兎は最後の英雄を目指し歩む   作:むー

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8話

「ここが……オラリオ……!?」

 ベルの目の前に聳え立つのは首を真上に上げないと天辺が見えないほどの外周を覆う壁とその壁が低く思えるほどの馬鹿げた高さの塔であった

「あれがバベル。私たち神がダンジョンを封じ込めるために建てたオラリオの象徴だ」

「まあ私も詳しくは知らないのだがな」と横に立つアルテミスが解説をする

「あれがバベル……」

「ついでに言うとあの塔には幾神(いくにん)か部屋を持っているからあまり呆けた顔をしていると笑われてしまうぞ」

 からかうように笑いながら言うと

「たしか今は美の(フレイヤ)やヘファイストス・ファミリアの武具屋が主に利用してるんだったか」

 記憶をたどるように顎をさするアルテミスが教える

「え! 神様が見てるかもしれないんですか!?」

 呆けていたベルがさらに目を剥く

「ほう、あの美神(フレイヤ)のとこのガキどもが」

 そんなベルをよそに都市最強ファミリアの一角をガキ呼ばわりするフードを被る巨躯の男性と

「あの傲慢女やお前たちに撫でられて地を這っていた雑音どもも偉くなったものだな」

 ガキどころか雑音呼ばわりする同じくフードを被った線の細い女性

 そんな2人の会話を聞いた露店のおっちゃん達はベル以上に目を剥く

(あのフレイヤファミリア相手になんつう暴言を!?)

(終わったなこいつら……)

 ある者は哀れなものを見るように、またある者は関わらないように

(……ん?)

 そしてある神はその声とその姿に微妙な既視感を覚えるが

(ま、気のせいか)

 と神のおおらかさでその場を後にする

「まあいい。それで今日はどうするんだ?」

 取るに足らないことであると女性がベルたちに問う

「えっと……まず僕たちの拠点を探して、そのあと冒険者の登録に行く……であってたよねおじさん」

 記憶を絞り出しながら答えるベルは男性の方を見る

 男性は頷き

「そのあとはヘファイストス・ファミリアの店に行くぞ」

「お前の武器もだいぶボロボロだからな」とその頭を荒々しく撫でながら答える

「そうだな、訓練用のボロでダンジョンに潜っては死にかねん」

 女性とアルテミスも同意を示す

 その言葉に「やったー!」とウキウキするベル

 ——そう男性(ザルド)女性(アルフィア)も過保護なのである

 そもそもレベル7(アルフィア)狩猟神(アルテミス)達に毎日ボコボコにされながらもその技術を吸収していったベルはその背に月と弓のエンブレムを刻み神の恩恵(ファルナ)を得た時点でボロボロ短剣1本と弓と矢が少々あれば上層程度なら1人で無傷で踏破可能である

 神の恩恵(ファルナ)を得る前から訓練に加え最後の最後だけとはいえ神殺し(アンタレス)との戦闘すら経験しているベルに上層のゴブリンはもちろんのこと小竜(インファント・ドラゴン)が出てこようが危うげなく倒せるだけの実力は備えている(というか強制的に身につけさせられている)

 実力があってもダンジョンというものは不測の事態がいくらでも起こりうる場所であるということをアルフィアとザルドは知っている

『冒険者は冒険をしてはいけない』

 名とは真逆のことを言われるくらいに危険なものであることを

「拠点は神様のお知り合いの神様が融通してくれるんでしたっけ?」

「ああ、本神(ほんにん)はもうオラリオから居を移しているがこちらにいた時の拠点をただで貸してくれる。眷属(かぞく)たちと田舎で隠居するらしくてな」

 その神の顔と眷属たちの笑顔を思い浮かべ優しい笑顔を浮かべ、そのまさしく女神の笑顔を偶然目にした通りすがりの男神が心を射抜く。それと同時に相手が大の恋愛アンチアルテミスであることに気づき一瞬で失恋する男神

 そんなことはつゆ知らず目的地へ和やかに進む一行

 ベルにしては珍しく特に何も起きず拠点となる場所へ着き、荷物を片付けアルテミスとともギルドに向かいハーフエルフの受付嬢(エイナ)に手取り足取り教えてもらいながら書類の記入等を終わらせるとはれて冒険者の一員となる

 そのまま予定通りへファイストス・ファミリアの武具屋へ向かうためアルフィア達との待ち合わせ場所へ向かう

「ベルの担当職員が頼りになりそうな子で安心したよ」

 若干距離が近かった気もするが……と心の中では思っていたがおくびにも出さずアルテミスが言う

「はい! 優しい方で安心しました」

 ベルは笑顔で応える

 そんな取り止めのない会話をしつつ目的地へ到着しアルフィア達と合流すると

「高いものはダメだ。自分で借金(ローン)を組める様になってから買いなさい」

 アルテミスが主神の強権を発動し際限ない予算を防止すると「「チッ」」と舌打ちしながらも理はあると親バカ達が納得する

 店に着くと店員に道を尋ね

「新人冒険者なら、こっちの見習い達が作ったモノから選ぶといい比較的安価で済む。たまに掘り出し物もあるし駆け出しには扱いやすいだろう」

 奥まったところにあった倉庫の様なところへ案内してもらう

「ベル、色々自分で見てくるといい。私はへファイストスに挨拶をしてくる」

「はい! ありがとうございます」

 ベルに選択権を与えアルテミス達は店員に案内されながら出て行く

「さてベル、武器は俺たちがある程度見繕っておくからお前は防具を見にいってくるといい」

「うん! ありがとう」

 ザルド達と別れ1人防具を見に行く

 

 

「あ……」

 別行動をしてから少し経った頃、ベルの目に一式の軽鎧が止まる

 それは白く光沢を放っており、手にとり試着してみると軽く身体に馴染む感覚があった

 値札を見て「うっ……」とそれなりのお値段であることに怯みつつも目が離せない状態になるベル

 そんな少年に

「……アル?」

 聞いたことのない呼び名で、されど聞き覚えのある呼び名と声で言葉が届く

「え?」

 振り向くとそこには燃えるような赤い髪をした精悍な顔つきの青年が眼を見開き立っていた

「貴方は……?」

 ベルの怪訝な反応にハッとしながら

「ああ、悪い。親友と間違えてちまうくらい似てたもんだったからつい声をかけちまった」

 頭を掻きながら謝罪と

「俺はヴェルフ・クロッゾ。へファイストス様の眷属で鍛治師をやってる者だ」

 手を差し出すヴェルフ

「あ、はい。僕はベル・クラネルと言います」

 その手をとり握手と自己紹介をするベル

「突然悪かったな、親友が俺の打った武器を見る時と同じ顔で同じ目で見てたからつい勘違いして呼んじまった」

 苦笑しながら改めて謝罪する

「いえ、気にしないでください。それよりその人と僕はそんなに似てるんですか?」

 その謝罪を受け入れ、疑問だったことを尋ねる

「ああ、瓜二つだ。ただ性格は全然違ったがな。あいつはいつも胡散臭い笑顔浮かべて大仰な身振り手振りをする変な奴だった」

「だがあいつは誰よりも優しく信念を曲げない強い奴だったよ」

 ベルはその過去を懐かしむ様な声に聞き覚えがあった

 アルテミスが自分の眷属(かぞく)について話してくれた時と同じ声だった

 それが意味する事に気づき、つい暗い顔をしそうになる。だがそれでは目の前の彼はその哀愁を胸に秘めてしまうだけだ。ならば

「その人はこんな感じで笑っていましたか」

 唇を曲げ眦を下げ笑顔を作るベル

「———」

 ヴェルフは唖然とし次の瞬間

「っくははははははははは!!」

 腹を抱えて笑う

「ああ、アルにそっくりの胡散臭い笑顔だ」

 その笑い声と笑顔にベルは安堵の笑みを浮かべる

「ッ! やっぱりお前は見た目だけじゃなくて中身も似てるよ……」

 

 

「ところでベルその防具気に入ったのか?」

「はい。軽いのに丈夫そうな上に手に馴染んでくれてるんです。僕動きにくくなってしまう重鎧は向いてないみたいで」

 その言葉に満面の笑みを浮かべるヴェルフ

「そうかそうか! よし。それお前にくれてやる!」

「え!? そんなダメですよ!」

 急な申し出に飛び上がるほど驚きつつ遠慮するベル

「良いんだよ、作った本人がお前に贈ってやりたいって言ってんだから」

 気にするなと防具の入った箱をベルに渡す

「え!? これヴェルフさんが作ったんですか」

 その箱を反射的に受け取りつつ更に驚くベル

「言ったろう? 俺は鍛治師だって剣とかも作るが鎧だって作るさ。ただどうしてもただじゃ受け取りづらいってんなら俺と直接契約をしよう」

 ベルの遠慮した様子に苦笑を浮かべつつも提案をする

「え? 直接契約?」

 言葉の意味理解できず疑問符を浮かべるベルに

「そうだ、今後お前の武器は俺が作ってやる。代わりに俺が必要としてる素材とかがあったら取りに行く手伝いをしてもらったりする。ようはギブアンドテイクってやつだ」

 と簡単に教える

「それなら……お願いしてもいいですか?」

 遠慮がちに答えるベル

「おう! じゃあ契約の証としてこれからは俺のことをヴェルフと呼べ! 敬語は無しだ俺たちは対等な友だ」

 気持ちよく返事をし笑みを浮かべ改めて手を差し出すヴェルフ

「—わかったヴェルフ。これからよろしく」

 その手を握り返し始めてできた友に満面の笑みを浮かべる

「……じゃまずは俺の鍛治の腕をより上げるためパーティーを組んでダンジョンに潜るぞ!」

「うん! うん……? 鍛治の腕とダンジョンに潜るのに関係あるの?」

「ああ、ある程度鍛冶を経験して更にレベルが上がると『鍛治』っていう発展アビリティが手に入るんだ」

「へぇーそうなんだ」

「って事で今度からよろしくな! ベル!」

「うん! よろしくヴェルフ!」

 

 時を超え、再び巡り合った2人は何度でも友となる




 
ザルド・アルフィア「まだか?」

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