芹沢あさひは難しい   作:水原渉

7 / 12
F-1

 何もあの子が嫌いというわけではない。

 確かに、出会った当初は苦手だった。それは否定しない。

 今も友達かと言われるとそんなことはないが、同じユニットの大事な仲間だとは思っている。

 どれだけ言っても空気は読まないし、好き勝手に走り回るし、言動もわきまえない。しかもそれで上手く回っているところがまた憎たらしいが、そのおかげでストレイライトは順調に仕事が増え、冬優子のメディア露出も増えている。

 こう言ったらさすがに可哀想だが、あさひは使える子だ。プロデューサーや愛依のように、あの性格を好ましく思うのは難しいが、その能力の高さは冬優子も認めている。

 あの高いパフォーマンスとアイドル性が、あの性格と表裏一体というのなら仕方ない。一応、リーダーとして手綱は引いているが、何が正解かはよくわからない。

 最近変わってきたような気もするし、何も変わっていない気もする。

 芹沢あさひは難しい。凡人の自分に理解できるような子ではないのだと、最近では少し諦めモードだ。

 

 そんなあさひが怪我をしたと、プロデューサーから聞かされた。

 さすがに慌てたが、大怪我ではないと聞いて胸を撫で下ろす。どうしたのか聞いたら、「性格由来の要因だな」となぞなぞのような表現で返された。どうせ樹に登っていて落ちたとか、そういうのだろう。

「だから言わんこっちゃない」

 やれやれとため息をつくと、プロデューサーが諭すように言った。

「怪我をして一番落ち込んでるのは本人だから、責めないでやってくれ」

「わかってるわよ」

 さすがにそんな中学生をいじめるような真似はしないが、多少は凝りて大人しくなればと思う。

 大人しくなればと、その時は思った。

 その後、あさひは一週間くらい休んで、また元気に事務所に現れた。

「冬優子ちゃん、こんちはっす」

 いつもの生意気な笑顔に曇りはなく、肌にも傷はない。顔と指先以外はジャージで見えないが、動作にぎこちなさもないし、もうすっかり治ったようだ。

「体、大丈夫なの?」

「そっすね。まだちょっと、ダンスレッスンは無理っすけど、ボイスレッスンから始めるっす」

「そう。無理すんじゃないわよ?」

 呆れと安堵で深く息を吐くと、あさひは探るように冬優子を見上げて、からかうような微笑みを浮かべた。

「冬優子ちゃん、今日優しいっすねぇ」

「バカ言わないで。何があったか知らないけど、あんたがまた踊れるようになったら、ガンガン言うわよ?」

「優しいままがいいっす」

「いつも優しいから!」

 いつも通りの不毛なやり取り。少し大人しい気はするが、きっとまだ傷が痛むのだろう。もう少ししたらダンスレッスンも出来そうな口ぶりだし、どうやらもう心配しなくても良さそうだ。

「それで、何があったの?」

 一応聞いてみたら、あさひはにっと笑って、立てた指を唇に当てた。

「性格由来の要因っすね。ご想像にお任せするっす」

 あさひらしくないその一言が、冬優子の覚えた最初の違和感だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。