兎は最後の英雄を目指し歩む   作:むー

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16話

「フッ!」

 1柱(ひとり)の益荒男が一呼吸の間に襲い来るモンスターを投げ飛ばす

「ナァーザ悪いが頼めるか」

 近くで待機していたもう1柱(ひとり)の優男が側に控える眷属へ指示を送る

「……」コク

 手にしたナイフで持って魔石の位置を1突きしモンスターを灰へと還す

 その手は震えていたが優男の手が上に重ねられると少し安堵した様に落ち着きを見せる

「……」

 その横で女神が弓を射掛けると、その矢は真っ直ぐに益荒男に襲い掛かろうとしていたモンスターの目を射抜く

「はぁ!」

 その隙を見逃さず、またモンスターが1匹宙を舞う

「はぁはぁ、数が半端ないな」

 益荒男──タケミカヅチは滝の様な汗を流し息をきらせている

「……ベル達は無事であろうか」

 優男──ミアハは側にいる眷属(ナァーザ)に気を配りつつダンジョンへと向かった友の眷属(子ども)の事を心配する

「まぁ心配はないだろうさ、この程度のモンスター達に遅れを取る様な半端な鍛え方はされていないからな」

 そんな軽口を叩く女神(アルテミス)であるがその顔色は優れない

 愛する家族(ベル)がダンジョンへ向かったまさにそのタイミングでこんな事態になってしまったため不安の種は尽きない

「大丈夫さ、アルテミス。あんなに優しいベル君なんだから君を1人になんかしないさ」

 こんな絶望的な状況でありながらも能天気にただ彼の事を信じている少女(ヘスティア)は子どもにまとわり付かれながら神友を元気づける

「……そうだな」

 その底抜けた明るさにミアハが苦笑を浮かべ

「そうに違いない」

「はぁはぁ、流石にそろそろまずいぞ! うちの連中もそのうち戻ってくるだろうがまだ時間がかかる!」

 珍しく泣き言をこぼすタケミカヅチは何十匹目かのモンスターを投げ飛ばす

「ジリ貧だな、こういう時程零能の此の身を呪うものだな」

 同意するアルテミスは飛行型のモンスターの首を射抜き堕とすと絶望的な戦局に嘆息する

「しかしこの子らを見捨てるわけにもいくまい」

「「当たり前だ」」

 メインで戦闘を行っている2人の意見は一致している

 彼らの後ろには子ども達がいる

 親とはぐれ独りぼっちで泣いていた子ども達はヘスティアが集めて来た子ども達だった

「みんな大丈夫だよ! 僕の神友(しんゆう)達は凄いんだ!! こんなモンスター達が何びき来ようが千切っては投げ、弓で射抜いてくれるさ!!」

 不安そうな顔を浮かべる子ども達に無責任でこの中で1番の役立たず(ヘスティア)の声が届く

「わぁ……!? 凄いね! 凄いね!」

「やっぱり神様って凄いんだね!」

 無邪気な声を上げる幼子たちの期待の視線に疲労に膝を着きそうになる身に鞭を打ち

「さぁモンスターども!! いくらでもかかって来い!! 何匹来ようが投げ飛ばしてやる!!」

「……ふふ」

 アルテミスとタケミカヅチの士気は大きく上がる

 

 ──しかし状況は悪化する

「あ、アレ……」

「最悪だな」

 射手であるナァーザとアルテミスの目にモンスターの大群(ぜつぼう)が写ってしまう

「ち、万事休すか……!」

 覚悟を決め差し違えてでも子ども達を守ろうするアルテミス達に

火影(ひえい)!!」

 声が届く

 瞬間目の前の一切が炎上すると同時に、その炎を切り裂いて白の光がこちらに向かってくる

 その光はアルテミス達の前に立つと

「はぁぁぁ!!!!」

 その手持つ()()をモンスター達に振るう

 耳を塞ぎたくなる様な轟音と共に雷がモンスター達を灰にする

「神様!! 無事ですか!?」

 1番聞きたかった愛しい家族(ベル・クラネル)の声が

「──ベル!!」

 

「まずいな! 囲まれてるぞ!!」

 その場に着いた時に絶望しかけていたのは神達だけではなかった

「どうするベル? この状況じゃ魔剣を放つとアルテミス様達まで巻き込んじまうぞ」

 ヴェルフの魔剣は海すら焼き尽くすと言われた『クロッゾの魔剣』であるが故に使うに使えない状況であった

(どうすればいい!? 迷ってる時間はない。何か何か使えそうなものは……)

 焦るベルは辺りを見回し使えるものがないかを探す

「クソ、一か八かやるっきゃないか?」

 ヴェルフも焦りを隠せずその手に魔剣を握りしめる

「あれ?」

 その姿を見てふと気がつく

「ヴェルフ,もう一本魔剣持ってる?」

「あ? ああ一応懐に緊急用にな。それがどうした?」

 ベルはそれを用いた、ある無茶苦茶な作戦とも言えぬ作戦を思いつく

「ッ!! バカ言うな! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()

「うん」

 迷いなく頷くベルに

「自殺志願者でももうちょっとマシな事を考えるぞ」

 と呆れるヴェルフ

「大丈夫、僕逃げ足の速さだけはお義母さん達から褒められてるんだ。それに……」

()()()()()()()()()()()()()を着てるだから大丈夫だよ」

 笑顔で全幅の信頼を送るベル

「────」

「ああもうこの馬鹿野郎め!! 後悔すんなよ!?」

 緩む口角を誤魔化す様に魔剣を構えると

「「行こう(ぞ)相棒!!」」

 合図と共に作戦を開始する

 

 

「ベル!! お前はなんて無茶をするんだ!? 本当に死ぬかもしれなかったんだぞ!」

「そうだよベル君! 自殺志願者でももっとマシなやり方を選ぶよ!? 大体──」

「はい、はい、すみません。もうしません。すみません」

 その後ガネーシャファミリアが提供してくれている避難所へ辿り着くとアルテミスとヘスティアはベルを正座させ説教が始まってしまった

 最初のうちは

「お、おい落ち着けって」

 とタケミカヅチが宥めようとするも

「「……」」ギロリ

 と言う女神の眼光に負け、気まずそうに見守る

「「ベル(君)!! 聞いてるのか!!」」

「ひぇぇ!?」

 ベルの情けない悲鳴が周囲に響く

「「「クスクス」」」

 そんな彼等のやり取りに周囲の者達は思わず笑みをこぼす

 こんな状況でもいつも通りの彼等を見て日常を感じ取れたのだ

 笑い声が耳に届き顔を更に真っ赤にするベルに

「まあまあ、落ち着けベルのおかげで私達も子ども達も無事で済んだのだ。まずは礼を言うべきではないのか?」

 ミアハが助け舟を出す

「ベル、此度は本当に助かった。ありがとう」

 男ですらときめかせる天界1の優男(女たらし)の笑みにドキッとしてしまうベル

「「むっ!!」」

「そうだな、ベル助かった。この礼は必ず」

 タケミカヅチから頭を下げられ

「あ、いえいえ!? 僕の方こそ神様を守って下さって本当にありがとうございました」

 恐縮しつつアルテミスと共に戦ってくれた事に感謝を告げる

「「むむっ!!」」

 同じ反応をする2人は

「コホン、ベル改めて助けに来てくれてありがとう。流石は私の英雄(オリオン)だ」

 ベルの瞳を真っ直ぐに見つめ照れ臭そうに笑うアルテミスの顔は月も恥じらうほど可憐で見惚れてしまう

「あ、ずるいぞアルテミス! ベル君本当の本当にありがとう!」

 そんなベルの惚けた顔にヘスティアがその豊満なボディでプレスを行うと

「ブッ!? ちょへ、ヘスティア様!? は、離れて下さい!?」

「こらヘスティア! 私のベルから離れろ!」

 アルテミスが青筋を浮かべヘスティアの謎紐を引っ張る

「へへーんだ、確かにベル君は君の眷属(かぞく)かもしれないけど、恋人とかじゃないんだからいいだろぅ?」

 ベルの頭へしがみつくヘスティアはなかなか離れようとしない

「」

 ベルはと言えば男としての憧れの死因『美少女の胸で窒息死』をしてしまいそうになっていた

「「「「あはははははははは」」」」

 そんな彼の様子を見て今度は皆が声上げて笑うのだった

 

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