ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
しかし少しずつその数を増やし、小型から中型、そして大型の魔物すら狩れるまで技術を磨き、ついに人が各地の大地へ進出した記念すべき年。
現在の王都の場所に集落を形成。それが地歴の始まりです。
ラモール著 「人々の生活~序章」より
天暦92年王都ガリム
国の中心に位置する人口30000人のこの都市はおよそ2500年以上前から栄えている。
侵入者全てを防ぎきる門や壁は高く、歴史ある町並みは劣化を思わせることなく網の目のような造りをしている。
その最北端に位置するガリム城は、築城以来、外敵から攻め落とされたことが無い。
しかしこの国にも問題はあった。
安定した給金が貰える兵士へのなり手は多いが、常に危険と隣り合わせのハンターの数が、年々減り続けていた。
これはどの国にも同じような現象が起きており、各国は頭を悩ませている。
現在20名.これが王都ガリム全ハンターの数である。
街の一番南東にガーグァ飼育区画がある。
この大型のずんぐりムックリした飛べない鳥は、人々の移動手段や食用と多岐にわたって活用されている。
王都医師の中で獣医師は数人しか居ない。
そのうちの1人の名をコンラート・ローレンツという。
彼は獣専門医ではないが、午前中はガーグァやその他の獣の回診。
午後は街へ赴き主に、お年寄りの回診で一日が終わる。
ローレンツ家は代々医者の家系でその中でも彼は優秀だった。
「先生!コンラート先生はいるか?鐘就きのアイルーが倒れた!すぐ来てくれないか?」
鐘就きとは中心街に聳え立つ巨大な塔にて、常駐し、鐘を鳴らして時刻を知らせるアイルーたち(二足歩行で猫の姿かたちをしている人間と共存している獣。人語を話す)のことだ。
「うるさいな・・・ロブか。聞こえているよ。またか・・・あれほど水分を取れって言ったのに。分かったすぐ行く」
月に入って一週間。今年の夏は猛暑日が続き、鐘就きのアイルーが倒れたのはもう2人目だった。
コンラート・ローレンツは食塩水と果実を持ってロブと共に家を出た。
彼は答えを知りつつもロブに質問をぶつける。
「あの連中はまだ同じことを言っているのか?」
「そうなんですよ。1000z出さないと診ないって。後で金はちゃんと払うって言っても聞く耳持たねえ」
この時代、特にこの王都は医療費が高かった。
医者を利用するのは一部の上流階級のみで一般都民は民間療法で済ませていた。
だから肺炎や風邪でも死人は多く出た。
薬代が高くて手が出せないのである。
1日の生活費(食費込み)が多くても1人100z。
王都民の1ヶ月の平均収入が、約3200z。
およそ三分の一は取られる計算になる。
「先生すまねえ。支払いは必ず・・・するから」
「いらないよ。これを飲ませて食べさせるだけだ」
コンラートはそう言うと、ずいっと男の前に手に持っている食塩水と果実を突き出して見せた。