ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
そしてこの日からコンラートは多忙を極めた。
森から帰還したハンターは軽傷が2名、重傷、死傷は0名。
巨大青熊獣アオアシラとの戦闘の爪痕は凄まじいものだった。
ハンターの追撃に対して、巨熊は激しく抵抗し、岩を砕き、木をなぎ倒し暴れまわった。
しかし、最後は崖まで追い詰められ滑落した。
その為、討伐には及ばなかったものの森の奥に追い返し、重傷を負わせる事ができた。
通常の診察に加えて、重傷のサラ、軽傷のハンター2名。
コンラートは睡眠以外の空いた時間の殆どを調合、診療の時間に当て、合間にジンベイと共にサラの治療を行っていた。
サラが意識を戻したのは、運び込まれてから3日後の事である。
「ここは?」
うたた寝していたジンベイが聞き慣れた声を聞いて覚醒する。
「ご主人?ご主人!!せ、先生、ご主人が目を覚ましたニャ」
記録をつけていたコンラートが振り返る。
「集会浴場の客室だ。君は3日間昏睡状態だった。自分の名前は解るか?」
「サラ……」
「そうだ。サラ、君が眠っている間、ずっとジンベイ君が看病し、薬の調合も彼がやってくれた。元気になったら礼を言うんだな。今はおやすみなさい」
「先生!それは嘘… …」
ムグムグ
コンラートは慌ててジンベイの口を手で塞いだ。
「ありがと。ジンベイ。私もう少し眠るね」
そう言うとサラは今度はやわらかい寝息を立てて目を閉じた。
「先生、さっきはなんであんニャ嘘を言ったニャ。ボク殆ど何もしてないニャ」
「でかい声を出すな。こっちへ来い」
コンラートはジンベイの腕を引っ張り客室の外へ連れ出した。
「ジンベイ、君はまだ若いから分からないだろうが、人間は希望が必要だ。友達の為に生きる活力をサラに与えたい」
ここでコンラートはジンベイの目を見た。優しくて強い、主人思いのアイルーだと改めて思ったからだ。
「それに君は本当によく手伝ってくれた。君がサラの命を救った事は事実だ。勿論その分の報酬も払う」
「ジンベイ君、今後夜間の就寝時のみ薬草治療にして、昼間は温泉治療にしよう」
「え?どうやって?」
「サラが歩けるようになるまで、傷口を中心にハケで温泉を塗っていくんだ」
「ああ、ニャるほど」
「1日のうち少しの時間でいい。ここの温泉は火傷や傷に効くらしいからな。そしてこれは君がやるんだ。わかったな」
「??分かったニャ」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
サラの体力は予想以上に高く、常人が2ヶ月以上かかるところをサラは2週間で歩けるくらいまで回復した。
「まだ痛み止めは必要だろうが、本日で退所だ。よくがんばったな。夜はこれまでと同じように、薬草を傷口に貼って、昼間はリハビリがてら集会浴場まで足を運ぶんだ。後1ヶ月くらいで今まで通りに動けるようになる」
「先生、ありがとうございます。ジンベイもありがとね。私が倒れた時、守ってくれたんだよね。すぐにお礼言えなくてごめんね」
サラは泣きながら改めてジンベイに礼を言っていた。今までも事あるごとに、言っていたサラはやはり精神的に参っているようだった。
「ご主人とボクは一心同体ニャ。そんニャこと当たり前ニャ」
「ジンベイ、私どれくらい貯金あったっけ?」
「んー10万ちょっとニャね。なんで?」
「先生、それで足りますか?足りない分は後ほど必ず払いますので」
「なにが?」
「え?何って治療費です」
「お前はこの看板が読めないのか。村人は100zと書いてあるだろ?」
サラはコンラートが何を言っているのか理解できなかった。貴重な種類の薬草と、素材を惜しげもなく湯水のように使っておいて100zは無い。
村長でさえ大怪我の時は、その分の素材又は労働力を要求していた。
「私は100z以上取らん。それにジンベイ君から聞いたよ。サラ、君の夢はこの村には無い菓子店を作りたいんだって?その為に金がいるだろ。その時の為にとっておけ」
「先生… …私は… …」
「あーうるさい。仕事の邪魔だ。ありがたいと思うなら早く傷を癒せ」
「あ… …り… …がと」
(サラ、君の夢であるお菓子店で笑顔でいられるような平和な世界が来るといいな。村を、私達を守ってくれてありがとう)