましたらステージまで──』

「あっ!? す、すみません、知り合いに似ていたものでつい……失礼しました!」

「???」

 

彼女と初めての邂逅はそんな一幕。自己紹介はおろか、何かドラマがあったわけでも、トラブルがあったわけでもない。何なら向こうはそんなことがあったことすら覚えていないかもしれない。

 

(………)

 

しかし、私は知っている。彼女が時にあの宮永咲すら凌駕し得る化け物であることを。その強さが表面に漏れ出てこないからこそ、内にどんな怪物を飼っているのかまるで測れないことの恐怖を知っている。

 

(46番……)

 

その後に引いた番号は、第四ブロックで位置としては右下。即ち左上に位置する第一シードの彼女ら龍門渕高校と戦うのは決勝のこと。それが果たして幸なのか不幸であるのか。まだまだ今の私には、それはまるで判断できないでいた。






これにて清澄編は終了です。次回からようやく大会に入れます。

また、前半の和がまるで危機感を抱いていませんが、前半はまだ時系列的には4月中旬なのでこの時点での彼女のスタンスはこんなもんです。実際、転校が無ければ優勝云々より仲間内でワイワイやってる方が好きそうなんですよね彼女。

原作との相違点

部長→咲の呼び方が宮永さん。多分作中では変わらない。ただ原作よりも仲そのものは良い。
咲ちゃん→作中でもあるようにモチベーションがかなり緩い。ただし原作よりも超強い。
優希→ちゃんと下着を履いている。彼女に限らず他も服装はきっちりしてる。作者がわざわざ下着云々を描写するのが面倒なだけとも言う。


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