父は悪魔の人狩りに会い殺され。
母は悪魔に関わったとして殺され。
自身も人外の存在を知ったとして堕天使に殺され掛け、今も体の一部を失いながら這いながら進む。
動く度に出来た傷口から血が流れ、痛みすら鈍くしか感じることはなかった。
洞窟に辿り着き、このまま死ぬのか、思いながら薄れゆく意識の中でガラスを割れたような音が聞こえた。
首を僅かに動かし音の方を見ると、空間にひび割れた穴ができていた。
『こんな所に人間が来るとは数百、いや数千…もっと前だったろうか』
声。
人の声よりも鈍く獣が話しているのではと思える声が少年に耳には聞こえた。
「だ、だれ」
『我は黙示録の獣、666の獣、マスターテリオン、メガセリオン。最近じゃトライヘキサって呼ばれる事が多いか。封印されちまってな、解呪の最中に出来た隙間を覗き込んだら死にかけたお前さんが居たわけさ!』
変わった一人称なのに言葉使いはまるで子供っぽい大人のようだ。
『事故にでもあったか、それとも人外にでも会ったかい?」
人外、その単語が出てき瞬間、少年は思わず体を痛む事すら忘れてトライヘキサの方を向いた。
「あれを、あれらを知ってるの!?」
『ああ知っているともさ!なんせ、我は封印した中には悪魔も堕天使も天使。人外が山ほど居たからな!』
前に遊んだ事あるよ、とでも話してくれように気軽に説明を進めて行く。
『そうか、君はあれら三大勢力に襲われた人間だったか。聖書の神は死んでいて、日本の神は傍観主義。神に祈ろうと人間は救われずか。もし、俺がお前の力になってやると言ったらどうする』
「力、ね。死にかけの俺に何が出来るよ。左手も右足も斬り落とされて、片目は潰れて体はズタボロ。家族は全員殺されて復讐しようにも一歩も動けない状態で」
『いんや、我の力があればお前さんの傷は癒え、あいつ等に復讐する力なんて簡単に手に入るさ。勿論、タダとは言わないけどね』
「死にかけの俺に何が払えるってんだ?」
『我を楽しませてくれよ!封印されて暇で、暇で死にそうなんだ』
「アンタが何を楽しいと思うかは知らないけど、生き残ってあいつ等を殺し尽くせるなら多少の悪も許容さ。アニメを見て友人と与太話をしたしたっけ、この広い宇宙で『人間の味方』をしてくれう存在は『人間』しかいないってさ」
『それは言い得てだけど、人間の視点から言えばそういう事だろう。それじゃお前さんに我の
「覚悟は出来てる」
空間から出てきた拳サイズの白い球体がゆっくりと少年の胸の中に納まると頭の中で声が響き始め、視界は反転した。
赤く燃え盛る世界の果てで、肉も皮もない骨だけとなった姿で何かに手を伸ばし続ける死者の群れ。
死してなお現世にしがみつく者たち。
人類の手記を憎悪し、呪いってきた護国の鬼。
『戦え!』
『絶対に許すな!』
『食い散らかせ!』
『我らが敵を討ち滅ぼせ!』
怨嗟の塊それが絶叫し続ける。
人間が生まれてからあり続けたその感情。
牙を剝く生命の我執。
食らいついては離さぬ人類の執念。
不条理を焼き払う不条理。
理不尽すら踏み躙る理不尽。
その力の一端が少年の中に入り渦巻いた。
「ああ。勿論だ」
少年は燃え盛る世界の果てを歩いた。
世界を埋め尽くす亡者たちを引き連れて。
『アハ、アハハハハァァァハハハハ!最高だ!最高だとも!これだから人間は面白いのさ!」
響くトライヘキサの狂ったようは笑い声。
『いいかいお前さんいや、契約者―――
@ @ @
ガリガリ。
ゴクリ。
噛み砕き、飲み込む。
洞窟の中に転がっていた瓦礫を掴むと少年は口に運び噛み砕く。咀嚼を繰り返し飲み込む。まるでおにぎりでも片手で食するかのようにだ。
本来、瓦礫など人間の食べるようなものではないが、七の大罪の一つ“暴食”は食したものどんなものでも吸収できる。瓦礫のような無機物から魔法のような術、魔力そのものそして人外や神の類であっても全てを捕食する力。
『
「マジでチートだな」
『それもそうさ、君は黙示録の獣の力を宿して人間の怨嗟の協力もあるレベルアップ一回でステイタスは通常の十倍上がってカンストは存在しないようなもんさ!ありがたいだろう?』
「否定はしないけど、何故にゲームで例えた」
『契約者でも分かりやすいように例えたのさ!君が食っちゃ寝ねる、食っちゃ寝るを繰り返している間、暇だったから記憶を見て現代というものを勉強していてね』
「それで人間の怨嗟ってのはなんだ?」
『前の我は持って無かったもんなんだけどさ、封印されて三大勢力が増長してから増えたんだよね。我は世界そのものが生み出した破滅システムでね。恨み、辛み、憎悪、怨嗟もその一部として取り込まれる使用でね、どうも我が宿ろうとした時に一緒に付いてきちゃったみたいな的な!』
「俺が見たあれは本来なら無かったって事か」
『そういうこと、いや~君は亡者たちと相性がいいのかもね。まあ、力を貸してくれるっていうなら借りればいいじゃん。そっちの方が面白いから!』
「取り合えずはそういう事にしておくよ。さて傷も癒えきったから動くとしますか」
立ち上がり凝り固まった体をストレッチしてほぐす。
斬り落とされた手足は指先までしっかりと生え、潰れていた目は戻り、傷さえ一つも無くなっていた。
動かない間が長かった事で多少動きは鈍いが、歩くことに支障はなかった。
ゆっくり、ゆっくりと脚が直っている事を噛みしめるように歩みを進めた。
洞窟を出ると外は暗く、月明かりだけが辺りを照らしている。
この場所に来て数日。
人外が人間を襲うと魔法を使って記憶に干渉する、とトライヘキサから説明があった。その度合いは不明だけど、優夜という存在はすでに中った事になっている可能性すらある。
その辺りはその時に考えればいいとしても、まずは街に行って服でもと思っていると自分の影に一回り大きな蝙蝠のような影が重なった。
「まさか生きていたのか小僧」
振り返った時、見た悪魔の顔を見たのは二度目。
一度目は父親を殺された時のだ。
「父さんを殺した悪魔か!」
「そうだ、お前の父を嬲り殺しにした者さ!家族を守る為に足止めするなんて無様な人間だったよ!まあ貴族悪魔である私に殺されたのだ名誉な事だろう!」
アハハ、と口を開けて大笑いする悪魔にどうしようもなく込み上げてくる憎しみ。
あの貴族悪魔をただ殺すだけじゃ足りない、絶望のどん底に落とした上で殺さなければ気が済まない。
『契約者。なら取っておきがあるぞ。十の厄を使え、あれば世界を災厄を局所的に再現するものだ。使い方は頭で理解してるだろ』
頭の中で聞こえてくるトライヘキサの助言に頷き。体の中に感じる十の厄の一つを起動させた。目の前の悪魔を殺す為に。
優夜の右手の平に生み出さた黒い霧の球体。
「ほう、何かの神器か?」
「なんだと思う?」
手の平を貴族悪魔に向けると黒い霧の球体は放たれた。
貴族悪魔は避けも、防ぎもせず黒い霧の球体を受けるが僅かに服が汚れた程度だった。
「所詮は雑魚神器か。威力も服を汚す程度では眷属にする価値もない。後片付けはしっかりとしなくてはな!」
優夜の方に手を向けると魔法陣が作られ、その中心に魔力が集まる。
魔力を弾としてシンプルな術だが、人間が受ければひとたまりないだろう。
「時間切れだ」
受ければの話だが。
「はっ!何を…ゴホッ!何を…ゲホッ!ゴホッ!なんだ急に呼吸が…!」
ついて飛んでいる事すら辛くなったのか、貴族悪魔はふらふらと地上に下りるとついに膝をつき咳き込み続けている。
咳は収まるどころか悪化しついにヒュー、ヒューと呼吸困難すら発症し始めた。
「十の厄の一つ、疫病の行使。さっきぶつけたのは
その言葉通りに貴族悪魔の手は指先から徐々に黒ずんでいく。
「くそ、私は、私は貴族悪魔だぞ!」
「それは聞いたけど、俺にとってはただの仇だ。呼吸困難と高熱に蝕まれて死ね」
十分ほど貴族悪魔がもがき苦しむ姿を見届け死体へとなった。
『どうだ十の厄も凄まじいものだろ』
「これはヤバいな。疫病の種類は知識によって増えて、使ってから数秒で発症に増殖速度も任意で変動可能。まさに災厄だな」
『言ったろ、世界が作った破滅システムだって』
「父さんの仇も図らずも速攻で取れた事だし、本来の目的通り街に行こう」
『仇が取れて気は晴れたか?』
「米粒一つ分はな。けどあんなのが多くいると考えると人間の怨嗟も納得だ」
『ならどうする』
「まずはお前の知っている事を片っ端から教えてくれ悪魔たちの事とかな」
『いいぞ、どうせい街につくまで時間はたっぷりあるからな』