何もあの子が嫌いというわけではない。
確かに、出会った当初は苦手だった。それは否定しない。
今も友達かと言われるとそんなことはないが、同じユニットの大事な仲間だとは思っている。
どれだけ言っても空気は読まないし、好き勝手に走り回るし、言動もわきまえない。しかもそれで上手く回っているところがまた憎たらしいが、そのおかげでストレイライトは順調に仕事が増え、冬優子のメディア露出も増えている。
こう言ったらさすがに可哀想だが、あさひは使える子だ。プロデューサーや愛依のように、あの性格を好ましく思うのは難しいが、その能力の高さは冬優子も認めている。
あの高いパフォーマンスとアイドル性が、あの性格と表裏一体というのなら仕方ない。一応、リーダーとして手綱は引いているが、何が正解かはよくわからない。
最近変わってきたような気もするし、何も変わっていない気もする。
芹沢あさひは難しい。凡人の自分に理解できるような子ではないのだと、最近では少し諦めモードだ。
そんなあさひが怪我をしたと、プロデューサーから聞かされた。
さすがに慌てたが、大怪我ではないと聞いて胸を撫で下ろす。どうしたのか聞いたら、「性格由来の要因だな」となぞなぞのような表現で返された。どうせ樹に登っていて落ちたとか、そういうのだろう。
「だから言わんこっちゃない」
やれやれとため息をつくと、プロデューサーが諭すように言った。
「怪我をして一番落ち込んでるのは本人だから、責めないでやってくれ」
「わかってるわよ」
さすがにそんな中学生をいじめるような真似はしないが、多少は凝りて大人しくなればと思う。
大人しくなればと、その時は思った。
その後、あさひは一週間くらい休んで、また元気に事務所に現れた。
「冬優子ちゃん、こんちはっす」
いつもの生意気な笑顔に曇りはなく、肌にも傷はない。顔と指先以外はジャージで見えないが、動作にぎこちなさもないし、もうすっかり治ったようだ。
「体、大丈夫なの?」
「そっすね。まだちょっと、ダンスレッスンは無理っすけど、ボイスレッスンから始めるっす」
「そう。無理すんじゃないわよ?」
呆れと安堵で深く息を吐くと、あさひは探るように冬優子を見上げて、からかうような微笑みを浮かべた。
「冬優子ちゃん、今日優しいっすねぇ」
「バカ言わないで。何があったか知らないけど、あんたがまた踊れるようになったら、ガンガン言うわよ?」
「優しいままがいいっす」
「いつも優しいから!」
いつも通りの不毛なやり取り。少し大人しい気はするが、きっとまだ傷が痛むのだろう。もう少ししたらダンスレッスンも出来そうな口ぶりだし、どうやらもう心配しなくても良さそうだ。
「それで、何があったの?」
一応聞いてみたら、あさひはにっと笑って、立てた指を唇に当てた。
「性格由来の要因っすね。ご想像にお任せするっす」
あさひらしくないその一言が、冬優子の覚えた最初の違和感だった。