麦わらの一味の一人「一夏」   作:un

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四十八話 弟の闇

 サミット占拠事件が世界に知れ渡った時を同じくして、誰にも知られていない束の研究所にて。

 

「二人とも調整終わったから、いつでもいけるよ!!」

 

 二つのISが出撃準備を整えクロエとマドカは機体のデータを確認する。

 

「二人は馬鹿どもが残した島で回収をお願いね、それで…」

 

 と束が言い終える前に先に出撃するマドカ。残ったクロエも後から出撃し後を追う。

 

「…わかっていると思いますが、私達は一夏様の依頼で人員とデータの回収を行います。ですが…」

 

 クロエは一度言葉を切り、マドカに話を続ける。

 

「回収は私一人でも十分可能ですので、どうか一夏様の元へ」

 

「…勝手にさせてもらう」

 

 マドカは短く言い、クロエから離れる。クロエも短い間だが一夏と杯を交わしたマドカのことが少しだけわかっていた。

 

 本当なら、魔の海域にもついていこうとしたが一夏に止められて苛立っていたのにも気づき今回マドカに単独行動を許した。そもそも、マドカの体内にあった監視用のナノマシンは取り除いておりすでに自由の身でもあった。

 

「…妹様、どうかご無事で」

 

 どんどん離れていく銀色のISに向けつぶやき、クロエは魔の海域に向け速度を上げた。

 

 一方で残された束も、二人を見送った後。移動用のロボに乗り日本に向け発進していた。

 

「やっぱりいっくんのことが心配だったんだね…」

 

 モニターでマドカが単独行動をとったのをとがめる様子もなく、束は世界中のネットを検索する。あらゆるサイトでは革命軍の話がもちきりで「ISを廃絶せよ」のワードを見て悲しい顔を浮かべた。

 

「たくっ、本当に世界も人間もくだらないよね…束さんはこんなくだらない人間がいない世界が見たかったのに…」

 

寂しくつぶやき、通信を開く。相手は数回のコールでやっと開き

 

「やっほ~~久しぶり!! ごめんね、お見舞いに行けなくて!! こっちもいろいろあって…」

 

「さっさと要件を言え」

 

「ごめん、ごめん!! で、頼まれた装備と侵入経路だけど…今からそっちに行くから待ってね、ちーちゃん!!」

 

 ステルス機能を持つ移動ロボが海の上を高速で飛ぶ。革命軍が動いたことで、一夏だけでなくあらゆる人間が動きだそうとしていた。

 

 数分後、病室で束から合流地点を聞き体に巻かれていた包帯を外す千冬。いつものスーツを着てテレビに映るサミットの情報を見ていると誰かが入ってくる。

 

「…いかれるのですか?」

 

 と、真耶が質問した。

 

「まぁな…連中を好きにさせるのは気に食わん。君はどうする?」

 

 千冬と真耶の目が合う。そして、二人は言葉を介さず病室を抜け学園から一機のリヴァイブが飛んで行ったーー

 

 

 

 「な、なんなのよこの鎖!!」

 

 「ち、力が…」

 

 サミットの敷地で強化兵達に囲まれた鈴達四人は頑丈な枷がついた鎖を巻かれ地面に倒れていた。鎖に触れていると体から力が抜け、しかも能力まで使えなくなりISが使えない彼女達では鎖を破壊することはできない。

 

 

 抵抗できなくなった鈴達を見てブラッドは考える。グングニールが発動している今ISは完全に使用できない、とすれば彼女達の力はISの物ではない別の物だ。だが、なぜあの鎖をつけられてあそこまで弱っているのか…

 

「どうやら、私にも知らされていないことがあるみたいだが、教授?」

 

 物影から、一夏達がいた島から脱出していた白衣を着た男こと教授が姿を現す。

 

 「いえ、正直に言われますと私も何も…ただ、あの方より異能の力を持つ者はその鎖で封じよ とだけ言われたもので…」

 

 「あの方が…」

 

 二人は「あの方」と口を揃え、少し考えた後、兵達に鈴を運ばせるよう指示を与え二人は建物の中に入る。ブラッドは、頭を切り替えこれからの指揮を思考し。教授は鈴達が能力を使って強化兵達と戦っていたのを分析していた。

 

(あの鎖と力との関連性は…彼女達の力はあの男と関係しているのか? 分からない…だが、確かめる方法はある。何せサンプルが四体もあるのだから…)

 

 教授はシステムの確認をすると言い、ブラッドから離れようとしたが「今は作戦中で、研究は後にするように」と忠告され、二人は別れる。教授は「わかっている」と答えるが

既に、頭の中は研究がしたいと思いつつ速足に立ち去る。

 

 

 ブラッドは、そんな教授の考えなど読んでいたが、それ以上何も言わず入ってきた通信に応答する。

 

「「隊長、織斑秋人を捕獲しました。今、――地点にて拘束しISも回収しました」」

 

「あぁ、今行く」

 

 エレンの応答に応え、ブラッドは離れた建物の屋上に二つの影があったのに気づかず去る。

 

「くっ!! 秋人…」

 

「…お姉ちゃん…」

 

「大丈夫、もう少し様子を見ましょう」

 

 屋上に三人、身をひそめている楯無と簪そして箒達はISが使えず鈴達みたいな能力がないため隠れて様子を見るしかできなかった。

 

 島の周辺に現れたグングニールのせいでISが使えなくなったのはすでに海に落ちたISを見て分かっており、ISが使えないとすれば兵を侵入させるしかないが革命軍の強化兵達の前では無駄に戦力を散らすだけだ。

 

 しかも、侵入するにしてもここは陸から離れた人工島。空と海には革命軍だけでなく世界中の人が注目しておりすぐに何かあれば見つかり、人質の命が危ない。

 

 ISも使えない、救援が来ないこの状況で三人はいつも助けてくれる一夏を思うがいくら彼でも助けにくるのは難しいとすでに分かっている。ブラッドの要求は島の内部にも伝わっており、一夏は世界中から狙われていてまともに動けない状態でいた。

 

「一夏…」

 

「一夏…」

 

「一夏君…」

 

 三人が、一夏の名をつぶやいたその時。赤い髪をした男が二人の背後に立ったーー

 

 

「ぅう…」

 

会場の地下にある取り調べ室にて秋人が目をさめると、手錠をつけられパイプ椅子に座らされていた。窓等もない部屋で自身の状況を把握し、慌てて立ち上がろうとした時、部屋に誰かは入ってきて警戒する。

 

「どうやら君は奴と違って化け物ではないようだな」

 

 秋人を見てブラッドがそうつぶやく。これまで一夏に苦渋を味あわされたせいか弟の秋人にも警戒し、ブラッドは後ろに麻酔銃を装備させた兵を連れていたが、秋人の様子を見て安心したのか兵を下がらせタブレットを持って秋人と二人になった。

 

 一方で、秋人は内心、恐怖と不安で押しつぶされそうになっていた。

 

 これから自分は何をされるだろうか? まさか、一夏の居場所を聞き出そうとしているのか? もしくは、男でありながらISを起動した自分を実験に使うつもりなのか 何にしても秋人にとって安心できることは一つもなかった。

 

「そう警戒するな…と言っても、無理はないか。私は危害を加えに来たのではない、話をしに来ただけだ」

 

 話をしにきた と聞き秋人が目を細めると、ブラッドはタブレットを操作する。タブレットには秋人に関する情報が映っていた。生年月日から、通っていた学校と成績。さらに、友人関係など細かくあった。

 

「成績優秀で、誰かも慕われていたか。ISなどがなければ…織斑千冬がいなければ君の人生はそうとう変わっていただろうに。国からIS学園などと牢獄に入れられず、世界中から貴重な存在として狙われずに済まずに平和に暮らせてた思わないか?」

 

「そ、そんなこと…」

 

「だが、現実はどうだ? 今の君はこうして国の命令で死ぬかもしれない戦場に当たり前のように使われて、唯一安心できるのは窮屈で鎖に繋がれた学園しかない。それに家族である姉が世界最強の称号を得るためにもう一人の家族を犠牲にして君は何も思わなかったわけではないだろう?」

 

 千冬が一夏を見殺しにした 秋人は口をきつく閉じ何も反論できなかった。一夏を失ってから秋人は千冬に対し「自分も見殺しにされるのではないか?」と疑問と不安をいつも抱えていた。だから、自分には価値があることを知らしめるため様々な努力もしたし、IS学園でのISの成績も上を狙っていた。

 

「そして、今度は君の兄。織斑一夏が出てきたことで君に何か良い事はあったか? 奴は確かに強い。何度も我々の邪魔をしてきた。だが、奴は君の居場所を奪ってはいないのか? 家族は、仲間は皆奴と君を比べて勝手に自分達に都合のいいことしか言ってないか?」

 

「そ、それは…」

 

「違うと言い切れるか? 」

 

 一夏が現れてから、確かに昔からの知り合いだった箒や鈴だけでなく、学園で知り合った簪たちもいつしか一夏の話しかしなくなった。危険な時になれば自分も含め周りの人間も助けを求め、そしていつも助けてくれる「ヒーロー」の存在が自分の存在を小さくしていたことに胸を痛くしていた。子供のころは、自分の方が優秀でヒーローだったはずだったのに。

 

 考えこむ秋人にブラッドは背を向けると

 

「君はどう思う? ISなどと言う。女しか操ることしかできない兵器のせいでこの世界はどうなった? これまで国を守ってきた兵は喜んだか? いや、ISがあるから兵は無駄と言われて捨てられた!! ISが出て社会は、治安は良くなったか? 違う、人の心が荒れ悪化しただけだ!! もはや、この世界は病に覆われているんだ!! 」

 

 ブラッドは次々と感情を表し、その姿を見て秋人もブラッドが演技などでなく真剣に世界や人のことを考えている人間だと感じていた。

 

「そして、君にもその資格はある。私と同じように国や人の勝手に使われた者としてだ」

 

「な、何を言って…」

 

「正直に言おう、君のその力を革命軍に生かしてみないか?」 

 

「な、何を!?」

 

「たとえここを出ても、君に待っているのは黒騎士のことしか見ない者達と、国の用意した牢獄の中で生きることだけだ…果たして、それが自由といえるか?」

 

 自由 その言葉を聞き秋人は目を閉じる。学園では、セシリアのようにISがあるせいで他人を差別し、女生徒や教師たちも姉である千冬しか見ていない。元の場所にいても自分がいる場所に自由なんて、人としての尊厳などどこにもない気がした。

 

「学園に…この世界に、自由なんて、ない…」

 

 目が虚ろになっている秋人を見て、ブラッドは部屋に兵を呼びどこかに運びこまれる。

 

「聞こえるか? 今から一人、粒子の注入を…そうだ、最新の強化薬を」

 

 抵抗しない秋人を見てブラットは笑みを浮かべ、「待っていろ、黒騎士。今度こそ」とつぶやき、部屋に弾が入りブラッドに詰め寄る。

 

「隊長!! あいつを、秋人をどうするつもりなんですか!?」

 

「大丈夫だ、君の友人もまた、この世界の差別に苦しんでいた一人だ。我々の同士になる資格はある」

 

「しかし!!」

 

「持ち場に戻れ、いつ敵が来るかわからん」

 

去っていくブラッドを見て弾はうつむき唇をかみしめると、急いで移動し地下を抜け客室の部屋に入ると、箒・簪・楯無の三人がいた。

 

「どうしたの弾君?」

 

「はぁはぁ…秋人が、秋人が強化兵にされ、てしまう!!」

 

「な、なんだと!!」

 

 弾の言葉に箒が驚き、部屋から飛び出しそうなのを楯無が止めた。

 

 屋上で身をひそめていた三人を見つけた弾は「見つかると厄介だ、ついてこい」と言い使われていないこの部屋に匿った。弾が革命軍の一人だと知った時は警戒したがその際、楯無は何故助けるのか理由を聞くと「虚を悲しませたくないと」 と言いそれだけだが彼信じることにした。

 

 弾は呼吸を整えて声を小さくし事情を三人に伝えた。

 

「秋人君を強化…」

 

 楯無は何故か嫌な予感がした。秋人が強化されてどうなるか心配もあったが何故かそれ以上に大きな不安が、何かを失う嫌な感じがして落ち着かない。

 

「お姉ちゃん?」

 

「大丈夫…一応、現状を確認しましょう」

 

 胸の不安が消えないまま、四人に今自分達がすべきことを確認し合う。

 

 秋人を助けないといけない。だが、能力を封じられ捕獲された鈴達も救出しなければならないが戦力が乏しい。弾は強化兵、箒は剣術・楯無は万能に戦えるが簪だけが戦う術を持っていない。正直言って手も足もでない状態だった。

 

 と、楯無はここである事に気づく。弾だけでなく革命軍の兵達はどうやって厳重な警備の中で侵入できたのか、弾に聞いてみると、一度ためらう顔をしたが

 

「島の地下には海底の通路があって元は用心の脱出やらで作られてた。だから、外の奴らもほとんどこの通路の存在は知らないと思う」

 

「秘密の通路…もしかしたら」

 

 楯無は一人つぶやき、一人希望を見出していたーー

 

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