解説の宮永さん   作:融合好き

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何かが突然訪れたある日

『絶対に和了る能力』と聞かされて、驚愕よりも疑問が先に出たのをよく覚えている。

 

「……つまり、どういうこと?」

 

母曰く、麻雀におけるオカルト使いには良くある相性以外にも強度やレベルといった概念が存在し、上位のオカルト保有者であればトッププロすら凌駕する可能性があるのだと。

 

(………)

 

わけがわからないよ。正直な感想がこれだ。いやだって、絶対に和了るなんて毎回やられたら、そんなのもはや麻雀である必要すらないじゃないか。

 

流石にこれは極端な例ではあるが、しかしこのオカルト能力、何故一般に認知されていないのかが謎なくらい保有率高めかつ多種多様で、基本的に制約が重いほど強力になるというまんまハンター漫画の念みたいな性質をしている。

 

必然、疑問が生まれた。それは普通の人間が抗えるものなのかと。私自身、そのオカルト能力を使えるので私を普通の人間に含めていいのかはさておき、オカルトがないと戦いの土俵にすら立てないようなら、牌効率など考えるだけ馬鹿馬鹿しい。

 

幸いと言っていいのか、母は条件こそ厳しいものの『特定条件下において高確率で特定の役を和了る』ことのできる能力の持ち主であり、検証する場所や時間には困らなかった。仮にもオカルトと呼ばれるモノをこういった形で暴くのはちょっと…いやだいぶ恐ろしかったが、両親に才能があるとかベタ褒めされたらまあそれなりに頑張るよね。

 

「ふむ……?」

 

そしてその検証の具体的な手順だが、まず実際に条件が成立した卓を残し、山や河や手牌を全て表向きにする。そしてその中で『他者が和了れる可能性はあるのか』というのを調べる、という単純なもの。

 

結論としては、『可能である』。それはおそらく、どんなオカルト能力が相手でも。

 

配牌に干渉するオカルトが発動した時点でどう鳴きを絡めても天和地和が成立する可能性は消滅し、東一の一巡目で役満を和了ったような局でさえ、鳴きを絡めれば阻止できるルートが存在する。

 

むしろ強力なオカルト能力であればあるほどその傾向は強く、全員の配牌が十三不塔の状況下かつオカルト保有者がダブリーした場合でも、実力を問わず()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それは無論、他者に頼らずとも。まるで運命に定められているかのように。

 

「………」

 

私はこれを、利用できるんじゃないかと考えた。実力を問わずして全員に和了れる可能性があるのなら、むしろ強力なオカルト保有者であればあるほど、その実付け入る隙は大きくなる。

 

そしておそらく、この事実はあまり知れ渡っていないはず。何せその『絶対に和了る』能力者であるはずの母ですら考えもしなかったことだから。

 

こういう時、直感は大事だと教えられた。それは偶然か運命か、私には明確に『見』の才能がある。ならば私が昇華すべきはその方向性。それに特化したオカルト能力。

 

名前も付けた。伝承に肖り『照魔鏡』──相手の全てを、暴き照らし出す鏡。

 

言うまでもなく、私の自慢の能力である。……例の初見殺しは、実はその能力の副産物だったりする。

 

まあ、つまり、何が言いたいのかと言うと。

 

「……あれ? この能力、コーチとかに向いてるんじゃない?」

 

宮永照。中学2年生。能力とかに心惹かれるお年頃。執事やメイドといったキワモノ含む各種コーチング資格の充実する龍門渕高校へその進路を決めた瞬間である。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「はい、ロン。タンヤオとピンフドラ2で……30符だから7700かな。これで終わり」

「あああああああ!」

 

オーラスで適当に捲ると、面白いくらいの絶叫が部室に響き渡る。やっぱり変なインチキスキル使うより、こういった駆け引きのが面白さという点では上だなと改めて実感。

 

(しかし……あっという間に馴染んだねこの子たち)

 

サラサラの金髪をぶんぶんと振り回して悔しがる龍門渕さんを見て思う。そんなことしてると美人が台無しだなとも思うが、不思議とこちらの方が生き生きとしてるように見えるのは気のせいではないだろう。

 

「宮永様。お茶が入りました」

「ん。ありがとう」

「そこ! お茶などしばいてる場合ではありませんわ! さっさと次の局に行きますわよ!」

 

そんな無様なお嬢様の姿に内心で笑いながら、ちょうど良いタイミングでメイド少女その一(歩さん)から差し出された紅茶に舌鼓を打っていると、そんな言葉と共に指先をずびしっと指し示される。お行儀が悪いですわお嬢様。口調も悪いですわよ。

 

「いやいや、透華。いつまでやってんだって。もう他の面子も全員呆れて帰っちまったし、そもそもあと30分もしないで最終下校時刻だぜ?」

「そうだよ透華。これまで付き合ってくれたのに労い一つもないのはちょっと……」

「そんなもの、わたくしが勝利した後に盛大なパーティと共に行いますわよ!」

 

がーっと吠えながら龍門渕さんが割ととんでもないことを発言する。彼女が言うからにはそのパーティの規模は凄いことになっていそうだが、それ事実上龍門渕さんの祝勝会ですよね? どんな気持ちで参加すればいいんだ私はそれに。

 

そんな彼女を宥めているのは、彼女の取り巻きである井上さんと国広さん。どうもどちらとも龍門渕さんの付き人みたいな感じらしいのだが、イエスマンというわけでもなくこうして割と庇ってくれる。

 

「………」

 

ここ数日付き合った感想というか事実だが、彼女はとてつもない負けず嫌いなのだろう。何しろ決着時の反応が非常にわかりやすく直情的で、付き合わされる身としては厄介だが素直に好感が持てる。

 

金持ち特有の嫌味な感じもない。総評としては、苦手ではあるが良き友人、みたいな感じだろうか。あとは遠目に見る分には非常に面白いので、唐突にライバルとかが現れて、出来ればそのままシレッとフェードアウトして後方師匠面していたい。え、私が宿敵(ライバル)? お前が思ってるならそうなんだろうお前の中ではな。……実際、実力差的にはちょっとね。

 

「……でも、本当に強い。もしかしたら、衣より……」

 

私の対面に座っていた女性。いつか交通事故で轢殺した眼鏡ちゃんこと沢村さんの呟きに、私以外の全員がピクっと反応する。

 

衣。彼女たちと付き合うにあたって、時折その名前が出てくる。そして名前が出ると決まって皆が意味深な反応をするので敢えてスルーしていたのだが、いい加減追及した方がいいのだろうか。

 

「そう……ですわね。いい加減、誤魔化すのはやめにしましょう」

 

空になったマグカップを弄びながら悩んでると、不意に佇まいを整えた龍門渕さんが神妙な表情で呟く。さっきとの落差で笑うからやめてほしい。

 

「宮永さん」

「ん?」

「既に夜分遅くとなり誠に恐縮ですが、これから更にお時間を頂いても?」

「……まあ、別にいいけど」

 

どうせ暇だし、そもそも用事なりなんなりがあったら、こんな時間まで付き合っていないしね。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「………」

 

照 配牌

{一三236789⑨⑨北北東白}

 

悪くないな、というのが、最初の感想だった。

 

あれよこれよと高そうな外車に乗せられて降り立ったその先。我が宮永家の数倍はありそうな立派なお屋敷(龍門渕さんちの別荘らしい)の最奥、そこにひっそりと佇んでいた少女。

 

天江衣、と名乗ったどこか龍門渕さんに似た小学生くらいの子は、最初の印象に違わず龍門渕さんの親戚の子であるらしい。ついでに彼女の同級生(!?)だそうな。

 

もうこの時点であからさまに厄ネタなわけだが、とはいえこの世界の法則的なあれやそれやで、少女が提案したのは麻雀による真剣勝負。まあこんなとこにまで来て断るのもアレなので今に至る、というわけである。

 

「むぅ……」

 

視線を配牌から僅かに上げて、天江さんの姿をじっくりと『見』てみる。

 

──強い。文句なしに。少なくとも、単純なオカルトの強度で言えば、母どころかあのめちゃつよ妹すら凌駕しかねない。

 

この強度のオカルトが相手だと、まともな人間(りゅうもんぶちさん)ではもう勝負が成立しないのは目に見えている。察するに、天江さんは麻雀が大好きなのに、その類稀なオカルトから競争相手に恵まれず、そうして拗ねて屋敷に引き篭もっている、みたいな感じだろうか。

 

「うーん。これで」

 

打牌

{9}

 

少し悩んで、手牌を整理する。面倒なルールのオカルトだが、ここまでガチガチのオカルトであれば抜け道は幾らでもあるだろう。……背後に控えていたメイド少女その2(くにひろさん)から怪訝な目で見られたが、そういうのは対戦相手に伝わるかもしれないからやめようね。

 

「さて……」

 

天江衣 手牌

{二五六九1167⑤⑨南白発発}

 

打牌

{南}

 

対する天江さんは、たぶんおそらく手堅く字牌の整理から。先程までは難しい言葉で色々と囀っていた彼女だが、どうも集中すると口数が少なくなるタイプらしい。あんまり他に意識割く余裕ないから助かる。

 

2巡目 照 手牌

{一三23678⑨⑨北北東白白}

 

打牌

{⑨}

 

3巡目 

{一三236789⑨北北東白白}

 

打牌

{白}

 

4巡目

{一三八236789⑨北北東白}

 

打牌

{7}

 

 

(うーん。我ながら暴牌だなぁ、これ)

 

こうしないと多分和了れないから仕方ないにせよ、牌効率もクソもない馬鹿げた闘牌だと自嘲する。

 

既に能力の詳細は割れている。卓上全体に対して遅延を発生させるデバフタイプのオカルト。海底で和了れるのはおそらくその副産物で、根幹は卓全体への支配そのものにある。

 

加えて、これはまだ不確定だが支配自体はほぼ全自動。鳴きなんかを入れて調整する必要がない代わりに、もしも似たようなオカルトで上から押さえられたら多分ボロボロになる……だろうか。

 

(まーこんな普通は絶対負けないような能力が全自動とは不幸ではあるけど、だからこそ私を呼んだんだろうし、テキトーに叩きのめして終わりかな)

 

他の人が最後まで和了れないのなら焦る必要もない。送り込まれる牌を解析し、一つ一つ、躙り寄るように手牌を整えていく。

 

 

 

……………

 

 

…………

 

 

………

 

 

 

 

「………」

 

照 15巡目

{一二三四五六七八3北北中中中}

 

打牌

{3}

 

(リーチは……いっか。引っ掛からないだろうし。無理する場面でもない。メンホン中、一気通貫、ドラ2)

 

一点読みのかなり細い和了り筋だが、ここまで元の形から脱線してそれでも和了形になったのなら多分いけるだろう。ちょっとオカルトの相性が良かっただけの気もしないでもないが、悪いのならともかく相性が良くて困ることはない。

 

「む……?」

 

張った瞬間、天江さんが何故か突然怪訝な表情をする。おかしいな、ポーカーフェイスは得意なんだけど。いや、こんだけ強力な支配を卓全体にやってれば聴牌気配くらい感じ取れるのか?

 

「………。………ふむ」

 

天江衣 16巡目 手牌

{七八九九11789⑦⑧⑨発発}

 

打牌

{九}

 

そのまましばらく悩んでいた天江さんだが、しかしそれでも同格相手との実戦経験に欠けていたのか、それともまだ私と対戦するのは初めて且つまだ東一局だからか、おそらくは感じた脅威を気のせいだと思い込んで不要牌を放る。

 

「ロン」

「む……ほう。もしや、とは思ったが、まさか本当にそうだとは。これは中々楽しめそうだ」

「えっと、混一色中一気通貫ドラ2で八飜。16000かな」

 

結構結構。とかなりの失費なのに何故か満足そうにしている天江さんから点棒を受け取る。楽しそうなのはいいけど、よくよく考えたらもう19時になるんだよな……。

 

(うーん。まあこの様子だとまた呼ばれたりしそうだし、今日はとっとと終わらせよう)

 

ちらりと、両端にいる沢村さん及び井上さんの両名を見る。真剣勝負の邪魔にならないよう事実上の和了放棄をしているみたいだけど、それでも火の付いた天江さんを崩すよりかは幾分かやり易そうではある。

 

「んー……」

 

照 配牌

{一②②③④④⑤⑤⑨東東南南白}

 

ちょっと()()()()()()()()()()()()、必要最低限の点数が確保できそうな手牌を用意する。予想よりも高めになりそうで次局以降がそれなりに不安だが、まあ何とかなるだろう。多分、きっと。

 

「宮永照、と言ったな──貴様は衣の莫逆の友となるか?」

「さぁ……?」

 

照 5巡目

{②②④④⑤⑤⑨⑨東東南南白西}

 

打牌

{白}

 

トラッシュトークを適当に聞き流し、割といい形で聴牌。天江さんもなまじ支配が強力な分、上から強引に無力化されるのを想定していないようで、今度の聴牌には気づかれている様子もない。あれ、これもしかして直撃で行ける……?

 

 

天江衣 12巡目

{五赤五五24567北北中中中西}

 

打牌

{西}

 

 

「あ、それロン」

「……何?」

 

それからじっくりと狙いを定め、12巡目にしてようやくこぼれ落ちた牌に和了宣言。いやー、相手が最後まで和了らないって分かっていたら時間も使い易くてイイネ! 普通は分からないとか言ってはいけない。我ながらおかしいって自覚してるから。

 

照 和了形

{②②④④⑤⑤⑨⑨東東南南西西}

 

「混一色チートイドラ2で跳満。12000で終わりだね。お疲れ様でした」

「なんだと……!?」

 

天江さんがそのつぶらな目を限界まで見開く。うーん、この子も髪サラサラだしお肌ツルツルで羨ましいなぁ。まあこの子の場合、幼い容姿の問題もあってか美麗ってよりまんまたまご肌なんだけど。

 

ここまで何も出来ずにして敗北したのが理解しきれないのか、倒された私の手牌と河の様子を見て呆然とする天江さん。その様子を見て、私は彼女がなるべく傷つかないよう、丁寧に言葉を選び、

 

「多分、最初から本気なら五分五分だったかな…? まあそれはともかく、もういい時間だから今日のところはお暇します。多分色々と納得がいかないと思うけど、それなら一晩じっくりと考えて、それでも分からなかったら麻雀部まで来てくれると嬉しいな」

 

これでも私、コーチ志望だったりするからね。と告げて踵を返す。

 

想像よりもショックが深かったのか、その言葉に対する反応はなかった。けれどまあ、多分大丈夫だろう。何故なら彼女には、わざわざこんな場所にまで私を呼びつけるような、心優しい友達が付いているのだから。

 

「……ありがとうございました」

 

部屋のドアを開けてすぐ、部屋の外で待機していた龍門渕さんからそんなことを言われる。なんとなく言わんとしてることは伝わるけれど、それもどうなんだろう? 客観的に見て私、あの子を麻雀でボコボコにしただけですよ?

 

「それでも、あの子にとって、貴女のような存在は救いになるのですわ」

「……多分だけど、やり方によっては龍門渕さんでも勝てると思うよ?」

 

流石にその言葉は予想外だったのか、龍門渕さんは目をパチクリとさせると、

 

「あら。ならば今後もよりいっそう、貴女には世話になりそうですわね」

「………」

 

あまりに綺麗な笑顔でそう言われ、不覚にもその姿に見惚れてしまう私なのだった。

 

 




こんだけざっくり削っても闘牌描写が面倒臭いのだが……。

※点数計算間違っていたので修正しました。申し訳ありません。


登場人物紹介



主人公の母。本名は宮永愛。今のところ咲-saki-の作中に出ていない→つまり処女じゃないということなのでおそらくは異性愛者。でも多分本編で登場したら処女扱いされる不憫な人。人外。能力はオリジナルだが作中に出る予定はない。

天江 衣

本編でも結構油断している描写が多いのでこの照相手にはどうしても初戦では勝てない子。可愛い。本編で3番目くらいに好き。人外。

杉乃 歩

メイドさん1号。麻雀が弱い。メイドとしては一流。

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