ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
診療所完成まで1ヶ月を切った。
この頃になるとコンラートはある悩みを抱えるようになった。
ある一人の少女… …
ショートカットの黒い髪。
歳は聞いてないから分からないが、外見から判断するに18・9だろう。
職業はハンターらしい。
何かしらの理由をつけてコンラートの元へ来るようになった。
やれここが切れたから薬をくれだの、あざが出来たから処置してくれだの… …
「なるほどな… …サラ、お前は何がしたいんだ?毎日嫌がらせで来るにしても程がある。こう見えても私は忙しいんだ」
こう見えてもどころか彼は毎日忙しい。
サラはそのすきま時間を狙って押しかけてくる。
「先生が忙しい事知ってて来ています。嫌がらせに来ているんです」
「あのな。めんどくさいから単刀直入に聞くぞ。こんな35のおっさんのどこがいいんだ?君はいくつだ?」
「18です」
「そうだ。君は18で私は35。親子ほど歳が離れている。村に気のいい同年代なぞいくらでもいるだろ」
「そんなの、一人もいません」
その場の空気が若干気まずくなり、コンラートは言葉に詰まった。先に切り出してきたのはサラだった。
「ご飯は?今夜一緒に夕食なら付き合ってくれますか?」
この村で食事処は集会浴場しかないし、酒を飲むわけにもいかないがコンラートはしぶしぶ了承した。
(これって村長か誰かの罠じゃないだろうな… …)
「じゃあ先生、また後で。ジンベイも連れてきていい?いつもご飯一緒なの」
「ああ、勿論だ」
返事を聞いたサラは嬉しそうに顔を綻ばせると、部屋を後にした。
診療を続けながらコンラートは思った。着ていく服なんかあったかなと。
━━━━━━━━━
夕方の食堂は一番込み合う時間帯だ。
空席は殆ど無い。
給仕が忙しく右往左往している姿が目立つ。
しかし、バーカウンターだけは空席だった。
この村の暗黙の了解でハンター専用になっている。
今は全員出払っているみたいだ。
その一角にサラはいた。
いつものパンツルックに薄手のシャツではなく、ユクモ村の民族衣装を着ていた。
「待たせたか?早く来たつもりだったが」
「ううん。ちょっとまだ覚悟が無くて緊張しそうだから早く来たんです」
「覚悟?」
「後で話す。まず食べましょ」
手元を見ると、サラも、ジンベイもナッツみたいな菓子を口に入れている。
酒が欲しくなりそうなつまみだ。
コンラートは向かいの給仕に適当な料理を二、三品頼んだ。
「先生お久しぶりですニャ」
「おお、ジンベイ君。元気だったか?そうだ、サラさえ良ければ、またジンベイ君にお手伝いをお願いしたいんだ」
「いいですよ。依頼が無い時なら」
「すまんな。この村に来た時の服しか無くて。せっかくのお誘いなのに」
ここでコンラートは『君も何故いつもの服じゃないんだ?』とは聞かなかった。
サラの体に無数の傷があることを一番知っていたからである。
「先生、この傷をつけた巨熊、覚えている?」
「ああ、忘れるわけがない」
「私ね、さっき覚悟って言ったでしょ?先生が来る前に依頼を受けたの」
「ま、まさか」
「そう、あいつは生きていた。そして今朝木こりのボイルとロッドが渓流で見たんだって。私はもう一度あいつと戦いたい」