兎は最後の英雄を目指し歩む   作:むー

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10話

「ッ!」

 銀線が煌めきゴブリンが声も上げられず黒い煙になる

「オラ!」

「ギャッ!?」

 大剣が振り下ろされコボルトが悲鳴を上げ真っ二つになる

 2人の周囲には敵影はなくなり魔石だけが転がる

「ふぅ〜余裕だったな」

「うん、それにヴェルフが作ってくれたこの『プルメザ』も手に馴染んでくれてる」

「そりゃ何よりだ」

 出会って翌日にベルとヴェルフはダンジョンに潜っていた

 互いの主神との顔合わせもすみ解散した後ヴェルフはその日の喜びから夜が明けるまで鍛冶場にこもりその剣を打った

 その短剣の銘をベルの為に打った短剣だから兎短剣(ベルタン)と名付けようとしたが、余りのセンスにベルが顔を引き攣らせ頭をフル回転させ『プルメザ』という気取った銘を絞り出しその銘をつける事に成功する

「しっかしベル、お前ほんとについ先日神の恩恵(ファルナ)をもらったのか?」

 ヴェルフはモンスターを蹴散らしながら頭の中にずっとあった疑問をぶつける

「うんそうだけど……何かダメだった?」

 ベルが頷く

「ダメって訳じゃないんだ」

「ただあんまりにも強いから驚いちまっただけだ」

 ヴェルフはベルの戦闘能力の高さに舌を巻いていた

 彼があの化け物の様な家族(アルフィア)達に鍛えられたという話は聞いていたが、その実力が冒険者になりたての只人(ヒューマン)の戦闘能力を遥かに逸脱したものだとまでは想像ができていなかった

(やっぱりアルとは違うな)

 頭の隅でそんな感傷が生まれる

「ぜ、全然だよ僕なんてまだまだ弱っちぃし……」

 だがベルの自己評価は低い

「お義母さんみたいに見ただけで神技を会得できないし、おじさんみたい離れていてもモンスターの状態が解ったりもしないし、神様みたいに何百m(メドル)先からモンスターの額を射抜くこともできないし……」

 彼の強いという基準はレベル7の化け物と狩猟神(アルテミス)であるためにまだ自分は未熟であることを知っていた

「いや、普通は無理だろ。なんだその化け物ども」

 一般的な基準から大きく逸脱した強者しか周りにいなかったために正しい自己分析が出来なくなっているベルに冷静なツッコミを入れるヴェルフ

(こりゃコイツの自己評価を改めさせる機会が必要だな)

 そんなことを考えていると

「ヴェルフだって鍛治師が本業なのに戦い慣れてるよね」

 ベルが自分ではなくヴェルフの戦闘能力に話題を変える

「まぁ俺も色々旅してモンスターとも遭遇してきたしある程度は戦えるさ」

 過去の経験から自分に合った戦い方を知っているヴェルフは危なげなく戦闘を展開する技術を身につけていた

「それにしても今回は結構数が多かったな」

「そうだね、壁からあんなに生まれてくるなんて……」

「話には聞いてたけどこんなにポンポンでて来るんだ」

 —今彼らがいる階層は9階層、怪物の(モンスターパーティー)が起きた場所であった

 新米冒険者が調子に乗ってここまで降りて来て高確率で死ぬこの災害とも言える現象に対し多少息を弾ませる程度で乗り越える2人ははっきり言って異常であった

「さて、これからどうする? まだまだ俺は余裕あるが」

 まだ先に行くか? と聞いてくるヴェルフにベルは

「うーん……今日はやめとこう」

「余裕はあるけど初めての場所だから思ったより疲れたかも」

 確かにと頷き

「よし、今日はここまでにして街で飯食いに行くか!」

 伸びをしながらヴェルフが誘う

「うん!」

 ベルもその言葉に喜び賛成の意を示す

 そんなこんなで2人の初めてのダンジョン探索はなんの問題もなく終わった

 

 

「っ、っはぁ〜美味い!」

 盃を一息で空にし心底旨そうな声を絞り出すヴェルフ

「美味い! この料理も美味しいよヴェルフ」

 目の前に並んだ料理に眼を輝かせながら次々と平らげていくベル

「お、それも旨そうだなちょっとくれよ」

 ベルの皿にフォークを伸ばし肉汁の滴る肉を喰らい「お、めっちゃ美味い!」と舌鼓を打つ

「やっぱりおじさんのオススメは間違いなかったね」

 ザルドに教えてもらった飯と酒が美味い店『ウィーシェ』に来ていた

 2人の他にはエルフが多くいた。お上品に食事を取るものが多い中、全く気にせずに美味しい料理に夢中になる。そんな2人に冷めた眼を向けるエルフもいればその食べっぷりに感心するエルフもいた。

「……」

 店主がベル達のテーブルへコトリといい匂いを漂わせる料理の乗った皿を置く

「あれ? 僕たちこんな美味しそうな料理頼んで無いですよ?」

 ベルが怪訝な顔しながら聴く

「……サービスです」

 ロマンスグレーの店主は親指を上げそのままカウンターの中に戻る

「あ、ありがとうございます! いただきます!」

「お〜さんきゅ」

 2人はお礼を口にし、暖かい料理に手を伸ばす

 その様子を見て店主は口の端を上げ町誌を広げる

 

 

 

「じゃまた明日な!」

「うん! 明日もよろしく」

 和やかな食事を終えそれぞれ家路につく

(ダンジョン……やっぱり凄いところだったなぁあんなにモンスターがポンポン出てくるなんて)

(お義母さんたちに鍛えてもらってなかったら今頃どうなってたんだろう?)

 あったかもしれない光景(原作)に思いを馳せブルブルと震える子兎(ベル)

「ベル」

 震える子兎(ベル)の名を呼ぶ涼やかな声が届く

「神様! ……とヘスティア様? ど、どうしたんですか!? そんなにボロボロになって、誰かにやられたんですか?」

 振り返るとそこには笑みを浮かべたアルテミスとくたくたになっているヘスティアがいた

「べ、ベルくん……ガク」

 ベルの声を聞きとうとう力尽き彼の方向へ倒れ込む

「ちょっ!?」

 慌てて抱きとめるベルはその小さな身体に不釣り合いの大きな2つの果実に顔を真っ赤に染めてあわあわする

「ヘスティアは初めてのバイトで疲れてるだけだよ」

 そんなベルにムッとしヘスティアを引き離しながら事情を教えてくれるアルテミス

 引きこもりを脱却しファミリアを作ろうとしたヘスティアはまずヘファイストスからバイトを紹介してもらい自分の生活費を稼ぐことから始めさせられた

 ヘファイストスから指示を受けたジャガ丸くんの屋台のおばちゃんは神であろうとこき使い馬車馬のごとくヘスティアを働かせた

 天界でも地上でもぐーたらしていたヘスティアにはたった1日の労働すらも地獄のような辛さだったのだ

「全く、だらしないぞヘスティア」

 少し棘をだしヘスティアを窘めるアルテミス

「くぅ〜! おばちゃんめ〜僕は神だぞ! それをあんなにこき使うなんて〜」

 プリプリと怒りながら結えたふた束の髪をわなわなと揺らす

 くぅ〜

 という可愛らしい音を立て彼女のお腹がなるとその勢いを失い再びアルテミスにもたれかかる

「お、お腹減った……」

 ヘスティアの豊かな感情に苦笑を浮かべ

「全く……」

「あはは……家に帰りましょうかおじさんが何か用意してくれると思いますし」

 その言葉にヘスティアはガバッと眼を見開き

「本当かい!? ありがとうベル君!」

 感謝を述べながらベルに抱きつきその頬を擦り付ける

「ッ!?!?!?」

 またも当たる極上の柔らかさに眼を白黒させ顔を熟れた林檎よりも赤くするベルと

「ヘスティア!!」

 2度目の暴挙に声を荒げるアルテミス

 3人で帰る家路はとても賑やかで温かった

 




アルフィア「あまり調子に乗ってるとミンチにするぞロリ巨乳《ヘスティア》様?」
ヘスティア「ヒェ…」


今更ながらダンまち既刊全巻を読みました
ゼウスがベル君の意志を尊重せずにオラリオ行きを勧めるのは間違いだったなぁと思いましたがまぁどんまいで

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