兎は最後の英雄を目指し歩む   作:むー

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難産でした
誤字報告ありがとうございます
にわかがバレました


12話

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「ふんふんふーん♪」

 短く切りそろえた髪を揺らしアマゾネスの少女は機嫌よさげに鼻歌を歌いながら街を1人ぶらつく 

「あー! 『アルゴノゥト』だ〜装丁も良いなぁ買っちゃおうかなぁ」

 少女は本屋の前で立ち止まる

「でもなぁ大双刃(ウルガ)借金(ローン)がなぁ」

 うんうん唸りながら何度もその本を手に取る

『アルゴノゥト』という英雄譚は幾度となく読んできたし何冊も持っている

 それでも見つけると欲しくなってしまうほど大好きな物語であるのだ

「ティオナ〜」

 少女(ティオナ)の名を呼ぶ柔らかな声が耳に届く

「あ! アーディ! 久しぶり〜」

 声の方向へ振り返ると水色のセミロングの髪を靡かせながら少女が走り寄ってきていた

「久しぶり〜元気だった?」

「うん! ティオナは? 遠征があったって聞いたけど大丈夫だった?」

「全然平気!」

「「イェーイ!」」と2人は手を合わせながらお互いの無事を祝う

「それで、何悩んでたの?」

「あ、そうそう見てよこれ『アルゴノゥト』!」

 ティオナは手にとっていた本をアーディに見せる

「ホントだ! 装丁も良いし挿絵も良いね!」

 彼女は自らも愛するその本を見てすぐに良さに気づく

「でしょ〜欲しいんだけど、遠征で大双刃(ウルガ)壊しちゃってまた借金(ローン)がねぇ……」

 がっくりと項垂れるティオナを見て「ありゃりゃ」と言いながらうーんと2人は頭を悩ませる

「……2人揃って何してんのよ」

 2人はいい方法がないかと頭を悩ませていると背後から女性の声がかかる

「あ! ティオネ!」

 黒く艶やかな長い髪を靡かせ意図せずして(ティオナ)とは正反対な大きく膨らんだ胸元を揺らしながらティオナを問いかける

「それがさー……」

 アーディに説明したのと同じ説明をすると

「あんた……まだ大双刃(ウルガ)のローン返済してないじゃない。それにこの前の遠征でもボロボロにしてたし」

 正論をぶつけてくる姉

「うっ……」

 グゥの音も出ない妹

「私はお金なんか貸さないわよ」

 とどめの一言に

「ケチー!」

 ティオナは苦し紛れの嫌味を投げる

「あはは……」

 隣で苦笑いを浮かべるしかないアーディは

「あ! いけない用事があったんだった」

 日の傾きから随分と道草を食ってしまったことに気づき「ごめんね〜」と言いながら慌てて走り去っていく

「またねー」

 その背を見送りながらブンブンと手を振るティオナにアーディは手を振りかえし走っていく

「うぅ〜しょうがない諦めるかぁ」

 名残惜しそうに『アルゴノゥト』を見つめ、しょんぼりしながら凸凹姉妹は去っていく

 

 

「あ、『アルゴノゥト』だ」

「お、本当だな」

 その後すぐに少年と青年が足を止める

「実は僕のおじいちゃんがよく英雄譚を書いてくれてね、それから英雄譚が好きになったんだ」

 本を手に取り中を見ながら照れくさそうに話す少年(ベル)

「ほー」

「でも『アルゴノゥト』はそんなに好きじゃなかったんだ。だって助けにきたお姫様に助けられるなんて情けないと思わない?」

「はは、確かにな。だが俺はこの物語が好きだぞ」

 青年(ヴェルフ)はベルの手の中を覗き込みつつ彼の生き様に想いを馳せる

「だってコイツを見てると笑えてくるだろう?」

 空を見上げながらそんなことを言うヴェルフのしんみりとした顔に疑問符を浮かべながら

「まあ確かに『アルゴノゥト』を見てると自然と笑っちゃうよね」

 ベルも同意をする

「ああ、そこが俺は気に入ってるんだ」

 ヴェルフは今度こそ笑顔を浮かべる

「さて、そろそろ行こうぜ」

「あ、うん」

 ヴェルフはベルを促しその場を後にする

(アル、お前は今でも誰かを笑顔にしてるぞ)

 今は遥か遠くにいる親友に向けてまた笑みを浮かべる

 

 

 少し歩いたところにそこはあった

 そこはドワーフや人間(ヒューマン)などさまざまな種族が声を上げたり、鎚を振り下ろし鉄を打つ音を響かせる場所だった

 近づいたこともない場所に戸惑いを隠せずきょろきょろとしてしまうベルに

「おーいベル、こっちだぞ~」

 ヴェルフはベルの様子を微笑ましそうに見ながら案内をする

 ヘファイストスファミリアの団員のために用意されている個人工房の立ち並ぶ場、その一角にヴェルフの工房ははあった

「わぁ……」

 工房の中は少し雑然としている部分もあったが、作品らしきものは壁へきれいに飾らていた

「それでベル、どうする?」

 そんなベルの様子を面白そうにしながら金床に置いている小槌を握りながら問いかける

 今回ヴェルフの工房に来ている理由は『プルメザ』はメインウェポンとして用意したがベルの戦闘スタイルとしてサブウェポンを用意しておこうという提案をしてくれたのだった

「えっと、できれば『プルメザ』より短めの剣で。あとできれば切れ味より強度を優先してくれると嬉しいかな」

 お義母さん(アルフィア)おじさん(ザルド)に相談したり、ヴェルフと相談した結果マインゴーシュと呼ばれるものがいいのではないかと落ち着いた

 戦闘において2人組(ツーマンセル)であり、ヴェルフが前衛のタンク兼アタッカー、ベルが遊撃でメインアタッカーになる

 基本的にベルは先制攻撃を基本とし攻撃されたとしても受けず回避し反撃するタイプである

 しかし2人組(ツーマンセル)であり危なげなく戦闘ができているがダンジョンは未知の場所でありイレギュラーが起こる可能性を考慮せざる負えない

 故にヴェルフの代わりに前衛を務められるように準備をしておいたほうが良いという結論に至ったのであった

「よし分かった、もう1度手のサイズとか測るからそこに立ってくれ」

「うん」

 テキパキと手の大きさなどを確認していくヴェルフと少しくすぐったそうにしつつもなるべく動かないようにする

「……よし、オッケーだ。じゃあ今から鍛え始めるから、見てても暇だろうし帰ってもいいがどうする?」

 ヴェルフが気を使ってくれるが

「ありがとう。もし邪魔でなければ見ててもいい?」

「別に構わないが……そんなに見てても面白いものでもないぞ?」

 ヴェルフが不思議そうな顔をしながら尋ねる

「でも僕のために鍛えてくれている武器だし見ておきたいなぁって思って」

 ベルが答える

「はは、殊勝な奴だな。わかった見ていけ。ただ窓を開けておいてくれ」

 少しうれしそうにしながら言うヴェルフの言う通りに窓を開けていく

「じゃ始めるか」

 炉に火を入れある程度温まってきたら火炎石を放り込み火力を上げていく

 これを入れた瞬間工房内の気温が上がり、インゴットを炉に入れ熱する

「……ふっ!」

 それを取り出し、鎚を力強く振り下ろしカン! カン! と小気味の良い音が響きわたる

 1振りごとに形を変えていく金属にベルは目を輝かせていく

「ベルは、魔剣を、欲しがらないな」

「え?」

 鉄を鍛えながらヴェルフが呟く

「言っちゃなんだが、俺が鍛えた魔剣の威力はなかなかのもんだ」

「それこそ、お前の親が、聞いたことがあるくらいにはな」

 快音を響かせながら鎚をふるい、冷やしてはまた炉に入れ熱し鎚をふるう

 片時も目を離さずに作業を進めつつ疑問をぶつける

「う、うん聞いた」

 海を焼き払うとまでうたわれた屈指の魔剣

 それを打つことのできるヴェルフにお願いしたのは特殊な効果も何もないマインゴーシュである

「なんでなんだ?」

 素材の声に耳を傾けながらベルへ問う

「……えっと、僕にはまだ早いと思ったから」

「早い?」

「うん、僕はまだ冒険者になったばかりで実力も経験も少ないから、そんな強い武器に頼ってたら僕が強くなれないから」

 とベルは答える

「なるほどな」

 ヴェルフは納得する

「でも魔剣をくれるならありがたくもらうよ?」

「ってなんだよ!? 言ってること矛盾してないか?」

 ヴェルフが突っ込むとつい鎚に力を籠めすぎてしまう

 そんなヴェルフの目をまっすぐ見ながら

「僕はヴェルフの鍛えてくれた武器ならなんでも嬉しいから」

 ベルは笑顔で告げる

「──へ、そりゃあ光栄なことだな」

 その言葉に目を見開きヴェルフは口の端を上げ仕上げにかかる

「なら俺はお前になまくらを渡さないように腕を磨き続けるさ」

「ほらできたぞ」

 その手には短剣が握られていた

「わぁ!」

 それに目を輝かせながら受け取り早速握り構え軽く振ってみる

 驚くほど手に馴染み、取り回しやすい仕上がりになっていた

「オーダー通り切れ味は二の次で頑丈さを優先した素材がそれなりなのはもちろんだが粘りがしっかりできるようにしてあるから雑に扱っても壊れないぞ」

「……うん、すっごく使いやすい! ありがとうヴェルフ!!」

 眩しいくらいの笑顔で礼を言うベルにヴェルフは「へへ」と鼻を擦りながら笑う

「明日もよろしくなベル!」

「うん! よろしくヴェルフ!」

 

「あ、あともしよかったらここにある大剣売って貰えないかな?」

「お前は……いいぞ持ってけ」

 

 

 

 

 

 




現在のベル君の装備
・プルメザ(ヴェルフ作バゼラード系。50㎝くらい。ダンジョン産の鉄と少量のアダマンタイトを使用。切れ味優秀お値段10万バリス)
・弓(ごく普通の弓…というのは嘘でアルテミス作。ベルの為にオーダーメイドで作った。素材提供アルフィア、ザルド。お値段プライスレス)
・マルタ(new武器マインゴーシュ。ダンジョン産の鉄とプルメザの時ののアダマンタイト使用。切るというより殴る。お値段7万バリス)



多分次回も難産
予定では魔法を覚えてもらう

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