解説の宮永さん   作:融合好き

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ディスカバリーちょうおもしろい。みんなも買おう。


何かを諦めそうになった日

『ロン。四槓子、32000点』

「……わからん」

 

そんな言葉を吐き捨てて、リモコンの一時停止ボタンを強めに押す。仮にも生徒から提供を受けたビデオに対し指導者として有るまじき発言であることは百も承知だが、実際にカケラも理解できないのだから解説のしようもない。

 

改めて画面に映る宮永の姿を見れば、そこにはここ最近ですっかり見慣れてしまったポーカーフェイスがデカデカと表示されている。この場面で宮永が拡大されているのは単にテレビ局側の都合でしかないのだろうが、一切の動揺を示さないその表情を見るに、少なくともその和了りが偶然ではないことが覗える。

 

いや、そんなことはこの意味不明な和了り方を見れば一目瞭然なのだが、それでも結論を後押しする材料くらいにはなる。元より可能性の一つとして考えてはいた、しかし証明する手段が無くて断念したある一つの仮説。

 

「……思えば、あの天江を難なく抑えてる時点で気づくべきやったな」

 

小さく呟く。天江と宮永は同じ部活の部員同士。それは確かにそうだろう。しかしその事実があったとしても、普通はそれで手を抜くなんてことがあるだろうか。むしろそのような関係だからこそ、公式の場では馴れ合いを廃して全力で闘うのではないだろうか。

 

実際、ウチは千里山の部員に対してそのように指導しているし、普段世話になっている先輩が相手だからと八百長なんてしようものならブチギレる自信がある。纏めると、あの個人戦の結果は紛れもなく死力を尽くした果てのものであり──宮永のオカルト殺しが、およそ()()()()()()()()()であれば軽く凌駕しているということ。それ即ち、

 

「浩子、どうや?」

「はい。……あくまで推測ではありますが、宮永のオカルト殺しが、天江や神代のソレに匹敵……いえ、凌駕しているのは既に周知の事実。つまりは逆説的に、宮永もアレらと同等の才能を持つ存在──全国区の怪物の一人である。……ウチはそう見ています」

 

ほぼ100点満点の回答に深く頷く。やはり親戚だからなのか、思考回路等が非常に似通っていて話が早い。……いや、親戚云々は関係ないな多分。少なくとも洋榎はこんな思考回路してへんわ。面倒だからと適当に殴りかかりに行きそうやわ。

 

「あの打ち方を第一打から迷いなくやり始めるのがある意味一番の問題やな。打つ前からどんな能力かその対処法を含めて知っとったってことや。………まさにオカルトやな。もはや手牌が透けてるようなもんやろ。そら防御も上手くなるわ」

「……ですが、それで何かが変わるんですか?」

 

愚痴るウチに、清水谷が言う。一発目から中々鋭い意見で感心する。そうだ。宮永のそれが神代すら上回ったとて、それで何が変わるわけでもない。千里山の麻雀が良くも悪くも普通のデジタルをベースとしてるのは他ならぬ宮永自身が証明している。であれば宮永がその方面での化け物であれ、それが表に出てこないのであれば問題ないのではないか、と。

 

「慌てんなや。単なる確認や。清水谷の言う通り、ウチは多分問題ないやろ。これは完全に予想外なことに、ウチの江口はどういうわけか、相当に宮永と相性が良いみたいやからな」

「せ、せやろか……?」

 

首を捻る江口。まあ普段の江口のこと、基本互角以下で勝った半荘も大勝ちはしてへんのに相性が良いなどと言われても困惑するだけだろう。しかし、

 

「姫松はまあいいとして──新道寺の白水。これが普通の打ち手かと聞かれると非常に疑問が残る。配牌の後に牌を伏せる謎の動作。あれが何かしらのオカルトである可能性はそれなりに高い。

しかし、流石に初見で全く通用しないとまで割り切るはずもなく、臨海の先鋒同様に、自慢の打ち筋を何度かは試すはずや。となるとオカルト殺しの宮永は、おそらく点数稼ぎのために新道寺を狙ってくる」

 

永水のアレを破れるからには、具体的にどんなものかさえ分からない新道寺のオカルトがあの宮永に通用するはずがない。とはいえ新道寺も愚図ではない。通用しないものをいつまでも試すはずもなく、故に予想できる試合運びとしては、基本的に全体の点差は横並びで、新道寺の試行回数次第でその分宮永が突出してくるというもの。

 

「仮に先鋒終了時点で新道寺を8万、龍門渕を12万とする──そこで問題となるのが新道寺の次鋒や。地区獲得点数20万点越えの怪物……鶴田姫子。天江や神代に隠れとるだけで、世代が違えばまず間違いなく大物ルーキーとして称えられたであろう打ち手。これが存分に暴れてくる」

 

次鋒はオーダー的に副将とどちらかとで四、五番手が基本となるので当然であるが、厄介なことに、次鋒はウチや龍門渕含む全ての高校で穴と呼べるレベルの打ち手しか存在していない。無論、それでも実力者揃いであるため飛ばされるほど大負けはしないはずだが、それでも新道寺が凹んだ分を軽く挽回してくるであろうことは事実。となると、

 

「姫松中堅の洋榎は親の贔屓目を抜きにしてもまず間違いなく区間一位を取ってくる。副将は何処も同程度のデジタルでそれほど差が付くとは思えない……結果、唯一あの天江と長く打っとるウチだけが沈んだ状態の横並びで大将戦や。厳しいことを言うようやけど……清水谷。アレに打ち勝つ自信はあるか?」

「………」

 

返事は沈黙。つまりは実質的な否定。それでもハッキリと口に出さないのは、彼女がウチの教えを忠実に守っているからだろう。泣ける話だ。監督としてとても不甲斐無く思う。

 

しかしだ。直近の半荘の結果を見るに、打ち勝てるとは断言できずとも、あれが不甲斐ない結果だとは口が裂けても言えず、少なくとも最初の頃のような大負けはしていない。その旨について言及すると、

 

「別に、あの宮永を参考にしたわけではないんですけど……何というか、最初は理不尽でしか無かったのは確かなんですが、何度も打ってる内に『これは残したらアカン』って牌がなんとなく分かってきたと言いますか。牌効率とかやなく、あくまでウチの勘でしかないんですが……」

 

歯切れの悪い言葉。本人も言うように完全に感覚頼りで説明を求められても困るのだろう。だが、非常に興味深い答えではある。天江との対戦を重ねるにつれて、清水谷が段々と暴牌をするようになっていたのはウチも当然気付いていた。それはあの異常な場での彼女なりの足掻きなのだろうとこれまで言及はしていなかったが、やはり対戦相手にしか分からない何かがあるのだろうか? そして、だからこそ清水谷と同程度かそれ以下の実力の井上も、あの天江衣を相手に和了れたりしたのだろうか。

 

ウチがその言葉を受けて色々と考え込んでいると、清水谷は更に続ける。

 

「それと……これも確証はないんですが、なんか天江、打つ度に弱なっとるような気が……」

「弱なっとる?」

「はい。……何ですかね。ウチが慣れたとか多分そういうの関係なく、二回戦と比べて体感できるくらい圧力が減ってます。もちろん、天江自身が『この程度で問題ないやろ』って加減しとる可能性もあるわけですが、その割にはあの点差でオーラスにも圧力がそのままで聴牌もできたんでちょっと違和感が……」

「ふむ……?」

 

対戦する度に弱くなる……? 仮に天江が体調を崩していたとて麻雀にそんなことが関係あるだろうか? いや、神代の例からしてそれと同格以上の天江衣に常識は通用しないと見ていい。

 

そして、(あの和了り方を弱点と呼んでいいのか疑問であるが)宮永が証明して見せたように、どんな理不尽に見えるオカルトにもおそらく何らかの穴がある。あれから宮永が傍目には暴牌している牌譜を漁ったが、天江を筆頭に個人戦での成績が高い面子ほど宮永に点棒を毟られる傾向があったはず。順当に考えるなら(あんなオカルトに順当もクソもないが)麻雀の槓と同様に、その力が強ければ強いほどデメリットが悲惨なことになり、そこを宮永は突いている感じか? 

 

(……分からん)

 

結局、結論は同じまま、その日のミーティングもロクに成果が出ないままに終わる。元より、この段階まで来たらたかが一指導者に出来ることなど何もない。せいぜいが生徒を激励し、信じて送り出すくらいだ。

 

土壇場で都合の良いアドバイスなんて出てこない。それが対人戦である麻雀の指導の課題であり、運否天賦の競技の宿命なのだから。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「えー。新道寺の先鋒と次鋒ですが、非常に面白いオカルトを持っています」

 

唐突にボク達の居た衣の一室を訪ねてきた宮永先輩が、その部屋にたまたまレギュラーが全員揃っていたのを見て、これまた唐突に話し始める。

 

とはいえ今となってはこれも馴染んだもの。彼女が衣の部屋を訪ねたのは単純に衣の部屋がボクらに割り当てられた部屋の中で一番広いからで、そもそも彼女がこんなノリでボクらを風呂だの食事だのに誘うのは一度や二度では済まない。何なら透華の意向で部屋も無駄に広いのでボクら以外の部員も割と居着いて駄弁ることも多く、その中でも特に宮永先輩と仲がいい礼堂さんが返答する。

 

「……新道寺? また神代さんみたいなトンデモ能力持ちだったりするの?」

「いや流石にあんなのはそうそういないからね?」

 

即答する宮永さん。それは宮永さんと言えど即座に否定できる内容だったらしい。むしろそうでないと困る。あんなバケモノがゴロゴロ居たらイカサマしてまで勝利を貪っていたかつてのボクの立場が本当に無い。

 

と、思っていたら

 

「いや、ある意味では神代さんより酷いかな……和了れないという意味で」

「え」

 

手牌が萬子一色とかいうバグより酷い能力? なんだそれ。想像もできないんだけど。ていうか宮永さん今次鋒って言ってたよね? 何、ボクそんなバグ相手と戦わされちゃうの?

 

「新道寺と言えば……確かに先鋒が、配牌の後に妙な仕草をすると話題になっていましたが」

「そう、それそれ。それが起動条件みたいで、しかも発動条件は異なるっていうまんま『能力』だね。ここまで明確にルールが限定されてるタイプも初めて見たからびっくりした」

「起動条件と発動条件……? とりあえず一旦、どのような能力なのかお聞きした方が良さそうですわね」

「………」

 

何らかの条件が必要な能力とか本格的に別ゲー感がするなあと思いつつも、自分のことなので真っ先に無言で居直るボク。見れば礼堂さんと戯れていた衣や純くんなんかを始め室内にいる全員がこちらに注目していて、それを受けた宮永さんが小脇に抱えていた携帯型ホワイトボードを広げると、

 

「えー、まず先鋒である白水さんが配牌を確認します」

「ふむ」

「配牌を見て『これならN飜で和了れそうだな』と判断したら一旦牌を伏せ、能力発動。Nの飜数以上になるように縛り打ちします。ちなみに発動は任意です」

「……縛り打ち?」

「うん。で、例えば4飜の役数で縛り、予想より手が高くなって跳満で和了る。そうすると能力が成立。実際に白水さんが和了した飜数とは関係なく、縛った飜数の倍の飜数、つまりは倍満で、次鋒の鶴田さんが白水さんの和了した局にほぼ確実に和了できるというものだね」

「……。……頭が痛くなりそうですわ……」

 

発言の通り、額に深く手を当てて頭痛を堪える透華。その気持ちは非常に良く分かる。確かにこれは酷いオカルトだ。ってかここまで来ればオカルトも糞もない完全な超能力者じゃんか!

 

「対応する局ってのは白水さんが東一局に和了すれば鶴田さんも東一局で和了る。南三局だったら南三局で和了るって感じだね。親が連荘して南二局の三本場なんかになってから白水さんが和了した場合、南二局になってもその本場に到達するまで能力は発動しない。流局して流れ一本場となった場合は0本場で和了した場合の引き継ぎを持ち込めず、縛りに失敗した場合は成功した場合と同様に、ほぼ確実に鶴田さんも和了が不可能となる。他にも細かい条件はあるけど、概ねこんな感じかな」

(………)

 

まずい。結構重要そうな内容なのに全然頭に入ってこない。なんだこれは。本当に麻雀の話なのか? ボクはどんな異世界に紛れ込んでしまったのか。

 

「……酷いとかそれ以前に、自分が和了れるかどうかが完全に相方頼りとかそんな能力あるんだ……」

 

礼堂さんが言う。……確かに。他人依存の麻雀とか、そんなの色々と可笑しいだろうとボクも思う。だってそんな能力まで持ち出したら、初心者ですらその能力を持っていれば衣を相手に完封するとかも容易に出来てしまう。

 

「……倍の飜数ともなれば、比較的容易なタンヤオピンフの2飜ですら鶴田姫子にとっては満貫に匹敵する。満貫であれば倍満以上。倍満を2度成立させるだけで役満を2回ほぼ確実に和了ることができる……これが地区大会獲得点数20万点越えのカラクリですか。なんともまあ……」

 

もはや色んなトンデモ能力に慣れてしまっていた透華でさえこれには呆れ顔だ。とはいえ透華も透華で人のことは言えないけど、透華は極力例のオカルトが暴発しないよう努力してるだけで本当に有り難いと思う。衣とかボク相手だろうと全然加減しないしね。

 

そんな衣は、この巫山戯た能力のあらましを聞き、

 

「……確実に和了る。それは衣が相手でもか?」

「衣ちゃんはまだ無理かな。咲でギリギリ行けるかどうかってレベル。多分だけど、あの2人だけじゃなくて、白水さんが対峙した3人の力量もそのオカルトの強度に上乗せできるんだと思う。あれだけの相手から縛り付きで和了したんだ。だからこれくらいの報酬はあってもいい──ってな感じで」

「やられる側からすると理不尽極まりないですわね……」

「……でも照、『ほぼ』って言ってたよね。それは妹さんだけ? 照はどうなの?」

「私は逆にああいうのカモれるから大丈夫。ただ……どうだろう。私が戦うのは白水さんの方で、白水さんがオカルトかって聞かれると実際に戦ってみないと微妙というか」

(行けるんだ……)

 

成立させた後に失敗させたら木偶になりそうだから稼げそうなんだけどねー、と軽い調子で言い放つ宮永さんに戦慄する。今の説明を踏まえてもなお行けると判断する辺り、本当にこの人にはオカルトが通用しないんだなと改めて実感する。

 

「いや、成立すると理不尽だから多分行け……行けるんだろうか……だって縛ってるだけだし……でも影響が酷過ぎるからきっと……おそらく、メイビー……」

「………」

 

結局、とても不安になる言葉を最後にその日の対策会議はお開きとなった。いやだって、これ以上その理不尽能力の何を話し合えと? 他力本願なのは承知の上だが、宮永さんには本当にどうにか頑張ってそのオカルトを阻止して欲しい。ここまで来てそんなオカルトを理由にボクが原因で負けるなんて悔やむことすら出来ないじゃないか。

 

「じゃあ行ってくるねー」

 

翌日。そんなボクの思いが通じているのかいないのか、宮永さんは決勝だろうと変わらずにいつもの軽い調子でやや早めに試合会場に向かう。卓でゆっくり本なり新聞なりを読むと何となく集中力が高まる感じがするんだとか。理解はできないが、もう錯覚でもなんでもいいから極限まで頑張ってください。

 

「はじめ。……貴女の結果が如何でも、きっと衣が取り返してくれますわ。最悪、このわたくしがあの力を使って──」

 

やめて透華やめてやめて宮永先輩が失敗する前提で話さないで。いいから、そんな悲壮な決意とかいらないから! 確かにボクの実力とか信じる以前の全部ガン無視するような酷い能力だけど、ボクも何とかなるように頑張るから!

 

(でも、衣ですら無理って言われる能力をどうやって……? 倍が基本だから安手には期待できないし、直撃を避けるにも、多分ボクがあの卓で一番弱いからどうしようも……)

 

押し寄せる絶望感と焦燥感に頭がくらくらとする。いっそ透華に例のアレを使わせてしまった方が楽なんじゃないかと考える弱いボクが頭の中に湧いて来て死にたくなる。透華はボクの恩人だ。そんなことはさせてはならない──そうは思っても、状況が許してはくれない。ここまで来て負けるだなんて、透華にとっても絶対に避けたいことだろう。

 

それでいいのか? そんなことが許されるのか? あの力は確かに強いが……ある意味で、衣以上に麻雀を否定する力だ。そんなものを振り翳して勝利する透華を、ボクは見たいと思うのか? でも──

 

 

 

 

 

 

先鋒戦終了

 

 

龍門渕   126000

千里山   107300

姫松     96500

新道寺    70200

 

 

 

 

 

 

「まさかあの能力があった上で、卓外から更に『信じてますからね』ってノリでサポートしてくるとは……これは酷い。近年稀に見るインチキ能力だったね」

「………」

 

そのインチキ能力をカモに出来るお前のがインチキじゃねぇか、という言葉を辛うじて飲み込んだボクを誰か褒めて欲しい。

 

 

 




続きはアルティメットカップ5分切り達成したら書きます。


登場人物紹介

白水哩

しろうずまいる。初見では名前が読めない筆頭。作中で解説してるように、局数が少ない半荘に持ち込んだらまずいインチキ能力持ち。傍目からは面白いと思うけど、後続の実力が県大会エース並みとか明言されてるのに原作の状況で当たり前のように和了るのは本当にイカンと思う。麻雀は強い。出番は微妙。

鶴田姫子

つるたひめこ。上で書きたいことを書いたので語ることがない。悪魔っぽいので多分タチ。麻雀はそれなりに強い。出番はある。

愛宕洋榎

あたごひろえ。名前だけ登場。多分作中では一番照と相性が良い。でも中堅だから多分当たらない。原作でもなんで先鋒咲か大将照のどっちかにしなかったんだろう。副将の鷺森も割と謎。点数だけ勝っても因縁は解消されなさそうなのに…。麻雀は強い。出番は微妙。




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