A-1
この世界は自由だ。面白いことがたくさんあって、何だって出来る。
そんなふうにはしゃいでいたら、友達に言われた。
「別に面白いことなんて、そんなになくない?」
「そう? わたしはそうは思わないけど」
「あさひちゃんは何でも楽しめていいね」
「なんで楽しめないの?」
ただ純粋にそう思って聞いたら、それっきりその友達とは疎遠になってしまった。
食べ物に好き嫌いがあるように、楽しめることにも好き嫌いがある。あさひは勉強はそんなに好きではないが、勉強が楽しいという子もいる。
そういうことが少しずつわかるようにはなったが、わかることと疑問に思うことは別である。自分で勝手に解釈するより、相手に確認した方が親切だと思うのだが、理由を聞くと人が離れていく。
友達というのは、何かを我慢しなくては得られないものなのだろうか。そんな疑問を口にしたら、誰かに言われた。
「芹沢さんは友達が欲しいんじゃなくて、ただ自分を受け入れてくれる人が欲しいだけだよね」
「我慢したくないだけだけど」
「そういうのを、我が儘って言うんだよ」
くすくす笑って、やはりその人たちもあさひから離れていった。
もういいやと思った。人付き合いが自由の足枷になるのなら、一人で楽しいことをしていた方がいい。幸いにも、あさひは一人でも楽しめることにしか興味がない。
後になってから、会話の流れでそんな話をしたら、プロデューサーに静かに言われた。
「それはあさひが一人でいるから、人といる楽しみを知らないだけだよ」
「そうっすかねぇ」
「少しずつわかってくるよ」
「別にわからなくてもいいっす」
意地を張っているわけではない。純粋にそう思うからそう言っただけだ。
そして、大抵そういうことを言うと、人が離れていく。理由はわからないが、経験的にそうなる。
アイドル活動は面白いことがたくさんあったが、これでもうおしまいだ。プロデューサーがいなくては、一人では何も出来ない。
そういう意味では、アイドル活動も「人といる楽しみ」なのかも知れない。もしそうなら、プロデューサーが正しかったことになる。謝った方がいいだろうか。
一瞬様子を窺ったが、プロデューサーは別に怒ってもいなければ、あさひを見放すようなこともなかった。
この場所は居心地が良い。言いたいことを言って、やりたいことをやって、人に喜ばれて、どんどん面白いことが与えられる。
「あんた、幸せ者ね」
冬優子が呆れたようにため息をついていたが、冬優子は幸せではないのだろうか。
「冬優子ちゃんもやりたいようにやるといいっす。楽しいっすよ?」
「そうしたら、誰があんたを止めんのよ」
「止めなくても大丈夫っす!」
「誰かが止めてくれてるから大丈夫なだけよ。あんた、そろそろ自覚しないと、いつか痛い目を見るわよ?」
冬優子は優しい。奔放なあさひを見放さずにいてくれるし、呆れながらも心配してくれる。それをお節介と思うことはないが、忠告を有り難く思うこともない。
実際、あさひは友達がいないし、陰で笑われることもある。冬優子はきっとそういうことを言っているのだろうが、あさひは大して気にしていない。
もちろん、友達がいるに越したことはないが、気を遣ったり我慢するのは好きではない。だから、やりたいことをやって人がいなくなるのは、痛い目ではない。
これからもやりたいようにやって、ついて来られる人だけついて来ればいい。ファンのように、今のままのあさひを好きになってくれる人だけいればそれでいい。
友達とかトップアイドルとか、そういうものにあさひはまったく興味がないのだ。