ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
その後のジンベイの行動は早かった。
「後は、ボクがやるからご主人は荷車で横になっているニャ」
そう言うと彼は、周辺の薬草を手当たり次第集めると、慣れた手つきでサラの応急処置をした。
止血を待っている時間はない。
一刻も早くコンラートに診せる必要があった。
素材回収は後続に任せる。
ジンベイは上空の監視気球に信号弾を上げ、荷車を率い森を後にした。
村に到着した時、サラは眠っていた。
「ご主人、着いたニャ」
「う、、、ん。ん?村?」
「そうニャ。歩けるかニャ?人呼んでくるニャ」
「大丈夫。自分で歩ける… …痛っつ、これジンベイがやってくれたの?」
「そうニャ。先生が教えてくれたニャ」
「そうだ!先生!」
サラは、ジンベイが渡してくれた木を支えにはやる気持ちを抑え歩き出す。
コンラートは村長と共に集会浴場でサラ達の帰還を待っていた。
サラは倒れ掛かるようにコンラートに抱きついた。
「先生、ただいま。約束は守ったよ」
「お帰り。サラ。約束ってお前… …血だらけじゃないか」
「これは私の血だけど、付けられた傷じゃないからいいの」
「サラさん、貴方には言いたい事が山ほどあります。まずは治癒に専念して欲しいですわ」
「と、とにかく診療室へ行くぞ」
「うん。ありがとう先生、ごめんなさいシェラ。でも私は自分がすべき事をしたわ」
診療室は集会浴場すぐ横にある。
コンラートは、治療中の看板とついたてをジンベイにお願いをした。
サラのベストを見ると、確かに外傷はないようだ。
それを丁寧に外し肌着も脱がせた。
ジンベイの処置のおかげで、出血はかなり早い段階で止まっていた。
コンラートは万が一に備えていたが、サラの傷の具合を見て安堵した。
「そういえばさっきシェラって言っていたが、あれ、村長のことか?」
「うん。昔からの付き合いだからね。愛称で呼んでいるんだ」
「ふうん」
「ね、先生、こんなに忙しいのにお手伝いさんとか雇わないの?」
「ああ、募集中だ。君とジンベイ君が手伝ってくれるなら大助かりだ」
回りくどい言い方をしながらコンラートは照れた。
「え?それって… …」
「私と結婚してくれ」
「は、はい!」
サラが満面の笑みで答えると、それを聞いていた野次馬達が口々にはやし立てた。
「ひゅーひゅー。お幸せにー」
「サラちゃんおめでとう」
「あの、おてんば娘が結婚とはなあ」
サラは大声で野次馬たちを蹴散らしたが内心は満ち足りていた。
アオアシラを倒した充実感。
コンラートとの約束を現実に叶えられたからだ。
その二週間後、診療所の竣工式と共に結婚式が行われた。
見慣れた2人。
いつもの物々しい装備では無かったが、コンラートはすぐに分かった。
雑踏の中、キョロキョロとしていたが、コンラートが合図すると気づいたようだ。
「先生おめでとうございます。この服、場所にあっているかどうか」
「俺ら、こんなの持ってなかったから新調したんだぜ。先生おめでとう。よかったな」
「久しぶりだな、2人とも。来てくれてありがとう」
「コンラート、この方達は?」
「ああ、2人は私が王都にいた時世話になったハンターだ。こっちのゴツイ方がカーライル、こっちの痩せているのがスチュアートだ。」
「はじめまして。サラ・ローレンツです。今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ。先生には我々がいつも助けてもらっていました。よろしくどうぞ」
「堅っ苦しいやつ」
「お前が軽すぎんだよ」
「はっはっは。相変わらずだな、2人とも。サラもハンターなんだ」
スチュアートとカーライルはじっとサラを見ている。
好奇の目ではない。
キラキラした目だ。
本当にコンラートとの結婚を祝福している目だった。
サラは気分が良くなった。
「私に敬語はいらないわ。これからもよろしくね」
「わかった。同じハンター同士、よろしくな」
「コンラート、私まだ挨拶周りが済んでいないから席、外すね。カーライル、スチュアート、またね」
2人はひらひらと手を振り、そして、サラの後ろ姿を見ていた。
「先生… …」
「俺たちは見慣れているからいいけど、あの傷は酷いぜ。あれじゃあ可哀想だ」
カーライルは言葉に詰まり、スチュアートは悪気で言ったわけではない。
コンラートにもそれがわかっていた。
彼は人のいないところまで移動すると大きく息を吐き、そして話始めた。
「 ̄ ̄というわけなんだ。もう彼女の体にこれ以上傷が出来るのを見ていられなくなった。責任は私にもある。あの時もっと上手く処置していれば、こうはならなかったんじゃないかと… …」
コンラートの中でサラは患者から大事な人へと変わり、心境の変化が起きていた。
「それは先生が悪いんじゃない。その元凶は倒したのか?」
「ああ、サラ自身の手でケリをつけた。結婚を機に引退を勧めたのだが… …少し長くなるけどいいか?」
「勿論です」
「ゆっくり聞くよ。俺たち」
「ありがとう。サラはお金が貯まったら自分の店を開きたいんだ。この村には無い、食べたら子供たちが笑顔になれるお菓子屋さんを。私にも資金を出させてくれと頼んだが、頑なに拒否された。お菓子の原料は高い。特に砂糖が手に入りにくい。支度金全て貯めるのにあと、四、五年は必要だろう。そこで2人に頼みがあるんだ」
「先生、俺達は先生の頼み事なら何でも聞くって言ったろ?」
「そうですよ。仰ってください」
「今回このような事になってはしまったが、このユクモ村は比較的、穏やかだ。無所属ハンターの往来も多い。だから月に1~2回でいいからサラを遠征に連れて行って欲しい。この件は村長にも話して了承してもらっている。サラにはまだだが、断る理由は無いと思う。」
『… …』
「君たち2人がいれば心強い。サラは一緒に戦ってくれる仲間がいなかったんだ。すまない。分け前は減ると思うが引き受けて欲しい。足りない分は私が送る」
「要りませんよ。そんなの」
「怒るぞ?友達だと思ってたんだけどな。ダチから金取れるかよ」
コンラートは涙で前が見えなくなった。
2人のやさしさは何事にも換えがたいものだった
それにコンラートは知らなかったがスチュアートとカーライルはサラよりハンターの実力は上である。
これでサラの安全は強固なものになった。
「ありがとう。2人とも」