A-1
あさひの世界はキラキラしていた。
すべてのものには色があり、音があり、動きがあった。
石にすら輝きがあり、あらゆるものがあさひに笑いかけていた。
自然も、人も、急な雨でさえ、全部があさひの味方だった。
だから、あさひも楽しかった。
やはり、あの日あの瞬間、きっと別の世界に迷い込んでしまったのだ。
嫌な夢を見て目を覚ますと、薄明かりに照らされた天井があった。
夜はいつも真っ暗にして寝ていたが、最近は常夜灯を点けている。もしかしたら、夜中に時々目を覚ますのはそのせいだろうか。
上半身を起こして、首筋に浮かんだ冷たい汗を拭う。暑くもないのに汗をかくという経験も、元の世界では一度もなかった。
部屋はシンと静まり返っている。すべてが不気味に佇んでいて、あさひは抱え込んだ膝に額をつけた。
この部屋も、こんなふうではなかった。冬でも温度があり、夜でも色があった。
スマホを手に取ると、人工的な白い光があさひの顔を照らした。午前2時30分。
夜更かしした日でももう寝ているし、早起きの日でもまだ起きていない時間だ。見慣れない時刻の表示が、この部屋の違和感を一層強くする。
連絡先を開いて、プロデューサーを表示した。ずっと一緒にいてくれると言っていたが、結局こうして今、あさひは自分の部屋で一人で寝ている。
さすがにそれは仕方がない。あの夜からすでに3回ほど泊めてもらっている。それだけでも十分、あさひに寄り添ってくれている。
それでも、まだ足りない。こうして今、嫌な夢を見て目を覚ました時、隣にいてくれないのは怠慢だ。職務放棄だ。
通話しようとして、指を止める。動悸がする。プロデューサーの声を聴けばきっと治る。
けれど、怖い。
少し前、事務所でプロデューサーに甘えていたら、冬優子に言われた。
「あんた、あんまり我が儘ばっかり言ってると、そいつに嫌われるわよ?」
「えーっ! 絶対そんなことないっすよ」
唇を尖らせて反論したら、プロデューサーも深く頷いて笑いながら同意した。
「そうだぞ。どんどん甘えてくれ」
「あんた、一体どこまでそいつを甘やかすつもりなの?」
冬優子が呆れたように肩をすくめた。
実際のところ、大丈夫なのだ。プロデューサーがあさひを見捨てることなどないし、特に今は、何でも我慢せずに言って欲しいと言われている。
それでももし、万が一にもプロデューサーに嫌われたらと思うと怖い。真夜中に電話をかけるのが迷惑なのは、さすがにわかる。
冬優子があさひにその忠告をしたのは、それが初めてではなかった。元々何度も言われていたが、まったく気にしていなかった。
今と同じように、プロデューサーに嫌われるわけがないと思っていたし、心のどこかで、万が一嫌われてもその時はその時だと思っていた。意識はしていなかったが、無意識にそう思っていたのだと、最近わかった。
元の世界は面白いことがたくさんあって、プロデューサーもその一つに過ぎなかった。もちろん、あさひの気持ちに共感してくれる唯一の理解者として、掛け替えのない存在だったが、なくてはならないというほどではなかった。
しかし、今は違う。新しいあさひの世界にはプロデューサーしかいない。プロデューサーがいなくなったら、あさひには何もなくなってしまう。
だから、絶対にプロデューサーに嫌われるわけにはいかない。
二つの怖さを天秤にかけて、あさひは夜に怯える方を選んだ。
掛け布団を頭の上までかぶって、震えながら朝を待つ。
待って訪れる朝に、何かあるわけでもないのだけれど。