ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
矢を放とうとしたその時、パニクった商人の一人がスチュアートの襟首を掴み叫んだ。
「何やってんだ馬鹿野郎!はやくやれ!のろま野朗」
溺れる者を助ける時、しがみ付かれて救助者も溺れるという。
矢は当然狙いが外れ、左にそれる。
当たっていれば全員助かっていた。
イビルジョーはスチュアートを邪魔な敵と認め、ガーグァから視線を外し、その右足を思いっきり振り下ろした。
「スチュアート!」
誰かが叫び、彼を突き飛ばした。
ドンッと軽い地響きと砂埃。
「え?俺生きて… …誰だ?サラ?!」
直径135センチの足。
そこからサラの手と足がはみ出ていた。
イビルジョーと目が合う。
ニイィッと笑ったようにスチュアートは見えた。
「ボオっとしてんじゃねえ。早く逃がせ」
カーライルのハンマーの一撃が、イビルジョーの顎にクリーンヒットする。
その一撃でイビルジョーはもんどりを打って倒れた。
我に返ったスチュアートは荷車に乗ると、先ほど襟首を掴んだ商人に対し言い放った。
「次ふざけた真似しやがったら殺す。わかったか!」
それを聞いていた商人達は、全員頷くしか無かった。
急いで安全な所まで移動すると、適当な場所に一頭残しガーグァを繋ぎ、自身はカーライルの元へと急いだ。
(サラ… …俺の事嫌ってたんじゃねーのかよ。なんで俺なんか助けたんだ。なんで、なんで!くそッ!!!!)
「カーライル、俺が止めを刺す。絶対許さねえ」
許さないのはカーライルも同じだった。
執拗なまでにハンマーをイビルジョーの頭に何度も打ち下ろす。
イビルジョーの頭蓋骨は粉々になり、脳漿が噴き出た。
しかし、それでもまだ生きている。
凄まじい生命力である。
スチュアートは矢を取ると、弓を使わず直接、イビルジョーの目の中に押し込んだ。
「これが最初に決まっていたらこんな事にはならなかったのに!」
矢の筈巻(一番後ろの部分)が見えなくなるまで押し込んだ。
何度も、何度も。
断末魔など関係無かった。
ただ怒りをぶつけたかった。
「スチュアート、もういい。サラを移動させよう。こいつと一緒じゃ可哀想だ」
カーライルがスチュアートを見ると糸が切れた人形のように座りこんでいた。
自分だって泣きたい。
でもサラをこのままにしてはおけない。
正直目を背けたかった。
サラは… …酷い死に方だった。
手足は全て変な方向に曲がり、顔は性別不明なほど潰れ、砂が血を吸い真っ赤になっていた。
カーライルは1本、1本慎重に手足をまっすぐに戻したがその度にごきり、ごきりと嫌な音が鳴った。
顔を綺麗にしようと試みたが、頭はぐちゃぐちゃで、眼球がせり出ていた為断念し、そこに布を被せた。
そしてスチュアートに子供に優しく、言い聞かせるように注意深く話しかけた。
「俺は荷車と商人達を連れてくる。ここで待っていてくれるか?」
こくりとスチュアートは頷いた。
カーライルが戻ってくると、スチュアートは自身の喉に小刀をあてがっていた。
「何やってんだ!」
カーライルは持っていたモンスター用のペイントボールをとっさに投げた。
それがスチュアートの顔に当たり、持っていた小刀を落とす。
「お前が… …いや、俺たちが死んでもサラの所には行けないよ。」
「自分が嫌だ。なんで俺が助かってサラが… …」
「サラはお前の良いところをちゃんと解っていた。だから助けた」
「俺にいい所なんかねーよ」
「お前が今までしたことは全部思いやりがあった。言動が違うのは肩肘張らないとハッピーヘブンでは生きて行けないもんな」
うっ…うっうぐっ…
スチュアートの胸に熱いものがこみ上げてきた。
カーライルも泣いていた。
仲間の死はこれが初めてではない。
彼らにとってサラは、それほどまでにかけがえの無い存在になっていた。
「俺達はモンスター討伐時、達成感、高揚感で戦っていた。けどサラは違う。目的が違う。みんなの幸せの為、菓子屋を作って喜ばせたい為に戦っていた。彼女のような人間に出会えるチャンスはもう無いだろうな」
「カーライル」
「なんだ?」
「ありがとう。俺を励ましてくれたんだろ?」
「違うよ。自分に言い聞かせてんだよ」
「カーライル… …」
「なんだ?」
「ペイント落ちねーよ」
「自業自得だ」
「まるで血の色だな」