解説の宮永さん   作:融合好き

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何もかもがどうでもよくなる日

見誤っていたと、これはそう評するべきなのだろう。

 

「…………」

 

その童顔に不釣り合いな恵体を持つ、巫女服に身を包んだ黒髪の少女。彼女こそは鹿児島県代表、永水女子高校の先鋒である神代小蒔。地区大会から全国大会2回戦までを通して、まさに神懸かり的な闘牌を披露する今大会の大物ルーキーが一角。

 

神代小蒔 手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏}

打牌

{二}

 

なんと恐ろしいことに彼女は、地区大会個人戦計70戦を含むこれまでに打った全ての半荘で平均着順が1.0。平均獲得点数に至っては一試合で5万点を上回っている。それは即ち通常の半荘において最低二人をトバして勝利するのと同義であり、多少なりとも麻雀を齧った者であれば、それが如何に常識外れなことなのか、すぐさま理解することだろう。

 

正しく驚異的な打ち手。しかしそれでも私が彼女を『一角』と表現したのは、今大会は彼女に比肩する、あるいは彼女を凌駕しかねない打ち手が他に二人もその名を轟かせているからだ。

 

 

神代小蒔 手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏}

打牌

{五}

 

 

事実上の全国大会とまで呼ばれるあの大阪予選において、団体戦ではほぼ個人で北大阪代表の千里山高校と互角以上に競い、個人戦一位で全国に足を踏み入れた三箇牧の荒川憩。

 

地方・全国ともに平均獲得点数歴代一位。且つ現在進行形で総所得得点のレコードを大幅に塗り替えて続けている龍門渕の天江衣。

 

先鋒、個人、大将と、団体戦では直接対決することがないことだけが救いと評された3人の怪物は、だがそれ故に個々の区画で存分に暴れ散らかし、大会を派手に荒らすだろうことが半ば我々の共通認識であった。

 

 

神代小蒔 手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏}

打牌

{五}

 

 

そして事実、その認識は間違っていなかった。例えば対面にいる神代小蒔であれば、仮にも全国まで勝ち上がってきた猛者を相手に先鋒で10万点持ちを飛ばす快挙を成し遂げ、天江であれば前年度3位である千里山含む強豪校3校を相手にたった一人で10万点を稼いでいる。

 

どちらの方がより優れているという問答に意味はない。少なくとも団体戦である現段階では。重要なのは、彼女らが決して地区の評判に留まらない紛れも無い怪物であり、僅かにでも油断をすれば……否、そうでなくても、奴らが存分にその実力を発揮するだけで、我が臨海の輝かしい肩書きに『元』という拭えないレッテルが貼られることだろう。

 

しかし──

 

 

辻垣内智葉 7巡目 手牌

{234677⑥⑦⑧中中白白}

ツモ

{東}

 

 

(どうしたものか……狙い撃とうにも、この有様では話にならん)

 

追い縋ることは出来ている。直近の神代の捨て牌は2萬の対子落とし。何ならこのまま進めば捨て牌だけで役が作れそうなほど偏っていて、明らかに裏目を引いているのが丸わかりだ。それがこの異常な場の代償か本人の実力なのかはさておき、しかしこのような状況下では、仮に神代が役しか知らない木偶の棒だとしても、流石にもうデッドゾーンに侵入していることだろう。

 

 

神代

{二五五四四二二}

宮永

{①①⑨⑨⑧③④}

江口

{北白2⑨西④①}

 

 

 

(これは、江口も聴牌しているか…? 萬子が無い分手の進みは早い。私でさえ聴牌直前、奴の腕ならあり得ん話でもないな。だが、宮永のこれは何だ…?)

 

あまりに偏ったその捨て牌から、彼女らも私同様に神代の被害を受けているだろうことは察せられる。だから、江口が直近で数字の近い筒子をツモ切りというのは理解できるし、ある意味では妥当とも取れる。だが、宮永は──

 

(オカルト殺し──だったか。それも、あの天江を封殺できるほどに強烈な)

 

地区では天江。全国では弘世、新免、小走、寺崎。そしてここにいる江口といった有力な打ち手は、本人の代名詞とも言われていた特徴的な闘牌を披露すると、その悉くを宮永に潰され憂き目を見ている。

 

反面、どうも対オカルトに特化しているようで、それ以外に対しては防御が上手い程度の普通のデジタルだが……もしもその認識が正しいのであれば、あの神代小蒔(オカルト)を前にして、こいつが大人しくしているかどうか。

 

辻垣内 打牌

{東}

 

 

()()

 

 

宮永 手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏}  明槓{東東東横東}

 

 

そんな思考と共に牌を捨てると、不意に宮永が動き出す。一瞬、直撃を取られたかと思って流石に焦ったが、しかし宮永の動きはまだ止まらない。

 

「もう一つ、カン」

「何……?」

 

 

宮永 手牌

{裏裏裏裏裏裏裏}  明槓{東東東横東} 暗槓{裏発発裏}

 

 

嶺上牌を利用しての二度目の槓。それは如何なる確率によってか。基本防御重視の打ち手は、槓そのものを積極的に狙うことがない。ならばこれは、宮永なりの神代(オカルト)対策なのだろうか。

 

「……もう一つ、カンで」

「は? 何やて?」

「……!?」

 

 

宮永 手牌

{裏裏裏裏}  明槓{東東東横東} 暗槓{裏発発裏} {裏11裏}

 

 

更に追加の暗槓。江口が思わず呆けた言葉を発するが、私も驚いている。仮にこれが神代への対策だとして、それでもこれは色々とおかしい。

 

そしてこの状況は非常に拙い。まず滅多に使われないルールであるが、今大会において明槓からの嶺上開花による和了は、東を捨てた私に責任払いが発生する。現在晒している牌だけでも役牌三槓子の3飜。当然、ここで暗槓ということは聴牌もしているはず。未だ私からは奴に聴牌気配を感じないが、何せ宮永はオカルト殺し。それくらいは無効化する何かを備えていても不思議では無い。

 

「もう一つだけ、カン」

「な……!?」

「──」

 

 

 

宮永 手牌

{裏裏}  明槓{東東東横東} 暗槓{裏発発裏} {裏11裏} {裏99裏}

打牌

{2}

 

 

絶句する。明槓からの四槓子で裸単騎……私は夢でも見ているのか? そしてここに来て、ようやく宮永から聴牌の気配を感じ取る。つまりは今の今まで聴牌していなかった……? 駄目だ、もはやこの感覚すら信用し切れない。

 

見誤っていた。そうとしか言えない。拙いなんてものじゃない──なんだこの状態は。状況的に明らかにおかしいのは神代のはずなのに、気づけば宮永が奴の喉元まで迫っている。

 

まるで、宮永を前にオカルトを以て臨む。それ自体が過ちだとでも言うように。

 

 

「………」

 

 

神代小蒔 手牌

{一一二三四七七八八八九九九}

ツモ

{五}

打牌

{五}

 

 

()()

 

またもや裏目を引いたであろう神代の捨て牌に、()()()()()宣告が響き渡る。

 

もはやこの場の異常性は、誰の目に取っても明らかだ。ならば当然、萬子を独占し続ける神代に直撃を取ることは不可能であるはず。

 

 

宮永 和了形

{五赤五}  明槓{東東東横東} 暗槓{裏発発裏} {裏11裏} {裏99裏}

 

 

 

「四槓子。32000点。ダブルあったら数えで加算行けたんだけど……」

「………!」

 

いや、既にそれは、不可能であったに訂正するべきだろうか。見誤っていた。見縊っていた。このように、他に誰も和了れないような異常な状況下に於いてこそ、そこは宮永の独壇場と化すことを──

 

 

 

先鋒戦終了

 

臨海    89900

永水    27800

龍門渕  168300

千里山  118000

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「江口さん普通に強いから本当に困る……」

 

控室に戻って来た宮永さんが、珍しく弱音のようなものを溢す。いや、厳密にはそこまで珍しいわけでもないが、とはいえあのような異常な卓を制して来たとは思えない呑気な内容だ。ついでに言えば矛先もおかしい。もっと他に言うべきことがある気がする。

 

「何ですの、あの永水の子は……」

 

当然に、必然に。透華がボクの思考を代弁する。そう、まずあの卓で思うべきことはそれだ。何なんだあの化け物は。この大会でもう散々豪運というモノは見慣れたつもりだったけど、あのオカルトは本当にやばい。何だ配牌からツモから全部萬子一色って。あんなのに比べたらボクの手品なんてイカサマにも入らないぞ。

 

そんな透華の絶望交じりの呟きに、宮永さんはあっけらかんと、

 

「分かってるとは思うけど、一種類の数牌を引っ張ってくる能力だね。あそこまで強力で理不尽なのは初めて見たけど」

「いや何でアレに勝てるんだ……?」

 

半ば引いてる純くんがこれまた当然の疑問を呟く。というか勝てるどころか萬子を独占してるはずなのに当人を狙い撃ち出来るのが本当に謎である。この人の対オカルト性能の高さは常々思い知っていたはずなのだが、相手がヤバければヤバいほど、それに普通に打ち勝ってくる宮永さんの異常性が際立ってしまう。

 

「可能性を0にすると能力が成立しなくなるからね。だから可能性に最大限蓋をして、普通は触れられない場所に直撃する牌を隠してるんじゃないかなーって王牌に目を付けたんだけど、そうしたら案の定ビンゴ。しかも衣ちゃん同様ルールがガチガチなだけあって、それを乗り越えて和了した時の倍率がドン! 多分リーチかけてたら裏ドラ含めて数えだけでダブル行ってたんじゃないかな。

それに、普通なら山に萬子だけとか3〜4巡もあればツモると思うんだけど、わざとやってるのかなってくらい裏目ってたし、意外と余裕だったね」

「………」

 

もはや何を言ってるのか分からない。余裕。余裕と言ったのかこの人は。あんな異常な打ち手を前にして、意外と余裕で勝てちゃうと。

 

やっぱりこの人もこの人で、衣の同類なのだと改めて思う。永水女子の先鋒である神代小蒔。アレの異常性が衣さえ凌駕するのは確定的に明らかだ。確かに衣の闘牌は色々とおかしいが、それでも麻雀として成り立つ範囲でのオカルトだった。

 

しかしあの永水の一年と言えばアレだ。宮永先輩がさらっと言っていた理不尽なんて言葉すら生温い。それこそ実際に打ち勝ったこの意味不明な先輩の存在がなければ、彼女に対して喚き立てていてもおかしくはなかっただろう。

 

「まあ、安心していいよ。これは私の経験則だけど、あれだけぱっと見理不尽な感じの能力は、実際には見た目ほど理不尽じゃないのが常だから。仮に初見の国広さんが相手だったとしても、最後まで諦めなければトぶまで削られることはないはず」

「……それはどうして?」

「それはただの理不尽だから。……なんか哲学みたいになりそうだね。まあ頭の片隅にでも置いといて。私は人より、ほんの少し視野が広いだけ。この世界の麻雀は、誰に対しても道が示されている。そして、神であろうと卓上では負けることもある。それこそが、私が好きな麻雀という競技なんだからね」

 

ゴーストライターはちょっとねー、などと訳の分からない言葉で締めくくり、理解できない理論を乱発していた宮永先輩との会話が終わる。これは単なる偶然だが、その日にボクが宮永先輩と直接会話をする機会は訪れなかった。つまりはそれだけ宮永さんを頼る、即ち切迫する場面がなかったということで。

 

しかしながら、それも当然だろうと内心では思う。何せあの衣が最後に控えているのだ。ボクも防御に自信がついて来たし、大負けさえしなければ捲れる保証があるのは思った以上に精神的なアレが大きい。

 

緊張感が足りない自覚はある。けれどそれでいいのだと。むしろそれこそが良いのだろうと。まあ実際にはそれも分からないけど、ボクらが他の学校にはない心意気で臨んでいるのは間違い無いだろう。

 

何にせよ、今は非常に楽しんで打てている。勝てば喜び、負ければ悲しむ。そこにオカルトだのといった難しい要素は絡むことはない。それこそが無名校であるボクらの強みであるのだと、最近になってようやく実感するボクだった。

 

 

 

準決勝第一試合終了

 

臨海    92700

永水    19300

龍門渕  152000

千里山  136000




次回は決勝になります。続きはディスカバリークリアしたら書きます。


追記:ディスカバリーマジで面白い……ちょっとやり込みたいので気長にお待ちください


登場人物紹介

辻垣内 智葉

つじがいとさとは。前半のモノローグ担当。臨海女子の先鋒かつ本作の時間軸で個人戦3位。運次第で普通に照に勝てる程度の実力はあるが、流石にインチキ巫女を前にした状態ではどうにもならなかった。実は麻雀はセーラよりも強いが、直撃を狙うとそれを照に潰されるのであまり稼げなかったという経緯がある。出番はあるはず。

神代 小蒔

じんだいこまき。ご存じインチキ巫女さん。神降ろしの際に意識を失うので実は本作の照とはすこぶる相性が悪い。それでもトバされなかったのは2回ほど役満の直撃を食らった時点で中にいた神がどっか行ったから。麻雀はそれなりに強い。出番はある。

Megan Davin

メガンダヴァン。臨海女子の副将。よく考えなくても先鋒照且つ能力が割れてる状態で負ける要素がないので出番がなかった。悲しいね。出番はあるか不明。臨海は多分出番あるけど闘牌は割とカットしてるので…。
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