テイク・クラウン ブレイク・ザ・スローン   作:黎明のカタリスト/榊原黎意

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第二話『自分について』

 ◽︎6月20日:王都貧民窟:ドウェイン

 

 

 さて、テイクラの世界に居る、とは言うが、僕が現状をそう判断したのは何も遠くに見える見覚えのある城の姿だけが理由ではない。

 

 この世界には、徒人(ヒューマン)と呼ばれる普通の人間の他に所謂亜人種がいるのだ。

 精人種(エルフ)火人種(ドヴェルグ)犬人種(ガルム)猫人種(ルーヴェ)牛人種(アウドムラ)馬人種(グルファ)鹿人種(スュルニル)猪人種(スリズルグ)狐人種(レヴ)熊人種(ベルセル)鬼人種(ティタン)鳥人種(ヴェズル)蛇人種(ニズヘグ)の十三種が俗に亜人と呼ばれる種族であり、基本的には人型だが耳や尻尾、角などそれぞれの種族的特徴を持っている。

 要はファンタジー耳長長命種族の精人種とファンタジー手先器用種族の火人種はそのままで、それ以外の亜人種はファンタジーにおける獣人種である。

 

 その亜人種だが、この世界では徒人から迫害を受け続けてきた歴史がある。

 今世の僕の故国ということになる王国もまた亜人種迫害を行ってきた国のひとつで、今でこそ政治などによる大々的な迫害は無くなったが、それでも亜人種に対する差別意識は依然として国民の中に根強く残る。

 そしてこの貧民窟には、そうやって先祖の代から迫害されてきた亜人種達が押し込められているのだ。

 

「ドウェイン!」

「ドウェインさん!」

「ドウェインの兄貴!」

 

 でもって僕の目の前には、僕の事を慕う亜人種の子供達。そんな彼らからのドウェインコール。テイクラファンの僕は、「あれ? もしかしてここはテイクラ世界?」とすぐさま思い至った。

 

 何を隠そう、僕が転生したこのドウェインというキャラクター、原作であるテイクラにもキャラクターの回想という形で登場する。故人として。

 そう、故人としてだ。

 

 

 なんと僕は本編開始時点で死んでいるのである。

 

 

 ドウェインというキャラクターについて説明する前に、まずはこの物語の主人公について軽く話しておかなければならない。

 この物語の主人公、プレイヤーは『帝国』出身の徒人であり、“赤兜の鬼神”と呼ばれ周辺諸国に恐れられた元軍人、そして選定の証キングデバイスに適合した王選候補者(フィリウス・レギス)の一人である。

 このキングデバイスと王選候補者という言葉がこの物語の中核なのだが取り敢えず今は置いておく。

 

 紆余曲折あって軍法会議に掛けられた主人公は、同僚の手引きで命からがら脱走に成功し、放浪の末に『共和国』辺境で亜人種の少女と出会う。

 この亜人の少女もまた王選候補者(フィリア・レギス)であり、彼は彼女の臣下となって、王となり玉座を目指す王権選争へと参加することとなるのである。

 

 大雑把にはこんな感じで、王選候補者であると同時に元帝国軍人、それも赤兜の鬼神なる二つ名まで持つ主人公と周りとの因縁などなどが引き起こす展開も言うまでなく魅力的だった。

 

 シナリオは佳境に入る手前の第四部まで配信されており、これから盛り上がるであろうはずの物語を最後まで見れなかったことが純粋に悔やまれる。

 

 

 では、そんな主人公組とドウェインがどう関係してくるのか。

 

 そもドウェインは熱く心優しい徒人の青年で、スラム出身でありながらも独学で知恵を付けていった。そんな彼は当然ながら亜人種への迫害を快く思っておらず、その心の内ではいつかこの状況をどうにかせねばと大志を抱いている。

 そんな折、スラムの子供達が教育を受けられていない現状を憂いていた彼は、スラムの子供たち向けに青空教室を開くことに決めた。

 その活動は瞬く間に有名となり、王都の中でも噂が流れようになる。

 ある日、その噂を聞き付けた王国貴族が彼にとある話を持ち掛けるのだ。

 

 『帝国を相手に革命を起こさないか?』と。

 

 この時代、帝国で迫害を受けた者達はほとんどが王国の貧民窟にまで流れ着いて来ていた。それが原因でスラムの治安は悪化の一途を辿っている。

 彼は貴族の話に難色を示すが、子供たちの未来を憂う親達に背を押される形で武装蜂起。

 帝国を相手に無謀にも戦いを始めた。

 

 実はこの貴族は今の王国と亜人種を良く思わない貴族派閥の筆頭であり、一連の話は面倒な存在であるドウェインを消し、貧民窟の亜人種を間引く為の悪辣な策略であったのだ。

 

 まんまと唆されたドウェインと亜人達は物の見事に帝国によって殲滅され、ドウェインもその戦いで無惨に死亡する。

 感の良い方は薄々気が付いているかもしれないが、その戦争でドウェインを討ったのが赤兜の鬼神こと主人公その人なのである。

 

 このドウェインの教え子の一人である少女が、後々王選候補者となって立ち上がり、物語の中で師の仇である主人公と対峙する。その際に回想で語られる存在が、ドウェインこと今の僕だ。

 専用スチルどころかイラストすらも存在せず、ただ回想で語られるだけの存在ではあるが、そこそこ重要な立ち位置にもいる複雑なキャラクターなのである。

 

 

 いや、なんで???

 なんで僕はそんなキャラに転生、憑依しているの?

 

「……ドウェイン?」

「ん、ああ、ごめん。ちょっとぼうっとしてただけだよ」

 

 子供達を眺めるフリして思考放棄していたら、理知的な雰囲気を感じさせる少女の声。

 き、聞いたことのあるCVだ……!

 

「そう? 疲れてたら、言ってね」

「うん。ありがとう、レア」

 

 薄らと赤みがかった黒髪の少女、レア。その頭には猫人種(ルーヴェ)の物と分かる猫耳がピクリと動く。

 彼女こそが件のドウェインの教え子の一人、ドウェインの仇を討とうと主人公に敵愾心を燃やす少女だ。

 そして僕の推しキャラクターの一人でもある。ドウェインなんて本編に影も形も無いキャラクターを覚えていたのもその為だ。

 

 うわ可愛い。

 いざ画面という垣根を越えて間近で見ると、そのキャラクターの整った容姿がこれでもかと分かる。流石神絵師と名高い某氏……。

 

 

 

 ……しかし、これで完全にここがテイクラ世界だと確定してしまった。

 考えるのは、この世界に転生してしまったこと、待ち受けているであろう苦難。

 

 正直僕の中では転生したくない世界一位二位を争う世界だ。

 しかも死亡する予定のキャラクターへの憑依。まだフラグは立っていないはずだが、それでも死から逃れようと藻掻くのは容易なことじゃないとネット小説や漫画、アニメでも散々言われている。

 

 実感なんてあるわけないのだが、このまま何もしなければ死ぬという予感はある。この世界はモブ厳世界でもあるから、何もしなければ何もしなかった者として容易く手折られる。だから、何もしないという選択肢こそ有り得ない。

 

 それに、それは僕自身願い下げだ。

 

 確かに転生したくなかった世界だ。

 だけど、この世界に来れたということは僕にとって意味のある事だ。

 せっかく好きな世界に転生したのだ。僕はこの世界で何かをしたい。この世界で生きたい。そんな風に思ったって良いだろう。

 

 本編の開始までは後、七年ある。

 何かをしよう。何かを成し遂げてやろう。僕に王選候補者となれるような器は無いだろうけど、それでもできることはなんでもあるはずだ。

 

 

 僕は一人、アストルムの片隅で決意した。

 

 ドウェインには申し訳ないけど、彼として脚本通りになんて死んでやるものか。

 僕は僕としてこの世界で生きてやる。

 そして原作キャラクターたちをこの目で拝むのだ。後、主人公さんは僕のことを殺さないで……!

 

 

 

 この決意が大きな一石であったということを、僕は理解すらしていなかった。

 




 Tips.

『徒人/Human(ヒューマン)
人間。亜人種でない者。亜人種以上に広く分布する。特に秀でた力を持たない。

『亜人種/Heterohuman(ヘテロヒューマン)
世界各地で見られる徒人でない者たち。長い歴史の中で常に迫害を受け続けてきた者たち。精人種(エルフ)火人種(ドヴェルグ)犬人種(ガルム)猫人種(ルーヴェ)牛人種(アウドムラ)馬人種(グルファ)鹿人種(スュルニル)猪人種(スリズルグ)狐人種(レヴ)熊人種(ベルセル)鬼人種(ティタン)鳥人種(ヴェズル)蛇人種(ニズヘグ)の十三種が存在する。
現在でも国によっては迫害が続いており、特に帝国では亜人種であるというだけで奴隷身分に落とされる。ほとんどが亜人種で構成される北方公国は言わずもがな、共和国、皇国では既に迫害は無く、その他の三国でも政治などによる表向きの迫害はほとんどない。

『レア/Leah(レア)
猫人種の少女。強属性闇レイダー。ゲーム内評価はC。
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