千里山高校麻雀部の部室は、たとえ当日の部活が休みであろうとも、学校が休校でさえなければ部員は自由に出入りすることができる。
これは今では千里山麻雀部結成時から代々伝わる伝統ということになっているが、実際は伯母ちゃんが監督を務めるようになってすぐ捏造したありもしない虚構らしく、目的としては休日にまで部室に出張るようなやる気のある生徒を炙り出すためと夢も何もない話らしい。
加えて、如何にやる気があろうと無かろうと、レギュラーに選ばれる基準は実力一本に絞られるため、極端な話殆ど部活に参加しないような幽霊部員であっても実力がその他の部員を上回ってさえいれば、よほど人格や成績がアレな場合を除いて問題なくレギュラーの座に居座ることができる。ならばそれに意味はあるのかを問えば、実際に意味らしい意味などなく、ただの伯母ちゃんの自己満足に近いものなのだそうだ。
尤も、部室の鍵を管理しているのは監督なので、必然わざわざ休日に鍵を借りにくる生徒の存在は監督にも伝わり、また如何に実力主義とはいえ監督もそういったやる気のある生徒に対しては多めに実力を発揮する機会を与えてくれる。
実は清水谷先輩が早くからレギュラーに選ばれたのもそんな経緯で、まあ彼女の場合はどうも家庭の方に居づらかっただけらしいというオチはあるのだがそれはそれとして、何にせよ図書館なり教室なりの“そういった場所”だと集中力が増す人種であるウチは、これ幸いとその伝統(笑)を存分に活用し、今日も部室で一人黙々とパソコンで動画を見ながら牌譜を纏めていた。
「お。ようやく顔を上げてくれたなぁフナQ。なんや今印刷機から出てきたこの紙渡せばええんか?」
訂正。その日は珍しくウチ一人ではなく、もっと珍しいことに休日どころか平日さえも不定期に参加するような人物がそこにはいた。
「ああ、ありがとうございます。ですが今すぐ使うわけでもないんで、そこらへんに置いといていただければ」
「りょーかいや。なあなあ、終わったんならちょっと付き合ってーや。一人だと寂しいねん。一局だけでもええから」
「一度牌を並べ始めると結局10分や20分では済まなくなるので無理です。この中継が一通り終わったら付き合いますんで」
「中継? なんやそれリアルタイムなんか。どれくらいで終わるん?」
「おそらくあと5時間はありますかね……」
「いや長いわ。何見とるんやそれ。夜までかかるやん。実質断ってるようなもんやん」
そんな風に苦言を呈するのは、園城寺怜先輩。千里山女子高等学校麻雀部の三年生で、つい最近になって一軍レギュラーの先鋒を任された千里山の絶対的なエース。まさに彼女の立ち位置こそが先に述べた千里山が実力主義である証明でもあり、またそれだけの才能があってもこれまで頭角を現すことはなく、三年になってようやく陽の目を浴びることが出来た所以でもある。尤も、彼女の場合は身体が弱いという止むを得ない事情によるものでもあったため、一概にそうとは言えないのだが。
「ですから最初に断ったじゃないですか」
「長くても一時間やそこらやと思っとったんや。実際そのくらいで顔を上げたわけやし。まさかそんなに長いとは思わへんやん」
「別にウチが休日にどこで何を見ようがウチの勝手ですし……」
まあ、わざわざ部室にまで来てやることじゃないのは理解できる。園城寺先輩もわざわざ部室まで来たからには、多少なりとも麻雀を打つことに期待していたわけで、そんな中唯一部室にいた仲間がこちらをガン無視して黙々と作業をしていたら、文句の一つでも言いたくなるだろう。しかし。
「そんなでしたら、何もよりにもよってこんな日でなくとも……」
「まだ昨日の熱が醒めんのや。ウチは遠足とかの前日にはゆっくり眠れるんやけど、その代わり終わった後の余韻が結構長引くねん。特に今回は畏れながらウチが主役みたいな立ち位置やったわけやし、なんか居ても立っても居られんくてな」
『こんな日』というのは、つい昨日に全行程を終了したインターハイ大阪予選を指してのこと。当然ながらレギュラーとして選出されたウチや園城寺先輩もそれにフル出場し、連日に渡ってほぼまるまる一日中日没近くまで繰り返して行われた数々の真剣勝負。今日はそんな大会の翌日であるが故に、彼女が待ち望んでいたであろう部活が休日であるのは残念ながら至極当然であると言える。
しかしまあ、そうなるとそんな園城寺先輩をほっときっぱなしにするのもどうなのだという気持ちも僅かに浮かんでくる。ウチとしても部室に向かうのだからそこに部員がいることを想定していたわけで、まさか本当に誰かがやって来るとは思わなかったからと柔軟に対応しないのも如何なものだろう。
「………」
こんなことを考えている時点で、この構いたがりな先輩の術中にハマっている気がしなくもないが、幸いにも今は時間が空いている。とはいえ先輩の求める麻雀ができるほどの時間は無く、妥協案としてウチは手持ちのノートパソコンの画面を園城寺先輩の方向へ向けると、
「よろしければ、園城寺先輩もこの試合を見ますか?」
「あれ。それ別に覗いても良かったんか?」
「むしろ一度も覗きに来なかったのが意外でした」
「ウチはそういうことをされたくない。だからやらない。簡単な話や」
「それは実に素晴らしい心掛けだと思います」
心底からそう告げると、園城寺先輩は雀卓の椅子を器用に歩かせてウチの斜め後方までくると、視界が高くて見辛かったのか結局は椅子から降りてウチが座るソファのすぐ隣に寝転ぶ。やや態度や行儀が悪いが、しかし園城寺先輩はそれ以上に身体が悪いことを知っているので敢えてスルー。すると無人の雀卓が映る配信画面のバナーを確認したらしき彼女が言葉を紡ぐ。
「牌譜が印刷機から出てきた時点で麻雀関係やろうなぁとは思っとったけど、これは長野県予選の中継か。まだ終わっとらんかったんやな」
「ウチら大阪や東京なんかは出場校が多いので、かなり余裕を持った日程でないと不測の事態が起きた時に困りますからね。他には比較的遠方から出場校を募る北海道も相応の長さの日程で試合が行われていたはずです」
「なるほどなぁ。でも、長野っつったらアレやろ? 龍門渕。あそこは今年も去年のメンバーそのまんまやし、やったら手加減してても予選程度は一捻りやん。ぶっちゃけ見るところなんてあるんか?」
「ウチも最初はその懸念も有りましたが、物の見事に杞憂でしたね。それどころか、このままではその龍門渕さえも危ういかもしれません」
「……なんやと?」
その言葉に、すぐさま怪訝な顔をする園城寺先輩。これまでに見せた態度こそ雑にも思えるが、その実彼女はおそらくウチの部員の中でも一、二を争うほどにあの高校の恐ろしさを知っている。何せ彼女に取ってしてみれば、万年三軍でうだつの上がらない自身を名門校のエースの座にまで引き上げたのは、他でもない龍門渕の尽力によるものだとも言えるからだ。そして、そんな尊敬すべき高校の行く末が危ういとなれば、彼女としても気が気ではないだろう。
「嘘やろ? だってあの龍門渕やで? ってか画面さっきから何してんねん係員が何故か雀卓を外に運びよったんやけど?」
「ああ、これは念のために自動卓を予備のモノと交換するとのことで。選手以外には南場に入る辺りで周知されていましたが、いざ実行するとなればこのタイミングしかなかったのでしょう」
「念のためって……そんなことでわざわざ自動卓を交換するんか?」
「どちらの答えに対しても、それはその牌譜を見ればすぐに分かります。安心してください、一瞬です」
どういうこっちゃと呟いた園城寺先輩は、手に持ったままだった妙に空白の多い牌譜を見て怪訝な顔をするも、その一瞬後には事態を把握したらしく普段は眠たげなその目を見開いて、
「なんや──これ。冗談やろ? 一体何をどないしたらこないなイカれたことになる?」
「その疑問に完璧な回答ができるのは、おそらくこの世界で宮永照ただ一人でしょう。ですが彼女のような異能を持たぬ我々であっても、状況から“誰がこれを成したか”を推測することはできる」
「これを誰かがやった……んやろなぁ。こんなん人為的以外の何物でもない」
卓に座った全員が配牌時点であわや役満という状態に陥る。まさに神懸りとしか呼べない卓だったが、だからこそ偶然にはあり得ず、下手人がいることは明白。そして、それが誰なのかは、それこそあの
「清澄高校一年……“宮永”咲か。妹か親戚か、顔もそっくりやしまあ相当近しい間柄なんやろうな」
「解説の藤田プロによると、彼女は宮永照の妹さんだそうです。どうも藤田プロと個人的な交流があるらしく、藤田プロ本人が彼女と直接打ったことがあるようなことを仄めかしていました」
「妹か。なら納得……は簡単にはできそうにないけど、まあこいつが誰であれ、あの宮永照を相手にこんだけめちゃくちゃやらかして普通にトップ取ってるあたり相当ヤバいな。流石に妹なだけあって
「………逆に言えばこれだけ馬鹿げたことができる怪物を相手に、当然のように直撃を取れる宮永照と果たしてどちらが恐ろしいのでしょうね」
あの練習試合の時にしつこく聞き出したので宮永照の持つ能力の概略については大まかに知っている。だからこそ言えるが、彼女が如何なる能力によってこの状況を創り出したかを何かしらの手段で理解したところで、ウチであればあの場で的確な対応ができる自信がない。
何せ背後から手牌を見てるだけでも手順も捨て牌も狙いも無茶苦茶で頭がおかしくなりそうだった。それ以前に猶予が1巡あるかどうかすら怪しいあの状況下で平然と役の組み替えを行える時点で常軌を逸している。
(そして困ったことに、それで実際に宮永照は和了っている。きっと、彼女が
麻雀で勝つために麻雀で学んだ全てを捨て去る必要がある。それは当然、それが上位の打ち手であればあるほど困難になる。
しかし考えてみれば、上級者になるほど牌効率もクソもない素人の暴牌を恐れるのは確かにその通りで、意図してそれをやっていると認識するなら対策としては間違っていないのかもしれない──いやどう考えても間違っているわ。なんやねんこの暴牌なんでこれで和了れるんやナメとんのか? そもそも平均2巡とか考える暇もないやんけそれもやめろボケ。
などと嘆いても結果は変わらない。少なくともあの卓にはこんな巫山戯た真似ができる怪物と、それに平気で喰い付いて行けるこれまた頭のおかしい化け物が居て、そのどちらかは必ずウチら千里山の前に立ち塞がることになる。それも、今回のような互いに喰らい合うような敵対者も存在しない状況下でだ。
「てかしれっと鶴賀も相当頭おかしいなこれ。何かの間違いで風越が上がってこーへんかなぁ……」
「流石に望み薄でしょうね。龍門渕にはあの天江も控えていますので」
「せやなぁ。……やっぱズルいなあ龍門渕。こんだけヤバいやつ相手でも何だかんだトバない程度に点数を残しさえすれば捲れることが決まっとるんやから」
「そう甘い話でもないと思いますが、オーダーそのものが先鋒にエースを据える今の傾向にマッチしているのは事実ですね」
天江という絶対的なエースを有する龍門渕が最も恐れるのは、その天江を無視──即ち“先鋒で全てを終わらせるような化け物が何もかもを速攻で終わらせる”こと。しかしながら、宮永照というもう一人の怪物の性能がそれを許さない。そのような化け物をこそ喰い物にする理不尽なまでのオカルト殺しは、まさに正しい意味での『先鋒』としてうってつけだ。
そして彼女の更に厄介なところは、そんなある意味で局所的な刺さり方をするメタ性能を有するにも関わらず、
(本来、ウチと龍門渕みたいな力関係の高校と練習試合をすれば、ウチ含めたレギュラー陣であれば1.5を上回る程度なら難なく出来るはず。問題なのは、宮永照はその数字を
むしろ怪物相手だと勝率が極端に増すという特異性は、唯一無二であり対処が非常に難しい。誰でも普通に勝てるはずなのに、
事実、あの音に聞いた永水の神代は去年、彼女にいっそ清々しいくらい封殺されて敗れている。プロに行ってもまず間違いなく先鋒に回されるだろう──とは監督の談。そうでなければ厄介な相手を抑えるため局所的に使われるか。持つこと自体に価値がある、普段使いもできるジョーカー……それが千里山における宮永照の評価である。またそれ故に、監督にすらどうにもならないとサジを投げられるほど。
しかしながら、今まさにその評価が揺らぎつつある。上記の性能を有する宮永照を相手にあからさまなオカルトで平然とトップを取るような存在──宮永咲。その結果が宮永照の身内であるが故のメタかそれ以外の要因なのかで彼女の評価は多少変動する。だがそれでも、彼女の認識はこの大会の後には揺るがぬものになるだろう──あの宮永照を相手に明確な優位を取れる唯一の存在として。
その優位性が
(こんな化け物、予想外ではありますが──
何にせよ、美味しい状況なのは間違いない。だからこそウチは、それからは園城寺先輩がウザ絡みしてきても無言で、齧り付くように画面を仰視するのだった。
☆☆☆
「ロン。人和……はありませんね。8000点です」
後半戦は、容赦のカケラもないその無慈悲な発声から開始した。再び起家となった福路さんの第一打を直撃。これにより元々顔色が悪かった福路さんの表情は更に青くなり、点棒を渡す際の緩慢とも取れるゆったりとした動作は、如何にこの一撃が彼女にとっての致命打だったのかを物語っている。
(終わり、かな……)
まだ試合は始まったばかりだが、もはやこの卓で福路さんに出来ることはないだろう。ただでさえまるでペースに追い付いていなかったのに、その上心まで折れては話にならない。
咲なら『蓋をした』とでも表現するのだろうか。いくら不安要素を潰すためとはいえここまで徹底的だと流石に同情するが、咲の立場からすると最初に
東二局 宮永照 配牌
{九九1①①①⑨⑨⑨北北北白}
(あれれ〜、おっかしぃぞォ〜? 卓自体を入れ替えたはずなのに何も変わってない……)
そんないきなり対戦相手の一人が死亡するという波乱が吹き荒れた後の東二局。配られた配牌を見て、どこぞのメガネの糞ガキの真似をしながら内心で頭を抱える。東一局もそうだったし、まあこの状況を想定してなかったかと言えば嘘になるが、正直実現して欲しくなかったというのが本音である。
(だって卓を入れ替えたって聞いたから流石にねぇ……?)
というかそれ以前に、この状況は咲にとっても相当リスクが高いはず。なのにそれでも継続しているということは、それほど妹尾さんの潜在能力が凄かったのか咲がリターンを優先したのか。ウチの大将の存在を考えると後者の線が濃厚だが、いずれにしても、まこと運命というものは奇妙で奇天烈で厄介なこと極まりない。
咲の様子を軽く伺えば、傍目にもすぐ分かるほどにやる気に満ち溢れている。前半のような威圧はまるで感じられないが、オカルトの気配──威圧そのものが誰かの模倣でしかない咲の場合は、“取り繕う余裕もない”今の状態こそが、彼女の正真正銘の本気モードと言える。
(咲がこんなにも必死になるなんて何年振りかな……ほんの少し、ほんの少しだけ──楽しみかも)
無理やり唇を吊り上げる。前世の記憶による影響か根本的な闘争心に乏しい私であるが、それでも最低限の敢闘精神は持ち合わせている。
もっと言えば私は──どこか全霊に成り切れないこんな私が、死力を尽くし築き上げた舞台を、無力化するでもなく上から叩き潰すことに、僅かながらの暗い喜びを抱くのだ。
「リーチ」
宮永照 ツモ
{白}
打牌
{1}
猶予は2巡。リーチは打点を稼ぐ以上に選択の幅を狭めるが、しかし今回は問題ないと判断して初手から切り込む。この判断に理屈らしきものは存在せず、根拠となり得るのは私の勘だけだが、この程度のことで選択を誤るようであれば私はここに座っていない。私だって、伊達にオカルト殺しと呼ばれているわけではないのだ。まずはここで一度和了って、そこから──
「……。……チー」
宮永咲 手牌
{222333裏裏裏裏裏} チー{横123}
問題はない。そう、本来であれば問題はないはずだ──しかし、今回の戦いに限れば、この卓にはそんな私をも知り尽くしている私以上のヤバい化け物が存在するわけで。
(ちょ、それ鳴くの……?!)
一発消し目的──ではないだろう。無論、その目的もあるのだろうが、井上さんがたまにするそれと違い、無理鳴き特有の“聴牌気配が遠ざかった感じ”がしない。いや、本人にとっては実際無理鳴きなのかもしれないが、仮にそうだとしてもその程度では終わらないのが咲の怖いところ。
「…………」
宮永咲 打牌
{東}
咲の持つ技能、“運命を弄る”とは即ち、
(そしてそれは物凄くざっくり表現すると、要するに
「………」
福路 打牌
{発}
常日頃から“絶対に和了る手段など存在しない”と公言している私であるが、実のところ例外は割とあって、その一つに“対戦相手が諦めていること”が挙げられる。それはまあ当たり前と言えばそうなのだが、生憎とこの世界の麻雀は理屈が通用しない場面があまりに多過ぎて何が正しいのか分からなくなる。
「……………」
妹尾 打牌
{赤五}
………
……………
……………………
『咲に勝てない? そんなの当然だろ、お前まだ全然初心者なんだから』
『もう一年にもなるのに初心者だとか関係ある? 麻雀って最終的には運ゲーじゃん』
『あるだろ流石に。なんで麻雀のルールに鳴きなんてクソ面倒なモンがあると思ってんだ。それなりに麻雀やってる馬鹿がそういうナメた発言する雑魚との差を広げるためだろ?』
『うぐ。……いや、でも。それでも咲やお母さんはやっぱりおかしくない? 半荘一回で役満がポンポン出るようなゲームじゃないよねこれ?』
『それについては素直に同情してやる。だがな、そこで腐ってねぇでこの環境をチャンスだと思えるようでなきゃ、一年どころかいつまで経ってもアイツらには勝てねぇぞ』
『……………』
『ま、それだけってのもアレだ。アイツらに関してそんな意見が出るのも当然、だったら今からアイツらに勝てるかもしれない方法を一つ教えてやる』
『ええ……最初に聞いといてアレだけど無理じゃない……?』
『ああそこだそこだ。まずはその考えから矯正する。その後については──ま、お前の頑張り次第だな』
『頑張ってなんとかなるものかなぁ』
『どんな競技でも極まってくると、結局はそれが一番大事なんだと気づくもんだ。俺は実際執念だけでアイツらについて行ってる。少なくとも、やる気なんざやろうと思えばいくらでも捻り出せるんだから、あるに越したことはないだろう』
『……そう、だね』
…………………
……………
………
この言葉に元ネタがあったのかどうか、流石にもう覚えてはいない。まあ異能力バトルの登場人物やギャンブルなんかで切羽詰まった人間であれば割と誰でも言いそうな台詞だが、この世界ではそんなトンデモ理論が現実のものとして罷り通っている。
思念は世界に干渉し、根性は確率を破壊し、気迫は運命を凌駕する。現象そのものの認知度はさておき、そんな一部常識の置き換わったこの世界において、それを理解してなおそれでも“これはおかしい”と法則の穴を探ろうとする私は、きっと相当に捻くれた人間なのだろう。
宮永照 ツモ
{北}
「カン」
前世については既に別人のそれと割り切っているが、思えば前世から私はこんな性格だったような気がしなくもない。大衆に塗れ、大衆に従い、そのくせゲームなんかでは人気キャラよりマイナーキャラに逆張りする。私の能力もおそらく元を辿ればそんなもので、世界がそうだからと素直に恩恵を受け取るのに抵抗があっただけなのだろう。
宮永照 嶺上ツモ
{①}
「もう一つ、カン」
もっと素直になっていれば、こんなにも悩むことなんてなかったはずだ。順当に順調に、成長に従いどんどん配牌も良くなって、咲にだって真正面から立ち向かい、雑に和了るだけで有象無象を蹂躙する存在になれたかもしれない。
宮永照 嶺上ツモ
{⑨}
「……もう一つ、カン」
けれど私はこの道を選んだ。自らの運を犠牲にするような能力を編み出し、毎度のように神経を擦り減らしながら針に糸を通すかの如く戦い続けている。後悔はある。苦悩もある。しかしこれが中々にやりごたえがあって、それ相応に面白い。
『楽しめ。いつも、誰より、心から。神ってモンは大抵が残忍で気紛れなクソったれだが──800万も居りゃあ、中にはお前のそんな姿を見て、ついうっかり手を貸しちまう奇特な馬鹿もいるだろうさ』
『ざ、雑っ……!! あまりにも雑だよお父さん……!?』
楽な戦いは性に合わない。必死に悩み抜いて、無駄に苦しみ抜いて。けれどそれでも勝てなくて。しかし、だからこそ、私はそれを乗り越えた瞬間に絶大なカタルシスを感じる。悪趣味だという自覚はある。共感は要らない。同意を求めることもしない。でも、それでいいと教わったから。それでもいいと言ってくれた人がいるから。
「ツモ」
宮永照 和了形
{九九白白} {白} 槓子{裏①①裏} {裏⑨⑨裏} {裏北北裏}
「嶺上開花、四暗刻。8000・16000です」
だから私は、私なりに。私なりの楽しみ方で。“それでも”と全力で世界に抗い続けよう。その意志がきっと巡り巡って、私の力の根源になってくれるはずだから。
決勝戦先鋒戦東二局終了
風越 68000
鶴賀 74600
龍門渕 128400
清澄 129000
主人公の麻雀に対するスタンスの話。まああんな能力に目覚めるあたり相当捻くれてるよね、と。
ゼノブレイド多分めっちゃやり込むので次回はかなり遅れます。ご了承下さい。